溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)とは、溶血性レンサ球菌(ストレプトコッカス)の感染症が一段落した後、体の免疫反応の影響によって腎臓の糸球体と呼ばれる血液ろ過部位に炎症が生じる病気のことです。
主に小児期から思春期にかけて多くみられる一方、成人でも発症する場合があります。
咽頭炎や扁桃炎、皮膚感染症などを起こす溶連菌がいったん落ち着いた後に遅れて症状があらわれることが特徴で、尿の色が赤茶色になったり、血圧が高くなったり、むくみが生じたりする場合があります。
急性の経過をたどりながらも、治療と十分な安静を行えば回復しやすいものの、放置すると腎機能に負担がかかる可能性があります。
病型
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)は、主に免疫複合体が関与するタイプと、免疫学的な反応を介さないタイプに大きく分けられることが多いです。
実際には両者が混在する場合もあり、症状や経過、年齢などによって分類が変わるケースがあります。
免疫複合体形成が主となる病型
溶連菌感染後に、菌が産生した抗原や体内でつくられる抗体が複合体を形成し、血液を通じて腎臓の糸球体基底膜に沈着して炎症を引き起こすと考えられています。
小児から思春期によくみられるパターンで、突然の血尿やむくみ、軽度の高血圧などが現れやすいことが特徴です。溶連菌に対する免疫が過剰に作用することで病態が進むため、咽頭炎や扁桃炎、あるいは皮膚感染が起点となります。
免疫複合体形成型の特徴
項目 | 具体的な特徴 | コメント |
---|---|---|
発症年齢 | 小児〜思春期 | 成人でも起こりうるが頻度は低め |
先行感染 | 咽頭炎、扁桃炎、皮膚感染など | 溶連菌関連の病巣から2〜3週間後に発症しやすい |
主要症状 | 血尿、たんぱく尿、むくみ | 急性に起こる腎機能障害 |
腎組織の炎症分布による分類
糸球体炎がどの範囲に及ぶかで病型を分ける見方もあります。広範囲に炎症が及ぶびまん性増殖性糸球体腎炎型では、糸球体全体が強い炎症を起こすため、急性期の血圧上昇や浮腫みが目立ちやすいです。
一方で、部分的な病変にとどまる場合は症状が軽いこともあります。
慢性化のリスクを伴う病型
急性糸球体腎炎が長引いて慢性化する場合もあり、炎症が長期的に続くと糸球体が徐々に硬化して腎機能低下のリスクが高まります。
PSAGNでは比較的、時間経過とともに改善が期待できますが、まれに慢性糸球体腎炎へ移行する例もあるので注意が必要です。病初期の症状を軽視せず、きちんと受診して経過観察を行うことで、慢性化を回避しやすくなります。
軽症タイプと重症タイプ
溶連菌感染後急性糸球体腎炎は、軽症タイプの場合、尿潜血がわずかに陽性になる程度で血圧も正常範囲にとどまり、気づかずに改善してしまうことがあります。
しかし、重症タイプでは血圧の顕著な上昇、肺水腫、急性腎不全のような重篤な合併症を招くこともあるため、早期発見がとても大切です。特に高血圧が強く出るケースでは、頭痛や吐き気、けいれんなどが起こるリスクがあります。
重症化が疑われる際にみられやすいポイント
- 血圧が著しく上がり、頭痛や視力障害を訴える
- 急激に尿量が減り、尿が真っ赤または茶褐色になる
- 全身のむくみが急に強くなり、呼吸が苦しくなる
- 尿検査でたんぱくの排出量が非常に多く、短時間での体重増加がみられる
こうした症状を早めにキャッチして受診し、対処することで回復を促しやすくなります。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の症状
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)では、先行感染から2〜3週間後に急性の症状が始まることが多いです。
