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フォークト-小柳-原田病

フォークト-小柳-原田病

フォークト-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Harada disease)とは色素異常症の一種で、主に眼や皮膚、髪の毛、耳に影響を与える自己免疫疾患です。

メラニン色素を作る細胞に対して、体の免疫システムが誤って攻撃を加えることで発症します。

初期症状には突然の視力低下や眼の痛み、頭痛などがあり、進行すると皮膚や髪の白斑、難聴などの症状が現れることがあります。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

フォークト-小柳-原田病の症状

フォークト-小柳-原田病は前駆期、眼病期、回復期という複数の病期を経て進行し、各段階で特徴的な症状が現れます。

前駆期の症状

前駆期では全身性の症状が見られますが、この時期の症状は他の疾患と混同される可能性があるため、注意深い観察が必要です。

症状特徴
頭痛激しく、持続的
発熱軽度から中程度
悪心・嘔吐随伴することがある
髄膜刺激症状首の硬直感など

眼病期の症状

眼病期では症状が両眼に影響が及ぶことが多く、視力に重大な影響を与える可能性があります。

主な症状

  • 急激な視力低下
  • 眼痛
  • 充血
  • 羞明(まぶしさに対する過敏反応)
  • 霧視(かすんで見える)
  • 飛蚊症(目の前に虫が飛んでいるように見える)

回復期の症状

回復期には眼症状が徐々に改善する一方で、皮膚や毛髪に特徴的な色素異常が現れ始め、難聴なども見られます。

部位症状
網膜の脱色素、夕焼け状眼底
皮膚白斑(尋常性白斑様の脱色素斑)
毛髪白髪(ポリオーシス)
難聴、耳鳴り

慢性期の症状

慢性期になると症状は安定しますが、一部の患者さんでは再発や合併症のリスクが続くので慎重な観察が必要です。

  • 眼 再発性ぶどう膜炎、緑内障、白内障
  • 皮膚 脱色素斑の拡大や新規発生
  • 聴覚 難聴の進行

フォークト-小柳-原田病の原因

フォークト-小柳-原田病は主に自己免疫反応が原因で発症する疾患で、メラニン色素を含む細胞に対する免疫系の異常反応が、眼や皮膚、内耳などの組織に炎症を起こします。

自己免疫反応の役割

フォークト-小柳-原田病の主な原因は、体の免疫系が自身の組織を誤って攻撃する自己免疫反応です。

メラニン色素を含む細胞(メラノサイト)が標的となり、異常な免疫反応により、眼、皮膚、内耳などの組織に炎症が生じます。

標的組織影響
ぶどう膜炎
皮膚白斑
内耳難聴

遺伝的要因

フォークト-小柳-原田病の発症には特定のHLA(ヒト白血球抗原)型との関連が報告されており、これらの遺伝子が疾患の感受性を高める可能性があります。

関連する遺伝子

  • HLA-DR4
  • HLA-DRB1*0405
  • HLA-DQ4

環境因子の影響

環境因子、特にウイルス感染が引き金となって自己免疫反応が誘発され、フォークト-小柳-原田病の発症に関係することがあります。

環境因子影響
ウイルス感染自己免疫反応の誘発
ストレス免疫系の不安定化

免疫系の異常

フォークト-小柳-原田病では、T細胞を中心とした免疫系の異常が重要な役割を果たしていて、特に、メラノサイト関連抗原に反応するT細胞が活性化され、炎症反応を引き起こします。

この過程でさまざまなサイトカインが放出され、組織の損傷が進行。

サイトカインの一つであるIL-17の産生増加が、炎症の持続や組織障害の進行に寄与する可能性があります。

フォークト-小柳-原田病の検査・チェック方法

フォークト-小柳-原田病の診断には、複数の検査とチェック方法を組み合わせることが不可欠です。

早期発見と正確な診断が症状の進行を抑制し、患者さんの生活の維持に大きく関係してきます。

問診と初期評価

診断の第一歩は詳細な問診と初期評価で、患者さんの症状や経過、家族歴などを慎重に聞き取ります。

確認項目内容
主訴視力低下、眼痛、頭痛など
発症時期症状の出現時期と進行速度
随伴症状皮膚や髪の変化、聴覚症状
家族歴自己免疫疾患の有無

眼科的検査

本疾患の主要な症状が眼に現れるため、眼科的検査が必要です。

  • 視力検査
  • 細隙灯顕微鏡検査(前眼部の観察)
  • 眼底検査(網膜や脈絡膜の観察)
  • 蛍光眼底造影検査(脈絡膜の炎症評価)
  • 光干渉断層撮影(OCT、網膜や脈絡膜の断層観察)

検査により、炎症の程度や範囲、病期の判断を行います。

血液検査

血液検査は、炎症の程度や自己免疫反応の有無を確認するのに役立ちます。

検査項目意義
炎症マーカー(CRP、ESR)全身性炎症の評価
自己抗体検査他の自己免疫疾患との鑑別
HLA検査遺伝的素因の確認

髄液検査

前駆期や急性期には、髄液検査が診断の助けとなることがあります。

フォークト-小柳-原田病では、髄液中の細胞数増加や蛋白量上昇が見られる場合があります

皮膚科的検査

回復期以降に現れる皮膚症状の評価も重要です。

  • ウッド灯検査(脱色素斑の観察)
  • 皮膚生検(必要に応じて)

