眼皮膚白皮症(oculocutaneous albinism)とは、メラニン色素の産生に関わる遺伝子の変異により、皮膚、毛髪、目の色素が減少または欠如する先天性の遺伝性疾患です。
この状態は出生時から認められ、患者さんの外見や視力に影響を与えます。
眼皮膚白皮症は単に見た目の問題だけでなく、視覚障害や日光に対する過敏性など日常生活に影響を及ぼすさまざまな症状を伴うことがあります。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
眼皮膚白皮症の病型
眼皮膚白皮症(OCA)の病型は非症候型と症候型に大別され、非症候型OCAには主に8つの型があり、症候型OCAには2つの重要な型があります。
非症候型OCAの主要な型
非症候型OCAは眼や皮膚の症状が主体となる型です。
型 | 特徴 |
OCA1型 | チロシナーゼ遺伝子の変異による |
OCA2型 | P遺伝子の変異による |
OCA3型 | チロシナーゼ関連タンパク質1遺伝子の変異による |
OCA4型 | 膜関連輸送タンパク質遺伝子の変異による |
OCA1型からOCA4型は、比較的頻度の高い型です。
各型の遺伝子変異の違いによりメラニン産生能力に差が生じ、表現型にも違いが見られます。
症候型OCAの特徴
症候型OCAは眼や皮膚の症状に加えて、他の臓器にも影響を及ぼす型です。
- Hermansky-Pudlak症候群(HPS)
- Chediak-Higashi症候群(CHS)
症候型OCAは全身性の症状を伴うことが特徴です。
症候型OCAの複雑性
症候型OCAは複雑な症状ゆえに、診断や管理に特別な注意が必要です。
HPSとCHSの特徴
- 血小板機能異常
- 免疫系の問題
- 他の臓器への影響
症候型OCAでは眼や皮膚の症状だけでなく、全身的な管理が重要になります。
眼皮膚白皮症の症状
眼皮膚白皮症(OCA)は皮膚や髪、目の色素が減少または欠如する遺伝性疾患です。
症状の程度は個人差が大きく、病型によっても異なります。
非症候型OCAの主な症状
非症候型OCAにはOCA1型からOCA8型まであり、それぞれ特徴的な症状を呈します。
OCA1型は最も重度の形態で、メラニン色素がほぼ完全に欠如しています。患者さんは生まれた時から白い髪、非常に薄い肌、そして青または薄い灰色の虹彩を持つことがあり、視力障害も顕著です。
OCA2型はOCA1型よりもやや軽度で、わずかなメラニン色素の産生が見られます。髪の色は金髪や赤褐色になる可能性があり、目の色も青から茶色までさまざまです。
病型 | 皮膚の特徴 | 髪の色 | 目の色 |
OCA1型 | 非常に白い | 白 | 青または薄い灰色 |
OCA2型 | やや色素あり | 金髪~赤褐色 | 青~茶色 |
OCA3型 | 赤銅色 | 赤褐色~黒 | 茶色~濃い茶色 |
OCA4型 | OCA2型に類似 | OCA2型に類似 | OCA2型に類似 |
視覚症状の特徴
眼皮膚白皮症患者さんが経験する視覚症状
- 羞明(強い光に対する過敏性)
- 視力低下
- 眼振(眼球が不随意に動く)
- 斜視(両目の視線が一致しない)
- 乱視や近視などの屈折異常
症候型OCAの特徴
症候型OCAにはヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)とチェディアック・東症候群(CHS)があり、眼皮膚白皮症の症状に加え他の臓器にも影響を及ぼします。
症候群 | 主な症状 |
HPS | 出血傾向、肺線維症、大腸炎 |
CHS | 免疫不全、神経障害、出血傾向 |
HPSでは血小板機能異常による出血傾向や、肺線維症、炎症性腸疾患などが見られ、CHSでは免疫系の異常による易感染性や神経系の障害が生じる可能性があります。
