毎日の炊事や洗濯、掃除。家族のために頑張るその手は、いつの間にかカサカサになり、かゆみやひび割れに悩んでいませんか。
手湿疹の一種であるこの症状は、水仕事が多い方によく見られる皮膚のトラブルで、主婦湿疹とも呼ばれます。
単なる手荒れと軽く考えがちですが、悪化すると指を曲げるだけで痛みが生じたり、眠れないほどのかゆみに襲われたりと、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。
この記事では、主婦湿疹がなぜ起こるのか、皮膚のバリア機能という観点からその原因を詳しく探り、今日から実践できる効果的なセルフケア、皮膚科での専門的な治療法まで、分かりやすく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
主婦湿疹(手湿疹)の基本的な知識
手のトラブルは多くの人が経験しますが、その中でも特に水仕事をする機会の多い方に頻繁に見られるのが主婦湿疹です。まずはこの皮膚疾患がどのようなものか、基本的な特徴を説明しましょう。
そもそも主婦湿疹とは何か
主婦湿疹は、医学的には進行性指掌角皮症(しんこうせいししょうかくひしょう)や、より広い意味で手湿疹と呼ばれる皮膚疾患の一種です。
主婦の方に多く見られることからこの俗称で呼ばれていますが、実際には調理師、美容師、理容師、看護師、介護士など、職業柄、水や洗剤、消毒液に頻繁に触れる方々にも広く見られる症状です。
一般的には、利き手の指先、特に人差し指や中指といったよく使う指の腹側から症状が始まり、徐々に指全体、手のひら、手首、さらにはもう片方の手へと広がっていく進行性の特徴があります。
根本には、皮膚が本来持っているバリア機能の低下があり、外部からの刺激物質が侵入しやすくなり、皮膚内部の水分も蒸発しやすくなることで、炎症が起きます。
なぜ主婦や水仕事の多い人に見られるのか
皮膚の最も外側にある角層は、わずか0.02mmほどの薄さですが、外部の刺激から体を守り、体内の水分が失われるのを防ぐ非常に重要なバリアの役割を担っています。
バリア機能は、角層細胞とその間を埋める細胞間脂質(セラミドなど)、そして皮膚表面を覆う皮脂膜によって維持されていますが、頻繁な水仕事、特にお湯の使用は、この大切な皮脂膜と細胞間脂質を洗い流してしまいます。
バリア機能が弱まった皮膚は、いわば鎧を脱いだ無防備な状態です。このため、普段なら何でもないような洗剤の成分や食品の汁、物理的な摩擦といったわずかな刺激でも炎症を起こしやすくなります。
主な初期症状
症状 | 特徴 | 感覚 |
---|---|---|
乾燥 | 皮膚表面がカサカサし、指紋が消えかかる。白い粉をふく。 | 皮膚が硬くつっぱる感じ。指を曲げにくい。 |
かゆみ | 特に指先や指の間に、むずがゆさやチクチク感がある。 | 温まるとかゆみが増す。無意識に掻いている。 |
赤み | 皮膚がうっすらとピンク色や赤みを帯びる。 | 軽いほてりを感じることがある。 |
主婦湿疹の主な症状
主婦湿疹の症状は、段階的に進行することが一般的です。最初は利き手の指先の乾燥や軽い皮むけから始まります。
この段階では、冬場の乾燥による単なる手荒れと感じる方がほとんどですが、ケアを怠ると症状は徐々に悪化し、赤みやかゆみがはっきりと現れてきます。
さらに進行すると、皮膚が硬く厚くなり柔軟性が失われ、指の関節や皮膚の溝に沿って亀裂が生じるひびや、さらに深くパックリと割れて出血も伴うあかぎれが見られるようになり、水に触れるたびに激しい痛みを起こすのです。
また、指の側面や手のひらに小さな水ぶくれ(小水疱)が現れたり、それが破れてじゅくじゅくとした状態(湿潤)になったりすることもあります。
症状を放置するリスク
初期の段階で適切なケアを行えば、主婦湿疹は比較的速やかに改善しますが、我慢して放置してしまうと、症状は慢性化し、治りにくい状態へと移行します。
