アトピー性皮膚炎の影響で首が黒ずむことに悩んでいませんか。色素沈着は、日々の生活においても気になるものです。
多くの場合、黒ずみは炎症の繰り返しや、無意識のうちにかくことによって生じますが、色素沈着の背景にある理由を理解し、日々のスキンケアや生活習慣を見直すことで、状態を改善に導くことはできます。
この記事では、アトピーで首が黒くなる原因を説明し、自宅でできるケア方法、クリニックでの治療選択肢について詳しく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
なぜアトピーで首が黒くなるのか
首の黒ずみは、アトピー性皮膚炎を持つ多くの方に共通する悩みの一つで、肌が黒くなる背景には、皮膚の防御反応が関わっています。
アトピー性皮膚炎と色素沈着の関係
アトピー性皮膚炎の肌は、バリア機能が低下している状態で、バリア機能とは、外部からの刺激物質(アレルゲン、細菌、化学物質など)の侵入を防ぎ、同時に体内の水分が蒸発するのを防ぐ、皮膚の大切な働きです。
アトピー性皮膚炎では、この機能が弱っているため、わずかな刺激でも炎症が起こりやすくなります。
炎症が起こると、皮膚は自身を守るためにさまざまな反応を示し、その一つが、色素沈着につながるメラニンの生成です。
アトピー性皮膚炎の首の黒ずみは、単なる肌の色ではなく、皮膚が長期間にわたり炎症と戦ってきた証で、この炎症をいかにコントロールするかが、色素沈着を考える上で最も重要になります。
炎症が引き起こすメラニンの増加
皮膚が炎症を起こすと、その部位では炎症性の物質(サイトカインなど)が放出され、皮膚の色素を作る細胞であるメラノサイトを刺激します。メラノサイトは、刺激を受けるとメラニン色素を活発に作り出します。
本来、メラニンは紫外線の害から皮膚の細胞核を守るために作られるものですが、炎症によっても生成が促されるのです。
アトピー性皮膚炎のように炎症が慢性的に続くと、メラノサイトは常に刺激され続け、過剰にメラニンを作り出してしまいます。
過剰に作られたメラニンが皮膚の表皮、あるいは真皮に沈着することで、肌が黒ずんで見え、これを炎症後色素沈着と呼びます。
摩擦や掻破(そうは)が肌に与える影響
アトピー性皮膚炎の最もつらい症状の一つがかゆみです。首は特にかゆみが出やすい部位であり、無意識のうちにかきむしってしまうことも少なくありませんが、かくという行為(掻破)は、皮膚にとって非常に強い物理的な刺激となります。
皮膚をかくことで、ただでさえ弱っているバリア機能はさらに破壊され、炎症が悪化し、さらなるメラニンの生成を促します。
また、摩擦そのものもメラノサイトを刺激する要因となり、かゆいからかく、かくから炎症が悪化し、さらにかゆくなる、そして色素沈着が濃くなる、という悪循環に陥りやすいのです。
色素沈着の主な種類
| 種類 | 主な原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 炎症後色素沈着 | アトピー、ニキビ、火傷などの炎症 | 炎症が治まった後に残る茶色や灰色のシミ |
| 摩擦黒皮症 | 衣類、タオルなどによる慢性的な摩擦 | 境界が比較的はっきりしない、広範囲の黒ずみ |
| 光線性花弁状色素斑 | 強い日焼け後の炎症 | 花びらのような形のシミが多発する |
首の皮膚が特に影響を受けやすい理由
首は、アトピー性皮膚炎の症状が出やすい部位の一つですが、いくつかの理由があります。
第一に、首の皮膚は非常に薄く、デリケートです。皮膚が薄いということは、バリア機能も相対的に弱い傾向があり、外部からの刺激の影響を受けやすいことを意味します。
第二に、首は常に動いており、衣類の襟やネックレス、髪の毛など、さまざまなものとこすれる機会が多い部位で、物理的な摩擦が、バリア機能を低下させ、炎症を起こすきっかけとなります。
