赤ちゃんの口周りに現れる赤みやブツブツ、カサカサとした湿疹は、子育て中の多くの保護者の方が直面する悩ましい肌トラブルの一つです。
離乳食が始まる生後5〜6ヶ月頃から目立ち始めることが多く、「食べたものが合わなかったのではないか」「もしかして食物アレルギー?」と不安を感じる方も少なくありません。
この記事では、口周りの湿疹が起こる原因、よだれかぶれとアレルギーを見分けるためのチェックポイント、自宅ですぐに実践できる効果的な予防とスキンケアの方法、病院を受診すべきタイミングについて、解説していきます。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
口周りの湿疹が治らない原因とは
赤ちゃんの肌は一見プルプルとしていて理想的な状態に見えますが、大人の皮膚に比べて厚さが約半分しかなく、水分を保つ力や外部の刺激から肌を守るバリア機能が非常に未熟な状態です。少しの刺激でもすぐに炎症を起こしてしまいます。
よだれや食べこぼしによる刺激
赤ちゃんの口周りの湿疹の最も一般的で頻度の高い原因は、よだれや食べ物による物理的・化学的な刺激で、接触皮膚炎、いわゆるかぶれです。
赤ちゃんのよだれには、母乳やミルク、離乳食を分解するための消化酵素が含まれていて、バリア機能の弱い赤ちゃんの皮膚に長時間付着することで、皮膚のタンパク質や脂質を分解してしまい、炎症を起こします。
特に歯が生え始める時期はよだれの量が急激に増えるため、常に口の周りが濡れた状態になりがちです。皮膚は濡れたり乾いたりを繰り返すと、角層がめくれあがって隙間ができ、さらに刺激を受けやすくなってしまいます。
また、離乳食に含まれる塩分や果物の酸味、トマトなどに含まれる成分も強い刺激となり、付着した状態が続くと、赤みやただれが急速に悪化してしまうのです。
食物アレルギーによる反応
特定の食べ物を摂取したことが引き金となって起こる生体反応が食物アレルギーです。
アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が体内に入ると、免疫システムが過剰に反応し、ヒスタミンなどの化学物質が放出されることで、皮膚にかゆみや赤み、じんましんなどの症状が現れます。
口周りの症状としては、食べた直後に口の周りがドーナツ状に赤く腫れたり、蚊に刺されたようなプクッとした発疹(膨疹)が現れたりするのが典型的です。
食物アレルギーには、食べて消化吸収されてから全身に症状が出るタイプと、食べ物が皮膚や粘膜に直接触れることでその場所にだけ症状が出るタイプ(口腔アレルギー症候群など)があります。
後者の場合、よだれかぶれとの区別が非常に難しくなりますが、アレルギー反応は原因物質への接触が繰り返されるたびに強くなる傾向があるため、注意深い観察が必要です。
アトピー性皮膚炎の可能性
口周りの湿疹が、アトピー性皮膚炎の初期症状、あるいは症状の一部であるというケースも少なくありません。
アトピー性皮膚炎は、遺伝的な体質として皮膚の乾燥とバリア機能の低下があり、そこにさまざまな環境因子(ダニ、ホコリ、食べ物、汗など)が作用して起こる慢性の湿疹です。
乳児期のアトピー性皮膚炎は、顔や頭から症状が始まることが多く、頬や口周りの乾燥した赤い湿疹は典型的な初期症状の一つです。
もし、口周りだけでなく、耳の付け根が切れていたり、首のシワの奥が赤くなっていたり、ひじやひざの裏側にもガサガサした湿疹が見られる場合は、アトピー性皮膚炎の可能性を強く疑う必要があります。
乾燥によるバリア機能の低下
乾燥はすべての肌トラブルの元凶とも言えますが、口周りは乾燥しやすい悪条件が揃っています。
食事のたびに濡れタオルで拭かれたり、よだれを頻繁に拭き取られたりすることで、皮膚を守るために必要な皮脂膜まで一緒に取り去られてしまうからです。
皮脂膜が失われると、皮膚内部の水分がどんどん蒸発して乾燥が進み、角層が隙間だらけのスカスカな状態になります。
こうなると、普段なら跳ね返せるような些細な刺激(自分の髪の毛が触れる、衣服が擦れるなど)でも容易に皮膚の内部に侵入し、炎症細胞を刺激して湿疹を起こしてしまうのです。
