成人スチル病(adult-onset Still’s disease)とは、免疫システムが過剰に活性化することで全身に強い炎症が生じる自己免疫疾患で、16歳から35歳までの若年成人期に発症することが多いです。
この病気の三大症状として、38.5度以上の高熱が毎日のように見られ、手首や膝などの大小の関節に激しい痛みを伴い、さらに夕方から夜にかけて淡いピンク色の発疹が体幹部を中心に現れ、翌朝には消失します。
発熱や関節症状、皮膚症状以外にも、のどの痛みやリンパ節の腫れ、肝機能障害なども伴うことがあります。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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成人スチル病の症状
成人スチル病における主な症状は、発熱やサーモンピンク色の発疹、関節痛や筋肉痛に加え、リンパ節腫脹や肝機能障害などです。
特徴的な3大症状について
発熱は通常39度以上の高熱で夕方から夜間にかけて上昇し、朝になると平熱近くまで解熱するというスパイク状のパターンを示します。
皮膚症状としては、淡いピンク色からサーモンピンク色と呼ばれる特徴的な発疹が出現し、発疹は体幹部や四肢に多く見られ、発熱時に増強して解熱とともに消退することが特徴です。
症状 | 特徴的な性質 |
発熱 | 39度以上の高熱が夕方から夜間に上昇し、朝に解熱 |
発疹 | サーモンピンク色で発熱時に増強、解熱時に消退 |
関節症状 | 複数の関節に対称性の痛みと腫れが出現 |
関節症状は、手首や膝、足首などの大小様々な関節に痛みや腫れが生じ、両側性かつ対称性に現れます。
全身性の症状と臓器障害
成人スチル病では、全身のさまざまな臓器に症状が及び、リンパ節の腫れは頸部や腋窩部、鼠径部などに現することが多いです。
肝臓や脾臓の腫大も高頻度に認められ、臓器の腫大に伴って肝機能検査値の上昇がみられることも珍しくありません。
臓器症状 | 出現頻度 |
リンパ節腫脹 | 約70% |
肝脾腫 | 約50% |
心膜炎 | 約30% |
胸膜炎 | 約25% |
血液検査における特徴的な所見
血液検査では、炎症反応の上昇が顕著に認められ、白血球数の増加やCRP値の著明な上昇が観察されることが不可欠な診断要素です。
フェリチン値の著明な上昇は特徴的な所見として知られており、値の推移は疾患活動性の指標として活用されます。
その他の随伴症状
以下の症状も成人スチル病では比較的高頻度に認められます。
- 全身倦怠感や筋肉痛は患者様の約8割で出現し、日常生活に大きな影響を与える
- 咽頭痛は初期症状として現れることが多く、約6割の患者さんが経験
- 食欲不振や体重減少は全身性の炎症反応に伴って生じる
- 腹痛や下痢などの消化器症状は、約3割の患者さんで認められる
成人スチル病における心臓や肺の症状として、心膜炎や胸膜炎などの漿膜炎が起きることがあり、また、まれではありますが、マクロファージ活性化症候群という深刻な合併症を引き起こす事例も報告されています。
成人スチル病の原因
成人スチル病は体を守る免疫システムが過剰に反応することで、全身に強い炎症が生じます。
遺伝的要因との関連性について
遺伝子の中でも、特にHLA-DRB1やIL-18といった免疫システムの制御に関わる遺伝子に、成人スチル病の発症と関連する特徴的な変異が見つかっています。
遺伝子名 | 関連する機能 |
HLA-DRB1 | 免疫応答の制御 |
IL-18 | 炎症反応の調節 |
TNF-α | 炎症性サイトカインの産生 |
IL-1β | 発熱や炎症の制御 |
環境因子の影響
環境因子が成人スチル病の発症の引き金として機能することが明らかになっており、特に注目すべきなのは、ウイルスや細菌による感染症との関連性です。
- ウイルス感染(パルボウイルスB19、エプスタイン・バーウイルスなど)
- 細菌感染
- ストレス
