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「低温やけど」とは?気づきにくいのに重症化しやすいやけどの仕組みと原因

「低温やけど」とは?気づきにくいのに重症化しやすいやけどの仕組みと原因

「なんだか皮膚がヒリヒリする」「赤みがずっと引かない」など、軽い違和感から始まることがある低温やけど。

カイロや湯たんぽなど、触れていると心地よいと感じるくらいの温度でも、長時間皮膚に触れ続けることで、じわじわと組織の奥深くまでダメージが進行し、異変に気づいた時にはすでに重症化しているケースが少なくありません。

この記事では、低温やけどとは何か、特徴や普通のやけどとの根本的な違いを詳しく解説します。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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目次

低温やけどとは?普通のやけどとの違い

熱いものに一瞬触れて「熱い!」となるのが、私たちが一般的にイメージするやけど(高温熱傷)です。しかし、低温やけどは少し性質が異なります。

低温やけどの基本的な定義

低温やけどは、医学的には「低温熱傷(ねっしょう)」と呼ばれ、体温より少し高い、おおよそ44℃から50℃程度の比較的低い温度の熱源に、皮膚が長時間にわたって接触し続けることで発生するやけどです。

短時間の接触では問題にならないような温度でも、その接触が数十分から数時間続くと、皮膚の表面だけでなく、その下の皮下組織、場合によっては筋肉や骨にまで熱による損傷が及ぶことがあります。

心地よいと感じる温度であるため、危険を察知しにくく、就寝中など無意識のうちに発症することが多いです。

普通のやけど(高温熱傷)との比較

低温やけどと高温熱傷は、どちらも熱によって皮膚が損傷する点は同じですが、発生の仕方や損傷の範囲に大きな違いがあります。

高温熱傷は、熱湯や火など100℃を超えるような高温のものが短時間触れることで、主に皮膚の表面が大きなダメージを受けます。

低温やけどは比較的低い温度が長時間作用することで、熱が皮膚の深部までゆっくりと浸透し、見た目以上に深刻な損傷を引き起こすことがあります。

低温やけどと高温やけどの主な違い

項目低温やけど(低温熱傷)普通のやけど(高温熱傷)
原因となる温度44℃~50℃程度70℃以上(多くは100℃以上)
接触時間数十分~数時間(長時間)数秒(短時間)
損傷の深さ皮膚の深部に達しやすい主に皮膚の表面

なぜ気づきにくいのか

低温やけどの最も厄介な点は、発生に気づきにくいことです。高温のやかんやアイロンに触れれば、反射的に手を引っ込めるほどの激しい痛みを感じます。

これは、皮膚にある痛点を刺激するからですが、44℃程度の温度では、強い痛みを感じることはほとんどありません。「温かくて気持ちいい」と感じるため、危険信号として脳が認識しないのです。

このため、熱源に長時間触れ続けていても、自覚症状がないまま静かにやけどが進行してしまいます。特に睡眠中や、何かに集中している時などは、この傾向がさらに強まります。

低温やけどに気づきにくい主な理由

  • 心地よいと感じる温度であるため
  • 強い痛みを伴わないため
  • ゆっくりと症状が進行するため
  • 睡眠中など無意識下で発生しやすいため

じっくり進行するダメージの怖さ

低温やけどの本当の怖さは、ダメージが皮膚の深層部にまで及ぶ点にあり、高温熱傷が皮膚表面に急激なダメージを与えるのに対し、低温やけどは低い温度でじっくりと組織を「ゆでる」ような状態になります。

皮膚の表面には軽い赤みや小さな水ぶくれしか見られなくても、その下の皮下脂肪や筋肉、時には骨といった組織まで熱が伝わり、細胞が壊死していることがあります。

軽い症状だと思い込んで放置した結果、数日後になって皮膚が黒く変色したり、深い潰瘍(かいよう)が形成されたりして、初めて事の重大さに気づくというケースも少なくありません。

低温やけどの主な原因と身近に潜む危険

低温やけどは、決して特別な状況下だけで起こるものではなく、普段の暮らしの中に、原因となる製品や状況が数多く潜んでいます。

冬場に多発する原因

寒さが厳しくなる冬は、暖房器具の使用頻度が増えるため、低温やけどのリスクが最も高まる季節で、特に、体を直接温めるタイプの製品には注意が必要です。

代表的なものとして、湯たんぽ、電気あんか、電気毛布、そして使い捨てカイロが挙げられ、長時間にわたって体の同じ部分に当て続けることで、低温やけどを引き起こす可能性があります。

