年齢を重ねるにつれ、気になる眉間や目尻のシワ、ほうれい線。これらの悩みを解決するのに効果的なボトックス注射とヒアルロン酸注射。でも、一体どちらを選べばいいのか、両者の違いがよく分からない方、どちらの施術をすべきか迷われる方も少なくありません。
この記事では、ボトックスとヒアルロン酸の違いについて、どっちがいいのか解説しました。眉間や目尻のシワ、ほうれい線など部位別に向いているのはどちらなのか、効果や副作用などについて紹介しています。
シワやほうれい線にお悩みで、ボトックスやヒアルロン酸を検討中の方はぜひ参考にしてください。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
ボトックスとは
ボトックスは非常に有名な美容医療のひとつですが、実は「ボトックス」は商品名であり、施術を指す言葉ではありません。
ボトックスは、本来「ボツリヌストキシンA型」と呼ぶ施術のなかまです。
ですが、世の中ではすでにボトックスの呼び名が定着しているため、この記事でも以降ではボトックスと表記していきます。
- ボトックス(アラガン社)
- ニューロノックス(メディトックス社/韓国)
- ゼオミン(メルツ社/ドイツ)
- ディスポート(Ipsen社/イギリス)
ボトックスの効果や治療内容は数多くありますが、簡潔に言うと「筋肉を麻痺させてお悩みを解消する」ものです。
筋肉を麻痺させて、表情筋によってできてしまうシワを解消したり、筋肉自体をボリュームダウンさせてエラやフェイスラインをシャープにしたりできる治療がボトックスです。(他に、多汗症の治療にも用いられます。)
表情筋によるシワを解消できる
身体と同じように、わたしたちの顔にもたくさんの筋肉があり、これを表情筋と呼んでいます。
人は表情筋があるおかげで多彩な表情をつくれているのですが、表情筋の働きによってシワが発生してしまう側面も持ち合わせています。
- 目を開いたり眉を動かしたりした際にできるおでこのシワ
- 目を細めた際に眉間にできるシワ
- 笑った際にできる目尻のシワ
- 笑った際にできる梅干し状のあごのシワ
筋肉を動かすためには、神経伝達物質(アセチルコリン)が脳から神経に指令を送る必要があります。
ボトックスはこのアセチルコリンの働きをブロックする作用があるため、表情筋の動きを麻痺させて表情筋によってできるシワを解消できるという仕組みです。
筋肉が原因のエラ張りにも効果的
ボトックスは、筋肉を原因とするエラ張りにも効果があります。また、フェイスラインの筋肉のボリュームダウンにより小顔効果も期待できます。
エラ張りの原因は骨が原因だと思っている方も多いようですが、実は、噛む力に関係している咬筋(こうきん)の発達が原因であるケースも少なくありません。
咬筋が発達するとエラが出ているように見えたり、フェイスライン全体にボリュームが出たりしまうため、ボトックスを注入して筋肉のボリュームをダウンさせる施術が選択される場合があります。
ボトックスは怖いもの?
