ふとした時に腕に赤い湿疹ができていると、かゆみや見た目が気になり、不快な気持ちになるものです。特に人目に付きやすい腕の湿疹は、日常生活にも影響を及ぼしかねません。
この湿疹の原因はいったい何なのか、どうすれば治るのかと不安に思う方も多いでしょう。腕にできる赤い湿疹の原因は、かぶれやあせも、虫刺されなど多岐にわたります。
この記事では、腕にできる赤い湿疹の代表的な原因であるかぶれ、あせも、虫刺されの特徴と見分け方を詳しく解説します。
さらに、それ以外に考えられる皮膚の病気や、症状を悪化させないためのセルフケア、皮膚科を受診する目安についても紹介します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
腕の赤い湿疹を起こす主な原因
腕に現れる赤い湿疹は、多くの人が一度は経験する身近な皮膚トラブルですが、原因は一つではなく、様々な要因が絡み合って発症します。ここでは、腕に湿疹ができる代表的な原因について掘り下げていきます。
そもそも湿疹とはどのような状態か
湿疹とは、皮膚に起こる炎症の総称で、皮膚炎とも呼ばれ、主な症状として、赤み(紅斑)、ブツブツ(丘疹)、小さな水ぶくれ(小水疱)、膿だまり(膿疱)などが現れます。
症状は単独で現れることもあれば、混在して現れることもあり、多くの場合、かゆみを伴い、掻き壊すことで皮膚のバリア機能が低下し、症状が悪化したり、治りにくくなったりする悪循環に陥ることがあります。
湿疹は、外的要因と内的要因の二つに大別されます。外的要因には、化学物質や金属、植物、虫、細菌、紫外線などがあり、内的要因には、体質(アレルギー)、皮脂の分泌状態、発汗、ストレス、健康状態などが関係します。
腕は外部からの刺激を受けやすい部位であるため、特に湿疹が現れやすい場所の一つです。
原因の見分けが大切な理由
腕にできた赤い湿疹は、原因によって有効な治療法やセルフケアの方法が全く異なるので、原因を特定することが非常に重要です。
特定の物質に触れることで起こるかぶれ(接触皮膚炎)であれば、原因物質を避けることが最も基本的な対策となり、一方汗が原因で起こるあせもの場合は、皮膚を清潔に保ち、通気性を良くすることが必要です。
虫刺されであれば、虫の種類に応じた処置が必要です。もし原因を間違えて対処してしまうと、症状が改善しないばかりか、かえって悪化させてしまう可能性もあります。
自己判断で市販薬を使っても良くならない場合は、アトピー性皮膚炎やじんましんといった、他の皮膚疾患が隠れていることも考えられるので、正確な診断と適切な治療を受けるためにも、症状をよく観察し、原因を見極めることが大切です。
代表的な3つの原因 かぶれ・あせも・虫刺され
腕にできる赤い湿疹の多くは、かぶれ(接触皮膚炎)、あせも(汗疹)、虫刺されのいずれかが原因であることが多いです。これらは日常的によく見られる皮膚トラブルですが、症状が似ているため見分けるのが難しい場合があります。
主な原因の見分け方のポイント
原因 | 主な特徴 | かゆみの強さ |
かぶれ | 原因物質が触れた部分に境界線がはっきりした湿疹ができる。 | 強いかゆみやヒリヒリ感を伴うことが多い。 |
あせも | 汗をかきやすい肘の内側などに小さな赤いブツブツが多発する。 | チクチク、ピリピリとしたかゆみ。 |
虫刺され | 刺された部分を中心に赤く盛り上がり、強いかゆみを伴う。 | 非常に強いかゆみ。時に痛みを伴う。 |
かぶれ(接触皮膚炎)の特徴
腕の湿疹で非常に多いのが、かぶれ、専門的には接触皮膚炎と呼ばれるもので、特定の物質が皮膚に直接触れることで炎症が起こる状態を指します。原因物質が触れた部分に一致して症状が現れるのが大きな特徴です。
かぶれの主な症状
かぶれの症状は、原因物質に触れてから数時間後~数日後に出てくることが一般的です。
最初は赤みとかゆみから始まり、次第に細かいブツブツ(丘疹)や小さな水ぶくれ(小水疱)が現れ、症状が強い場合は、水ぶくれが破れてじゅくじゅくしたり、皮膚が腫れ上がったりすることもあります。
