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混合性結合組織病(MCTD)

混合性結合組織病(MCTD)

混合性結合組織病(MCTD)(mixed connective tissue disease)とは、全身性エリテマトーデスや強皮症、多発性筋炎など、複数の膠原病の症状が同時に現れる自己免疫疾患です。

30~40代の女性に発症することが多く、血液中では、抗RNP抗体という自己抗体が高い濃度で検出され、皮膚や筋肉、関節など、体のさまざまな組織に炎症が起きます。

症状は、手指が寒冷刺激で蒼白になるレイノー現象や、関節の痛み、筋力の低下、手指の腫れ、発熱などで、時期によって変化することがあります。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

混合性結合組織病(MCTD)の症状

混合性結合組織病(MCTD)は、複数の膠原病の特徴的な症状が重複して現れる疾患で、主にレイノー現象、手指の腫れ、関節痛、筋力低下などが生じます。

初期症状と主要な症状

混合性結合組織病の初期段階において、最も特徴的な症状なのがレイノー現象です。

寒冷や精神的なストレスにより、手指や足趾の血管が一時的に収縮することで、皮膚の色が白色から紫色、赤色へと変化していきます。

患者さんの90%以上に認められ、診断における重要な手がかりです。

手指や手の甲に現れる症状も特徴的な所見で、朝方に特に強く感じられる手指の腫れや、皮膚が徐々に硬くなっていき、指先の皮膚が硬くなり、小さな潰瘍ができることもあります。

また、複数の関節に同時に痛みや腫れが生じ、手首や指の関節、膝関節などに症状が出やすく、朝方に症状が強くなり日中になるにつれて改善することが多いです。

初期症状の出現頻度発症率(%)
レイノー現象90以上
手指の腫れ80
関節痛75
筋力低下70

進行に伴う症状の変化

本疾患の進行に伴い、全身のさまざまな部位に症状が生じます。

筋肉の症状として、徐々に進行する筋力低下や筋肉痛が現れ、階段の昇り降りや椅子からの立ち上がりが困難になるなど、日常生活動作に支障をきたします。

呼吸器系の症状も見られることがあり、息切れや呼吸困難感を自覚し、運動時や坂道を上る際に症状を感じやすく、徐々に進行していくことが特徴です。

筋肉の症状

  • 腕や足の筋力低下
  • 筋肉痛
  • 疲労感の増強
  • 嚥下困難

顔面や手指に紅斑が現れたり、日光に過敏になったりする皮膚症状も混合性結合組織病の所見の一つです。また、爪の周りの毛細血管の異常や、手指の皮膚が徐々に硬くなっていく症状も認められます。

進行期の症状特徴
筋力低下近位筋優位の進行性筋力低下
呼吸器症状労作時呼吸困難、間質性肺炎
皮膚症状光線過敏症、手指硬化
消化器症状嚥下困難、食道運動障害

全身に及ぶ多様な症状

全身のさまざまな臓器に症状が現れることがあり、食道の動きが悪くなることで食べ物を飲み込みにくくなったり、胸やけを感じたりします。

神経系の症状は、頭痛や集中力の低下、めまい、手足のしびれや感覚異常です。

全身症状

  • 発熱
  • 疲労感
  • 体重減少
  • リンパ節腫脹

動悸や不整脈を感じ、心臓の周りに水がたまる心膜炎を発症することもあり、胸の痛みや息切れの原因です。

腎臓の機能に影響が出、むくみや尿の異常が起き、高血圧を伴うこともあります。

混合性結合組織病(MCTD)の原因

混合性結合組織病(MCTD)は、複数の遺伝的要因と環境因子によって発症する自己免疫疾患であり、抗U1-RNP抗体という自己抗体の産生が発症に関わっています。

遺伝的背景と環境要因の相互作用

MCTDの発症には複数の遺伝子が関与していて、特に、免疫系の反応を制御するHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子の特定の型が、発症リスクと密接に関連しています。

HLA遺伝子の中でも、HLA-DR4やHLA-DR2という型を持つ方は、MCTDを発症するリスクが著しく高まります。

さらに、遺伝的要因に加えて、様々な環境要因が引き金となって発症に至ることが、明らかになってきました。

遺伝要因リスク上昇率
HLA-DR4約3倍
HLA-DR2約2倍
家族歴約4倍

遺伝的素因を持つ方が特定の環境要因に曝露することで、免疫システムのバランスが崩れ、自己免疫反応が起こると考えれています。

免疫システムの異常と自己抗体産生

MCTDにおける免疫システムの異常は、獲得免疫系で顕著に認めら、異常により、本来は外敵を認識するはずの免疫システムが、自分自身の細胞や組織を誤って攻撃対象として認識してしまいます。