症状のあらわれ方には個人差があり、軽度で済む場合から重度の合併症を伴う場合まで幅広いため、早期に気づいて対処することが重要になります。
血尿やたんぱく尿
PSAGNを代表する症状として血尿が挙げられ、尿の色が肉眼で見ても赤茶色に変化する肉眼的血尿と、検査薬や顕微鏡で初めて発見される潜血のケースがあります。
血尿と同時にたんぱく尿も検出されやすく、腎臓のろ過機能が一時的に乱れていることを示唆します。
血尿やたんぱく尿の分類
項目 | 分類 | 特徴 |
---|---|---|
血尿 | 肉眼的血尿 | 尿が赤〜茶色になり、患者本人が異常に気づきやすい |
血尿 | 潜血のみ | 尿試験紙や顕微鏡検査で判明、比較的症状が軽い場合に多い |
たんぱく尿 | 軽度 | 尿に泡立ちがやや多い程度 |
たんぱく尿 | 中等度〜重度 | 血中たんぱく濃度低下による浮腫みを伴う可能性がある |
むくみ(浮腫)
糸球体で血液をうまくろ過できなくなると、余分な水分や塩分が体外に排出されにくくなり、むくみ(浮腫)が生じます。初期にはまぶたや顔がやや腫れぼったく感じる程度ですが、進行すると手足や腹部にも浮腫が広がります。
朝起きたときにまぶたが重く感じられる症状に気づく方も多いです。
むくみに注意が必要な点
- 朝起きると顔の輪郭が普段より丸く感じる
- 靴下のゴム跡が夕方まで消えず、足首周辺が重だるい
- 腹部に水がたまったような感覚をおぼえる
- 指で押すと一時的にへこみ、戻りにくい
むくみが進行すると血圧の上昇や心肺機能への負担が大きくなるため、放置しないで早めに医療機関を受診してください。
高血圧
糸球体の炎症によって腎臓がうまく尿を生成できず、体内に水分と塩分が過剰にとどまる結果、血圧が上昇しやすくなります。
また、腎臓が血圧調整ホルモン系(レニン-アンジオテンシン系)に悪影響を及ぼし、さらに血圧が高くなる悪循環に陥ることがあります。
小児では血圧を測る機会が少ないため見落とされがちですが、強い頭痛、めまい、吐き気などが続く場合は注意が必要です。
高血圧が疑われる際の指標や症状
年齢・性別 | 収縮期血圧(mmHg) | 拡張期血圧(mmHg) | 自覚症状の一例 |
---|---|---|---|
小児・思春期 | 130超 | 80超 | 頭痛、鼻血、めまい |
成人男性 | 140超 | 90超 | 耳鳴り、動悸、肩こり |
成人女性 | 140超 | 90超 | 頭重感、胸の圧迫感、息切れ |
腹痛や倦怠感
腎機能が低下すると、全身の代謝物や老廃物がスムーズに排出されにくくなり、軽度の腹痛や体のだるさ、吐き気などを感じることがあります。
重症の場合、腎不全による体内環境の変化で食欲が落ちる、嘔吐を繰り返す症状がみられることもあります。熱はあまり高くならないことが多いですが、先行する溶連菌感染による発熱が残っている場合もあるため、注意深い観察が必要です。
疲労感が続くときに確認したいこと
- 夜間頻尿や尿量減少、尿に違和感がある
- 食後に胃がもたれやすく、吐き気につながる
- 微熱や倦怠感が長引き、集中力が落ちる
- 皮膚がやや黄色くみえる(重度の腎機能低下では起こる場合がある)
症状を自覚した場合は自己判断で様子を見すぎず、早めに血液や尿の検査を受けて原因を確認することが大切です。
原因
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の主な原因は、溶血性レンサ球菌(グループAストレプトコッカス)の感染に対する免疫応答とされていますが、仕組みは単純ではなく、遺伝的要因や免疫の働き方など複数の因子が絡み合います。
溶連菌の感染部位と時期
溶連菌は咽頭や扁桃腺を侵すだけでなく、皮膚の傷や咽頭以外の粘膜からも感染することがあります。感染症状が改善したあと、通常2〜3週間ほどしてから腎炎が起こることが多いです。
菌が消失しているように見えても、免疫系が作り出す抗体や免疫複合体が体内に残存しており、これが腎臓の糸球体を刺激して炎症を生じさせます。