かゆみが非常に強く、掻き壊してしまうと細菌感染を起こして化膿することもあるため注意が必要です。症状は、原因物質が触れた範囲に限定される傾向にありますが、掻くことによって他の部位に広がるように見えることもあります。
腕にかぶれを引き起こす原因物質
私たちの身の回りには、かぶれの原因となる物質が数多くあり、腕は様々なものに触れる機会が多いため、原因を特定するのが難しい場合もあります。
日用品や装飾品によるかぶれ
原因物質の分類 | 具体例 |
金属 | 腕時計、ブレスレット、指輪(ニッケル、クロム、コバルトなど) |
化学繊維 | 衣類の袖(合成繊維、染料、ゴムなど) |
化粧品・外用薬 | 日焼け止め、保湿クリーム、湿布薬、消毒薬 |
特に夏場は汗によって金属がイオン化し、皮膚に浸透しやすくなるため、金属アレルギーによるかぶれが起こりやすくなります。
アレルギー性接触皮膚炎と刺激性接触皮膚炎
かぶれは、大きく分けてアレルギー性と刺激性の2種類に分類されます。どちらのタイプかによって、発症の仕方や対処法が少し異なります。アレルギー性接触皮膚炎は、特定のアレルゲンに対して免疫が過剰に反応することで起こります。
一度感作が成立すると、ごく微量の原因物質に触れただけでも症状が出るようになり、原因としては、金属、植物(ウルシ、ハゼなど)、染料、香料などが挙げられます。
刺激性接触皮膚炎は、誰にでも起こりうる反応で、強力な酸やアルカリ、洗剤、石鹸などの刺激物が皮膚のバリア機能を直接壊すことで発症します。原因物質に触れた部分にのみ、比較的早く症状が現れるのが特徴です。
かぶれのセルフケアと対処法
かぶれの治療で最も重要なことは、原因となっている物質を特定し、それに触れないようにすることです。原因に心当たりがある場合は、すぐに使用を中止し、その物質との接触を避けましょう。
症状が出てしまった場合は、まず患部を優しく洗浄し、清潔に保ち、かゆみが強い場合でも、掻き壊さないように注意が必要です。冷たいタオルや保冷剤で冷やすと、かゆみが一時的に和らぎます。
軽度の症状であれば、市販のステロイド外用薬を使用することで改善が期待できますが、症状が広範囲に及ぶ場合や、水ぶくれがひどい場合、原因が特定できない場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。
あせも(汗疹)ができやすい状況
あせもは、汗疹(かんしん)とも呼ばれ、特に夏場や運動後など、大量に汗をかいた時に起こりやすい皮膚トラブルです。汗を排出するための管(汗管)が詰まり、皮膚の内側に汗が溜まることで炎症が起こります。
あせもの症状と種類
あせもは、汗管が詰まる深さによっていくつかの種類に分けられますが、一般的に見られるのは紅色汗疹(こうしょくかんしん)で、皮膚の少し深い部分で汗管が詰まることで起こり、かゆみを伴う赤いブツブツが特徴です。
チクチクとしたかゆみや熱感を伴うこともあり、腕では、汗が溜まりやすい肘の内側によく見られます。
乳幼児では、皮膚の浅い部分で汗管が詰まる水晶様汗疹(すいしょうようかんしん)が見られることもあり、これは、透明で小さな水ぶくれで、かゆみはほとんどありません。
あせもができやすい人の特徴
あせもは誰にでもできる可能性がありますが、特にできやすい人がいます。
あせもになりやすい方の傾向
- 汗をかきやすい体質の人
- 乳幼児や子ども(汗腺の密度が高く、体温調節機能が未熟なため)
- 高温多湿の環境で長時間過ごす人
- 通気性の悪い衣類を着用している人
上記に当てはまる方は、特にあせも対策を意識することが大切です。
他の湿疹との見分け方
あせもは、かぶれや虫刺されと症状が似ていることがありますが、見分けるポイントは、発症の状況と湿疹の見た目です。あせもは、大量に汗をかいた後に、汗が溜まりやすい場所に多数の小さな赤いブツブツとして現れます。