MCTDでは U1-RNP(ウリジン1-リボ核タンパク質)という核内タンパク質に対する自己抗体が極めて高い割合で検出されます。

U1-RNP抗体の存在は、他の膠原病との鑑別診断において不可欠な指標です。

主要な自己抗体の種類と特徴

  • 抗U1-RNP抗体 MCTDの診断マーカー
  • 抗Sm抗体 SLEとの関連
  • 抗dsDNA抗体 組織障害との関連
  • 抗セントロメア抗体 強皮症様症状との関連

環境トリガーと発症メカニズム

MCTDの発症には、遺伝的素因に加えて、様々な環境要因が関与していて、紫外線への過度な曝露は、細胞核内の物質を露出させ、自己抗体産生を促進します。

その他にに特定のウイルス感染症も、発症に関係しています。

環境因子関連性
紫外線暴露強い
ウイルス感染中程度
ストレス中程度
薬物弱い

性別・年齢との関連性

MCTDの発症には明確な性差が認められ、圧倒的に女性に多いです。

特に生殖年齢にある女性に多く見られることから、エストロゲンなどの女性ホルモンが発症メカニズムに関与している可能性が示唆されています。

疫学的特徴と性差

  • 女性での発症が顕著(男女比1:10)
  • 20-40代での発症が最も多い
  • 閉経期前後での発症リスクが上昇
  • 妊娠・出産期での病態変化

混合性結合組織病(MCTD)の検査・チェック方法

混合性結合組織病(MCTD)の診断には、特徴的な臨床症状の確認と血液検査による抗U1-RNP抗体の検出が不可欠で、さらに各種の画像検査や機能検査を組み合わせます。

問診・身体診察による初期評価

問診では、レイノー現象や関節痛、筋力低下などの症状の有無と経過について聞き取り、症状の出現時期や進行の様子、日常生活への影響などについて、確認していくことが重要です。

身体診察では、手指の腫れや皮膚の硬化、関節の腫れや痛み、筋力低下の程度などを丁寧に評価し、また、呼吸音の聴診や心音の確認、皮膚の状態なども観察していきます。

主な診察項目確認のポイント
手指の観察腫脹、硬化、潰瘍
関節診察腫れ、圧痛、可動域
筋力評価近位筋優位の筋力低下
皮膚診察硬化、紅斑、光線過敏

血液検査による免疫学的評価

混合性結合組織病(MCTD)の診断において最も特徴的な検査所見は、抗U1-RNP抗体の存在です。

一般的な血液検査では、炎症反応(CRP、赤沈)、血算、肝機能、腎機能などを確認し、また、筋原性酵素(CK、アルドラーゼなど)の測定も行い、筋炎の有無や程度を評価します。

