虫刺されによる強い痒みや異常な腫れは、日常生活に支障をきたすだけでなく、思いがけない皮膚トラブルへと発展する可能性があります。
たかが虫刺されと軽く見ていると、患部が化膿したり、治ったあとも色素沈着として跡が残ったりするケースも少なくありません。市販薬を使っても症状が改善しない場合や、腫れが日に日に増している場合は、専門的な治療が必要です。
この記事では、皮膚科を受診すべき判断基準や、病院で処方される薬の種類、虫の種類ごとの特徴について詳しく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
虫刺されで皮膚科を受診すべき症状の基準
虫刺されは日常的なトラブルですが、どのタイミングで医療機関にかかるべきか迷う患者さんは多くいて、自己判断で様子を見続けてしまい、治療期間が長引くケースも珍しくありません。
症状が悪化する前に専門家の判断を仰ぐことが、早期回復への鍵です。
腫れや赤みが広がっている場合
刺された箇所を中心にして、赤みや腫れが直径数センチ以上に広がっている場合は注意が必要です。
通常の虫刺されであれば、数時間から数日で局所的な反応は治まりますが、範囲が拡大している事実は、体内で強いアレルギー反応が起きているか、細菌感染を併発している可能性を示唆します。
患部が熱を持っている場合や、触れると硬いしこりのようなものを感じる場合は、皮下組織の深い部分まで炎症が波及していると考えられます。
赤みが手足全体に広がったり、赤い筋のような線が伸びてきたりする症状は、リンパ管炎を起こしている恐れもあり、このような状態に至ると、市販の塗り薬だけで炎症を抑え込むことは難しくなります。
強力な抗炎症作用を持つ処方薬を用いて、一気に炎症を鎮火させる治療が必要です。また、広範囲にわたる腫れは蜂窩織炎(ほうかしきえん)という重篤な感染症の初期症状である場合もあるため、早期の鑑別診断が大切になります。
痒みや痛みが激しく眠れない時
痒みや痛みによって夜も眠れない、あるいは仕事や学業に集中できないといった状態は、すでに生活の質(QOL)が著しく低下しているサインです。我慢できる範囲を超えた痒みは、無意識のうちに患部を掻きむしる行動を起こします。
爪で皮膚を傷つけると、そこから黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入し、とびひ(伝染性膿痂疹)などの二次感染を起こす原因となります。
皮膚科では、痒みを脳に伝える神経の働きをブロックする内服薬や、炎症の元を断つ外用薬を組み合わせて処方します。
我慢してストレスを抱え込むよりも、薬の力を借りて速やかに不快な症状を取り除くほうが、皮膚へのダメージを最小限に抑えられます。
痛みを感じる場合は、虫の毒素による直接的な作用や、炎症が神経を圧迫している可能性があるため、鎮痛作用も含めたアプローチが大切です。
受診を検討すべき症状のレベル分け
| 症状のレベル | 状態の詳細 | 推奨される行動 |
|---|---|---|
| 軽度 | 刺された箇所だけの小さな赤みや痒み | 患部を冷やして様子を見る |
| 中等度 | 手のひらサイズ以上の腫れや強い熱感 | 数日以内に皮膚科を受診する |
| 重度 | 全身の蕁麻疹や呼吸苦、意識の混濁 | 直ちに救急医療機関へ行く |
全身症状やアレルギー反応の兆候
虫に刺された直後から数十分以内に、刺された場所とは関係のない部位に異変が現れることがあり、全身に蕁麻疹が出る、唇やあごが腫れる、声が枯れる、息苦しさを感じるといった症状です。
アナフィラキシーと呼ばれる重篤なアレルギー反応の前兆である可能性が高く、一刻を争う事態です。
また、発熱や倦怠感、関節痛といった風邪のような症状が、虫刺されの後に現れることもあり、虫が媒介する感染症や、毒素に対する全身性の反応を疑う根拠となります。皮膚の症状だけでなく、体調全体に目を向けることが重要です。
過去にハチやムカデなどに刺された経験がある患者さんは、二度目以降に反応が強く出ることがあるため、わずかな体調変化も見逃さないようにしましょう。