かぶれは原因物質が触れた部分に境界が比較的はっきりとした湿疹ができ、虫刺されは刺された箇所が中心となって赤く盛り上がります。
汗をかくという明確なきっかけがあり、肘の内側や首、脇の下など、汗が溜まりやすい部分に集中して症状が出ている場合は、あせもの可能性が高いでしょう。
あせもの種類と主な症状
種類 | 見た目の特徴 | 主な症状 |
紅色汗疹 | 赤くて小さなブツブツ(丘疹) | チクチク、ピリピリとしたかゆみ、熱感 |
水晶様汗疹 | 透明または乳白色の小さな水ぶくれ | かゆみや炎症はほとんどない |
あせもの予防と対策
あせもの最も効果的な対策は、汗をかいたら放置しないことです。汗をかいたらこまめにシャワーを浴びるか、濡れたタオルで優しく拭き取り、皮膚を清潔に保ちましょう。
衣類は、吸湿性・速乾性に優れた綿や機能性素材のものを選び、風通しの良いデザインを心がけることが重要で、締め付けの強い衣類は、汗が乾きにくくなるため避けましょう。
室内では、エアコンや除湿器を活用して、過ごしやすい温度と湿度を保つことも予防につながります。
軽症の場合は、セルフケアで改善することが多いですが、かゆみが強い場合や、掻き壊してしまった場合は、皮膚科で適切な治療を受けることをおすすめします。
虫刺されによる皮膚炎のサイン
屋外での活動が増える季節になると、虫刺されによる腕の赤い湿疹に悩まされる人が増えます。虫刺されは、虫が人の皮膚を刺したり咬んだりする際に、唾液などの物質が注入されることでアレルギー反応や炎症が起こる状態です。
虫刺されの典型的な症状
虫刺されの症状は、原因となる虫の種類によって様々ですが、一般的には刺された直後から数時間後に、刺された部分が赤く腫れ、強いかゆみや痛みを伴います。
症状のピークは半日~1日後くらいで、数日から1週間程度で自然に治ることが多いです。
しかし、人によってはアレルギー反応が強く出て、広範囲にわたって腫れたり、水ぶくれができたりすることもあり、特に、ブユ(ブヨ)やアブに刺されると、強い痛みとかゆみ、しこりが長期間続くことがあります。
腕を刺しやすい虫の種類と特徴
腕は衣服から露出していることが多く、様々な虫に刺されやすい部位です。原因となる代表的な虫と、その症状の特徴を知っておくことが見分けの助けになります。
腕を刺す主な虫と症状の違い
虫の種類 | 主な生息場所 | 症状の特徴 |
蚊(カ) | 水のある場所の周辺 | 赤い盛り上がり(膨疹)、強いかゆみ。数時間でピーク。 |
ブユ(ブヨ) | 渓流などきれいな水の近く | 刺された直後は点状の出血。数時間後から激しいかゆみと赤く硬い腫れ。 |
ダニ(イエダニ) | ネズミの巣、古い畳 | 脇腹や太ももの内側など柔らかい部分を刺すことが多い。赤いブツブツが2つ並ぶことも。 |
毛虫(ドクガなど) | 庭木、公園の樹木 | 毒針毛に触れると、細かい赤いブツブツが広範囲に発生。激しいかゆみ。 |
このような虫以外にも、ハチやアブ、ノミなどによっても皮膚炎が起きることがあります。
虫刺されと他の湿疹との比較
虫刺されは、基本的に刺された箇所が症状の中心となるのが特徴で、かぶれのように広範囲にべったりと湿疹が広がることは少なく、あせものように小さな湿疹がびっしりと多発することもありません。
刺された箇所には、刺し口が見えることもあり、また、屋外に出た後や、草むらに入った後など、特定の状況の後に症状が現れた場合は、虫刺されの可能性が高いです。
虫刺されを防ぐための対策
- 長袖、長ズボンを着用し、肌の露出を避ける。
- 虫の多い場所では虫除けスプレーを使用する。
- 庭の手入れなどでは手袋を着用する。
- 香りの強い香水や化粧品は避ける。
- 帰宅後はすぐに入浴やシャワーで汗を流す。
刺されてしまった後の応急処置
もし虫に刺されてしまったら、まずは患部を水で洗い流し清潔にし、かゆみが強い場合は、掻き壊さないように冷たいタオルなどで冷やすと症状が和らぎます。市販のかゆみ止め(抗ヒスタミン薬やステロイド配合の軟膏)を塗るのも有効です。