ひびやあかぎれ、掻き壊した傷口から黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入し、二次感染を引き起こす危険性もあります。二次感染を起こすと、強い痛みや腫れ、熱感、時には膿を持つこともあり、治療がさらに複雑になります。
また、長期間にわたって炎症とかきむしりを繰り返すと、皮膚がゴワゴワと硬く厚くなる苔癬化(たいせんか)という状態になることもあり、一度弱った皮膚のバリア機能が完全に元に戻るまでには数ヶ月単位の時間が必要です。
少し良くなったからといって油断すると、すぐに再発を繰り返すことになります。
主婦湿疹を引き起こす日常生活のさまざまな原因
主婦湿疹は、特別なことが原因で起こるわけではありません。日々の何気ない生活習慣の中に、引き金は数多く潜んでいます。どのような行動が手の皮膚に負担をかけているのかを知り、意識的に避けることが改善への近道です。
水仕事と皮脂の洗い流し
最大の原因は、やはり水仕事です。特に、給湯器から出る40度前後のお湯を使う食器洗いは、油汚れをよく落とす一方で、皮膚を守る皮脂も強力に洗い流してしまい、皮膚の乾燥が急激に進行します。
また、一日に何度も手を洗う衛生習慣、赤ちゃんのおむつ替えで頻繁におしりふきを使用する行為、濡れた布巾で何度もテーブルを拭くといった作業も、同様に皮膚のバリア機能を確実に低下させます。
水に触れる時間が長ければ長いほど、またその回数が多ければ多いほど、手への負担は雪だるま式に増大していきます。
刺激となり得る日用品の例
カテゴリ | 具体的な品目 | 主な刺激成分 |
---|---|---|
洗浄剤 | 食器用洗剤、洗濯用洗剤、シャンプー、住居用洗剤 | 界面活性剤、酵素、香料 |
消毒剤 | アルコール消毒液、塩素系漂白剤、ハンドソープ | エタノール、次亜塩素酸ナトリウム |
食品 | ニンニク、玉ねぎ、柑橘類の皮、山芋、トマト | アリシン、精油成分、シュウ酸カルシウム |
洗剤やシャンプーなどの化学物質
食器用洗剤や洗濯用洗剤に含まれる界面活性剤は、油汚れを落とす強力な洗浄力を持つ一方で、皮膚の細胞間脂質まで溶かし出してしまいます。
また、シャンプーやリンス、ハンドソープに含まれる香料や防腐剤、殺菌成分が刺激となり、炎症を起こしたり、アレルギー反応の原因となったりすることもあります。
素手で化学物質に触れる機会が多いと、皮膚は継続的にダメージを受け続け、バリア機能が破壊され、湿疹を発症しやすくなるのです。
- 手袋の着用
- こまめな保湿
- ぬるま湯の使用
- 長時間の水仕事を避ける
- 低刺激性の洗剤を選ぶ
物理的な摩擦や刺激
日々の家事の中には、化学的な刺激だけでなく、物理的な刺激も多く潜んでいます。
段ボールを解体する、新聞紙や雑誌を頻繁にめくる、雑巾を固く絞る、野菜の泥を素手でゴシゴシ洗うといった行為は、皮膚表面を摩擦し、目に見えない無数の小さな傷をつけます。
傷から洗剤などの刺激物が侵入しやすくなり、炎症を悪化させる一因となり、また、指輪などのアクセサリーがこすれたり、その下に洗剤が残ったりすることも刺激になります。
汗で蒸れて皮膚がふやけ、傷つきやすくなることも症状悪化の要因です。
アレルギー物質との接触
特定の物質に触れることでアレルギー反応が起こり、手湿疹として現れる場合があり、アレルギー性接触皮膚炎と呼びます。
原因物質(アレルゲン)は人によって様々で、金属(ニッケル、クロム、コバルト)、ゴム製品(ゴム手袋に含まれる加硫促進剤やラテックス)、植物(ウルシ、サクラソウ)、外用薬の成分や化粧品の防腐剤など多岐にわたります。
原因がはっきりしない手湿疹が長引く場合は、アレルギーの可能性も視野に入れることが必要です。皮膚科では、原因物質を特定するためにパッチテストを行うことがあります。
症状の段階と見分け方
主婦湿疹は、その進行度によって症状の現れ方が異なります。また、似たような症状を持つ他の皮膚疾患との違いを知ることも、誤った対応を避けるために重要です。
初期症状(乾燥・かゆみ)
最も早い段階で見られるのが、皮膚の乾燥(乾皮)です。指先から手のひらにかけて潤いがなくなり、カサついた感触になり、皮膚の柔軟性が失われ、つっぱり感を強く感じます。