虫の種類による症状の違いと特徴
一口に虫刺されと言っても、原因となる虫によって皮膚に現れる症状や経過は大きく異なります。正体不明の虫に刺された場合でも、皮膚に残された痕跡や症状の出方から、ある程度の推測が可能です。
蚊やブヨによる遅延型アレルギー
蚊に刺されたときの痒みには、直後に起こる即時型反応と、翌日以降にぶり返す遅延型反応の二種類があり、子供や、その種類の蚊に免疫がない人は、遅延型反応が強く出ます。
水ぶくれができたり、赤く硬いしこりが数週間残ったりすることもあり、ブヨ(ブユ)の場合は、蚊よりも皮膚を噛みちぎるようにして吸血するため、出血点が見られることが多く、腫れや痛痒さが長期間続くのが特徴です。
虫による反応はアレルギー性の機序が強いため、抗アレルギー薬の内服が奏功し、痒みが治まったあとも、色素沈着を起こしやすいので、紫外線ケアを含めた長期的な皮膚の管理が求められます。
ハチやムカデによる即時型の痛み
ハチやムカデの被害は、吸血ではなく防衛本能による攻撃であるため、毒素による激しい痛みを伴い、刺された瞬間に電撃のような衝撃が走り、数分以内に患部が赤く腫れ上がります。
ハチ毒には組織を破壊する酵素や痛みを増強する成分が含まれており、ムカデの毒も同様に強力な炎症を起こし、アレルギー反応とは別に、毒そのものの作用による皮膚炎(化学熱傷に近い状態)を起こすことがあります。
ムカデの咬み跡は、二つの小さな穴が並んで残ることがあり、これが診断の決め手です。毒虫による被害では、患部を冷やすことと同時に、ステロイド外用薬の中でも特にランクの高いものを使用して、炎症を抑え込みます。
主要な虫とその症状の特徴
| 虫の種類 | 主な症状 | 特徴的な経過 |
|---|---|---|
| ブヨ(ブユ) | 強い腫れと出血点、熱感 | 翌日以降に症状がピークに達する |
| ノミ | 水ぶくれを伴う強い痒み | 不規則に数か所まとめて刺される |
| ケムシ(毒蛾) | 無数の赤いブツブツと激痒 | 触れた部分に密集して発疹が出る |
ダニやノミによるしつこい痒み
室内で発生しやすいイエダニや、ペットから感染するノミによる被害は、非常に強い痒みが特徴です。
衣服の下、特にわき腹や太ももの内側など、皮膚の柔らかい部分を好んで刺し、一度刺されると痒みが一週間以上続くことも稀ではなく、夜間に痒みが増強して睡眠を妨げます。
ノミに刺された場合は、水ぶくれができやすく、治ったあとも痕が残りやすいです。ダニ刺されの一種であるツメダニは、畳や布団に潜んでおり、秋口に被害が増えます。
ノミやダニに刺された直後には症状が出ず、半日から一日経ってから赤い発疹が現れる遅延型の反応を示します。被害が続く場合は、皮膚科での治療と並行して、寝具の乾燥や掃除、燻煙剤の使用など、環境面での対策を徹底することが必要です。
毛虫による皮膚炎と毒針の対処
ツバキやサザンカなどの樹木につくチャドクガの幼虫は、毒針毛(どくしんもう)と呼ばれる目に見えないほど微細な針を持っています。
毛虫に直接触れなくても、風で飛んできた毒針毛が皮膚に付着するだけで、激しい痒みを伴う皮膚炎を発症し、首筋や腕など、露出している部分に赤いブツブツが多発するのが典型的な症状です。
毛虫皮膚炎の治療で最も大切なことは、患部を擦らないことで、掻いたり擦ったりすると、皮膚に付着している毒針毛をさらに深く、広範囲に押し込んでしまうことになります。
粘着テープを使って毒針毛をそっと取り除くか、泡立てた石鹸で優しく洗い流す処置を優先します。衣類にも毒針毛が付着している可能性があるため、他の洗濯物とは分けて洗う、あるいは50度以上のお湯で無毒化するといった配慮が必要です。
皮膚科で処方される塗り薬と飲み薬
皮膚科を受診する最大のメリットは、患者さん一人ひとりの症状や皮膚の状態に合わせて、効果の高い薬剤を選定してもらえる点にあります。
市販薬では対応しきれない強い炎症も、医師の診断に基づいた処方薬であれば、短期間で効率よく鎮めることが可能です。
ステロイド外用薬の強さと選び方