ただし、ハチに刺された場合や、息苦しさ、めまい、吐き気などの全身症状が現れた場合は、アナフィラキシーショックの可能性があるため、ただちに医療機関を受診してください。
症状がひどい場合や、長引く場合も、自己判断で放置せず、皮膚科に相談することが大切です。
その他に考えられる腕の赤い湿疹の原因疾患
かぶれ、あせも、虫刺されのいずれにも当てはまらない、または症状が長引く場合、他の皮膚疾患が原因である可能性も考慮に入れる必要があります。
腕の湿疹は様々な病気のサインとして現れることがあるため、特徴的な症状を知っておくことが早期発見につながります。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、良くなったり悪くなったりを繰り返す、かゆみのある湿疹を主な症状とする皮膚の病気です。アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)の人や、皮膚のバリア機能が低下している人に多く見られます。
腕では、肘の内側など関節の屈曲部に左右対称に湿疹が出やすいのが特徴です。皮膚が乾燥してカサカサし、ザラザラとした肌触りになり、強いかゆみを伴うため、掻き壊すことで皮膚が厚く硬くなる(苔癬化)こともあります。
じんましん(蕁麻疹)
じんましんは、皮膚の一部が突然、蚊に刺されたように赤く盛り上がる(膨疹)病気で、通常、数十分から24時間以内に跡形もなく消えるのが特徴です。強いかゆみを伴いますが、掻いても皮膚が傷つくことはあまりありません。
食べ物や薬、感染症、物理的な刺激(圧迫、寒冷、温熱など)が原因で起こることがありますが、原因が特定できない特発性のものも多いです。腕の一部に突然現れ、短時間で消えるような湿疹であれば、じんましんの可能性があります。
貨幣状湿疹
貨幣状湿疹は、その名の通り、硬貨(コイン)のような円形または楕円形の境界がはっきりした湿疹ができる病気で、腕や脚、体幹などによく見られます。
最初は小さな赤いブツブツや水ぶくれが集まってでき、次第にじゅくじゅくしたり、かさぶたになったりし、強いかゆみを伴い、乾燥する冬場に悪化しやすいです。虫刺されや乾燥による掻き壊しがきっかけで発症することもあります。
見分けるべき他の皮膚疾患
疾患名 | 主な症状の特徴 | 好発部位(腕) |
アトピー性皮膚炎 | 繰り返すかゆみのある湿疹、乾燥、左右対称性 | 肘の内側 |
じんましん | 赤い盛り上がり(膨疹)、短時間で消退 | 全身どこにでも |
貨幣状湿疹 | 円形・楕円形の境界明瞭な湿疹、強いかゆみ | 腕、すね |
自家感作性皮膚炎 | 元の湿疹が悪化後、全身に細かい湿疹が広がる | 全身 |
上記の疾患は、市販薬では対応が難しく、専門的な治療を必要とすることがほとんどです。症状に心当たりがある場合は、自己判断せず、皮膚科専門医に相談しましょう。
腕の湿疹を悪化させないためのセルフケアと注意点
腕に赤い湿疹ができたとき、適切なセルフケアを行うことで、症状の悪化を防ぎ、回復を早めることができます。
誤った対処をしてしまうと、かえって症状を長引かせてしまうこともあるので、日常生活で気をつけたいポイントを理解し、実践することが大切です。
とにかく掻かないことの重要性
湿疹ができると、どうしてもかゆくて掻いてしまいがちですが、掻く行為は皮膚のバリア機能をさらに破壊し、炎症を悪化させる最大の要因です。
掻き壊した傷口から細菌が侵入し、とびひ(伝染性膿痂疹)などの二次感染を起こすリスクもあります。かゆみが我慢できないときは、患部を冷たいタオルや保冷剤で冷やしたり、軽くたたくようにしてかゆみを紛らわせましょう。
爪は短く切り、清潔に保つことも重要で、就寝中に無意識に掻いてしまう場合は、手袋を着用するなどの工夫も有効です。
患部の清潔と保湿ケア
湿疹がある皮膚はデリケートな状態です。汗や汚れは刺激になるため、シャワーや入浴で優しく洗い流し、常に清潔な状態を保ちましょう。石鹸やボディソープは、低刺激性のものをよく泡立て、手で優しくなでるように洗います。