溶連菌感染の代表的な症状
- のどの強い痛みと発熱(咽頭炎や扁桃炎)
- 皮膚に小さな水疱や腫れが生じる(とびひ、蜂窩織炎など)
- いちご舌と呼ばれる赤くブツブツした舌の変化
- 発疹やかゆみを伴う皮膚症状
感染症から回復した後に、腎臓へのダメージがゆっくり進行していく可能性があります。
免疫複合体と腎臓の炎症
溶連菌の抗原(菌体成分)と、それに対して作られた抗体が結合した免疫複合体が血液中を循環し、糸球体基底膜やメサンギウム領域に沈着すると、補体などの炎症関連物質が活性化し、腎臓が傷つきます。
糸球体は血液をろ過して尿を作る器官のため、ここに炎症が起こると血尿やたんぱく尿などがあらわれ、感染自体が直接腎臓をむしばむのではなく、免疫反応が過剰に働いて起きる二次的な炎症です。
免疫複合体を介した腎炎
ステップ | 内容 | 結果 |
---|---|---|
1 | 溶連菌が咽頭や皮膚に感染 | 免疫系が菌を排除する抗体を産生 |
2 | 菌の抗原と抗体が結合し、免疫複合体を形成 | 血液中に複合体が増加 |
3 | 腎臓の糸球体に複合体が沈着 | 局所的な補体活性化・炎症反応 |
4 | 血管壁や組織が傷つく | 血尿、たんぱく尿、浮腫などを発症 |
遺伝的素因や体質
同じ溶連菌感染を経験しても、全員が溶連菌感染後急性糸球体腎炎を発症するわけではありません。遺伝的に免疫反応が強い傾向や、特定のHLA(ヒト白血球抗原)タイプをもつ人が発症リスクを高めている可能性が指摘されています。
また、幼少期や思春期の方が免疫応答が過敏に反応しやすい、または免疫調節機能が未発達なためにPSAGNを起こしやすいです。
他の感染症との関係
溶連菌以外にも、一部のウイルスや細菌感染の後に同様の仕組みで急性糸球体腎炎を生じることがありますが、代表的なのは溶連菌感染で、咽頭炎や皮膚感染の履歴が明確に確認されることが多いです。
まれに潜在的な感染源がはっきりしないまま発症するケースもありますが、多くは抗ストレプトリジンO(ASO)や抗DNAseBなどの血中抗体価の上昇によって溶連菌感染の痕跡を示します。
PSAGN発症との関連が研究されている主な感染症
- グループA溶血性レンサ球菌による咽頭炎、扁桃炎、皮膚感染
- 一部のウイルス(例:コクサッキーウイルス、エプスタイン・バーウイルス)
- 他の細菌感染(例:ブドウ球菌など)
- 寄生虫感染(地域特異性がある)
溶連菌感染後急性糸球体腎炎の原因は、多様な免疫学的要因が絡むため、一概に「溶連菌=腎炎」と断定できるわけではありませんが、溶連菌感染の既往が重要な手がかりになります。
感染症から回復して数週間後に、尿の色の変化やむくみ、高血圧などに気づいたらPSAGNを疑い、早めに医療機関で検査しましょう。
検査・チェック方法
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)は、腎機能や免疫状態を総合的に評価して診断します。血液検査や尿検査だけでなく、感染の履歴や抗体価の変化など、多角的なアプローチが必要です。
尿検査
PSAGNを疑う際、最初に行われるのが尿検査で、顕微鏡下で赤血球の有無や形態、たんぱく質の排出量などを調べます。また、尿中の赤血球円柱の存在も重要な手掛かりです。
赤血球円柱は糸球体レベルの出血を示唆するため、PSAGNのような糸球体炎で高い頻度で確認できます。
尿検査でチェックされる主な項目
項目 | 意義 | 目安となる数値・所見 |
---|---|---|
尿たんぱく | 腎機能障害の指標 | 1+〜3+、定量で1 g/日以上 |
尿潜血 | 血尿の確認 | 1+〜3+、顕微鏡下で赤血球多数 |
赤血球円柱 | 糸球体由来の血尿を示唆 | 1視野あたり複数本見られることも |
血液検査
血液検査では、糸球体炎の活動性や先行感染の有無を評価し、BUN(血中尿素窒素)やクレアチニンは腎機能を表す指標であり、PSAGNで上昇しやすいです。