就寝時に湯たんぽを足元に入れたまま眠ってしまったり、腰痛を和らげるためにカイロを衣服の下に直接貼り続けたりする行為は、非常に危険です。

日常生活に潜む意外な原因製品

冬場の暖房器具以外にも、私たちの身の回りには低温やけどの原因となりうる製品が数多くあります。多くの人が日常的に使用しているスマートフォンやノートパソコンもその一つです。

電子機器は、使用中に熱を帯び、長時間、膝の上でノートパソコンを操作したり、スマートフォンの充電中に通話したり、あるいは枕元に置いて眠ったりすると、その熱で低温やけどを負うことがあります。

また、温水洗浄便座のヒーター機能も、長時間座り続けることでお尻に低温やけどを起こす事例が報告されています。

低温やけどの原因となりやすい製品と使用シーン

製品カテゴリ具体的な製品例危険な使用シーン
暖房器具湯たんぽ、電気あんか、カイロ、電気毛布、こたつ就寝時、長時間同じ部位への使用
電子機器ノートパソコン、スマートフォン、タブレット膝上での長時間使用、充電しながらの使用
その他温水洗浄便座、ホットカーペット、電気マット長時間座る、設定温度を高くしすぎる

特定の状況下でのリスク

体の状態や周囲の環境によっては、低温やけどのリスクがさらに高まります。

疲労が蓄積している時やお酒を飲んで酔っている時、睡眠薬を服用した後は、感覚が鈍くなり眠りも深くなるため、熱源から体を離す反応が起こりにくく、暖房器具をつけたまま眠り、朝になってやけどに気づくというケースが後を絶ちません。

また、体の自由が効きにくい状況、ギプスで手足を固定している場合なども、熱源との接触を避けられずに低温やけどを発症するリスクが高まります。

スマートフォンやノートパソコンによる低温やけど

近年注意喚起されているのが、スマートフォンやノートパソコンによる低温やけどです。デバイスは高性能化に伴い、内部で発生する熱も増加傾向にあり、動画を長時間視聴したり、ゲームをプレイしたりすると、本体はかなり熱くなります。

この状態で皮膚に直接触れさせ続けると、低温やけどを引き起こす可能性があります。特に、太ももの内側など皮膚の薄い部分でノートパソコンを長時間使用する習慣がある方は注意が必要です。

また、充電中のスマートフォンは通常時よりも高温になりやすいため、充電しながら体につけたまま眠ってしまうような状況は絶対に避けましょう。

低温やけどの症状と進行度

低温やけどの症状は、ゆっくりと現れるため初期段階では見過ごされがちですが、皮膚の奥深くでは着実にダメージが進行しています。

初期症状の見分け方

低温やけどの初期症状は、非常に軽微な場合が多く、注意深く観察しないと気づかないことがあります。熱源が当たっていた部分の皮膚が、ほんのりと赤みを帯びたり、網目状の模様(リベドー)が現れたりするのが典型的なサインです。

また、見た目には変化がなくても、触れると少しヒリヒリとした痛みやかゆみを感じることもあります。この段階では、単なる一時的な皮膚の赤みだと勘違いしがちですが、これが深部へのダメージの始まりである可能性を疑うことが重要です。

特に、暖房器具などを使った後にこのような症状が現れた場合は、低温やけどを念頭に置いて慎重に経過を観察する必要があります。

低温やけどの初期症状チェックポイント

  • 皮膚に赤みが出ている
  • 皮膚に網目状の模様(リベドー)が見られる
  • ヒリヒリとした痛みがある
  • かゆみを感じる
  • 触った時の感覚が少し鈍い

進行度別の症状(I度〜III度)

やけどは、深さによって重症度が分類され、これは低温やけどでも同様で、主にI度からIII度の3段階に分けられます。I度は最も軽症で、皮膚の最も外側にある表皮のみの損傷です。

II度は、表皮とその下の真皮にまで損傷が及んだ状態で、水ぶくれ(水疱)ができ、III度は最も重症で、皮膚の全層(表皮、真皮、皮下組織)が壊死してしまった状態を指します。