首の皮膚の特徴
- 皮膚が薄くデリケート
- 皮脂腺が比較的少ない
- 衣類や髪の毛による摩擦が多い
- 汗がたまりやすい
- 紫外線を浴びやすい
首の黒ずみを起こすアトピー以外の要因
アトピー性皮膚炎による炎症が主な原因であることは多いですが、首の黒ずみは他の要因によって悪化することもあります。日常生活に潜む、見落としがちな原因について見ていきましょう。
紫外線が色素沈着に与える影響
紫外線は、色素沈着の最大の増悪要因の一つで、アトピー性皮膚炎の炎症によってただでさえメラノサイトが活性化している状態の皮膚に紫外線が当たると、メラニンの生成はさらに加速します。
首は顔と同様、日常的に露出しやすい部位であり、特に春から夏にかけては強い紫外線を浴びがちです。炎症がある肌は紫外線に対して非常に敏感になっています。
日焼け止めを塗ることが刺激になる場合は、日傘、帽子、ストールなどを活用して、物理的に紫外線を遮断する工夫が必要で、紫外線対策を怠ると、せっかく炎症が治まっても色素沈着が残りやすくなります。
紫外線が肌に及ぼす主な影響
- メラニン生成の促進
- 炎症の悪化
- 皮膚の乾燥
- バリア機能の低下
- コラーゲンの破壊(しわ・たるみ)
衣類やアクセサリーによる物理的刺激
日常生活での何気ない摩擦も、首の色素沈着を悪化させる原因で、タートルネックや襟の硬いシャツ、マフラーなどは、首の皮膚とこすれやすい衣類です。
摩擦が慢性的に続くことで、皮膚は微細な炎症を繰り返し、色素沈着が濃くなることがあります(摩擦黒皮症)。
また、ネックレスやペンダントなどのアクセサリーも注意が必要で、金属そのものによる刺激や、汗と反応した金属がアレルギー(金属アレルギー)を引き起こし、かぶれや炎症の原因となることもあります。
アトピー性皮膚炎の肌は敏感なため、できるだけ首周りに刺激を与えない素材を選ぶことが重要です。
首への刺激となり得る日常の要因
| 分類 | 具体例 | 対策のヒント |
|---|---|---|
| 物理的刺激 | 衣類の襟、マフラー、ネックレス、髪の毛の先 | 柔らかい素材(綿、シルク)を選ぶ。髪をまとめる。 |
| 化学的刺激 | 香水、制汗剤、洗浄力の強い石鹸 | 首への直接の使用を避ける。低刺激性の製品を選ぶ。 |
| 環境要因 | 汗、ほこり、花粉、紫外線 | こまめに拭き取る。洗浄と保湿。紫外線対策。 |
スキンケア製品や化粧品の選び方
肌に合わないスキンケア製品や化粧品の使用も、炎症の原因となり、香料、アルコール、防腐剤などが多く含まれる製品は、アトピー性皮膚炎の敏感な肌には刺激となることがあります。
顔には使えても、よりデリケートな首には合わないというケースも少なくありません。
新しい製品を試す際は、まず腕の内側などでパッチテストを行い、異常が出ないことを確認してから使用することをお勧めします。
また、クレンジングや洗顔の際に、ゴシゴシと強くこすって洗うことも摩擦刺激となり、色素沈着の原因になるため注意が必要です。
汗や汚れが首の皮膚に及ぼす作用
首は汗をかきやすく、また、その汗がたまりやすい部位でもあります。汗に含まれる塩分やアンモニアなどの成分は、それ自体が刺激となり、アトピー性皮膚炎のバリア機能が低下した肌ではかゆみや炎症を起こすことがあります。
汗をかいたまま放置すると、細菌が繁殖しやすくなり、皮膚トラブルの原因にもなるので、汗をかいたら、できるだけ速く濡れたタオルで優しく押さえるように拭き取るか、可能であれば水で洗い流し、その後しっかりと保湿することが大切です。
特に夏場や運動後は、こまめなケアを心がけましょう。
アトピーによる首の色素沈着 放置するリスク