また、補体価(CH50、C3、C4)や免疫グロブリン、溶連菌感染関連の抗体価(ASO、抗DNAseBなど)を測定することで、炎症や免疫反応の程度を把握します。
血液検査で注意が必要な指標
- BUNやクレアチニンの上昇が腎機能低下を反映
- 血清C3が著しく低下している場合、急性炎症を強く示唆
- ASOや抗DNAseBの上昇で溶連菌感染の痕跡を確認
- 免疫グロブリン(IgG、IgMなど)の異常が持続していないかを確認
画像検査
PSAGNの診断に必須というわけではありませんが、腎エコーやCTなどの画像検査で腎臓の形態を把握し、他の腎疾患との鑑別や合併症の有無を確認する場合があります。
特に、急性期に急激な腎肥大がみられるケースや、慢性化しつつある腎障害が疑われるケースでエコー検査が有用です。
画像検査のメリットと留意点
検査種別 | メリット | 留意点 |
---|---|---|
腎エコー | 非侵襲的、放射線被ばくなし | 急性期の腎腫大を確認可能、病変範囲の特定 |
CT | 詳細な断層像を得やすい | 被ばくリスクあり、造影剤使用時は腎機能に注意 |
MRI | ソフトティッシュの描出に優れる | 費用や検査時間が長い場合がある |
腎生検
通常のPSAGNでは、典型的な症状や検査結果、先行する溶連菌感染の履歴から診断に至る場合が多いですが、症状が不明瞭で他の糸球体腎炎と区別が難しいときには、腎生検が選択肢です。
腎臓の組織を一部採取して顕微鏡で観察することで、病変部位や炎症の程度、免疫複合体の沈着などを直接確認できます。ただし、腎生検には出血などのリスクがあるため、医師と相談しながら慎重に判断する必要があります。
腎生検を考慮する状況
- 血液検査や尿検査の所見が典型的でない
- PSAGNとほかの難治性糸球体腎炎の鑑別が必要
- 治療開始後も改善傾向が乏しく慢性化を疑う
- 先行感染が確認できないが腎炎が持続している
検査結果と症状を総合的に評価し、溶連菌感染後急性糸球体腎炎であることが確認できれば、次は治療方針を検討していきます。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の治療方法と治療薬について
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の治療では、安静と食事療法を中心に、症状に応じた薬物を組み合わせることが一般的です。過度な塩分や水分の摂取を控えながら、血圧や浮腫、腎機能を管理し、必要に応じて抗菌薬などを使用します。
安静と食事管理
PSAGNでは、腎臓の炎症が回復するまで身体を休めることがとても大切で、急性期には学校や仕事を休んで静養する必要があります。
塩分や水分の制限は、血圧や浮腫を軽減する目的で行いますが、重症度や血清電解質の状態によって制限量は異なるので、主治医や管理栄養士と相談しながら栄養バランスを保つことが望ましいです。
食事管理で意識したいこと
- 塩分摂取量を1日4〜6 g程度に抑える(個別の指示に従う)
- 水分はむやみに制限せず、血圧や浮腫の状況をみて調整
- 高たんぱく食には注意が必要で、腎機能に合わせて調整
- エネルギー不足を防ぐために、炭水化物や脂質を適量摂取
抗菌薬の使用
先行感染が明らかに残っている場合や、まだ溶連菌が体内に存在する可能性がある場合、抗菌薬(ペニシリン系やセフェム系など)を投与することがあります。
ただし、多くの場合、PSAGN発症時点で菌が消失していることが多く、必ずしも抗菌薬を使うわけではありません。のどの検査や皮膚の状態などをチェックし、溶連菌がくすぶっていると判断した場合に限り投与を検討します。
一般的に用いられる抗菌薬
薬剤の種類 | 例 | 特徴 |
---|---|---|
ペニシリン系 | アモキシシリンなど | 溶連菌に対して効果が高く、使われることが多い |
