GIST(消化管間質腫瘍)

GIST(消化管間質腫瘍, Gastrointestinal Stromal Tumor)とは、消化管の壁に発生する腫瘍の一種です。

50~60歳代に好発し、発生部位は胃や小腸に多いですが、食道から直腸まで消化管のあらゆる場所で発生する可能性があります。

悪性化して他の臓器に転移する可能性があるため、基本的に外科的切除が行われます。

目次

GIST(消化管間質腫瘍)の病型

GISTは、腫瘍が発育する方向によって主に3つのタイプに分類されます。

  • 管内発育型
  • 管外発育型
  • 壁内発育型
発育タイプ頻度
管内発育型20~30%
管外発育型40~50%
壁内発育型20~30%

消化管の内腔側に発育するタイプ(管内発育型)

管内発育型は、消化管の内側の空間に向かって腫瘍が大きくなっていくタイプです。このタイプは内視鏡検査で見つけやすいのが特徴で、全体の2~3割程度を占めます。

消化管の内側に、突出した腫瘍が確認できる場合が多いです。

消化管壁の外側に発育するタイプ(管外発育型)

管外発育型は、消化管の外側に向かって腫瘍が発育・増大するタイプです。お腹の中に向かって突き出すように大きくなっていきます。

腫瘍が大きくなると、近くの臓器を圧迫したり、浸潤したりする可能性があります。

管外発育型は全GISTの4~5割程度を占めるとされています。

壁内発育型

管内発育と管外発育の中間的な発育を示すのが壁内発育型です。消化管壁の内部で腫瘍が大きくなっていきます。

GIST全体の2~3割程度がこのタイプで、腫瘍径が大きくなると、内側と外側の両方に発育が及ぶこともあります。

腫瘍の大きさと発育形式の関係

腫瘍のサイズが2cm以下と小さい場合は管内発育型が多く、腫瘍が大きくなるほど管外発育型の割合が高くなる傾向です。

ただ、腫瘍の大きさと発育形式の関連については、まだ解明されていない点もあります。

発生部位

胃(50~70%)に最も多く発生し、次に小腸(20~30%)、大腸(約10%)と続きます。食道に発生することは稀です。

GIST(消化管間質腫瘍)の症状

GISTは、腫瘍が小さいうちは症状が現れず、無症状のまま健康診断などでたまたま発見されるケースが多いです。

進行していった場合には、以下のような症状が代表的です。

腹部の不快感や痛み

腫瘍が大きくなると、腫瘍が周囲の組織を圧迫し、腹部の不快感や鈍痛を感じる可能性があります。

消化管出血

GISTが潰瘍を形成し、出血を引き起こす場合があります。出血が起きた場合は、以下のような症状が現れます。

  • 黒色便(下血)
  • 貧血症状(めまい、動悸、息切れなど)

腫瘍の破裂

GISTが破裂し、腹腔内出血を引き起こすケースは稀ですが、起こり得ます。突然の強い腹痛と出血性ショックを伴う場合もあり、そのような場合は緊急の医療対応が必要です。

GIST(消化管間質腫瘍)の原因

GIST(消化管間質腫瘍)の原因は主にKITまたはPDGFRA遺伝子の突然変異であり、これらの遺伝子変異が細胞の異常増殖を引き起こすことで、GISTの発生につながると考えられています。

KIT遺伝子の突然変異

KIT遺伝子は、細胞の増殖や分化に関与しています。 このKIT遺伝子の突然変異がGISTの約80%で認められており、最も重要な原因の一つと考えられています。

KIT遺伝子の突然変異の種類頻度
エクソン11の突然変異約70%
エクソン9の突然変異約10%

PDGFRA遺伝子の突然変異

PDGFRA遺伝子もKIT遺伝子と同様に、細胞の増殖や分化に関与しています。

PDGFRA遺伝子の突然変異はGISTの約10%で認められており、KIT遺伝子の突然変異に次ぐ原因の一つです。

野生型GIST

一方、KITやPDGFRA遺伝子に突然変異が認められないGISTも存在し、これらは野生型GISTと呼ばれています。

野生型GISTの原因は完全には解明されていませんが、以下のような可能性が示唆されています。

  • NF1遺伝子の変異
  • BRAF遺伝子の変異
  • SDHB遺伝子の変異

遺伝的素因との関連

GISTの大部分は散発的に発生しますが、まれに家族性のGISTが存在します。

家族性GISTは、KIT遺伝子またはPDGFRA遺伝子の生殖細胞系列変異に起因することが多く、遺伝的素因がGISTの発生に関与している可能性が示唆されています。

ただし、家族性GISTは全GISTの1%未満とまれであり、大部分のGISTは遺伝的素因とは無関係に発生します。

GIST(消化管間質腫瘍)の検査・チェック方法

GIST(消化管間質腫瘍)を診断する際は、内視鏡検査や画像検査などの検査を行い、腫瘍の存在や広がりを評価します。

内視鏡検査

GISTは粘膜下腫瘍の形で見つかるケースが多いため、内視鏡検査によって腫瘍の大きさや位置を確認できます。

超音波内視鏡検査(EUS)を併用すれば、腫瘍がどの程度の深さまで及んでいるのか、周囲の組織とどのような関係にあるのかを詳しく調べられます。

検査方法目的
通常内視鏡検査腫瘍の存在確認
超音波内視鏡検査(EUS)腫瘍の深達度や周囲組織との関係の評価

画像検査

CT検査やMRI検査のような画像検査は、GISTが体内のどこまで広がっているのか、転移があるのかどうかを調べるために使います。

造影剤を用いたCT検査では、腫瘍への血流の状態や、周囲の組織に浸潤しているかどうかを確認できます。

一方、MRI検査は軟部組織のコントラストに優れているため、腫瘍の内部構造や周囲組織との関係を詳細に確認できます。

生検による確定診断

GISTと確定診断するためには、生検によって得られた組織を病理学的に検査する必要があります。内視鏡を用いて生検を行ったり、体の外から針を刺して組織を採取したりします。