首の黒ずみを「ただの色素沈着」と軽視してしまうと、将来的により深刻な皮膚の問題につながる可能性があります。どのようなリスクが潜んでいるのかを理解し、早期に対処することの重要性を認識しておくことが大切です。
皮膚のバリア機能のさらなる低下
色素沈着が目立つということは、背景で慢性的な炎症が続いているか、過去に強い炎症があったことを示していて、炎症が続いている状態では、皮膚のバリア機能は常に低いままです。
バリア機能が低いと、外部からのアレルゲンや刺激物質が容易に侵入し、さらに炎症を起こしやすくなります。
この状態を放置すると、肌はますます敏感になり、これまで問題なかった物質に対しても反応するようになる可能性があります。色素沈着は、皮膚が発しているSOSのサインと捉え、根本にある炎症とバリア機能の低下に対処することが必要です。
慢性的なかゆみと炎症の悪循環
アトピー性皮膚炎には「かゆみ→掻破→炎症悪化→さらなるかゆみ」という悪循環があり、色素沈着が目立つ首は、この悪循環が慢性化している可能性が高い部位です。
かゆみを我慢できずにかき続けると、皮膚は傷つき、そこから細菌が感染してとびひ(伝染性膿痂疹)などを併発することもあります。
また、慢性的な刺激により、かゆみを感じる神経が敏感になり、わずかな刺激でも強いかゆみを感じるようになってしまうこともあります。色素沈着のケアは、悪循環を断ち切るためにも重要です。
色素沈着の放置による進行
| 段階 | 皮膚の状態 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 初期(炎症期) | 赤み、湿疹、かゆみ | かゆみが強く、炎症が目立つ |
| 中期(色素沈着期) | 炎症が引き、茶色い黒ずみが残る | かゆみは残るが、赤みは減少 |
| 慢性期(苔癬化) | 皮膚がゴワゴワと厚く、硬くなる | 強いかゆみ、深いシワ、黒ずみの悪化 |
皮膚の肥厚(苔癬化)への進行
慢性的な炎症と掻破が長期間続くと、皮膚は防御反応として厚く、硬くなっていき、この状態を苔癬化(たいせんか)と呼びます。
苔癬化した皮膚は、まるで象の皮膚のようにゴワゴワとし、深いシワが刻まれ、色素沈着もより一層濃く、黒っぽく見えるようになります。
首は皮膚が薄いため、もともとシワができやすい部位ですが、苔癬化が加わると、年齢以上に老けて見えてしまう原因にもなります。一度苔癬化が進行してしまうと、元の滑らかな皮膚の状態に戻すには、かなりの時間と治療が必要です。
改善が難しくなる可能性
炎症後色素沈着は、炎症が治まれば、皮膚のターンオーバー(新陳代謝)によって徐々に薄くなっていくのが一般的です。
しかし、アトピー性皮膚炎のように炎症が長期間にわたって繰り返されると、メラニン色素が皮膚の深い部分(真皮)にまで落ち込んでしまうことがあります。
表皮に沈着したメラニンはターンオーバーで排出されますが、真皮に落ちたメラニンは排出されにくく、数年単位で残存するか、場合によっては半永久的に残ってしまうこともあります。
色素沈着が浅いうちに、根本原因である炎症をしっかりと抑え、適切なケアを開始することが、将来的な改善の可能性を高めるために重要です。
自宅でできる 首の色素沈着改善に向けた日常ケア
皮膚科での治療と並行して、日々のセルフケアを見直すことは、首の色素沈着を改善するために重要で、毎日の積み重ねが、健やかな肌を取り戻す鍵となります。基本に立ち返り、丁寧なケアを心がけましょう。
基本となる正しい保湿ケアの方法
アトピー性皮膚炎のケアの基本は、なんといっても保湿です。色素沈着が気になる首も例外ではなく、皮膚が乾燥するとバリア機能が低下し、かゆみが出やすくなり、炎症の悪循環を招きます。
保湿剤を適切に使うことで、皮膚に潤いを与え、バリア機能をサポートします。保湿剤は、入浴後5分以内など、皮膚がまだ潤っているうちに塗るのが最も効果的です。