- 環境中の化学物質への曝露
- 気候変動による身体への負担
免疫システムの異常について
成人スチル病における免疫システムの異常は、炎症を引き起こす物質であるサイトカインの過剰産生として現れ、この状態が持続することで全身の組織に様々な影響を及ぼします。
サイトカインの種類 | 炎症への影響 |
インターロイキン1 | 発熱の誘導 |
インターロイキン6 | 急性期タンパクの産生 |
インターロイキン18 | マクロファージの活性化 |
TNF-α | 全身性の炎症反応 |
成人スチル病の検査・チェック方法
成人スチル病の診断は、特徴的な臨床症状の確認と複数の血液検査、画像検査などを組み合わせて行います。
問診と身体診察による診断アプローチ
問診では発熱のパターンや皮疹の出現状況、関節症状の有無など、詳細な病歴聴取を行うことが重要で、発熱の周期性や持続期間、随伴症状の出現時期などについて、時系列に沿って確認していきます。
身体診察では、皮疹の性状や分布、関節の腫れや圧痛の有無、全身のリンパ節腫脹の確認などの把握を行い、同時に心臓や肺の聴診による合併症の有無についても調べます。
診察項目 | 確認するポイント |
発熱パターン | 夕方からの上昇、朝方の解熱傾向 |
皮疹の特徴 | サーモンピンク色、発熱時の増強 |
関節症状 | 対称性、移動性の有無 |
リンパ節 | 腫脹の部位と大きさ |
血液検査による診断手順
血液検査では炎症マーカーの測定が不可欠で、白血球数、CRP、赤血球沈降速度などの基本的な炎症所見に加えて、フェリチン値の測定も診断において重要です。
血清フェリチン値は成人スチル病において特徴的な上昇を示すことが多く、疾患活動性の指標として経時的な測定を行うことで、病態の推移を把握できます。
肝機能検査ではAST、ALT、LDH、ALP等の肝酵素の測定を実施し、また、免疫学的検査として抗核抗体やリウマトイド因子などの自己抗体の測定も併せて行います。
画像検査による病変の確認
画像検査では胸部レントゲン検査や腹部超音波検査を基本として実施し、CTやMRIなどの精密検査も追加します。
画像検査 | 主な観察部位 |
胸部X線 | 胸水、心膜液 |
腹部エコー | 肝臓、脾臓の腫大 |
関節MRI | 滑膜炎、関節炎 |
全身CT | リンパ節腫大、臓器病変 |
関節症状が顕著な際には関節エコーやMRI検査を追加することで、滑膜炎の程度や関節破壊の有無について評価を行うことが大切です。
他疾患との鑑別診断
成人スチル病の診断に際して、以下の疾患との鑑別が必要です。
- 感染症による発熱では、血液培養や各種培養検査、ウイルス抗体価の測定を行う
- 悪性リンパ腫などの血液疾患が疑われる際は、必要に応じてリンパ節生検を検討
- 膠原病との鑑別では、各種自己抗体検査や補体価の測定を実施
- 血球貪食症候群の合併を考慮し、骨髄検査が必要となる事態も想定
- 薬剤性の発熱や皮疹との鑑別のため、詳細な薬歴の聴取
これらの検査結果を統合的に判断し、各種分類基準に照らし合わせながら診断を進めていくことになりますが、診断基準を満たさない非典型例もあります。
特に初期段階では典型的な症状が揃わないことも多いため、繰り返し診察と検査を行いながら、診断を進めていきます。
成人スチル病の治療法と治療薬について
成人スチル病の治療では、非ステロイド性抗炎症薬やステロイド薬を基本として、病状の程度に応じて免疫抑制薬や生物学的製剤を段階的に組み合わせながら、炎症のコントロールと症状の改善を目指します。
第一選択薬による初期治療
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による治療からスタートすることが多く、解熱や関節症状の緩和を目的として使用し、ジクロフェナクナトリウムやロキソプロフェンナトリウムなどを処方します。
ステロイド薬は炎症を抑える効果が高く、プレドニゾロンを中等量から開始し、症状の改善に応じて徐々に減量していくことが大切です。