皮膚の表面が白っぽく粉をふいたようになり、細かい皮がむける落屑(らくせつ)が見られることもあります。
この時期には、むずがゆいような軽いかゆみを伴うことが多いです。温かいお風呂に入ったり、布団に入ったりするとかゆみが強まる傾向があり、無意識にかきむしってしまうことで、バリア機能の低下をさらに加速させてしまいます。
症状の進行段階
段階 | 主な症状 | 注意点 |
---|---|---|
初期(軽症) | 乾燥、軽度のかゆみ、皮むけ、わずかな赤み | 保湿ケアと刺激の回避を徹底する |
進行期(中等症) | 強い赤み、ひび割れ、強いかゆみ、痛み、小さな水ぶくれ | セルフケアに加え、専門医の受診を強く推奨する |
重症期 | 多数の水ぶくれ、じゅくじゅく(湿潤)、腫れ、激しい痛み | 自己判断は危険。速やかに皮膚科を受診する |
進行期(ひび割れ・赤み)
初期症状を放置すると、炎症が本格化し、皮膚が広範囲にわたって赤みを帯びてきます(紅斑)。かゆみも強くなり、我慢できずに掻いてしまうと、皮膚が傷つき、さらに炎症が悪化するという悪循環に陥ります。
乾燥が極度に進行し、皮膚の柔軟性が失われると、指の関節など動きの多い部分を中心にパックリと割れるひびやあかぎれ(亀裂)が生じます。
水がしみて強い痛みを伴い、料理で醤油やレモン汁に触れたり、シャンプーの際に髪の毛が当たったりするだけで激痛が走ることもあり、家事などの日常作業を非常につらくさせる状態です。
重症期(水ぶくれ・じゅくじゅく)
炎症がさらに強くなると、指の側面や手のひらに強いかゆみを伴う小さな水ぶくれ(小水疱)が多発することがあり、水ぶくれを掻き壊すと、中から透明な液体(浸出液)が出て、患部がじゅくじゅくした状態になります。
見た目にもつらく、衣類などに浸出液が付着して不快なだけでなく、細菌感染の温床となりやすい非常に危険な状態です。皮膚全体が赤く腫れあがり、熱感を持ち、ズキズキとした痛みを感じることもあります。
ここまで症状が進行した場合は、セルフケアだけでの改善は極めて難しく、速やかな専門的治療が必要です。
他の皮膚疾患との違い
手のかゆみや湿疹は、主婦湿疹以外にもさまざまな原因で起こり、アトピー性皮膚炎の症状が手に強く出る場合や、夏場に悪化しやすい汗疱(かんぽう)、カビの一種である白癬菌が手に感染する手白癬(てはくせん)などがあります。
それぞれ治療法が異なるため、正確な診断がとても大切です。自己判断で市販の水虫薬などを塗ってしまうと、刺激で症状が劇的に悪化することもあります。
症状が長引いたり、市販薬で改善しなかったりする場合は、必ず皮膚科専門医に相談してください。
他の皮膚疾患との簡単な見分け方
疾患名 | 主な特徴 | 主婦湿疹との違い |
---|---|---|
汗疱(異汗性湿疹) | 夏場や季節の変わり目に悪化しやすい。指の側面や手のひらにかゆみの強い小水疱が多発する。 | 乾燥やひび割れよりも水ぶくれが主体。季節性がある。 |
手白癬(手の水虫) | 多くは片方の手から始まる。手のひらの皮膚が厚く硬くなり、粉をふいたようにカサカサする。 | 顕微鏡検査で白癬菌が見つかる。かゆみは少ないことも多い。 |
アトピー性皮膚炎 | 肘や膝の裏など、手の他にも湿疹が見られることが多い。アレルギー体質(本人・家族)が背景にある。 | 幼少期からの発症歴や、他のアレルギー疾患の合併が見られる。 |
すぐに始められる効果的なセルフケア
主婦湿疹の改善と予防には、日々のこまめなケアが何よりも大切です。皮膚科での治療と並行して、生活の中で少し工夫するだけで、手の状態は大きく変わります。ここでは、今日からでも実践できる具体的なケア方法を詳しく紹介します。
正しい手の洗い方と保湿
手を清潔に保つことは重要ですが、洗浄力の強い石鹸でゴシゴシ洗うのは禁物です。ハンドソープを使う場合は、低刺激性で保湿成分が配合されたものを選び、よく泡立ててから泡で汚れを包み込むように優しく洗います。