セフェム系 | セファレキシン、セフゾンなど | ペニシリンアレルギーがある場合の代替や細菌カバーを広げる際に選択 |
マクロライド系 | エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど | ペニシリン系が使いにくい場合や耐性菌対策として考慮 |
血圧管理のための降圧薬
高血圧が著しい場合、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、カルシウム拮抗薬、利尿薬などを組み合わせて血圧をコントロールします。
利尿薬は浮腫を和らげる目的でも使われるため、尿量を増やして体内の水分バランスを整えます。ただし、過剰な利尿は逆に腎血流を減らすリスクもあるため、正しい量とタイミングが重要です。
降圧薬や利尿薬を使用するときに注意したい点
- 血圧が急激に下がりすぎるとめまいや貧血感が生じる
- カリウムバランスの乱れにより不整脈が起こりうる
- 利尿薬使用時に脱水になりすぎないよう水分摂取量を調整
- 定期的に腎機能と電解質をチェックしながら量を調整
ステロイド治療
溶連菌感染後急性糸球体腎炎では、基本的にステロイドを使わなくても自然に改善するケースが多いです。
ただし、急速進行性(ラピッドリー・プログレッシブ)や重症の腎炎像を示す場合、ステロイドによる免疫抑制療法を短期的に行うことがあります。
急性期の炎症を抑えることで腎機能を保護する意図がありますが、副作用に留意しながら投与する必要があります。
ステロイド治療を検討する場合の目安
状況 | 投与判断の目安 | 目的 |
---|---|---|
重症PSAGN | クレアチニン急上昇、急性腎不全傾向 | 炎症抑制と腎機能温存 |
急速進行性糸球体腎炎が疑われる | 蛋白円柱や高度の血尿、急激なGFR低下 | 免疫反応を抑えて更なる損傷を防ぐ |
通常PSAGN | 血圧管理と安静で改善傾向 | ステロイドは不要な場合が多い |
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の治療では、安静・食事療法・適切な薬物を組み合わせることで多くの患者さんが回復に向かいやすいです。
症状の重さや合併症の有無によって治療方針は大きく異なるので、医師の指導のもとで無理のない範囲で日常生活に復帰します。
治療期間
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)は急性の経過をたどりやすいですが、完全に回復するまでには一定の期間を要するケースが少なくありません。
症状が軽快しても検査値の変化が遅れたり、合併症が続く場合もあるため、油断せずに経過観察を行うことが重要です。
急性期と回復期の目安
急性期はおおむね発症後1〜2週間とされ、この間に血尿、むくみ、高血圧などの症状が顕著に現れます。安静と食事管理、場合によっては降圧薬や利尿薬を用いることで症状が軽快に向かうことが多いです。
その後の回復期は数週間から数か月にわたり、尿検査や血液検査で糸球体の状態を見守りながら通常の生活リズムに戻していきます。
急性期から回復期にかけての流れ
- 1週目:血圧上昇やむくみが顕著になり、尿異常が検出される
- 2週目:安静と食事療法を中心に症状の改善を図る
- 3〜4週目:むくみや血圧が徐々に落ち着き始め、尿検査の潜血も軽快
- 1〜3か月後:日常活動を再開しながら定期的に受診し、合併症をチェック
小児と成人の違い
小児の場合、早期発見と適切な管理によって症状が比較的早く改善しやすく、長期的な後遺症を残さないことが多いですが、成人では基礎疾患の有無や生活習慣によって回復ペースが変わりやすく、腎機能の戻り方に個人差が大きいです。
成人のPSAGN例では、少し長めの観察期間を設けるケースが多く、適度な運動と休養をバランスよく取りながら腎臓の負担を減らします。