低温やけどは、初期段階ではI度に見えても、数日かけてII度やIII度へと進行することが多いため、最初の見た目だけで判断するのは非常に危険です。

やけどの進行度(深度)と主な症状

進行度(深度)損傷が及ぶ範囲主な症状
I度(表皮熱傷)表皮皮膚の赤み、ヒリヒリとした痛み。通常は跡を残さず治癒する。
II度(真皮熱傷)真皮強い痛み、赤み、水ぶくれ(水疱)の形成。治癒後に跡が残ることがある。
III度(皮下熱傷)皮下組織、筋肉、骨皮膚が白や黒に変色し、感覚を失う。痛みを感じない。手術が必要で、必ず跡が残る。

痛みを感じにくい理由

低温やけどの大きな特徴の一つに、重症度と痛みが必ずしも比例しない点が挙げられます。II度のやけどでは激しい痛みを伴うことが多いですが、さらに深刻なIII度にまで進行すると、痛みを感じなくなります。

これは、熱によって皮膚の感覚を伝える神経そのものが破壊されてしまうためです。

痛みという体からの警告サインが失われるため、患者さん自身は症状が改善したと誤解してしまうことさえありますが、実際には組織の破壊が最も深刻なレベルに達している状態です。

痛みがないからといって安心せず、皮膚の色が白っぽくなったり、黒く変色したり、硬くなったりした場合は、直ちに専門医の診察を受ける必要があります。

低温やけどのリスクが高い方

低温やけどは誰にでも起こりうるものですが、体の状態や年齢によっては、リスクが格段に高まることがあります。ご自身やご家族が、これから挙げる条件に当てはまらないか、ぜひ一度確認してください。

乳幼児や高齢者

乳幼児や高齢者は、低温やけどのハイリスク群の代表です。乳幼児は、大人に比べて皮膚が非常に薄く、熱からの防御機能が未熟で、また、熱さや痛みを感じても、言葉で伝えたり、自力で熱源から離れたりすることができません。

保護者が気づかないうちに、湯たんぽや暖房器具で重度のやけどを負ってしまうケースがあります。高齢になると、加齢に伴って皮膚が薄くなるだけでなく、感覚も鈍くなります。

熱さに対する反応が遅れがちになるため、こたつや電気毛布などで長時間同じ姿勢で過ごしてしまい、気づかぬうちに低温やけどを発症することが多いです。

糖尿病や血行障害のある方

糖尿病を患っている方は、特に低温やけどに注意が必要です。糖尿病の合併症の一つに、末梢神経障害があり、手足の感覚が鈍くなり、熱さや痛みを感じにくくなります。

また、糖尿病は血行障害も起こしやすく、やけどを負った場合に傷の治りが非常に悪くなる傾向があります。小さなやけどから感染を起こし、足の切断に至るような深刻な事態に発展する可能性もゼロではありません。

糖尿病以外にも、閉塞性動脈硬化症など、血行を妨げる持病がある方も同様のリスクを抱えています。

低温やけどのリスクを高める主な持病や状態

分類具体的な病名や状態リスクが高まる理由
代謝性疾患糖尿病末梢神経障害による知覚鈍麻、血行障害による治癒能力の低下
循環器系疾患閉塞性動脈硬化症、バージャー病血流の悪化により、組織が熱の影響を受けやすく、治りにくい
神経系の障害脊髄損傷、脳梗塞後遺症知覚麻痺や運動麻痺により、熱源から体を動かせない

睡眠中や泥酔状態

意識レベルが低下している状態も、低温やけどの大きなリスク要因です。深い睡眠中はもちろんのこと、お酒を飲んで泥酔した状態や、睡眠薬・精神安定剤などを服用している場合も、体の感覚が著しく鈍化します。

普段であれば熱いと感じて無意識に避けるような状況でも、体が反応せずに熱源に触れ続けてしまいます。

冬場に酔って帰宅し、こたつでそのまま寝込んでしまい、翌朝、足に広範囲の低温やけどを負っていた、というような事例は典型的なパターンです。

皮膚が薄い方や知覚が鈍い方

体の部位によっても低温やけどのしやすさは異なり、かかとのように角質が厚い部分は比較的熱に強いですが、すねやくるぶしの周り、太ももの内側などは皮膚が薄く、すぐ下に骨があるため熱の影響を受けやすく、やけどをしやすい部位です。