日光暴露による影響
眼皮膚白皮症患者さんの皮膚は、紫外線に対して非常に敏感です。
日光暴露により高まるリスク
- 日焼けや水ぶくれ
- 皮膚の早期老化
- 皮膚がんの発症リスク上昇
眼皮膚白皮症の原因
眼皮膚白皮症(OCA)は、メラニン色素の産生に関わる遺伝子の変異によって引き起こされます。
遺伝子変異によりメラニン産生過程に障害が生じ、皮膚や眼などの組織でメラニンが正常に作られないことが本疾患の根本的な原因です。
メラニン産生の基本メカニズム
メラニンは体の色素細胞(メラノサイト)で生成される色素で、この過程には複数の酵素や輸送タンパク質が関与しています。
要素 | 役割 |
チロシナーゼ | メラニン合成の鍵となる酵素 |
P タンパク質 | メラニン前駆体の輸送に関与 |
TYRP1 | メラニン合成を補助する酵素 |
遺伝子変異とOCAの関連
OCAの発症にはメラニン産生に関わる遺伝子の変異が深く関係しています。
主な原因遺伝子
- TYR遺伝子(OCA1型)
- OCA2遺伝子(OCA2型)
- TYRP1遺伝子(OCA3型)
- SLC45A2遺伝子(OCA4型)
遺伝形式と発症リスク
OCAは常染色体劣性遺伝の形式をとります。
親の状態 | 子への影響 |
両親とも保因者 | 25%の確率で発症 |
片親のみ保因者 | 発症リスクなし、50%の確率で保因者となる |
両親とも非保因者 | 発症リスクなし |
眼皮膚白皮症の検査・チェック方法
眼皮膚白皮症(OCA)の正確な診断は、身体検査や遺伝子検査を用いて行われます。
初期評価と身体検査
OCAの診断プロセスは通常、詳細な身体検査から始まります。
- 皮膚の色素沈着の程度
- 髪の色と質感
- 眼の色(虹彩の色)
- 眼振(不随意な眼球運動)の有無
眼科検査
眼科医による詳細な検査も、OCAの診断において非常に大切です。
主な検査項目
検査項目 | 目的 |
視力検査 | 視力低下の程度を評価 |
細隙灯検査 | 眼の前部構造を観察 |
眼底検査 | 網膜の色素沈着を確認 |
電気生理学的検査 | 視覚機能を詳細に評価 |
遺伝子検査
OCAの確定診断には遺伝子検査が重要な役割を果たし、OCAの原因となる遺伝子変異を特定します。
主な検査対象遺伝子
- TYR遺伝子(OCA1型)
- OCA2遺伝子(OCA2型)
- TYRP1遺伝子(OCA3型)
- SLC45A2遺伝子(OCA4型)
皮膚生検
一部のケースでは皮膚生検が行われることがあり、皮膚の小さな組織片を採取し顕微鏡で観察します。
観察項目 | 意義 |
メラノサイトの数 | 色素産生細胞の量を評価 |
メラニン顆粒の分布 | 色素の分布状態を確認 |
細胞構造の異常 | その他の皮膚疾患との鑑別 |
眼皮膚白皮症の治療方法と治療薬について
眼皮膚白皮症(OCA)の治療は現在のところ根本的な治癒法はありませんが、症状の管理と生活の質の向上に焦点を当てた多面的なアプローチが効果的です。
皮膚症状への対応
OCAにおいて皮膚の保護は最も重要な治療の一つです。
対策 | 効果 |
日焼け止め | 紫外線からの保護 |
保護衣 | 物理的な紫外線遮断 |
ビタミンD補充 | 骨の健康維持 |
日常的に実施することで皮膚がんのリスクを軽減し、皮膚の健康を維持できます。
眼症状への治療アプローチ
OCAでは視覚障害に対する治療も大切です。
視力改善と眼の保護を目的とした方法
- 屈折異常の矯正(眼鏡やコンタクトレンズの使用)
- 弱視訓練
- 遮光眼鏡の使用
- 定期的な眼科検診
新たな治療法の研究
OCAの根本的な治療を目指して研究が進められています。
現在注目されている研究分野
研究分野 | 期待される効果 |