ナイロンタオルなどでゴシゴシこするのは絶対に避けてください。洗浄後は、清潔なタオルで軽く押さえるように水分を拭き取り、すぐに保湿剤を塗って皮膚の乾燥を防ぎます。
保湿によって皮膚のバリア機能をサポートすることは、外部からの刺激を受けにくくし、湿疹の再発予防にもつながります。
日常生活で肌への刺激を減らす工夫
- 肌に直接触れる衣類は、木綿など柔らかく通気性の良い素材を選ぶ。
- 洗剤や柔軟剤は、肌に合わないと感じたら使用を中止する。
- アクセサリーや腕時計など、湿疹の原因となりうるものは外す。
- 紫外線は湿疹を悪化させることがあるため、日焼け対策を心がける。
- バランスの取れた食事と十分な睡眠で、体の内側から健康を保つ。
市販薬の選び方と使用上の注意
ドラッグストアでは、湿疹やかゆみに対応した様々な市販薬が販売されているので、症状が軽い場合は、上手に利用するのも一つの方法です。
市販薬には、炎症を抑えるステロイド外用薬や、かゆみを抑える抗ヒスタミン成分配合の塗り薬などがあります。
市販薬の主な成分と働き
成分の種類 | 主な働き | 注意点 |
ステロイド | 湿疹の炎症を強力に抑える。 | 強さのランクがある。長期間の自己判断での使用は避ける。 |
抗ヒスタミン薬 | かゆみの原因となるヒスタミンの働きをブロックする。 | かゆみには有効だが、炎症を直接抑える力は弱い。 |
鎮痒成分 | 局所麻酔作用などでかゆみを和らげる。 | かゆみを一時的に抑える対症療法。 |
市販薬を使用する際は、必ず説明書をよく読み、用法・用量を守ってください。5~6日使用しても症状が改善しない場合や、悪化する傾向が見られる場合は、使用を中止して速やかに皮膚科を受診しましょう。
特に、じゅくじゅくしている部位や、細菌感染が疑われる場合には、自己判断でのステロイド使用は避けるべきです。
皮膚科を受診するべきタイミング
セルフケアを行っても症状が改善しない場合や、以下のような症状が見られる場合は、専門医による診断と治療が必要です。
皮膚科受診の目安
- かゆみが非常に強く、日常生活や睡眠に支障が出ている。
- 湿疹の範囲が手のひら2~3枚分以上に広がっている。
- 水ぶくれ、じゅくじゅく、ただれがひどい。
- 市販薬を数日間使用しても改善しない、または悪化した。
- 発熱や倦怠感など、皮膚以外の症状も伴う。
湿疹の原因は多岐にわたるため、正確な診断が治療の鍵となります。気になる症状があれば、ためらわずに皮膚科の専門医に相談してください。
腕の赤い湿疹に関するよくある質問
腕にできる赤い湿疹について、患者さんからよく寄せられる質問と回答をまとめました。
- 腕にできた湿疹は他の人にうつりますか?
-
かぶれ、あせも、アトピー性皮膚炎、じんましんなど、一般的な湿疹は、アレルギー反応や物理的な刺激によって起こる皮膚の炎症であり、感染症ではありません。
湿疹のある部分に触れたり、一緒にお風呂に入ったりしても、他の人にはうつることはないです。
ただし、ヘルペスやとびひ(伝染性膿痂疹)など、ウイルスや細菌の感染が原因で湿疹に似た症状が出ている場合は、感染する可能性があります。自己判断が難しい場合は、皮膚科で正確な診断を受けることが大切です。
- 湿疹の跡がシミにならないか心配です。
-
湿疹による炎症が強い場合や、長期間続いた場合、また、かゆくて掻き壊してしまった場合には、炎症が治まった後に茶色っぽいシミのような跡(炎症後色素沈着)が残ることがあります。
色素沈着は、皮膚の深い部分にメラニン色素が沈着することで起こります。
通常は数ヶ月から1年ほどで自然に薄くなっていきますが、できるだけ跡を残さないためには、早期に炎症を抑える治療を行い、掻かないようにすることが最も重要です。
また、治りかけの時期に紫外線を浴びると色素沈着が濃くなることがあるため、紫外線対策も心がけましょう。
- ストレスや疲れがたまると腕に湿疹ができる気がします。関係ありますか?