洗浄成分が残ると刺激になるため、ぬるま湯(32〜35度程度)で十分にすすぎます。熱いお湯は皮脂を過剰に奪うため、必ず避けましょう。そして、最も重要なのが洗った直後の保湿です。
清潔で柔らかいタオルで水分を優しく押さえるように拭き取ったら、1分以内、できれば手がまだ少し湿っているうちに保湿剤を塗りましょう。
- 低刺激性の洗浄料
- ぬるま湯ですすぐ
- ゴシゴシこすらない
- 清潔なタオルで拭く
- すぐに保湿する
水仕事の際の工夫
水仕事をする際は、短時間であっても必ず保護手袋を着用する習慣をつけましょう。面倒に感じるかもしれませんが、最も効果的な予防策です。
食器をためてから一度に洗う、野菜はまとめて下ごしらえするなど、水に触れる回数や時間を意識的に減らす工夫も有効です。
また、食洗機や乾燥機付き洗濯機などの家電を上手に活用し、素手で水や洗剤に触れる機会をできるだけ減らすことも検討しましょう。洗剤を使用する際は、規定の量を守り、濃い洗剤が直接皮膚に触れないように注意することも大切です。
保護手袋の選び方と使い方
保護手袋は、素材の選び方が重要なポイントです。ゴム製品にアレルギーがある方は、ラテックスアレルギーの心配がないビニール製やニトリル製の手袋を選びましょう。
手袋の中で汗をかいて蒸れると、皮膚がふやけてバリア機能が低下し、かえって症状が悪化することがあり、防ぐために、内側に木綿の手袋をはめる二重使いが非常におすすめです。木綿の手袋が汗を吸い取り、肌への刺激を和らげます。
使用後は手袋の内側と外側をきれいに洗い、裏返してしっかり乾燥させ、清潔に保つことも忘れないでください。
保護手袋の種類と特徴
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
ビニール手袋 | 安価で入手しやすい。油や洗剤、薬品に比較的強い。 | 伸縮性が低く、フィット感に欠ける。破れやすいことがある。 |
ニトリル手袋 | 丈夫で伸縮性があり、手にフィットしやすい。耐油性も高い。 | ビニール製よりやや高価。製品によっては汗で蒸れやすい。 |
綿手袋 | 通気性・吸湿性が良く、肌に優しい。保湿剤を塗った後の保護にも。 | 防水性はないため、単独での水仕事には不向き。下ばきとして使用。 |
保湿剤の種類と選び方
保湿剤(ハンドクリーム)には、ローション、クリーム、軟膏、オイルなどさまざまな種類があり、症状や使用する場面に応じて使い分けるのが効果的です。
日中、作業の合間にこまめに塗るなら、べたつきの少ないローションやクリームが使いやすいでしょう。夜寝る前など、集中的に保湿したい時には、油分が多く保護効果の高いワセリンなどの軟膏タイプが向いています。
尿素が20%配合されたクリームは硬くなった皮膚を柔らかくする効果がありますが、ひび割れにしみて強い痛みを感じることがあるため注意が必要です。
ヘパリン類似物質やセラミド、ビタミンEなどが配合された、保湿効果と血行促進効果の高い製品を選び、塗る際は、たっぷりと手に取り、手のひらで温めてから優しくなじませます。
指先や爪の周り、指の間など、荒れやすい部分も忘れずに丁寧に塗り込みましょう。
食生活や生活習慣の見直し
皮膚は、体の内側からの影響も大きく受けます。健康な皮膚を育むためには、外側からのケアだけでなく、バランスの取れた食事や規則正しい生活習慣を送り、体の中からコンディションを整えることが重要です。
肌の健康を支える栄養素
丈夫で健康な皮膚を作るためには、タンパク質、ビタミン、ミネラルが欠かせません。
皮膚細胞の主成分のタンパク質、皮膚の新陳代謝を助けるビタミンB群(B2, B6)、抗酸化作用がありコラーゲンの生成を助けるビタミンC、血行を促進して栄養を届けるビタミンE、皮膚や粘膜を健康に保つビタミンAなどを意識して摂取しましょう。
また、ミネラルの一種である亜鉛は、皮膚の再生に重要な役割を果たします。特定のサプリメントに頼るのではなく、肉、魚、卵、大豆製品、緑黄色野菜、果物など、多くの品目をバランス良く食べることが基本です。
肌の健康に役立つ栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食品 |