また、朝の洗顔後や、日中乾燥を感じた時にもこまめに塗り直し、塗る際はゴシゴシと擦り込まず、手のひらで優しく押さえるようにして、皮膚に負担をかけないように注意します。
保湿剤の種類と特徴
| 種類 | 特徴 | 適した使用感 |
|---|---|---|
| ローション(化粧水) | 水分が多く、さっぱりしている。 | 広範囲に塗りやすい。保湿力は弱め。 |
| クリーム | 水分と油分がバランス良く含まれる。 | しっとりするが、ベタつきは少なめ。 |
| 軟膏(ワセリンなど) | 油分が主体。皮膚を保護する力が強い。 | ベタつきやすいが、保湿の持続性が高い。 |
炎症を抑えるためのスキンケア選び
色素沈着の根本には炎症があるため、スキンケア製品は炎症を悪化させない、低刺激性のものを選ぶことが大前提です。アトピー性皮膚炎の肌は敏感なため、以下の点に注意して選びましょう。
アルコール、香料、着色料などが含まれていない、シンプルな成分構成の製品を選びます。また、アレルギーテスト済み、敏感肌用といった表記も参考になりますが、すべての人に合うとは限りません。
まずは試供品などで肌の一部(首の目立たないところなど)で試してから使用を開始すると安心です。炎症が強い場合は、自己判断で市販の薬や化粧品を使う前に、皮膚科専門医に相談してください。
首を清潔に保つための洗い方と注意点
汗や汚れは炎症の悪化要因となるため、首を清潔に保つことは大切ですが、洗いすぎやこすり洗いは禁物です。ナイロンタオルやボディブラシでゴシゴシ洗う行為は、皮膚のバリア機能を破壊し、色素沈着を悪化させます。
洗う際は、低刺激性の石鹸やボディソープをよく泡立て、手のひらで優しく泡を転がすようにすると、泡がクッションとなり、摩擦を防ぎます。
シャワーの温度は、熱すぎると皮脂を取りすぎて乾燥やかゆみの原因になるため、38〜40度程度のぬるま湯に設定しましょう。洗い流した後は、柔らかいタオルで優しく押さえるように水分を拭き取ります。
正しい入浴・洗浄のポイント
- ぬるめのお湯(38~40度)
- 低刺激性の洗浄剤をよく泡立てる
- 手のひらで優しく洗う(こすらない)
- 洗浄剤はしっかりすすぎ流す
- 入浴後はすぐに保湿する
掻かないための工夫と対策
色素沈着の最大の敵はかくことですが、アトピー性皮膚炎のかゆみは意志の力だけで我慢できるものではないので、物理的・環境的な工夫で、かくことを減らす努力が重要です。
かゆみを感じた時は、冷たいタオルや保冷剤をタオルで包んだものを当てて、冷やすことでかゆみを一時的に和らげることができます。また、無意識にかいてしまう就寝時には、肌触りの良い綿の手袋を着用するのも一つの方法です。
爪は常に短く切り、丸く整えておくことで、万が一かいてしまった時の皮膚へのダメージを最小限に抑えます。
掻かないための対策例
| 対策の種類 | 具体例 | 目的 |
|---|---|---|
| 物理的対策 | 爪を短く切る。就寝時に綿の手袋。 | 掻破による皮膚の損傷を防ぐ。 |
| 対処的対策 | 冷たいタオルで冷やす。 | かゆみの感覚を一時的に鈍らせる。 |
| 環境的対策 | 保湿を徹底する。汗をこまめに拭く。 | かゆみの原因となる乾燥や刺激を減らす。 |
生活習慣の見直しで色素沈着を予防する
肌の状態は、体の内側からの影響も強く受けます。スキンケアだけでなく、日々の生活習慣全体を整えることで、アトピー性皮膚炎の根本的な管理と色素沈着の予防を目指します。
食事が皮膚に与える影響と見直しのポイント
特定の食品がアトピー性皮膚炎を直接悪化させるかどうかは個人差が大きく、一概には言えませんが、一般的に、栄養バランスの取れた食事は、健康な皮膚を維持するために大事です。