冬場の乾燥した外気や、夏場のエアコンによる室内の乾燥も、バリア機能の低下に拍車をかけます。
よだれかぶれとアレルギーの見分け方
目の前のお子様の口周りが真っ赤になっているとき、「これは急いで病院に行くべきアレルギーなのか、それとも様子を見ていいかぶれなのか」と迷われることでしょう。ここでは、観察すべき重要なポイントを詳しく解説します。
症状が現れるタイミングの違い
症状が現れるまでの時間は、両者を見分ける最大のポイントの一つで、よだれかぶれ(接触皮膚炎)は、日々の刺激の積み重ねによって徐々に発症し、悪化していきます。
「そういえば最近ずっと赤いな」「食後になると少し赤みが増すけれど、引くのにも時間がかかるな」といったように、慢性的・持続的な経過をたどるのが特徴です。
食物アレルギーの多くは即時型反応と呼ばれ、原因となる食べ物を摂取してから短時間で急激に症状が現れ、多くの場合は食後15分から30分以内に発症し、長くても2時間以内には何らかの反応が見られます。
そして、数時間から半日程度で嘘のように症状が消えてしまうことも珍しくありません。「さっき食べたあの食材の直後に毎回必ず出る」という再現性がある場合は、アレルギーの可能性が極めて高いです。
湿疹が出る場所の特徴
湿疹が出ている範囲を詳細に観察することも大切です。よだれかぶれは、食べ物が物理的に接触した範囲に限局して症状が現れます。
典型的には、下唇の下から顎にかけてのよだれが垂れるライン、口角の周辺、頬の食べこぼしが付着しやすい部分などで、スタイ(よだれかけ)が触れる首元が赤くなることもあります。
これに対して食物アレルギーでは、原因物質が体内に吸収されて血流に乗って全身を巡るため、直接触れていない場所にも症状が現れるのです。
口周りだけでなく、目の周りが赤く腫れぼったくなったり、おでこや頭皮、さらにはお腹や背中、手足にまで蚊に刺されたようなじんましんが広がったりすることがあります。
接触した覚えのない場所にまで急に症状が広がった場合は、全身性の反応であるアレルギーを強く疑います。
かゆみや赤みの程度の比較
どちらもかゆみや赤みを伴う点では共通していますが、現れ方(性状)には違いがあります。
よだれかぶれは湿疹としての性質が強く、皮膚が全体的に赤くカサカサと乾燥し、表面が細かく剥けたり、ひび割れてジュクジュクとしたりし、かゆみもありますが、ヒリヒリとした痛みを伴うことも多いです。
食物アレルギーの皮膚症状はじんましんが主体となることが多く、境界がはっきりした盛り上がった赤み(膨疹)が出ます。
じんましんは非常に強いかゆみを伴うため、赤ちゃんが突然機嫌が悪くなり、顔や体を激しくかきむしったり、床や寝具に顔をこすりつけたりする動作が見られることがあります。
湿疹の特徴比較
| 比較項目 | よだれかぶれ(接触皮膚炎) | 食物アレルギー(即時型) |
|---|---|---|
| 発症タイミング | 日常的に徐々に悪化し、慢性的に続く。食後しばらく赤みが強まることも。 | 原因食物の摂取後、数分〜2時間以内に急激に出現する。 |
| 持続時間 | 適切なケアをするまで数日〜数週間以上続くことが多い。 | 数時間〜半日程度で自然に消失、あるいは軽減することが多い。 |
| 主な皮膚症状 | 境界が不明瞭な赤み、ガサガサ、ひび割れ、ただれなどの湿疹変化。 | 境界がはっきりした盛り上がった赤み(じんましん)、地図状の腫れ。 |
| 出現部位 | 口周り、顎、頬、首など、よだれや食べ物が直接触れた部位に限定。 | 接触部位に加え、目の周り、顔全体、頭皮、体幹、四肢など全身に広がる。 |
全身症状の有無を確認する
最も緊急性が高く、見逃してはならないのが全身症状の有無です。よだれかぶれはあくまで皮膚に限局したトラブルであり、呼吸や消化器などに影響が出ることは絶対にありません。
しかし、食物アレルギーでは、皮膚だけでなく複数の臓器に強いアレルギー反応が現れるアナフィラキシーという危険な状態に進行する可能性があります。