薬剤分類 | 代表的な薬剤名 | 主な作用 |
NSAIDs | ジクロフェナク | 解熱、鎮痛 |
ステロイド | プレドニゾロン | 抗炎症作用 |
免疫抑制薬 | メトトレキサート | 免疫調整 |
生物学的製剤 | トシリズマブ | IL-6阻害 |
免疫抑制薬による治療
免疫抑制薬としてメトトレキサートやシクロスポリン、タクロリムスなどを使用することがあり、免疫系の過剰な反応を抑制する目的で投与し、ステロイド薬の減量や離脱を目指す際に重要な役割を果たします。
メトトレキサートは週1回の内服で使用し、4〜8mg/週から開始して効果をみながら増量していく方法をとり、最大16mg/週まで可能です。
免疫抑制薬 | 投与方法と特徴 |
メトトレキサート | 週1回内服、4-16mg |
シクロスポリン | 1日2-3回分割内服 |
タクロリムス | 1日1-2回内服 |
生物学的製剤による治療
生物学的製剤は、従来の治療薬で十分な効果が得られない際に考慮する選択肢であり、インターロイキン-6(IL-6)の働きを抑制するトシリズマブや、TNF阻害薬などを使用します。
トシリズマブは点滴静注または皮下注射で投与し、IL-6の作用を選択的に阻害することで炎症を抑制する薬剤です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
成人スチル病の治療では、免疫抑制薬やステロイド薬を使用することによって、骨粗鬆症や感染症、消化器障害など、様々な副作用やリスクが生じることがあります。
ステロイド薬による副作用
ステロイド薬の使用に伴う副作用は、投与量や期間によって異なる程度で発現し、長期使用における骨密度の低下や、血糖値の上昇には注意が必要です。
ステロイド薬の副作用は使用開始後早期から見られ、満月様顔貌(ムーンフェイス)や体重増加、不眠などが起こります。
副作用の種類 | 発現時期の目安 |
満月様顔貌 | 2週間〜1ヶ月 |
高血糖 | 1〜2ヶ月 |
骨粗鬆症 | 3〜6ヶ月 |
白内障 | 6ヶ月〜1年 |
免疫抑制薬のリスク管理
免疫抑制薬による治療では、免疫機能の低下に伴う感染症のリスク増加が重要な課題で、呼吸器感染症や帯状疱疹などのウイルス感染症に対する注意が必要です。
注意が必要な症状
- 発熱や咳などの感染症状の出現
- 肝機能や腎機能の変化
- 血球数の異常(白血球減少、貧血など)
- 皮膚症状の出現や悪化
- 消化器症状の発現
生物学的製剤における注意点
生物学的製剤の使用では、投与部位反応や過敏症といった即時型の副作用から、結核などの日和見感染症まで、幅広い副作用に対する配慮が欠かせません。
副作用の分類 | 具体的な症状 |
投与時反応 | 発熱、悪寒、頭痛 |
感染症 | 結核、肺炎、帯状疱疹 |
自己免疫現象 | 皮膚症状、関節痛 |
血液障害 | 貧血、白血球減少 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
検査に関わる費用
血液検査では炎症マーカーや肝機能、フェリチンなどの測定を定期的に行い、X線やCT、MRIなどを症状に応じて実施します。
検査項目 | 保険診療での概算費用 |
血液検査一式 | 5,000~8,000円 |
胸部X線 | 2,500~3,000円 |
胸部CT | 8,000~12,000円 |
関節MRI | 15,000~20,000円 |
薬物療法の費用
薬物療法では、非ステロイド性抗炎症薬やステロイド薬、免疫抑制薬、また、生物学的製剤の使用も選択肢です。
薬剤分類 | 月額概算費用 |
NSAIDs | 3,000~5,000円 |
ステロイド薬 | 2,000~4,000円 |
免疫抑制薬 | 8,000~15,000円 |
生物学的製剤 | 80,000~150,000円 |
以上
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