皮膚の細胞が新しく生まれ変わる(ターンオーバー)ためには、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどがバランスよく必要になります。
刺激物(香辛料など)、脂質の多いスナック菓子、アルコールなどは、かゆみを増強させたり、腸内環境を乱して間接的に皮膚の状態に影響を与えたりする可能性があります。
特定の食品を食べた後に決まってかゆみが出るなど、心当たりがある場合は、医師に相談の上、一時的に控えてみるのもよいでしょう。大切なのは、極端な食事制限ではなく、バランスの取れた食事を規則正しく摂ることです。
肌の健康に関連する栄養素と食品例
| 栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 皮膚の細胞の材料となる | 肉、魚、卵、大豆製品 |
| ビタミンA | 皮膚のターンオーバーを助ける | 緑黄色野菜、うなぎ、レバー |
| ビタミンC | コラーゲン生成、抗酸化作用 | 果物、野菜(ピーマン、ブロッコリー) |
睡眠の質と皮膚のターンオーバー
皮膚のターンオーバーは主に眠っている間に行われ、成長ホルモンが活発に分泌される入眠後の数時間は、皮膚の修復と再生にとってゴールデンタイムです。
睡眠不足が続いたり睡眠の質が低下したりすると、ターンオーバーが乱れ皮膚のバリア機能が低下し、炎症が治りにくくなります。
また、色素沈着の改善にもターンオーバーは深く関わっていて、表皮に沈着したメラニンは、ターンオーバーによって垢(あか)として排出されていきます。質の良い睡眠を確保することは、色素沈着を薄くするためにも大切です。
睡眠の質を高める工夫
- 就寝前のスマートフォン操作を控える
- ぬるめのお風呂でリラックスする
- カフェインやアルコールの摂取を控える
- 寝室の温度や湿度を快適に保つ
- 毎日同じ時間に寝て、起きる
ストレス管理とアトピーの関係
ストレスは、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる大きな要因の一つです。精神的なストレスを感じると、体はストレスホルモンを分泌し、免疫系や神経系に影響を与え、かゆみを感じやすくなったり、炎症が強まったりすることが知られています。
首の色素沈着を気にするあまり、それが過度なストレスとなり、さらに症状を悪化させるという悪循環に陥ることもあるので、日常生活の中で、自分がリラックスできる時間を見つけることが重要です。
趣味に没頭する、軽い運動をする、友人と話すなど、自分に合った方法でストレスを発散させる工夫をしましょう。
ストレス軽減のヒント
- 適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)
- 趣味やリラックスできる時間の確保
- 十分な休養
- 信頼できる人への相談
- 深呼吸や瞑想
適切な衣類素材の選び方
首は衣類との摩擦が常に起こる部位なので、肌に直接触れる衣類の素材選びは非常に大切で、チクチクとした刺激のあるウールや、汗を吸いにくい化学繊維(ポリエステル、ナイロンなど)は、アトピー性皮膚炎の肌には刺激となりやすいです。
肌触りが柔らかく、吸湿性・通気性に優れた綿(コットン)100%の素材が最もお勧めで、衣類を選ぶ際は、デザインだけでなく、タグの素材表示を確認する習慣をつけましょう。
また、洗剤や柔軟剤が肌に合わず、かゆみの原因となることもあるため、低刺激性のものを選んでください。
皮膚科クリニックで相談できる治療法
セルフケアだけでは改善が難しい場合や、より積極的な治療を望む場合、皮膚科専門医による診断と治療が助けになります。
炎症を抑えるための外用薬治療