---|---|---|
タンパク質 | 皮膚細胞の主成分となる | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
ビタミンA | 皮膚や粘膜の健康維持、ターンオーバーの正常化 | レバー、うなぎ、緑黄色野菜(人参、ほうれん草) |
ビタミンC | コラーゲンの生成促進、抗酸化作用 | ピーマン、ブロッコリー、キウイフルーツ、柑橘類 |
十分な睡眠とストレス管理
睡眠不足は、肌のターンオーバー(生まれ変わり)のリズムを乱し、日中に受けたダメージの修復を妨げ、バリア機能の低下につながります。
皮膚の細胞分裂を促す成長ホルモンが多く分泌される夜10時から深夜2時の間に、質の良い睡眠を十分にとることは、皮膚の修復に非常に役立ちます。
また、過度な精神的ストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱し、かゆみを強く感じさせたり、免疫機能を低下させたりして、湿疹を悪化させる大きな要因です。
- ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる
- アロマテラピーや軽いストレッチ
- 好きな音楽を聴く、映画を観る
- 趣味に没頭する時間を持つ
- 信頼できる友人と話す
適度な運動のすすめ
ウォーキングやヨガなどの適度な有酸素運動は、全身の血行を促進し、皮膚の毛細血管の隅々まで酸素や栄養を届けるのに役立ちます。血行が良くなることで、肌の新陳代謝も活発になり、老廃物の排出もスムーズになります。
また、運動は気分転換になり、ストレス解消にも非常に効果的です。
ただし、大量の汗はそれ自体が刺激となり、かゆみを誘発することがあるため、運動後は速やかにシャワーを浴びて汗を流し、タオルで優しく水分を拭き取った後、忘れずに全身の保湿ケアを行うことが大切です。
喫煙や飲酒の影響
喫煙は、ニコチンの作用で血管を収縮させて血行を著しく悪化させるため、皮膚に必要な酸素や栄養が届きにくくなります。
また、肌のハリを保つビタミンCを大量に破壊し、老化を早める活性酸素を大量に発生させ、皮膚の修復力が低下し、湿疹が治りにくくなります。
過度な飲酒は、体内で分解される際にアセトアルデヒドという物質を生成し、かゆみの原因となるヒスタミンの放出を促すことがあります。また、アルコールには利尿作用があるため、体内の水分が失われ、肌の乾燥を助長することもあります。
皮膚科での専門的な治療
セルフケアを毎日頑張っても症状が改善しない場合や、ひび割れによる強い痛み、水ぶくれなど症状が重い場合には、皮膚科専門医による治療が必要です。
なぜ専門医の診断が重要か
手の湿疹には主婦湿疹以外にもさまざまな原因が考えられ、それぞれ治療法が異なります。
皮膚科専門医は、症状の見た目や分布、患者さんの生活習慣や職業などを詳しく問診し、必要に応じて真菌検査(顕微鏡検査)やアレルギー検査(パッチテスト)を行うことで、症状の根本原因を正確に突き止めます。
そして、一人ひとりの症状の重症度や生活スタイルに合わせた、最も効果的な治療計画を立てます。市販薬で対応しきれない炎症には、専門医による診断と薬剤の処方が必要です。
主な治療薬(塗り薬・飲み薬)
治療の中心となるのは、炎症を強力に抑えるステロイド外用薬(塗り薬)です。
ステロイドと聞くと副作用を心配する方もいるかもしれませんが、皮膚科専門医の指導のもとで、症状に見合った適切な強さの薬を、適切な量、適切な期間使用すれば、非常に効果的で安全な治療薬です。
症状に合わせて、保護・保湿効果のある保湿剤と上手に使い分けたり、重ね塗りをしたりします。
かゆみが非常に強く、夜眠れない場合や、無意識に掻き壊してしまう場合には、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などの内服薬を併用し、掻くことによる症状の悪化を防ぎ、皮膚が治癒する環境を整えます。
皮膚科で処方される主な外用薬