小児と成人の回復ペースの違い
対象 | 急性期の期間 | 回復期間の目安 | 合併症リスク |
---|---|---|---|
小児 | 約1〜2週間 | 1〜2か月程度 | 比較的低め |
成人 | 2〜3週間 | 2〜3か月程度 | 基礎疾患があるとリスク増大 |
血液検査や尿検査のフォローアップ
治療終了後や症状が改善してからも、BUNやクレアチニン、推定GFR(糸球体濾過量)、蛋白尿、潜血の度合いなどをチェックして、異常が持続していないかどうかを慎重に判断します。
特にC3補体価の低下が続く場合は他の糸球体疾患との鑑別が必要になるため、主治医の方針に従ってフォローアップ検査を受けることが大切です。
フォローアップ検査を受ける上で注意したい点
- 血液検査の前日は過度な運動や飲酒を避ける
- 尿検査の採尿は朝一番の尿を推奨されることが多い
- 感冒や感染症の兆候がある場合は主治医に相談
- 結果に一喜一憂しすぎず、長期的な傾向を見極める
学校や仕事への復帰
小児・学童期の患者が多いPSAGNでは、学校への復帰時期が気になる方も多く、むくみや高血圧が改善し、日常生活で疲れにくい状態に戻ったら、無理のない範囲で通学を再開することが一般的です。
成人の場合も同様に、腎機能が安定し、血圧が落ち着いてきたら仕事復帰のタイミングを検討しますが、回復初期に無理をすると再度悪化する恐れがあるため、少しずつ活動量を増やしていきます。
治療期間は個人差が大きいですが、ほとんどの方が数か月以内に腎機能の改善を得られます。
ごくまれに慢性化や再発を起こす例もあるるため、症状の有無にかかわらず、一定期間のフォローアップを継続することが回復を確かなものにします。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)薬の副作用や治療のデメリットについて
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)で使用する薬には、抗菌薬や利尿薬、降圧薬、ステロイドなどがあり、薬は病状に応じて大切な治療手段となりますが、副作用やデメリットがまったくないわけではありません。
抗菌薬の副作用
ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬は溶連菌に対して有効ですが、まれにアレルギー反応を起こすことがあります。
皮膚に発疹が出たり、呼吸苦を伴うアナフィラキシーショックに至る重症例もあるため、服用後は体調の変化を注意深くみることが重要です。また、長期間にわたる投与で腸内細菌叢のバランスが崩れ、下痢や腹痛につながる可能性もあります。
抗菌薬の使用時に気をつけたいポイント
- 服用後に全身のかゆみやじんましんが出たらすぐに医師に相談する
- 処方された用量と期間を守り、自己判断で中断しない
- 消化器症状が続く場合は腸内細菌叢の乱れを疑い、医師の指示を仰ぐ
- 薬のアレルギー歴がある場合は事前に必ず医師に伝える
利尿薬や降圧薬によるリスク
利尿薬の使用で体内の余分な水分を排出することは、むくみや高血圧を改善するうえで役立ちますが、カリウムやナトリウムなどの電解質バランスが崩れやすく、脱水症状やめまい、不整脈などを引き起こす恐れがあります。
ACE阻害薬やARBといった降圧薬では、血管の拡張やナトリウム排泄が促進されますが、咳や味覚異常、腎機能の急激な変動などがみられることがあります。
利尿薬・降圧薬による副作用
薬剤の種別 | 主な副作用 | 対策 |
---|---|---|
ループ利尿薬 | 低カリウム血症、脱水 | こまめな電解質チェック、水分補給を工夫 |
サイアザイド系 | 高尿酸血症、低ナトリウム血症 | 痛風既往のある方は注意、血清Naを定期測定 |
ACE阻害薬 | 乾いた咳、急激な腎機能悪化 | 咳が続く場合は主治医へ報告、定期的な腎機能評価 |