遺伝子治療 | 欠損遺伝子の修復 |
幹細胞治療 | 正常なメラノサイトの補充 |
薬物療法 | メラニン産生の促進 |
日常生活の管理
OCAの患者さんの日常生活における管理も治療の一環として大切です。
注意が必要な点
- 室内環境の調整(照明の工夫など)
- 職場や学校での配慮(座席位置の調整など)
- 定期的な健康チェック
眼皮膚白皮症の治療期間と予後
眼皮膚白皮症(OCA)は遺伝性疾患で完治は困難ですが、管理により症状の軽減と生活の質の向上が可能です。
治療は生涯にわたって継続され個々の症状や合併症に応じて調整されます。
治療期間の概要
OCAの治療は診断後すぐに開始され、生涯を通じて継続されます。
年齢層 | 治療の焦点 | 頻度 |
乳幼児期 | 視覚発達支援、皮膚保護 | 月1-2回 |
学童期 | 視力補助、学習支援 | 3-6ヶ月ごと |
成人期 | 合併症予防、社会適応支援 | 6-12ヶ月ごと |
視覚症状への対応
視覚症状の管理はOCA患者さんの生活の質を大きく左右します。
長期的に行われる対応
- 定期的な視力検査と眼鏡・コンタクトレンズの調整
- 弱視訓練
- 必要に応じた手術的介入(斜視矯正など)
- 特殊な光学機器の使用
皮膚管理の継続
皮膚の保護はOCA患者さんにとって生涯を通じて重要な課題です。
長期的な皮膚管理
管理項目 | 目的 | 頻度 |
日焼け止めの使用 | 紫外線からの保護 | 毎日 |
皮膚がん検診 | 早期発見・早期治療 | 年1-2回 |
保湿ケア | 皮膚の健康維持 | 毎日 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
眼皮膚白皮症(OCA)の治療には、各治療法には潜在的な副作用やデメリットがあります。
皮膚保護対策の副作用
OCAの皮膚症状に対する保護対策には、いくつかの副作用やデメリットが伴うことがあります。
対策 | 潜在的な副作用 |
日焼け止め | 皮膚刺激、アレルギー反応 |
保護衣 | 体温調節の困難、不快感 |
ビタミンD補充 | 過剰摂取によるカルシウム代謝異常 |
新たな治療法研究に伴うリスク
OCAの根本的治療を目指す研究にはいくつかのリスクが伴います。
研究分野 | 潜在的リスク |
遺伝子治療 | 予期せぬ遺伝子変異 |
幹細胞治療 | 腫瘍形成のリスク |
薬物療法 | 未知の長期的副作用 |
新しい治療法はまだ研究段階にあり、長期的な安全性が確立されていません。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
医療保険制度におけるOCAの位置づけ
OCAは厚生労働省が指定する難病に該当し、特定医療費(指定難病)助成制度の対象となり、医療費の自己負担が軽減されます。
保険適用となる主な治療と検査
OCAの治療では多くの項目が健康保険の適用対象です。
治療・検査項目 | 保険適用の有無 | 一般的な自己負担額(3割負担の場合) |
初診料 | 適用あり | 約1,000円 |
遺伝子検査 | 適用あり | 約10,000円 |
眼科検査 | 適用あり | 約3,000円~5,000円 |
皮膚科検査 | 適用あり | 約2,000円~4,000円 |
定期的な経過観察 | 適用あり | 約3,000円~5,000円/回 |
保険適用外の治療と費用
一部の治療や支援サービスは保険適用外となることがあります。
項目 | 概算費用 |
特殊サングラス | 20,000円~50,000円 |
特殊コンタクトレンズ | 30,000円~100,000円 |
以上
参考文献
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