薬剤の種類 | 主な作用 | 使用目的 |
---|---|---|
ステロイド外用薬 | 強力な抗炎症作用で、湿疹の根本原因である炎症を鎮める | 湿疹の赤み、腫れ、かゆみ、水ぶくれを速やかに改善する |
保湿剤(ヘパリン類似物質など) | 皮膚に水分を与え、角層の水分保持能力を高め、保護する | 低下した皮膚のバリア機能を回復させ、刺激から守る |
非ステロイド性抗炎症薬 | 穏やかな抗炎症作用を持つ | 軽度の湿疹や、改善後の維持療法、顔などのデリケートな部位に使用 |
光線療法などの治療選択肢
塗り薬や飲み薬による標準的な治療で十分な効果が得られない、難治性で慢性的な手湿疹に対しては、光線療法(紫外線療法)という選択肢もあります。
これは、治療効果のある特定の波長の紫外線を患部に照射することで、皮膚の過剰な免疫反応を正常化し、炎症を鎮める治療法です。ナローバンドUVBやエキシマライトといった種類があり、週に1〜2回程度の通院で治療を行います。
この治療法は、長期的にステロイド外用薬を大量に使用することなく症状をコントロールできる可能性があり、副作用が比較的少ないことが利点です。
治療期間と注意点
主婦湿疹の治療は、症状や重症度にもよりますが、ある程度の期間を要することが多いです。症状が良くなっても、ダメージを受けた皮膚のバリア機能が完全に回復するまでには、数ヶ月かかることもあります。
見た目がきれいになったからといって自己判断で薬の使用をやめたり、保湿ケアを怠ったりすると、潜んでいた炎症が再燃し、すぐに再発してしまう可能性があります。医師の指示に従って根気強く治療を続けることが大切です。
よくある質問
最後に、主婦湿疹に関して患者様からよく寄せられる質問と回答をまとめました。
- 市販薬を使っても良いですか
-
ごく初期の乾燥や軽い手荒れの段階であれば、市販の保湿剤やビタミンEなどが配合されたクリームで対応することも可能です。
しかし、赤みやかゆみが強い場合、また水ぶくれやひび割れがある場合に、自己判断で市販薬を使用することはあまり推奨できません。
ステロイド配合の市販薬は強さが様々であり、症状に合わないものを使うと効果がなかったり、副作用のリスクがあったりします。また、水虫の薬などを誤って使用すると、症状を著しく悪化させることがあります。
2週間程度セルフケアを試しても改善しない、あるいは悪化するようであれば、速やかに皮膚科を受診してください。
- 主婦湿疹は完治しますか
-
適切な治療とセルフケアを継続することで、症状をコントロールし、日常生活に支障がないきれいな状態を維持することは十分に可能です。
しかし、主婦湿疹はアレルギー体質や皮膚の弱さといった個人の体質、そして水仕事という生活習慣が大きく関わっているため、一度良くなっても、ケアを怠ると再発しやすいという側面があります。
完治という言葉を使うよりは、高血圧や糖尿病のように、症状が出ないように上手に付き合っていく、という考え方が現実に即しています。症状がない時でも保湿と保護を習慣づけ、良い状態を長く保つことを目指しましょう。
- 治った後もケアは必要ですか
-
症状が治まった後も、見た目には分からなくても、皮膚のバリア機能はまだ完全には回復していない可能性があります。また、水仕事などの原因となる生活習慣が変わらない限り、再発のリスクは常にあります。
きれいな状態を維持するためには、症状があった時と同様に、水仕事での手袋着用やこまめな保湿を、歯磨きと同じように日常生活の当然の習慣として続けることがとても重要です。
以上
参考文献
Minamoto K, Diepgen TL, Sato K, Noguchi H, Yamashita N, Yoshimura K, Ofenloch RF. Quality of Life in Hand Eczema Questionnaire: validation of the Japanese version of a disease‐specific measure of quality of life for hand eczema patients. The Journal of Dermatology. 2018 Nov;45(11):1301-5.