皮膚症状に加えて、以下のような症状が一つでも見られた場合は、重篤なアレルギー反応のサインなので、救急外来を受診するか、症状が急速に進行する場合は救急車を呼ぶ判断も必要です。
緊急性の高い危険なサイン
- ゼーゼー、ヒューヒューという苦しそうな呼吸(呼吸困難)
- 犬が吠えるような「ケンケン」という咳、声がかすれる(喉の粘膜の腫れ)
- 繰り返し激しく吐く、持続する強い腹痛、水のような下痢(消化器症状)
- 顔色が悪く青白い、唇が紫色になる(チアノーゼ)
- 視線が合わない、ぐったりして反応が鈍い、意識がもうろうとする(ショック症状)
自宅でできる正しいスキンケア方法
口周りの湿疹を改善し、再発を防ぐための基本は、毎日の正しいスキンケアにあります。清潔にすることと保湿することを徹底するだけで、軽度の湿疹であれば劇的に改善することも珍しくありません。
やさしく汚れを落とす洗浄のコツ
口周りが汚れたとき、乾いたティッシュやガーゼでゴシゴシと拭き取っていませんか?摩擦はバリア機能が低下した肌にとって最大の敵です。汚れを落とすときはこするのではなく洗うあるいは吸い取る感覚が大切です。
理想は、ぬるま湯で優しく洗い流すことで、外出先などで洗えない場合は、水でたっぷりと濡らした柔らかいタオルや清浄綿を使い、皮膚に優しく押し当てるようにして汚れを水分に移し取るように拭きます。
汚れがひどい時や1日の終わりの入浴時には、低刺激性の泡タイプの石鹸を使いましょう。たっぷりの泡をクッションにして、指が直接肌に触れないように優しくなでるように洗い、洗浄成分が残らないように丁寧にすすぎます。
効果的な保湿剤の選び方と塗り方
洗浄後の肌は、水分が急速に蒸発して過乾燥状態になりやすいため、「洗ったら3分以内」を目標に保湿剤を塗ることが重要です。
口周りに使う保湿剤は、万が一口に入っても安全性が高く、刺激の少ないものを選び、高純度のワセリンや、赤ちゃん用に開発された低刺激のクリームなどが適しています。
塗る量の目安は、塗った後の肌がテカテカと光り、ティッシュを乗せると張り付いて落ちないくらいが適量です。
保湿剤の種類と使い分け
| 種類 | 特徴とメリット | おすすめの使用シーン |
|---|---|---|
| 白色ワセリン | 皮膚表面に強力な油膜を作り、水分の蒸発と外部刺激を完全にブロックする。刺激性が極めて低く安全。 | 食事の前、よだれが多い時、傷やただれがある部位、就寝前 |
| 保湿クリーム | 水分と油分をバランスよく含み、肌内部に浸透して潤いを与える。ワセリンよりベタつきが少ない。 | 朝の洗顔後、入浴後、日中の乾燥が気になる時のこまめなケア |
| 保湿ローション・乳液 | 水分が多く伸びが良いので広範囲に塗りやすい。さっぱりとした使用感。 | 夏場のケア、汗をかきやすい部位、体全体の保湿 |
食事の際に気をつけたいポイント
離乳食の時間は赤ちゃんにとって、食べ物そのものの刺激に加え、拭き取りによる摩擦刺激が集中します。この時間帯のケアを工夫することで、肌トラブルのリスクを大幅に減らすことができます。
食事前のワセリン保護が有効な理由
食事の前にひと手間かけることが、その後の肌状態を大きく左右します。食べる直前に、口の周りだけでなく、食べこぼしが付きそうな頬や顎の下まで、広範囲にワセリンを塗っておきましょう。
事前のワセリン膜があることで、塩分や酸味の強いトマトソースや果汁などがこぼれても、皮膚に直接触れることなく弾かれます。少しテカテカするくらい厚めに塗るのがコツです。
食べさせ方で変わる肌への負担
スプーンの使い方も見直してみましょう。離乳食初期は、赤ちゃんがうまく食べられず、口の周りにどうしても食べ物が付いてしまいます。
この時、スプーンを下唇に押し付けて口に入れたり、口周りにはみ出した食べ物をスプーンのフチでこすり取るようにして集めて再度口に入れたりする動作は、デリケートな肌を傷つける大きな原因です。
スプーンは赤ちゃんの口に対して水平に運び、下唇に優しくのせたら、赤ちゃん自身が上唇で食べ物を取り込むのを待ちましょう。
こぼれた食べ物は、その都度こまめに拭き取るのではなく、ある程度まとめて最後にきれいにした方が、トータルの摩擦回数を減らすことができます。