また、病気だけでなく、体質的に皮膚の知覚が鈍い方もいて、自分は寒がりだと思っていても、実は感覚が鈍っているだけで、必要以上に暖房器具に頼ってしまうことで、低温やけどのリスクを高めている可能性があります。

低温やけどが起きてしまった時の応急処置

もし低温やけどを負ってしまった、あるいはその疑いがある場合、その後の経過を大きく左右するのが初期対応です。慌てずに、迅速に正しい応急処置を行うことが、損傷の拡大を防ぎ、回復を早めるために極めて重要です。

まず行うべき冷却方法

低温やけどに気づいたら、何よりもまず、患部を冷やすことが最優先で、冷却の目的は、皮膚の深部に残っている熱(予熱)を取り除き、やけどがそれ以上深くなるのを防ぐことです。

最も効果的な方法は、水道の流水を直接患部に当てることで、痛みを和らげる効果もあります。水圧は強すぎず、優しく流し続けてください。洗面器などに溜めた水で冷やす場合は、水がぬるくなったらこまめに取り替えることが大切です。

やってはいけないNGな対処法

良かれと思ってやったことが、かえって症状を悪化させてしまうことがあります。低温やけどの応急処置には、いくつかの禁忌事項があります。急いで冷やそうとして氷や保冷剤を直接患部に当てるのは避けましょう。

極端な低温は、血行を悪化させ、凍傷を引き起こすなど、さらなる組織損傷の原因となります。また、できてしまった水ぶくれを自分で潰すのも厳禁です。

水ぶくれの膜は、外部の細菌から傷口を守る天然の絆創膏の役割を果たしているので、これを破ると、感染のリスクが格段に高まります。

アロエや軟膏などを自己判断で塗るのも、後の診断や治療の妨げになる可能性があるため、まずは冷却に専念してください。

応急処置のOK例とNG例

対処法OKな行動NGな行動
冷却流水で15~30分ほど優しく冷やす氷や保冷剤を直接当てる
水ぶくれ潰さずに清潔なガーゼなどで保護する針で刺したり、自分で皮をむいたりする
軟膏など医師の指示なく何も塗らない市販の軟膏や民間療法(アロエなど)を試す

特に注意すべきNGな対処法

  • 氷や保冷剤で直接冷やす
  • 水ぶくれを意図的に潰す
  • 医師の処方以外の軟膏やクリームを塗る
  • 絆創膏などを直接傷口に貼る

冷却時間の目安

冷却は、早ければ早いほど、そして十分な時間をかけるほど効果的です。最低でも15分から30分程度、痛みが和らぐまで続けることが推奨されます。途中でやめてしまうと、皮膚の深部に残った熱で再びダメージが進行してしまう可能性があります。

少し長いと感じるかもしれませんが、初期冷却が後の治療経過に大きく影響します。

ただし、広範囲のやけどを長時間冷やし続けると、体温が下がりすぎてしまう(低体温症)危険性もあるため、特に小さなお子さんや高齢者の場合は、様子を見ながら慎重に行ってください。

衣服の上からやけどした場合の注意点

カイロが下着に付着していたり、厚手の服の上から湯たんぽを当てていたりして、衣服の上からやけどをしてしまうケースもあります。

このような場合、慌てて衣服を脱がそうとすると、皮膚が衣服に張り付いていて、一緒に剥がれてしまう危険性があります。無理に脱がすのは絶対にやめてください。まずは、衣服を着たまま、その上から流水をかけて冷却を開始します。

十分に冷やして熱が取れた後、ゆっくりと慎重に衣服を脱がせるか、場合によってはハサミで衣服を切り開いて取り除く必要がありm判断に迷う場合は、無理をせず、そのままの状態で医療機関を受診してください。

皮膚科での専門的な治療法

低温やけどは、見た目の軽さに反して深部まで損傷が及んでいる可能性が高い、非常に厄介なやけどです。応急処置を済ませた後は、自己判断で様子を見るのではなく、必ず皮膚科や形成外科といった専門医の診察を受けることが大切です。

なぜ専門医の診断が重要なのか

専門医による診断が重要な最大の理由は、やけどの深達度(深さ)を正確に見極める必要があるからです。低温やけどは受傷直後には重症度を判断しにくく、数日かけて症状が変化していく特徴があります。