先述したように、ボトックス=ボツリヌストキシンA型です。
「トキシン(毒)」と名前がついているため、怖いのではないか?心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、ボトックスの安全性は高いとされており、長い歴史を持つ治療薬で実績も豊富です。
特に皮膚科領域では40年以上の歴史があり、多くの症例があります。
ボトックスの効果や目的、副作用を動画(Youtube)で解説
ヒアルロン酸とは
ヒアルロン酸とは、もともとわたしたちの皮膚にも存在している天然由来の成分です。保水力があり、皮膚の潤いやハリを持たせる役割を持ちます。
人体では絶えずヒアルロン酸が生成されていますが、加齢とともに生成できる量が減少していき、皮膚に潤いやハリが無くなり、だんだんとシワやたるみが目立つようになります。
そこで、皮膚のヒアルロン酸不足を人工的に補おうというのが、ヒアルロン酸注射です。
皮膚のボリューム不足によるシワやたるみに効果的
ヒアルロン酸は水分を保持する性質があるため、注入することで肌に潤いを与え、ふっくらとさせます。
また、加齢とともに減少する皮下組織のボリュームを補い、シワやたるみを改善する効果が期待できます。
- 皮膚に刻まれたシワ(ほうれい線、ゴルゴ線、マリオネットライン、目尻など)
- たるみ(頬、口元、目の下)
涙袋やおでこなどの形成にも効果的
ヒアルロン酸注射はボリュームダウンしてしまった部位を補うだけでなく、涙袋を作ったり、おでこを丸くしたりといった形成にも用いられます。
ヒアルロン酸自体は時間の経過とともに身体に吸収されていくため、形成した部分は自然にもとに戻っていきます。
- 涙袋の形成
- おでこを丸くする
- 鼻筋を目立たせる
- 唇のボリュームアップ
ボトックスとヒアルロン酸の違い
ボトックスとヒアルロン酸はどちらもシワやたるみを改善する美容医療ではありますが、効果や適している部位が異なります。
同じように見えるシワやたるみでも、ボトックス向きのものとヒアルロン酸向きのものがあります。
どっちが良いのか、ボトックスとヒアルロン酸の違いを知り確認しておくようにしましょう。
作用機序・効果の違い
作用機序とは、“薬が治療効果をおよぼす仕組み”と言い換えられます。
ボトックスは筋肉の動きを抑制してシワを改善するのに対し、ヒアルロン酸はシワや溝を物理的に埋めてボリュームアップすることで改善します。
ボトックス | 表情筋を麻痺させてシワやたるみを改善する |
---|---|
ヒアルロン酸 | 皮膚のボリュームをアップさせてシワやたるみを改善する |
持続時間の違い
ボトックス | 4~5ヶ月程度 |
---|---|
ヒアルロン酸 | 半年~1年程度 |
持続時間については個人差があるものの、いずれも継続的に施術を受けるとより効果的です。
適応部位の違い
ボトックスは表情筋が原因でシワやたるみができる部位、ヒアルロン酸は皮膚のハリやボリューム不足でシワやたるみができる部位に向いています。
ボトックスとヒアルロン酸の適用部位
施術 | 適用部位 |
---|---|
ボトックス | おでこ、眉間、目尻、あご |
ヒアルロン酸 | ほうれい線、頬、こめかみ、目尻 |
どっちが痛い?
どちらも注射針を使用して薬を注入する施術のため、多少の痛みを感じます。
痛みには個人差があるためどちらの方が痛いとは一概にはいえませんが、施術部位によっては痛みを感じやすい部位があるほか、注入する量が多いほど、注射針を深く指すほど痛みは感じやすくなります。
- 皮膚が薄い部位…眉間、目尻、口周り
- 血管や神経が多く通っている部位…ほうれい線
値段の違い
ボトックスとヒアルロン酸は自費診療での治療となるため、病院によって値段が大きく異なります。また、治療部位や薬の種類、注入する薬の量によっても料金は変わってきます。