虫刺され治療の基本となるのがステロイド外用薬です。ステロイドには炎症を強力に抑える作用があり、血管の拡張を鎮め、腫れや赤みを速やかに引かせる効果があります。
日本国内では、ステロイド外用薬はその効果の強さに応じて5つのランクに分類されていて、皮膚科医は、刺された部位の皮膚の厚さ(顔や首は薄く、手足は厚いなど)や、炎症の重症度に応じて、ふさわしいランクの薬を選択します。
手足や胴体などの皮膚が厚い部分には、比較的ランクの高い「ストロング」や「ベリーストロング」クラスの薬を用いて、短期間で治療を完了させる方針をとることが一般的です。
反対に、顔やデリケートゾーンなどの吸収率が高い部位には、副作用のリスクを考慮してランクを落とした薬を選びます。
ステロイド外用薬のランク分類
- ストロンゲスト(最も強い):専門医の管理下でのみ使用
- ベリーストロング(非常に強い):体幹や手足の重い症状に適用
- ストロング(強い):一般的な虫刺されに頻用される
- ミディアム(中程度):顔や首、子供の皮膚に適している
- ウィーク(弱い):非常に軽微な症状や敏感な部位に使用
抗ヒスタミン薬の内服が必要なケース
塗り薬だけでは痒みが収まらない場合や、腫れの範囲が広い場合には、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服を併用します。
体内でアレルギー反応を起こす物質であるヒスタミンの働きをブロックすることで、内側から痒みをコントロールします。
特に、就寝中に無意識に掻いてしまう患者さんや、仕事中に痒みが気になって仕方がない患者さんにとって、内服薬は大きな助けです。
近年の抗ヒスタミン薬は、眠くなりにくいタイプや、1日1回の服用で効果が持続するタイプなど、多くの種類が登場しています。患者さんのライフスタイルや、車の運転をするかどうかなどを考慮して、薬剤を選択します。
抗生物質が処方される細菌感染の合併
虫刺されを掻き壊してしまい、傷口から細菌が入り込んでとびひや蜂窩織炎になっている場合は、ステロイド薬だけでは不十分で、感染症がある状態でステロイドのみを使用すると、細菌の増殖を助長してしまうリスクさえあります。
黄色い汁が出ている、痛みが強い、患部が熱を持っているといった細菌感染のサインが見られる場合は、抗生物質(抗菌薬)の内服や外用を行います。
感染の程度によっては、細菌を殺すための飲み薬を数日間服用し、まずは菌を叩くことを優先することが大切です。その後、あるいは並行して、痒み止めの治療を行います。
自己判断で手持ちのステロイド薬を塗って悪化させてから来院するケースが多いため、ジュクジュクとした症状があるときは、何も塗らずに受診することが賢明です。
市販薬と処方薬の決定的な違い
ドラッグストアには数多くの虫刺され薬が並んでいますが、病院で出される薬とは何が違うのでしょうか。成分の名前は似ていても、含有量や基剤(薬を溶かしている成分)の設計には大きな差があります。
成分の含有量と浸透力の差
市販薬は、誰が使っても大きな副作用が出ないように、安全性を最優先して成分濃度が調整されているため、マイルドな効き目のものが多く、ひどく腫れ上がった虫刺されに対しては力不足となることがあります。
処方薬は医師の診断のもとで使用されることを前提としているため、有効成分が十分に配合されており、皮膚の奥深くにある炎症部位までしっかりと薬効を届けることが可能です。
また、薬の形状(軟膏、クリーム、ローション)も、患部の状態に合わせて細かく選定されます。
ジュクジュクした傷には保護作用のある軟膏を、カサカサした患部や毛の生えている部位には伸びの良いクリームやローションを選ぶなど、基剤の選択一つで薬の浸透力や治り方は変わります。
市販薬と処方薬の比較表
| 比較項目 | 市販薬(OTC) | 処方薬(医療用医薬品) |
|---|---|---|
| 効き目の強さ | 安全性を重視し、穏やかなものが多い | 症状に合わせて強力なものを選択可能 |
| 成分の純度 | 清涼成分などを配合した複合剤が多い | 治療に必要な成分に特化した単剤が基本 |