食後のケアで悪化を防ぐ方法
「ごちそうさま」の後のケアも重要です。食後に口周りをきれいにするときは、決して乾いた布でゴシゴシこすってはいけません。
あらかじめ濡らしておいた柔らかいタオルやおしりふき(手口ふき)を使い、ポンポンと優しく押さえるようにして汚れを吸い取らせます。
もし可能であれば、洗面所などでぬるま湯を使ってさっと洗い流してしまうのが、最も肌への負担が少なく、かつ確実に汚れを落とせる方法です。きれいにした後は、必ずセットで保湿剤を塗り直します。
食事前後の鉄壁ケア手順
| タイミング | 具体的なアクション | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 食事の直前 | ワセリンを口周り、頬、顎にテカるくらい厚めに塗布する。 | 食べ物やよだれの刺激が直接皮膚に到達するのをブロックする。 |
| 食事中 | こぼれても神経質に毎回拭き取らない。スプーンで肌をこすらない。 | 摩擦による物理的な刺激を最小限に抑える。 |
| 食後すぐ | ぬるま湯で洗い流すか、たっぷりと濡らしたタオルで優しく押さえ拭きする。 | 刺激の原因となる食べ残しや汚れを完全に除去する。 |
| きれいにしてすぐ | 保湿剤(ワセリンやクリーム)をたっぷりと塗り直す。 | 洗浄によって失われた皮脂膜を補い、バリア機能を回復させる。 |
病院を受診するべきタイミング
丁寧なホームケアを続けても改善が見られない場合、セルフケアの範囲を超えている可能性があります。赤ちゃんの肌トラブルは進行が早いため、こじらせる前に専門医の力を借りることが大切です。
市販薬で改善が見られない場合
薬局やドラッグストアには、赤ちゃんにも使えるさまざまな塗り薬が販売されていますが、1週間ほど使用しても明らかな改善が見られない、あるいは一度良くなってもすぐにぶり返してしまう場合は、薬が症状に合っていない可能性があります。
漫然と同じ市販薬を使い続けると、かえって症状を複雑化させ、治りにくくしてしまうこともあります。専門医による正確な診断と、症状の程度に合った適切な強さの処方薬を使うことが、最も早くきれいに治す近道です。
かゆみが強く夜眠れないとき
かゆみは赤ちゃんにとって痛み以上に辛い感覚です。
言葉で伝えられない分、不機嫌になって泣き続けたり、夜中に何度も目を覚ましてしまったり、無意識のうちに血が出るほどかきむしってしまったりします。
睡眠は赤ちゃんの成長発達にとって非常に大切であり、また睡眠不足は免疫力を低下させ、さらに皮膚の回復を遅らせる悪循環を招きます。かゆみによって日常生活に支障が出ている状態は、積極的な治療が必要なサインです。
湿疹が全身に広がってきたら
最初は口の周りだけに限定していた湿疹が、首、胸、お腹、背中、手足の関節部分などに広がってきた場合は要注意です。
単なる局所的なかぶれではなく、アトピー性皮膚炎や、全身性の乾燥性湿疹(皮脂欠乏性湿疹)などが背景にある可能性があるので、口周りだけのケアでは追いつきません。
全身の皮膚の状態を医師が総合的に評価し、部位ごとに適切な薬を使い分けるなど、より包括的な治療戦略が必要です。
じゅくじゅくした浸出液がある場合
湿疹が悪化して皮膚がただれ、黄色っぽい汁(浸出液)がジュクジュクと出ていたり、乾いて厚い黄色いかさぶたになっていたりする場合は、皮膚のバリアが完全に破壊され、細菌感染(とびひなど)を合併している可能性があります。
この状態は伝染性膿痂疹とも呼ばれ、非常に強いかゆみを伴う上に、ひっかいた手で他の場所を触ると次々に広がってしまうことがあります。
細菌を抑えるための抗生物質の塗り薬や、場合によっては飲み薬が必要になるため、早急な受診が必要です。
皮膚科で行う検査と治療について
皮膚科を受診すると、医師はまず詳細な問診と、皮膚の状態を直接目で見て触れて確認する視診・触診を行い、情報をもとに診断を下し、必要であれば検査を行い、治療方針を決定します。
アレルギー検査の種類と内容