アトピーによる首の色素沈着の治療において、最も優先されるのは、根本原因である炎症をしっかりと抑え込むことです。炎症が続いている限り、メラニンの生成は止まらず、色素沈着は改善しません。
ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏(免疫抑制外用薬)などを用いて、まずは炎症とかゆみを強力に抑える治療を行います。
首は皮膚が薄く、薬剤の吸収が良い部位であるため、専門医の指導のもと、適切な強さの薬剤を適切な期間使用することが重要です。
自己判断で薬を中断したり、怖がって塗る量を減らしたりすると、炎症がぶり返し、かえって治療が長引く原因となります。
色素沈着に対する内服薬のアプローチ
炎症が落ち着いた後の色素沈着に対しては、内服薬(飲み薬)による治療を併用することがあり、メラニンの生成を抑えたり、皮膚のターンオーバーを促したりすることで、色素沈着の改善を内側からサポートします。
代表的なものは、ビタミンC(メラニン生成抑制)、ビタミンE(血行促進、抗酸化作用)、トラネキサム酸(メラノサイトの活性化を抑える)などです。
また、かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を内服し、かく行為(掻破)を防ぐことも、新たな色素沈着の予防につながります。
美容皮膚科的な治療の選択肢
炎症が完全に治まり、色素沈着だけが残ってしまった場合、美容皮膚科的な治療が選択肢となることがあります。ただし、アトピー性皮膚炎の肌は敏感なため、施術が可能かどうかは医師の慎重な判断が必要です。
ケミカルピーリングは、薬剤を皮膚に塗布することで古い角質を取り除き、皮膚のターンオーバーを促進させる治療法で、表皮に沈着したメラニンの排出を早める効果が期待できます。
また、特定の波長の光を照射する光治療(IPL)や、レーザー治療(レーザートーニングなど)が適応となる場合もあります。
クリニックでの主な治療法の比較
| 治療法 | 主な目的 | 対象となる状態 |
|---|---|---|
| 外用薬(ステロイド等) | 炎症、かゆみを抑える | 赤み、湿疹、かゆみがある時期(急性期) |
| 内服薬(ビタミンC等) | メラニン生成抑制、ターンオーバー促進 | 炎症が落ち着いた後の色素沈着 |
| ケミカルピーリング | ターンオーバー促進 | 炎症がなく、色素沈着や苔癬化が残る場合 |
スキンケア指導と生活アドバイスの重要性
色素沈着の改善と再発予防には、日々のセルフケアが何よりも大事です。
クリニックでの治療は薬を処方するだけではなく、患者さん一人ひとりの肌状態やライフスタイルに合わせた、スキンケア方法(洗い方、保湿剤の選び方・塗り方)や生活上の注意点(食事、衣類、紫外線対策)について、アドバイスを行います。
間違ったセルフケアを続けていると、せっかく治療で炎症を抑えても、すぐに再発してしまうので、医師と協力し、正しいケアの方法を身につけることが、色素沈着を改善する一番の近道です。
アトピーによる首の黒ずみに関するよくある質問
アトピーによる首の色素沈着について、患者さんから寄せられることの多い質問にお答えします。
- 色素沈着は一度できたら治らないのですか?
-
完全に消えないこともありますが、改善は期待できます。皮膚の浅い部分(表皮)の色素沈着であれば、炎症をしっかり抑え、皮膚のターンオーバーが正常に行われることで、数ヶ月から数年かけて徐々に薄くなっていきます。
しかし、炎症が長引いて皮膚の深い部分(真皮)まで色素が落ちてしまうと、改善には時間がかかり、完全には消えにくい場合があります。大切なのは、できるだけ早く炎症を抑え、色素沈着が深くなるのを防ぐことです。
- 美白化粧品を使っても大丈夫ですか?