Minamoto K, Watanabe T, Diepgen TL. Self‐reported hand eczema among dental workers in Japan–a cross‐sectional study. Contact Dermatitis. 2016 Oct;75(4):230-9.
Ruff SM, Engebretsen KA, Zachariae C, Johansen JD, Silverberg JI, Egeberg A, Thyssen JP. The association between atopic dermatitis and hand eczema: a systematic review and meta‐analysis. British Journal of Dermatology. 2018 Apr 1;178(4):879-88.
Minami T, Fukutomi Y, Sekiya K, Akasawa A, Taniguchi M. Hand eczema as a risk factor for food allergy among occupational kitchen workers. Allergology International. 2018;67(2):217-24.
Lingam LS. Clinical Profile of Hand Eczemas and Evaluation by Patch Testing (Doctoral dissertation, Rajiv Gandhi University of Health Sciences ).
Kobayashi T, Ito T, Egusa C, Maeda T, Numata T, Okubo Y, Tsuboi R. A case of contact urticaria inducing anaphylaxis due to liliaceae vegetables in a hand eczema patient. Allergology International. 2015;64(2):211-3.
Tashiro T, Sasaki N, Yamamoto K, Yoshioka H, Omoto D, Ohmori S, Okada E, Nakamura M. The prevalence of urticaria, hand eczema, atopic dermatitis and asthma among bakers in Japan. European Journal of Dermatology. 2019;29(6):663-4.
Salvador JS, Mendaza FH, Garcés MH, Palacios-Martínez D, Camacho RS, Sanz RS, González AA, Giménez-Arnau AM. Guidelines for the diagnosis, treatment, and prevention of hand eczema. Actas Dermo-Sifiliográficas (English Edition). 2020 Jan 1;111(1):26-40.
Smith DR, Adachi Y, Mihashi M, Kawano S, Ishitake T. Hand dermatitis risk factors among clinical nurses in Japan. Clinical nursing research. 2006 Aug;15(3):197-208.
Nanko H. Treatment of housewives’ hand eczema. JMA Policies. 2004;20:44.