問診から食物アレルギーの関与が強く疑われる場合、原因物質を特定するためにアレルギー検査を行うことがあります。
最も一般的なのは血液検査(特異的IgE抗体検査)で、少量の採血を行い、特定の食品に対する抗体が血液中にどれくらいあるかを数値化します。
しかし、重要なのは「検査で陽性=食べてはいけない」とは限らないということです。数値が高くても実際には食べられることもあれば、その逆もあります。
検査結果はあくまで診断の補助材料であり、最終的には実際に食べて症状が出るかが最も重要な判断基準です。疑わしい食品を安全な環境下で実際に食べてみる食物経口負荷試験を行うために、専門の医療機関を紹介されることもあります。
主なアレルギー関連検査
| 検査名 | 実施方法と特徴 | 検査でわかること |
|---|---|---|
| 特異的IgE抗体検査(血液検査) | 採血して血液中のアレルゲンに対する抗体価を測定する。複数の項目を一度に調べられる。 | 体がその物質に対してアレルギー反応を起こす準備状態(感作)にあるかどうか。 |
| 皮膚プリックテスト | 微量のアレルゲン液を皮膚に垂らし、専用の針で軽く突いて反応を見る。結果が15分程度ですぐにわかる。 | 皮膚そのものが原因物質に対して即時型のアレルギー反応を起こすかどうか。 |
| 食物経口負荷試験 | 医師の管理下で、実際に疑わしい食品を少しずつ食べて症状の有無を確認する。最も確実な診断方法。 | 本当にその食品で症状が出るのか、どれくらいの量なら安全に食べられるか(耐容量)。 |
ステロイド外用薬の正しい使い方
湿疹の治療において、現在でも中心的な役割を果たすのがステロイド外用薬です。インターネット上などの不確かな情報から「ステロイドは怖い薬」「一度使うとやめられなくなる」といった誤解を抱いている保護者の方も少なくありません。
しかし、ステロイドは皮膚の炎症を強力に抑える非常に優れた薬であり、医師の指導のもとで適切な強さの薬を、必要な量だけ必要な期間正しく使えば、全身性の副作用の心配はほとんどありません。
怖がって少ししか塗らなかったり、自己判断ですぐにやめてしまったりすることで、症状が長引いて難治化し、長く薬を使い続けることになってしまいます。
症状が良くなっても急にゼロにするのではなく、医師の指示に従って塗る回数や間隔を徐々に空けていく(プロアクティブ療法など)ことが、リバウンドさせずにきれいに治すコツです。
ステロイド外用薬の強さランク
| ランク | 強さの程度 | 主な適用部位と年齢の目安(一般的な傾向) |
|---|---|---|
| I群:Strongest(最も強い) | 最強 | 原則として大人の重症例に使用。乳幼児には通常使われない。 |
| II群:Very Strong(かなり強い) | 非常に強い | 大人の体や手足。子供でも重症な体の湿疹に一時的に使われることがある。 |
| III群:Strong(強い) | 強い | 乳幼児の体や手足の湿疹に最も一般的に処方されるランク。 |
| IV群:Medium(中程度) | 穏やか | 乳幼児の顔、首、陰部など、皮膚が薄く薬の吸収が良い部位によく使われる。 |
| V群:Weak(弱い) | 弱い | 症状が非常に軽い場合や、目・口の周りなど特にデリケートな部位に使われる。 |
非ステロイド薬という選択肢
近年では、ステロイドとは異なるメカニズムで炎症を抑える新しいタイプの塗り薬(タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏、ジファミラスト軟膏など)も登場し、治療の選択肢が広がっています。
ステロイドの長期使用で懸念される皮膚萎縮(皮膚が薄くなる)などの局所副作用がほとんどないため、特に顔や首などデリケートな部分の長期間の維持療法に適しています。
ただし、使い始めにヒリヒリとした刺激感を感じることがあるといった特徴もあるため、医師が患者さんの肌の状態や年齢に合わせて薬を選択します。
ステロイドで炎症を一気に抑え、その後これらの薬に切り替えて良い状態をキープするという使い方が一般的です。