| 使用の判断 | 患者さん自身の自己判断に委ねられる | 医師が責任を持って診断し処方を決定 |
自己判断での使用による悪化リスク
市販薬の中には、痒み止め成分と一緒に、殺菌成分や清涼感を与えるメントールなどが配合されているものが多くあります。
軽度の虫刺されには便利ですが、皮膚が敏感になっている状態や、ひどくただれている状態に使用すると、かえって刺激となり接触皮膚炎(かぶれ)を起こすことがあります。
「薬を塗っているのに痒みが増した」と感じる場合は、薬そのものが肌に合っていない可能性が高いです。
また、感染症を起こしているのにステロイド薬を塗り続けたり、真菌(カビ)の感染である白癬を虫刺されと勘違いして薬を塗ったりすることで、症状を複雑化させてしまう例も後を絶ちません。
自己判断による誤った治療は、本来なら数日で治るはずの病変を、長引かせてしまう最大の要因です。
薬剤師や医師への相談が必要なタイミング
市販薬を使用して3日から4日が経過しても症状が改善しない、あるいは悪化している場合は、薬が合っていないか、病状に対して薬の強さが足りていない証拠です。
こういう場合は、漫然と使用を続けることは避け、医療機関への受診に切り替え、市販薬のパッケージに記載されている「使用上の注意」に該当する症状が出た場合も、直ちに使用を中止する必要があります。
妊娠中や授乳中の患者さん、基礎疾患を持っている患者さんも、薬の成分が体に及ぼす影響を考慮しなければなりません。自己判断で使用できる市販薬であっても、体の状態によっては使用を控えるべきケースがあります。
虫刺されを放置した際のリスクと合併症
「放っておけばそのうち治るだろう」という油断は禁物です。処置を行わずに時間を経過させることは、単に治りが遅くなるだけでなく、皮膚にダメージを残したり、別の病気を誘発したりするリスクを高めます。
とびひ(伝染性膿痂疹)への移行
虫刺されの患部を掻き壊すことで生じる最も代表的な合併症がとびひです。黄色ブドウ球菌やレンサ球菌が傷口で増殖し、水ぶくれやかさぶたを作ります。
この菌を含んだ浸出液が、手や爪を介して体の他の部分に触れると、新たな水ぶくれができ、文字通り「火事の飛び火」のように全身へ広がっていきます。
免疫力の弱い子供に多く見られ、一度発症すると兄弟間やプールなどで他者に感染させるリスクも生じます。
とびひになってしまうと、虫刺されの治療だけでなく、抗生物質の内服や殺菌作用のある外用薬の使用が必要となり、治療期間も長くなります。
また、稀にレンサ球菌感染から腎炎などの全身疾患を起こすこともあるため、掻き壊しを防ぐ初期対応が、とびひ予防の最重要課題です。
放置することによるリスク
- 細菌が侵入し、患部が化膿して痛みを伴うようになる
- 色素沈着が真皮層まで達し、数年間消えないシミになる
- 慢性的な痒みが続く結節性痒疹へと変化してしまう
- 掻くことで皮膚が分厚く硬くなる苔癬化(たいせんか)が進む
- 感染症がリンパ管を通り、全身の発熱を引き起こす
色素沈着や傷跡が残る可能性
炎症が長期間続くと、皮膚のメラノサイトが刺激され、メラニン色素が過剰に生成され、これが炎症後色素沈着と呼ばれる茶色いシミの原因です。
若い健康な肌であればターンオーバーによって徐々に薄くなりますが、炎症が強かった場合や、紫外線を浴びてしまった場合は、数ヶ月から数年にわたって跡が残ることがあります。
さらに、深く掻き壊して真皮層まで傷つけてしまうと、皮膚が陥没したり、逆に盛り上がったりする瘢痕(はんこん)として残ることもあり、塗り薬だけで元のきれいな肌に戻すことは困難です。
結節性痒疹という難治性のしこり
虫刺されをきっかけに、硬いイボのようなしこりができ、強烈な痒みが慢性的に続く状態を結節性痒疹(けっせつせいようしん)と呼びます。
一種の悪循環に陥った状態で、痒いから掻く、掻くから皮膚が厚くなり神経が過敏になる、さらに痒みが増す、というループが形成されていて、一度この状態になると、市販薬や弱いステロイドでは太刀打ちできません。
治療には、非常に強いランクのステロイド外用や、ステロイドのテープ剤による密封療法、場合によっては液体窒素による冷凍凝固療法などが必要になり、治療期間も年単位になることがある難治性の疾患です。