おおよその値段目安
ボトックス | 1部位あたり1~3万円 |
---|---|
ヒアルロン酸 | 1部位あたり5~10万円程度 (軽いシワとりの場合は1部位1~3万円) |
部位別の比較
眉間、目尻、おでこ、ほうれい線・マリオネットラインと、部位別にボトックスとヒアルロン酸のどっちが向いているのか、打った場合のそれぞれの特徴についてまとめました。
眉間のシワ
眉間のシワは表情筋が原因でできるものですが、長期間そのままにしておくと、皮膚表面にまでシワが刻まれてしまう場合があります。
そのため、シワの状態によってはボトックスとヒアルロン酸の両方がすすめられる場合もあります。
ボトックス | 表情筋で引っ張られた皮膚がつくるシワに有効 |
---|---|
ヒアルロン酸 | 皮膚表面に刻まれたシワに有効 |
目尻のシワ
ボトックス | 笑った際にできる目尻のシワに有効 |
---|---|
ヒアルロン酸 | 目尻にある浅い細かなシワを解消するのに有効 |
また、眉間と同じように、笑った際にできる表情筋のシワが長期化していると、皮膚表面に刻まれてしまう場合があるため、ボトックスとヒアルロン酸を組み合わせた治療がすすめられるケースもあります。
おでこのシワ
ボトックス | 目を開いた際や上を向いた際にできるおでこのシワは表情筋が原因であるため、一般的にはボトックス注射が得意とする部位です。 |
---|---|
ヒアルロン酸 | おでこの皮膚のたるみによるシワの解消、おでこ表面の凹凸をなめらかにする目的で選択されます。 |
ボトックスを行った上で、すでに刻まれてしまったシワをヒアルロン酸で解消する選択は有効ですが、まずはボトックスをすすめられる場合が多いです。
ほうれい線・マリオネットライン
ボトックス | ほうれい線やマリオネットラインにお悩みの方がボトックスを打つと、口周りの筋肉の働きが抑制されシワができにくくなります。 |
---|---|
ヒアルロン酸 | ヒアルロン酸は肌のハリやボリュームがアップするため、弾力が上がる効果により、ほうれい線やマリオネットラインが目立たなくなります。 |
どちらにするかは顔面の筋肉の性質や希望する仕上がりによるため、医師と相談して決めていきます。
ボトックスとヒアルロン酸どっちがいい?選択基準とは
ボトックスとヒアルロン酸は、作用機序や得意とするシワや部位があるため、一概にどちらがいいとは言えません。
ボトックスは表情筋の動きを抑制してシワやたるみを改善するため、表情によってできるシワやたるみに効果的です。
対してヒアルロン酸は皮膚の弾力やハリを補ってシワやたるみを解消するものであるため、表情を動かさなくてもできるシワや、ボリューム不足によってできるたるみに効果的です。
ボトックスとヒアルロン酸の選択基準
ボトックス | ヒアルロン酸 | |
---|---|---|
お悩みタイプ | 表情によってできるシワ | 表面を動かさなくてもできるシワ |
具体的な部位 | おでこ、眉間、目尻、あご | ほうれい線、頬、こめかみ、目尻 |
ただし、シワやたるみの原因はひとつではなく、表情筋の働き、ハリや弾力不足が複合してできているケースも多いです。
そのため、ボトックスとヒアルロン酸を組み合わせて行うとより効果が見込める場合もあります。
ボトックスとヒアルロン酸は同時・同日にできる?
ボトックスとヒアルロン酸は同時・同日に施術可能ですが、部位や目的によっては別々に行った方が良い場合もあります。
基本的に同時にできる
ボトックスとヒアルロン酸は基本的に同時・同日に行えます。
ボトックスとヒアルロン酸を併用するとより高い効果が期待できるため、両者を組み合わせて治療される方も少なくありません。
どっちが先?順番は?