日常生活で注意したい悪化因子
せっかく治療やスキンケアを頑張っていても、日常生活の中に湿疹を悪化させる要因が潜んでいると、なかなか症状が改善しません。赤ちゃんの肌を取り巻く環境を今一度見直し、刺激を減らす工夫をしましょう。
スタイや衣類の素材選び
赤ちゃんの肌に直接触れるものは、素材選びが非常に重要です。スタイ(よだれかけ)、肌着、衣服の襟元などは、吸湿性が高く、肌触りの柔らかい綿100%のものを選びましょう。
化学繊維や目の粗いウールなどは、チクチクとした物理的な刺激になりやすく、かゆみを誘発することがあります。
また、スタイがよだれで濡れたまま長時間放置されると、雑菌が繁殖しやすくなるだけでなく、水分が蒸発する際に気化熱で皮膚の温度を奪い、乾燥をさらに悪化させてしまいます。
濡れたスタイはこまめに取り替え、常に乾いた清潔なものが肌に触れるように心がけてください。洗濯洗剤のすすぎ残しも刺激になるため、十分にすすぎを行うことも大切です。
おしゃぶりや指しゃぶりの影響
おしゃぶりや指しゃぶりは、赤ちゃんにとって精神的な安定を得るための大切な行動ですが、皮膚トラブルの観点からは注意が必要です。口の周りが常に唾液で濡れた状態になり、ふやけた皮膚が少しの摩擦でも傷つきやすくなってしまいます。
また、おしゃぶりのプラスチック部分が常に肌に当たっていること自体が接触皮膚炎の原因になることもあります。無理にやめさせる必要はありませんが、使用している時期は通常以上に丁寧なケアが必要です。
よくある質問
- 離乳食を始めたら口の周りが赤くなりました。これは食物アレルギーでしょうか?
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必ずしもアレルギーとは限りません。多くの場合、食べ物が付着した刺激による一時的な接触皮膚炎(かぶれ)です。アレルギーを心配して自己判断で離乳食を中断する必要はありません。
まずは食前のワセリン保護と食後のやさしい洗浄・保湿を徹底しましょう。
それでも毎回同じ食材で食後すぐに強い赤みや腫れが出る、あるいはじんましんや咳などの全身症状を伴う場合はアレルギーの可能性がありますので、早めに医師にご相談ください。
- 顔にステロイドの塗り薬を塗っても大丈夫ですか?副作用が心配です。
-
医師の指示通りの強さの薬を、指示通りの期間と回数を守って使用すれば、顔に塗っても安全です。
顔は体の皮膚よりも薄く薬の吸収が良いため、体よりもランクを落とした弱めのステロイド(ミディアムクラスなど)が処方されます。
自己判断で長期間漫然と塗り続けたりしなければ、副作用を過度に心配する必要はありません。定期的に医師の診察を受け、肌の状態に合わせて薬を調整していくことが大切です。
- 保湿剤は市販のものでも良いですか?どんなものを選べばいいですか?
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お子様の肌に合うものであれば、市販の保湿剤でも十分な効果が期待できます。選ぶ際は、香料や着色料、アルコールなどが入っていない低刺激性のものを推奨します。
乾燥が強い時期や部位には保湿力の高いクリームや軟膏タイプ、夏場や広範囲にはさっぱりとしたローションタイプなど、季節や使用感の好みに合わせて使い分けるのも良い方法です。
- アレルギー検査で陰性だった食べ物は、いくら食べさせても大丈夫ですか?
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検査結果が陰性であっても、100%安全とは言い切れません。まれに、検査では反応が出ないタイプのアレルギーもあります。初めて食べる食材は、検査結果にかかわらず慎重に進めるのが原則です。
万が一症状が出ても対応できるよう、平日の午前中に、まずはごく少量(離乳食スプーン1杯程度)から試し、お子様の様子に変化がないかよく観察しながら、数日かけて徐々に量を増やしていきましょう。
以上
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