聴覚検査

耳症状を評価するため、聴力検査を行うことがあります。

フォークト-小柳-原田病の治療方法と治療薬について

フォークト-小柳-原田病の治療は主に免疫抑制療法を中心に行われ、早期診断と迅速な治療開始が視力予後の改善に重要です。

ステロイド療法が第一選択となり、必要に応じて免疫抑制剤や生物学的製剤が併用されます。さらに、長期的な経過観察と個々の患者さんに合わせた治療調整が不可欠です。

ステロイド療法

ステロイド療法はフォークト-小柳-原田病の治療の基本で、主に高用量のステロイドを使用し炎症を抑制します。

投与方法薬剤例
経口プレドニゾロン
点滴メチルプレドニゾロン

通常高用量で開始し、症状の改善に応じて徐々に減量していきます。急激な減量は再発のリスクを高めるため、慎重に行うことが必要です。

免疫抑制剤

ステロイドの効果が不十分だったり副作用が強い場合には、T細胞の機能を抑制することで炎症を抑える免疫抑制剤が使用されることがあります。

  • シクロスポリン
  • タクロリムス
  • メトトレキサート

免疫抑制剤は、T細胞の機能を抑制することで炎症を抑えます。ただし、感染症のリスクが高まるため、定期的な血液検査などのモニタリングが必要です。

生物学的製剤

生物学的製剤である抗TNF-α抗体やIL-6受容体阻害薬が効果を示すこともあります。

薬剤名作用機序
インフリキシマブ抗TNF-α抗体
トシリズマブIL-6受容体阻害薬

従来の治療に抵抗性を示す症例や、ステロイドの減量が困難な症例で考慮されます。

局所治療

眼症状に対しては、局所的なステロイド治療も行われます。

  • ステロイド点眼薬
  • ステロイド結膜下注射
  • ステロイド球後注射

局所治療は全身的な治療と併用されることが多く、眼の炎症をより効果的に抑制します。

フォークト-小柳-原田病の治療期間と予後

フォークト-小柳-原田病の治療期間と予後は個人差が大きく、早期診断と迅速な対応が予後を左右します。

治療期間の概要

治療期間は病期によって異なり、急性期から慢性期まで長期にわたることがあります。

病期治療期間の目安
急性期数週間から数ヶ月
回復期数ヶ月から1年程度
慢性期数年から生涯

急性期の治療では炎症を抑制し視力低下を防ぐことが重要で、回復期以降は、症状の再燃予防と合併症対策が中心です。

予後に影響を与える要因

以下の要因が予後に大きな影響を与えます。

  • 診断までの期間
  • 初期治療の開始時期
  • 治療への反応性
  • 再発の頻度と程度
  • 合併症の有無と管理

早期発見と初期対応が、長期的な予後改善の鍵です。

視力予後

視力予後は、治療開始のタイミングと効果によって大きく左右されます。

治療開始時期視力予後の傾向
発症後1ヶ月以内比較的良好
発症後1-2ヶ月やや不良
発症後2ヶ月以上不良の可能性が高い

早期に治療を開始できた場合、多くの患者さんで視力の改善や維持が期待できます。

長期的な経過と再発リスク

フォークト-小柳-原田病は、長期的な経過観察が必要な慢性疾患です。

  • 再発率 約30-50%(個人差あり)
  • 再発リスク期間 治療開始後数年から数十年

再発のリスクは時間とともに低下する傾向にありますが、生涯にわたって注意が必要です。

合併症と生活の質

長期的な経過中に合併症が生じることもあります。

起こりうる合併症

  • 緑内障
  • 白内障
  • 網膜剥離
  • 脈絡膜新生血管

合併症は管理により予防や早期対応が可能な場合があり、定期的な眼科検診が重要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

フォークト-小柳-原田病の治療には主にステロイドや免疫抑制剤が使用されますが、さまざまな副作用やデメリットが伴います。

ステロイド療法の副作用

ステロイドは長期使用に伴う副作用が問題となります。

副作用症状
骨粗鬆症骨折リスクの増加
糖尿病血糖値の上昇
消化性潰瘍胃痛、出血

また、ステロイドの急激な減量や中止は、副腎不全を引き起こす可能性があるため慎重な用量調整が必要です。

免疫抑制剤のリスク

免疫抑制剤はステロイドの代替や併用薬として使用され、次のようなリスクがあります。

  • 感染症のリスク増加
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害
  • 造血障害

副作用を早期に発見するため定期的な血液検査や尿検査が必要となり、患者さんの負担が増える場合があります。

生物学的製剤の問題点

生物学的製剤は効果的な治療選択肢の一つですが、いくつかの問題点があります。

問題点詳細
高額な治療費経済的負担が大きい
長期的な安全性データが限られている

また、投与方法が注射や点滴に限られるため、通院の頻度が増えることも患者さんの負担となる可能性があります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

保険適用の基本

フォークト-小柳-原田病は難病医療費助成制度の対象疾患に指定されていて、医療費の自己負担が軽減されます。

一般的な治療費の目安

フォークト-小柳-原田病の治療費は、症状の程度や必要な治療内容によって大きく異なります。

  • 初診料:3,000円〜5,000円
  • 再診料:1,000円〜3,000円
  • 血液検査:5,000円〜10,000円
  • 眼底検査:3,000円〜5,000円
  • 蛍光眼底造影検査:10,000円〜20,000円
  • 光干渉断層撮影(OCT):5,000円〜10,000円

検査や治療は保険適用となる場合が多いですが、一部自己負担が発生します。

薬物療法の費用

薬剤の種類概算費用(月額)
ステロイド点眼薬1,000円〜3,000円
経口ステロイド薬3,000円〜10,000円
免疫抑制剤10,000円〜50,000円

以上

参考文献

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