どちらを先に行うかは、シワやたるみの状態や希望する仕上がりによって判断されます。
もし同じ場所に両方の施術を行いたい場合の、一般的な目安は次の通りです。
お悩み | 順番 ※あくまでも目安です |
---|---|
表情筋によってできるシワ | ボトックス⇒ヒアルロン酸 |
表情を動かさなくてもできるシワ | ヒアルロン酸⇒ボトックス |
ほうれい線・マリオネットライン | ボトックス⇒ヒアルロン酸 |
ボトックスとヒアルロン酸は同日での施術が可能ですが、まずはいずれかを注射し、少し間隔を開け、仕上がった状態に合わせて治療を進めていく方法もあります。
その他、ボトックスを先にするケース
エラやふくらはぎなど、筋肉の縮小を目的とする場合 | ボトックスで筋肉をリラックスさせてからヒアルロン酸を注入することで、より自然な仕上がりが期待できます。 |
---|---|
口角を上げる、顎の梅干しジワを改善する場合 | ボトックスで筋肉の動きを調整してからヒアルロン酸でボリュームを出すと、効果的です。 |
その他、ヒアルロン酸を先にするケース
深いシワを改善する場合 | ヒアルロン酸でシワを持ち上げてからボトックスを注入すると、より効果的です。 |
---|---|
額やこめかみなど、ボリュームを出したい場合 | ヒアルロン酸でボリュームを出してからボトックスを注入すると、自然な仕上がりになります。 |
同時に併用できるケース
目尻のシワや眉間のシワ | ボトックスとヒアルロン酸を同時に行うことで、相乗効果が期待できます。 |
---|
どちらを先にするかは一概には言えませんので、専門の医師に相談し、状態や目的に合わせて治療計画を立ててもらいましょう。
ボトックス・ヒアルロン酸を打つ間隔
ボトックスとヒアルロン酸を打つ間隔は、目的や部位によって異なります。
目尻のシワや眉間のシワは、ボトックスとヒアルロン酸を同時に行うことで相乗効果が期待できるため、間隔をあける必要はありません。
間隔を空けた方がよいケースとしては、以下のような場合が考えられます。
効果を確認してから追加したい場合
ボトックスの効果が現れるまでに1週間程度、ヒアルロン酸の効果が現れるまでに数日かかるため、効果を確認してから追加する場合は、数週間の間隔をあけることをおすすめします。
同じ部位に繰り返し施術する場合
ボトックスの効果が薄れてきたと感じてから再注入するのが一般的です。効果の持続期間は個人差がありますが、4〜5ヶ月程度です。
ヒアルロン酸も同様で、効果の持続期間は6ヶ月〜1年程度です。
異なる部位に施術する場合
部位によって効果の持続期間やダウンタイムが異なるため、医師と相談して間隔を決めていきます。
- ボトックスとヒアルロン酸を併用する場合、まれに内出血や腫れなどの副作用が起こることがあります。
- 妊娠中や授乳中の方は、施術を受けられない場合があります。
副作用とリスク
ボトックスとヒアルロン酸は、内出血や腫れなどの軽度の副作用が起こる可能性がありますが、重篤な副作用は稀であるとされています。
施術を受ける際には副作用を理解した上で受けるようにしましょう。
ボトックスの副作用とリスク
ボトックスの副作用やリスクには、注射によるものと、薬によるものがあります。
- 注射部位の痛みや腫れ
- 注射部の内出血
- 頭痛、吐き気、筋肉痛
- アレルギー反応
また、誤った場所に注射をしてしまったり注入量が適切でなかったりすると、不自然な表情になってしまう、思ったような仕上がりにならない場合があります。
いずれの副作用も実際に起こる確率は低いものですが、もし上記のような症状がみられた場合はすぐ医師に相談しましょう。
ヒアルロン酸の副作用とリスク
ヒアルロン酸の副作用やリスクもボトックスと同様、注射によるものと、薬によるものがあります。
- 注射部位の痛みや腫れ
- 注射部の内出血
- 注入部にしこりができる
- アレルギー反応
また、ヒアルロン酸の注入部位や注入量によっては不自然な仕上がりになってしまう可能性もあるため、経験豊富な医師に施術をしてもらうようにしましょう。
まとめ
ボトックスとヒアルロン酸は、どちらもシワやたるみを解消する治療に違いはありませんが、ボトックスは表情筋が原因でシワやたるみができる部位、ヒアルロン酸は皮膚のハリやボリューム不足でシワやたるみができる部位に向いています。
場合によっては、ボトックスとヒアルロン酸を組み合わせて行うと、より効果的にシワやたるみの治療ができることもあります。
自分のお悩みが表情筋によるものなのか皮膚のボリューム不足によるものなのかの見極めは難しく、両方の要因が重なっているケースもあるため、どちらの施術が望ましいかはまずは専門医へご相談ください。
ボトックスとヒアルロン酸の違いについてよくある質問
参考文献
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ボトックスビスタ® 医薬品インタビューフォーム https://allergan-web-cdn-prod.azureedge.net/allerganjapan/allerganjapan/media/allergan-japan/products/botox-vista-if_202006_jp-bct-2050106.pdf
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