免疫学的検査項目

  • 抗U1-RNP抗体
  • 抗DNA抗体
  • リウマトイド因子
  • 補体価

画像検査による臓器病変の評価

胸部レントゲン検査やCT検査では、間質性肺炎の有無や程度を評価し、CT検査では、肺の間質性変化をより詳細に観察することが可能です。

心臓超音波検査では、心機能や弁膜症の有無、心膜炎の有無などを確認し、肺高血圧症の評価も重要な検査項目となっています。

画像検査の種類評価対象
胸部CT肺病変、縦隔リンパ節
心エコー心機能、肺高血圧症
関節MRI関節炎、滑膜炎
筋MRI筋炎の分布、程度

機能検査による重症度評価

呼吸機能検査では、肺活量や拡散能力を測定し、呼吸器病変の程度を評価し、運動負荷時の酸素飽和度の変化なども確認していきます。

筋電図検査では、筋力低下の原因が筋原性なのか神経原性なのかを鑑別するとともに、病変の分布や程度を評価します。

機能検査項目

  • 呼吸機能検査
  • 心電図検査
  • 筋電図検査
  • 嚥下造影検査

混合性結合組織病(MCTD)の治療法と治療薬について

混合性結合組織病(MCTD)の治療は、ステロイド薬を基本として、症状や重症度に応じて免疫抑制薬を組み合わせる薬物療法が中心です。

ステロイド薬による基本治療

MCTDの治療においてステロイド薬のプレドニゾロンは、即効性と強力な抗炎症作用から、第一選択薬として広く使用されています。

初期治療では、症状の重症度に応じて比較的高用量のステロイド薬を投与し、速やかな症状改善を目指すことが重要です。

症状が安定してきた段階では、副作用リスクを考慮しながら、できるだけ少ない投与量で症状をコントロールします。

治療段階使用薬剤投与量
初期治療プレドニゾロン0.5-1mg/kg/日
維持期プレドニゾロン5-10mg/日
増悪期メチルプレドニゾロン500-1000mg/日

免疫抑制薬の併用

ステロイド薬だけでは十分な効果が得られなかったり、ステロイド薬の減量が困難な場合には、免疫抑制薬の併用を検討します。

免疫抑制薬は過剰な免疫反応を抑制することで、炎症を抑え、症状の改善を促し、また、ステロイド薬の減量も可能です。

肺病変や重度の筋炎を伴う症例では、シクロホスファミドやメトトレキサートなどの強力な免疫抑制薬の使用を考慮することがあります。

主な免疫抑制薬の特徴

  • シクロホスファミド 重症例に使用
  • メトトレキサート 関節症状に有効
  • アザチオプリン 維持療法に使用
  • タクロリムス 腎障害に効果的

症状別の治療薬選択

MCTDでは、様々な症状が現れるため、それぞれの症状に応じた治療薬の選択が必要です。

関節症状に対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用することで、疼痛や腫脹の軽減を図れます。

肺高血圧症を合併する際には、PDE5阻害薬やエンドセリン受容体拮抗薬などの肺血管拡張薬を使用し、予後の改善を目指します。

標的症状推奨薬剤使用目的
関節炎NSAIDs炎症抑制
肺高血圧症PDE5阻害薬血管拡張
レイノー現象Ca拮抗薬血流改善

薬の副作用や治療のデメリットについて

混合性結合組織病(MCTD)の治療では、ステロイド薬や免疫抑制薬などの薬剤を使用しますが、感染症のリスク上昇や骨粗しょう症、消化器障害など、様々な副作用が伴います。

ステロイド薬による副作用

ステロイド薬は長期使用に伴う副作用への注意が重要となります。感染症に対する抵抗力が低下することから、一般的な細菌感染症だけでなく、真菌症やウイルス感染症にも注意が必要です。

骨への影響も副作用の一つで、ステロイド薬の使用により骨からカルシウムが失われやすくなり、特に、閉経後の女性では骨粗しょう症のリスクが高まります。

ステロイド薬の主な副作用発現頻度
満月様顔貌高頻度
高血糖中頻度
骨粗しょう症高頻度
消化性潰瘍中頻度

免疫抑制薬による副作用

免疫抑制薬の使用では、免疫機能の低下に伴う感染症のリスク上昇に特に注意が必要となります。また、一部の免疫抑制薬では肝機能や腎機能への影響が出ることがあり、定期的な血液検査によるモニタリングが欠かせません。

免疫抑制薬の主な副作用

  • 白血球減少
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害
  • 脱毛
  • 消化器症状

消化器系への影響

治療薬による消化器への影響は比較的多く見られる副作用の一つです。胃部不快感や腹痛、吐き気などの症状が現れ、時には消化性潰瘍を起こすこともあります。

胃酸の分泌が増加することで、胃粘膜が障害を受けやすくなることも問題となり、腸管からのカルシウム吸収が低下することで、骨粗しょう症のリスクがさらに高まるので注意が必要です。

消化器系副作用の種類対策方法
胃部不快感制酸薬併用
消化性潰瘍粘膜保護薬
吐き気制吐薬
食欲不振食事指導

代謝系への影響

ステロイド薬の長期使用により糖質や脂質の代謝に変化が生じ、血糖値が上昇しやすくなり、糖尿病を発症または悪化させることがあります。

脂質代謝の変化により、体重増加や脂肪の偏在(満月様顔貌、野牛肩など)が起こり、また、コレステロール値や中性脂肪値が上昇しやすくなり、動脈硬化のリスクが高まります。

代謝系への影響

  • 血糖値上昇
  • 体重増加
  • 脂質異常症
  • 電解質異常

その他の全身への影響

皮膚への影響として、皮膚が薄くなりやすくなったり、傷が治りにくくなったり、にきびの増加や多毛、皮下出血なども見られます。

精神面への影響もあり、不眠や興奮、気分の変動などが起き、特に高用量のステロイド薬使用時には注意が必要です。

白内障や緑内障などの眼の合併症も起こりうる副作用の一つで、さらに、月経不順や骨壊死、高血圧なども報告されています。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

基本的な治療費の構成

定期的な通院や検査、投薬により、治療費は毎月継続的に発生します。

項目3割負担額(月額)
外来診察2,800円~
血液検査3,000円~
画像検査6,000円~
投薬費用15,000円~

薬剤費の内訳

治療ではステロイド薬が費用の中で大きな割合を占めていて、疫抑制薬を併用する場合は、さらに増加します。

薬剤種別月額概算(3割負担)
ステロイド薬5,000円~
免疫抑制薬8,000円~
対症療法薬3,000円~

検査費用の詳細

定期検査の種類と費用

  • 血液検査:3,000円~
  • 尿検査:1,000円~
  • 胸部X線:3,000円~
  • 心電図:5,000円~
  • 肺機能検査:6,000円~

入院時の費用

症状が悪化して入院が必要になった際は、入院費用が発生します。

入院期間3割負担概算
1週間10万円~
2週間20万円~
1ヶ月35万円~

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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