家庭でできる正しい応急処置とケア
皮膚科を受診するまでの間、あるいは受診した後も、家庭でのケア方法によって治りの早さは変わります。間違った処置をしてしまうと、症状を悪化させることもあるため、正しい知識を持っておくことが大切です。
患部を冷やすことの効果と方法
虫刺されによる痒みや腫れに対して、最も即効性があり安全な対処法は冷やすことです。冷やすことで血管が収縮し、炎症の広がりを抑えるとともに、痒みを伝える神経の興奮を鎮めることができます。
保冷剤をタオルやハンカチで包み、患部に当てるのが基本です。直接氷などを当てると凍傷になるリスクがあるため、必ず布を一枚挟むようにしてください。
腫れがひどい初期段階では、積極的に冷やすことで痛みや熱感を和らげることができます。
ただし、冷やしすぎると血行が悪くなり、傷の治りが遅くなることもあるため、一度に冷やす時間は15分程度とし、様子を見ながら断続的に行うのが良いでしょう。
お風呂上がりなどで体が温まると痒みがぶり返すことが多いため、その際も再度冷やすと楽になります。
家庭で行うべき処置の手順
- まずは流水で患部を洗い流し、清潔にする
- 腫れや痒みが強い場合は、保冷剤などで冷却する
- 爪を短く切り、寝ている間の掻き壊しを予防する
- 絆創膏やガーゼで覆い、直接触れないように保護する
- 衣服の締め付けを避け、通気性の良い服を選ぶ
毒針や毒液の除去と洗浄の重要性
ハチやケムシに刺された直後であれば、皮膚に残っている毒針や毒成分を取り除くことが被害を最小限に抑えるポイントとなります。
ハチの針が残っている場合は、ピンセットなどで慎重に抜きますが、毒嚢(毒の袋)を潰さないように注意が必要です。
指でつまむと毒を体内に注入してしまうことになるため、カードのような硬いもので横から弾くように取り除く方法も推奨されていて、その後、たっぷりの流水で患部を洗い流します。
多くの虫の毒成分は水溶性であるため、水で洗うことで毒を希釈し、洗い流す効果が期待でき、また、皮膚表面についた雑菌を洗い流すことで、二次感染のリスクも減らせます。
患部を掻き壊さないための工夫
治療の大敵は掻くことですが、痒みを意志の力だけで我慢するのは困難なので、物理的に掻けない環境を作ることが有効です。
患部に薬を塗った上から、ガーゼや大きめの絆創膏を貼って保護すると、無意識に手が伸びても直接皮膚を傷つけることを防げます。また、患部が空気に触れる刺激も遮断できるため、痒みが軽減することもあります。
子供の場合は、爪を短く切りそろえ、やすりをかけて角を丸くしておくことも重要です。また、体温が上がると痒みが増すため、激しい運動や熱いお風呂への入浴は避け、ぬるめのシャワーで済ませるなどの生活上の工夫も求められます。
アルコールの摂取や辛い食べ物も血行を良くして痒みを増強させるため、腫れが引くまでは控えましょう。
子供と高齢者の虫刺されにおける注意点
皮膚の生理機能や免疫の働きは、年齢によって大きく変化しるため、子供と高齢者では、健康な成人と比べて虫刺されの反応や治り方に特徴的な違いが見られます。
それぞれの年代特有のリスクを理解し、その年代に合わせたケアを行うことが、トラブルを未然に防ぐことにつながります。
子供の皮膚の薄さと免疫反応の特徴
子供の皮膚は大人の約半分の薄さしかなく、バリア機能が未熟なため、虫の毒素や刺激に対して非常に敏感に反応し、大人であれば軽度で済むような虫刺されでも、大きく腫れ上がったり、水ぶくれができたりしやすいです。
また、蚊などの一般的な虫に対しても免疫を獲得していないため、アレルギー反応が遅延型として現れやすく、数日経ってから症状が悪化することも珍しくありません。
さらに、子供は痒みを我慢するという制御が難しく、徹底的に掻きむしってしまい、とびひへの移行リスクが大人に比べて格段に高いです。
子供の虫刺されケアでは、早期に強めの薬で炎症を抑えることと同時に、物理的に掻かせないための保護対策が大人以上に重要になります。
年代別に見る虫刺されの特徴