皮膚科医は、やけどの色調、硬さ、水ぶくれの状態、知覚の有無などを詳細に観察し、これまでの経験と知識に基づいて深達度を判断します。軽症と判断すれば軟膏などによる保存的治療を選択し、重症と判断すれば外科的治療を視野に入れます。

受診を強く推奨するサイン

  • 水ぶくれができている
  • 皮膚の色が白や黒っぽく変色している
  • やけどの部分の感覚がない、または鈍い
  • 痛みが非常に強い、または全くない
  • 数日経っても赤みや痛みが引かない

保存的治療(軟膏治療など)

やけどの深さが比較的浅いI度から浅達性II度(真皮の浅い層までの損傷)と診断された場合は、主に保存的治療が行われ、手術を行わずに、人間が本来持っている治癒能力を最大限に引き出す治療法です。

やけどの創部を洗浄して清潔に保ち、感染を予防するための抗生物質含有軟膏や、皮膚の再生を促進する創傷被覆材(ドレッシング材)などを使用します。

定期的に通院して医師の診察を受け、創部の状態に合わせて適切な処置を継続することで、多くはきれいに治癒します。

治療に用いられる主な外用薬(軟膏)の種類

軟膏の種類主な働き代表的な薬剤名
抗菌薬含有軟膏細菌の増殖を抑え、感染を予防するゲーベンクリームなど
皮膚再生促進薬皮膚組織の再生を促し、治癒を早めるアクトシン軟膏、フィブラストスプレーなど
壊死組織融解薬死んでしまった組織を溶かして除去するブロメライン軟膏など

外科的治療(デブリードマン、植皮手術)

やけどが深達性II度(真皮の深い層までの損傷)やIII度に達していると診断された場合、保存的治療だけでは治癒が困難なため、外科的な治療が必要となります。

まず行われるのが「デブリードマン」という処置で、これは、壊死してしまった皮膚組織をメスやハサミで切除し、取り除く手術です。死んだ組織は感染の温床となり、新しい皮膚の再生を妨げるため、除去することが治癒への第一歩です。

デブリードマンによって創部がきれいになった後、欠損した皮膚を補うために「植皮術(皮膚移植)」が行われることもあり、患者さん自身の健康な皮膚(主にお尻や太ももから採取)を、やけどの跡に移植します。

治療期間と回復までの道のり

I度の軽いやけどであれば1〜2週間程度で治癒しますが、II度の場合は数週間から1ヶ月以上、III度で植皮手術などが必要になった場合は、数ヶ月単位の治療とリハビリテーションが必要になることもあります。

低温やけどは治癒までに時間がかかり、根気強い通院とケアが求められます。

また、治癒した後も、傷跡が赤く盛り上がったり(肥厚性瘢痕)、ケロイドになったり、色素沈着や色素脱失が残ったりすることがあり、後遺症に対しても、内服薬や外用薬、レーザー治療など、さまざまなフォローアップ治療があります。

低温やけどを予防するための対策

治療には多大な時間と労力を要する低温やけど。最善の策は、言うまでもなく、まず発生させないことです。日常生活における少しの注意と工夫で、低温やけどのリスクは大幅に減らすことができます。

暖房器具の正しい使い方

冬の生活に欠かせない暖房器具ですが、使い方を誤ると低温やけどの直接的な原因となります。カイロや湯たんぽ、電気あんかなどは、絶対に皮膚に直接当ててはいけません。

必ずタオルや専用のカバーで包み、さらに衣類の上から使用してください。また、就寝時にはタイマー機能を積極的に活用し、眠っている間は電源が切れるように設定するのが安全です。

こたつやホットカーペットも、長時間同じ姿勢で使い続けるのは危険なので、時々体勢を変えたり、一度外に出て体を冷ましたりする習慣をつけましょう。

暖房器具ごとの安全な使い方ポイント

暖房器具安全な使い方のポイント特に注意すべきこと
湯たんぽ・あんか厚手のカバーを使い、布団が温まったら外に出す就寝中、体に直接触れ続けないようにする
使い捨てカイロ肌に直接貼らず、必ず衣類の上に貼る。就寝時は使用しない同じ場所に長時間貼り続けない
電気毛布・こたつ就寝時はタイマーを設定するか、電源を切る。温度設定は低めにする脱水症状にも注意が必要