ARB | めまい、倦怠感 | 血圧の急下降に注意、徐々に用量調整 |
ステロイドの副作用
ステロイドは強い抗炎症作用と免疫抑制作用をもつため、重症のPSAGNや急速進行性の病態に対処する目的で短期間使用されることがあります。
長期使用では満月様顔貌(ムーンフェイス)、体重増加、骨粗鬆症、高血圧、糖尿病などの副作用が起こりやすいです。急性期に限定的に使用する場合でも、胃腸障害や感染症リスクの増加などを考慮して注意深く管理します。
ステロイド使用時にチェックしたい症状
- 顔が丸みを帯びてきた、ニキビが増えた
- 血糖値の上昇で口渇や多尿がみられる
- 体重が急増し、関節に負担を感じる
- 軽い傷でも治りが遅く、感染しやすい
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
検査費用の目安
尿検査や血液検査は比較的安価で、保険適用後の自己負担額は1,000〜2,000円程度に収まることが多いです。ただし、抗ストレプトリジンO(ASO)や抗DNAseBなどの特殊検査を行う場合、もう少し費用がかかることがあります。
画像検査は、エコー検査であれば自己負担が2,000〜4,000円前後、CTやMRIでは撮影部位や造影剤の有無によって5,000〜15,000円程度と幅があります。
検査項目 | 保険適用後の自己負担目安 | 補足 |
---|---|---|
一般血液検査 | 約1,000〜2,000円 | BUN、クレアチニン、電解質など |
特殊血液検査(抗体価) | 約2,000〜3,000円 | ASO、抗DNAseBなど |
尿検査 | 数百円〜1,000円程度 | 定性・定量検査、尿沈渣 |
腎エコー | 約2,000〜4,000円 | 侵襲性が低く、定期的に行いやすい |
CT/MRI | 約5,000〜15,000円 | 造影剤使用の場合はさらに加算がある |
薬物療法の費用
抗菌薬や降圧薬、利尿薬などは種類や用量によって費用が異なります。たとえば、ペニシリン系の抗菌薬(ジェネリックを除く)を1〜2週間程度処方された場合、保険適用後の自己負担額は1,000円前後になることが一般的です。
降圧薬も比較的安価な製剤が多く、1か月分で保険適用後2,000〜3,000円程度になるケースが多いです。
- 抗菌薬:1〜2週間の服用で1,000円前後
- 降圧薬:1か月処方で2,000〜3,000円前後
- 利尿薬:数百円〜1,500円程度(種類により変動)
- ステロイド:投与期間が短くても薬価がやや高めの場合がある
入院費用
PSAGNが重症化して腎不全や肺水腫などの合併症を引き起こした場合、入院治療が必要になることがあり、1日あたり数千円〜1万円以上の自己負担があります。
費用項目 | 内容 | 自己負担の目安 |
---|---|---|
病室料金 | 大部屋(差額ベッドなし) | 基本的には保険適用で自己負担は小さめ |
投薬費用 | 点滴、内服、注射 | 使用薬品の種類・量により変動 |
検査費用 | 血液検査、尿検査、画像検査など | 外来時と同様に計算 |
処置費用 | 透析や中心静脈カテーテル管理など | 合併症によって高額化する場合あり |
長期的なフォローアップ
PSAGNは多くの場合、数か月から半年程度のフォローアップで腎機能が回復に向かい、尿検査や血液検査は保険適用されるため、1回あたり数百円〜2,000円前後で済むことが多いです。
状況によっては月1回から2か月に1回ほどの受診が続く可能性がありますが、症状が安定すれば受診間隔を延ばす方針も考慮されます。
長期フォローアップ時に留意したいこと
- 定期的な血液・尿検査で数千円程度の費用がかかる
- 薬が必要なくなれば薬代は削減できるが、急な再発に備えて経過観察を継続
- 重症化を防ぐために早期受診とこまめな診察が重要
以上
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