| 対象 | 皮膚の特徴 | 注意すべき点 |
|---|---|---|
| 乳幼児・小児 | 皮膚が薄くバリア機能が弱い | とびひになりやすい、反応が強く出る |
| 成人 | 免疫が獲得されていることが多い | 即時型の痒みが出やすい、ストレスで悪化も |
| 高齢者 | 皮脂が少なく乾燥し、治癒力が低下 | 治りが遅い、感染症が重症化しやすい |
高齢者の治癒力低下と感染症リスク
高齢の患者さんは、加齢に伴い皮膚の水分量や皮脂量が減少し、乾燥状態にあることが多いです(老人性乾皮症)。乾燥した皮膚はバリア機能が低下しており、虫刺されの刺激が広範囲の湿疹へと発展しやすくなります。
また、細胞の再生能力も低下しているため、一度傷ができると治るまでに長くかかり、小さな傷口から細菌が入り、そのまま深い潰瘍になってしまうケースもあるため注意が必要です。
加えて、糖尿病などの基礎疾患を持っている場合は、感染症に対する抵抗力が落ちていて、足の虫刺されから重篤な感染症や壊死につながるリスクもあります。
高齢者の場合は、ご自身で患部が見えにくかったり、痒みの感覚が鈍くなっていたりして発見が遅れることもあるので、周囲のご家族が皮膚の状態を気にかけて観察することが大切です。
塗り薬を使用する際の量と回数の管理
子供や高齢者の場合、薬の塗り方にも配慮が必要です。子供にステロイドを塗る際は、親御さんが怖がって薄く塗りすぎてしまい、効果が出ないケースが散見されます。
適量は、大人の人差し指の第一関節までの長さに出した量(1FTU)で、大人の手のひら2枚分の面積を塗るのが目安で、ティッシュが張り付く程度にたっぷりと乗せるように塗るのがコツです。
高齢者の場合、皮膚が薄くなっているため、ステロイドの吸収率が高まる部位があります。医師の指示通りの回数と期間を守ることが大切です。
また、塗り薬による接触皮膚炎(かぶれ)も起こしやすいため、塗布後に赤みが増すようなら使用を中止する必要があります。
虫刺の腫れの薬と受診の目安に関するよくある質問
- 以前処方された薬が残っていますが、それを使っても大丈夫ですか?
-
開封からの期間や保存状態によりますが、原則として受診のたびに新しい薬を使用することが推奨されます。前回の症状と今回の症状が同じ虫によるものか、同じ重症度かは素人目には判断がつきません。
また、ステロイド薬は長期間経過すると成分が変質したり、容器内で雑菌が繁殖したりする可能性があります。自己判断で古い薬を使用し、症状が悪化してしまった場合は、原因の特定が難しくなり治療も複雑になります。
- 腫れがひどい時でも、お風呂に入っていいですか?
-
腫れや熱感が強い急性期は、湯船に浸かることは避けた方が無難です。入浴して体が温まると血管が拡張し、痒みや痛みが強くなる傾向があり、また、血流が良くなることで炎症反応が促進されることもあります。
症状が落ち着くまでは、ぬるめのシャワーで汗や汚れを洗い流す程度にとどめましょう。患部を石鹸で洗う際は、泡で優しく撫でるように洗い、清潔を保つことは大切ですが、ゴシゴシ擦ることは厳禁です。
- 刺された跡が硬いしこりのようになっていますが、治りますか?
-
これは結節性痒疹や皮膚線維腫といった状態になっている可能性が高いです。放置して自然に治ることは稀で、触ったり掻いたりすることで徐々に大きくなることもあります。
市販薬では改善が難しいため、皮膚科での専門的な治療が必要です。ステロイドのテープ剤を貼ったり、局所注射を行ったりすることで、徐々に平らにしていきます。
- 何の虫に刺されたか分からないのですが、受診してもいいですか?
-
原因虫が特定できなくても、現在の皮膚の炎症状態を診て、ふさわしい薬を処方し治療を行うことができますので、安心して受診してください。
実際の診療現場でも、刺された瞬間を目撃していないケースが大半を占めます。皮膚科医は、発疹の形、分布、刺された場所(家の中か、屋外か)、時期などの情報から、原因となる虫を推測し、診断を行います。
以上
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