就寝時の注意点

睡眠中は無意識のうちに低温やけどを負うリスクが高い時間帯で、最も安全なのは、就寝時には体に直接触れるタイプの暖房器具(湯たんぽ、電気あんか、カイロなど)は使用しないことです。

布団が冷たくて寝付けないという場合は、眠る前に布団乾燥機や電気毛布で温めておき、就寝時には電源を切るか、布団から取り出すようにしましょう。この一手間が、深刻なやけどを防ぎます。

長時間同じ姿勢を避ける工夫

デスクワークや趣味などで、長時間同じ姿勢を取り続けることも、低温やけどの間接的な原因となります。

ノートパソコンを膝の上で使い続けたり、ホットカーペットの上で何時間も座り続けたりすると、体の同じ部分に熱がこもり、血行が悪くなって低温やけどのリスクが高まります。

少なくとも1時間に1回は立ち上がって体を動かし、血流を促すように心がけましょう。スマートフォンを操作する際も、長時間同じ手で持ち続けず、時々持ち替えたり、テーブルに置いたりする工夫が有効です。

製品選びと安全機能の活用

最近の暖房器具や家電製品には、安全に配慮した機能が搭載されているものが増えています。製品を選ぶ際には、価格やデザインだけでなく、安全機能にも注目しましょう。

設定温度を細かく調節できる機能や、一定時間が経過すると自動的に電源が切れるオフタイマー機能、異常な温度上昇を感知して停止する機能などがあると安心です。

日常生活でできる予防のための習慣

  • 暖房器具は皮膚に直接触れさせない
  • 就寝時は体に触れる暖房器具の電源を切る
  • 長時間、同じ姿勢でいないように意識する
  • 製品の安全機能を正しく利用する
  • 飲酒後や睡眠薬服用時は特に注意する

低温やけどに関するよくある質問

最後に、低温やけどに関して、患者さんから特によく寄せられる質問と回答をまとめました。

水ぶくれは潰してもいいですか?

自己判断で水ぶくれを潰すのは絶対にやめてください。水ぶくれ(水疱)の中の液体には、傷の治癒を助ける成分が含まれ、また、水ぶくれの皮は、外部の細菌などから傷口を守るバリアの役割を果たしています。

無理に破ってしまうと、強い痛みが生じるだけでなく、細菌が侵入して感染を起こすリスクが非常に高くなります。

水ぶくれができてしまった場合は、潰さずに清潔なガーゼなどで保護し、できるだけ早く皮膚科を受診してください。

跡は残りますか?

皮膚の最も表面にある表皮だけの損傷であるI度のやけどであれば、通常は跡を残さずに治ります。

しかし、その下の真皮にまで達するII度のやけどや、皮下組織まで及ぶIII度のやけどでは、治癒した後に傷跡(瘢痕)が残る可能性が高くなります。低温やけどは深部に達しやすいため、跡が残りやすいです。

皮膚のひきつれ(瘢痕拘縮)、赤みや茶色いシミのような色の変化(色素沈着)、色が白く抜けてしまう(色素脱失)などが考えられます。

何科を受診すればよいですか?

やけどをした場合は、皮膚科または形成外科の受診を推奨します。皮膚科は皮膚疾患全般の専門家であり、やけどの診断から保存的治療まで幅広く対応しています。

形成外科は、やけどや外傷などによる体の表面の変形や機能障害を、手術などを用いて治療することを専門としています。

やけどが広範囲に及ぶ場合や、顔や手足など機能的・整容的に重要な部位のやけど、植皮手術が必要になるような重症のやけどの場合は、形成外科での治療が望ましいことがあります。

どちらを受診すればよいか迷う場合は、まずはお近くの皮膚科クリニックに相談してみるのがよいでしょう。

治療費はどのくらいかかりますか?

低温やけどの治療は、基本的に健康保険が適用され、窓口での自己負担額は、全体の医療費の1割から3割(年齢や所得によって異なります)となります。

軟膏処置などの保存的治療で済む場合は、数千円から1万円程度が目安となりますが、デブリードマンや植皮術といった手術が必要になると、入院費用なども含めて高額になることがあります。

ただし、高額療養費制度を利用することで、1ヶ月の医療費の自己負担額に上限を設けることができます。

以上 

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