-
ストレスや疲労は、皮膚のバリア機能を低下させたり、免疫のバランスを乱したりする原因です。外部からのわずかな刺激にも過敏に反応しやすくなり、湿疹を発症したり、元々あった湿疹を悪化させたりすることがあります。
特にアトピー性皮膚炎やじんましんなどは、ストレスが症状の悪化要因となることがよく知られています。
湿疹の治療と並行して、十分な休息を取り、リラックスできる時間を作るなど、ストレスマネジメントを心がけることも皮膚の健康を保つ上で非常に重要です。
- 食生活で気をつけることはありますか?
-
特定の食物アレルギーがない限り、バランスの良い食事が基本です。 特定の食べ物を食べた後に必ず湿疹が悪化する場合(食物アレルギーによるじんましんなど)は、原因となる食物を避ける必要があります。
しかし、そうでない一般的な湿疹の場合、特定の食べ物を制限する必要はなく、皮膚の健康を保つために、栄養バランスの取れた食事を心がけることが大切です。
皮膚の細胞を作るもとになるタンパク質や、皮膚の調子を整えるビタミン類(ビタミンB群、C、A、Eなど)、ミネラルを豊富に含む食品を積極的に摂りましょう。
香辛料などの刺激物や、脂肪分の多い食事は、かゆみを増強させることがあるため、症状がひどい時は控えめにしてください。
以上
参考文献
Tsuchiya N, Narita S, Inoue T, Hasunuma N, Numakura K, Horikawa Y, Satoh S, Notoya T, Fujishima N, Hatakeyama S, Ohyama C. Risk factors for sorafenib-induced high-grade skin rash in Japanese patients with advanced renal cell carcinoma. Anti-cancer drugs. 2013 Mar 1;24(3):310-4.
Sugiura Y, Nemoto E, Kawai O, Ohkubo Y, Fusegawa H, Kaseda S. Skin rash by gefitinib is a sign of favorable outcomes for patients of advanced lung adenocarcinoma in Japanese patients. Springerplus. 2013 Jan 23;2(1):22.
Teraki Y, Nishikawa T. Skin diseases described in Japan 2004: In Japan beschriebene Dermatosen 2004. JDDG: Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft. 2005 Jan;3(1):9-25.
Katayama I, Aihara M, Ohya Y, Saeki H, Shimojo N, Shoji S, Taniguchi M, Yamada H, Japanese Society of Allergology. Japanese guidelines for atopic dermatitis 2017. Allergology International. 2017;66(2):230-47.
Nagai M, Fukumoto T, Imamura S, Oda Y, Mizuno M, Ohata M, Kubo A, Fukunaga A. Use of the Rash Appearance to Distinguish Cholinergic Urticaria Subtypes: A Retrospective Cohort Study. American Journal of Clinical Dermatology. 2025 Jul 26:1-9.
Santistevan J, Long B, Koyfman A. Rash decisions: an approach to dangerous rashes based on morphology. The Journal of Emergency Medicine. 2017 Apr 1;52(4):457-71.
Ivonye C, Barnes P, El-Hammali B, Nnaji C. Generalized red rash. American Family Physician. 2012 Feb 1;85(3):271-2.
Gupta A, de Menezes SL. Red in the face: Approach to diagnosis of red rashes on the face. Australian Journal of General Practice. 2024 Apr 1;53(4).
Thompson PA, Langemo D, Hanson D, Anderson JW, Hunter S. Assessing skin rashes. Nursing2024. 2008 Apr 1;38(4):59.
Alves F, Goncalo M. Suspected inflammatory rheumatic diseases in patients presenting with skin rashes. Best Practice & Research Clinical Rheumatology. 2019 Aug 1;33(4):101440.