-
炎症が治まっていれば、使用できる場合もありますが、アトピー性皮膚炎の肌は敏感なため、美白成分(ビタミンC誘導体、トラネキサム酸、アルブチンなど)が刺激になることがあります。
赤みやかゆみなどの炎症が残っている時期の使用は避け、使用する場合は、炎症が完全に治まったことを確認し、低刺激性で敏感肌向けに作られた製品を選び、必ずパッチテストを行ってから使用を開始してください。
- 子どもの首が黒い場合も同じケアで良いですか?
-
基本的なケアの考え方は同じですが、より慎重な対応が必要で、子どもの皮膚は大人よりも薄くデリケートなため、炎症や摩擦の影響をさらに受けやすいです。
まずは、アトピー性皮膚炎の治療を行い、炎症をコントロールすることが最優先で、その上で、徹底した保湿、爪を短く切る、汗をこまめに拭く、綿素材の衣類を選ぶといった、刺激を避けるための日常ケアが重要になります。
大人が使う色素沈着用の化粧品などを自己判断で使うのは避けてください。
- 治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
-
症状の程度や期間によって、大きく個人差があります。赤みやかゆみといった炎症を抑えるのには、治療を行えば数週間から数ヶ月で改善が見込めます。
しかし、その後に残った色素沈着が薄くなるには、皮膚のターンオーバーの周期(約1〜2ヶ月、年齢と共に長くなる)を何度も繰り返す必要があり、最低でも半年から1年、場合によってはそれ以上の期間が必要です。
以上
参考文献
Manabe T, Inagaki Y, Nakagawa S, Miyoshi K, Ueki H. Ripple pigmentation of the neck in atopic dermatitis. The American journal of dermatopathology. 1987 Aug 1;9(4):301-7.
Nishioka K. Atopic eczema of adult type in Japan. Australasian Journal of Dermatology. 1996 May;37:S7-9.
Takahashi A, Murota H, Katayama I. Clinical Manifestation: Adult-Type Atopic Dermatitis. InEvolution of Atopic Dermatitis in the 21st Century 2017 Aug 22 (pp. 215-227). Singapore: Springer Singapore.
Muto T, Hsieh SD, Sakurai Y, Yoshinaga H, Suto H, Okumura K, Ogawa H. Prevalence of atopic dermatitis in Japanese adults. British Journal of Dermatology. 2003 Jan 1;148(1):117-21.
Kang IH, Jeong KH, Lee MH, Shin MK. Atopic labial pigmentation: a new diagnostic feature in Asian patients with atopic dermatitis. International Journal of Dermatology. 2018 Jul;57(7):817-21.
Fistarol SK, Itin PH. Disorders of pigmentation. JDDG: Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft. 2010 Mar;8(3):187-202.
Zhao CY, Wijayanti A, Doria MC, Harris AG, Jain SV, Legaspi KN, Dlova NC, Law MG, Murrell DF. The reliability and validity of outcome measures for atopic dermatitis in patients with pigmented skin: a grey area. International journal of women’s dermatology. 2015 Aug 1;1(3):150-4.
Mukai H, Nishioka K, Kamimura K, Katayama I, Nishiyama S. Poikiloderma‐like lesions on the neck in atopic dermatitis: a histopathological study. The Journal of Dermatology. 1990 Feb;17(2):85-91.
Colver GB, Mortimer PS, Millard PR, Dawber RP, Ryan TJ. The ‘dirty neck’—a reticulate pigmentation in atopics. Clinical and experimental dermatology. 1987 Jan 1;12(1):1-4.
Seghers AC, Lee JS, Tan CS, Koh YP, Ho MS, Lim YL, Giam YC, Tang MB. Atopic dirty neck or acquired atopic hyperpigmentation? An epidemiological and clinical study from the National Skin Centre in Singapore. Dermatology. 2014 Nov 1;229(3):174-82.