採取した組織は、免疫組織化学染色などの手法で解析され、以下のようなマーカーの発現を調べることでGISTと診断されます。

  • KIT(CD117)
  • CD34
  • DOG1

GIST(消化管間質腫瘍)の治療方法と治療薬について

GIST(消化管間質腫瘍)に対する第一選択の治療法は、腫瘍の完全切除を目的とした外科的切除です。

手術療法

腫瘍のサイズや位置によって、開腹手術や腹腔鏡下手術などの方法が選択されます。

腫瘍の大きさ手術方法
2cm未満内視鏡的切除
2cm以上5cm未満腹腔鏡下手術
5cm以上開腹手術

分子標的薬による薬物療法

手術後の再発リスクが高い症例や、切除不能な進行・再発GISTに対しては、分子標的薬による薬物療法が行われます。

  • イマチニブ(グリベック):KIT遺伝子やPDGFRA遺伝子の変異を有するGISTに対する第一選択薬
  • スニチニブ(スーテント):イマチニブ耐性GISTに対する第二選択薬
  • レゴラフェニブ(スチバーガ):イマチニブ、スニチニブ共に耐性を示すGISTに対する第三選択薬
薬剤名用法・用量
イマチニブ400mg/日
スニチニブ50mg/日、4週投与2週休薬
レゴラフェニブ160mg/日、3週投与1週休薬

GIST(消化管間質腫瘍)の治療期間と予後

GISTの治療期間と予後は、腫瘍の大きさや進行度によって大きく異なります。

早期のGISTであれば手術のみで治癒が期待でき、一方で進行例では長期の薬物療法が必要となるケースが少なくありません。

GISTの治療期間

GISTの治療期間は、手術療法と術後の補助療法を合わせると通常は数ヶ月から1年程度となります。

ただし腫瘍径が大きい場合や転移を伴う場合などは、より長期の治療が必要になる場合があります。

腫瘍径治療期間目安
2cm未満数ヶ月
2~5cm6ヶ月~1年
5cm以上1年以上

術後補助療法

再発リスクが高いGISTでは、術後に分子標的薬による補助療法が行われます。

代表的な薬剤はイマチニブで、1~3年程度の内服を行い再発リスクを下げ、予後の改善が図られます。ただしイマチニブの耐性獲得や副作用の問題から、長期投与が困難になるケースもあります。

リスク分類補助療法の適応
超低リスク適応なし
低リスク原則適応なし
中間リスク1年間が標準
高リスク3年間が推奨

進行・再発GISTの治療

切除不能な進行GISTや再発例では、イマチニブによる薬物療法が第一選択となります。イマチニブで効果不十分な場合は、他の分子標的薬に変更します。

薬物療法と併行して可能であれば外科切除も検討しますが、こうした進行・再発例での治癒は容易ではありません。 長期に渡る集学的治療が求められるケースが多いのが現状です。

GISTの予後

GISTの予後はリスク分類によって大きく異なります。超低リスクや低リスクのGISTでは外科切除により90%以上の治癒が期待できる一方、高リスクGISTの5年生存率は50%程度とされています。

またイマチニブ耐性のGISTや転移例ではさらに予後不良となります。GISTの予後改善のためには、早期発見と適切なリスク評価に基づく治療が重要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

GIST治療を受ける際は、副作用やリスクが伴います。

手術療法の副作用とリスク

手術に伴う合併症のリスクは、出血、感染、腸閉塞などです。

  • 大量出血のリスク
  • 術後の感染症による合併症
  • 腸閉塞(手術操作による腸管の癒着や狭窄)

分子標的薬の副作用とリスク

分子標的薬の主な副作用としては、下痢、悪心、嘔吐、疲労感などが挙げられます。 また、稀ではありますが、重篤な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害などが報告されています。

副作用頻度
下痢非常に多い
悪心・嘔吐多い
疲労感多い
間質性肺炎まれ
肝機能障害まれ

長期的な治療に伴うリスク

GISTの治療は、長期間にわたって継続する必要があります。長期的な治療に伴い、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

  • 薬剤耐性の発現
  • 二次がんの発生

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

GISTの治療には手術や分子標的薬などの高度な医療技術が必要とされるため、治療費が高くなる傾向にあります。

治療法概算費用
手術100万円〜500万円
分子標的薬月30万円〜100万円

ただし、日本では公的医療保険が適用されるため、患者の自己負担額は一定の上限に抑えられます。

また、高額療養費制度や限度額適用認定証、医療費控除などの利用により経済的な負担を軽減できます。

治療費は症状や治療法により大きく異なりますので、実際の治療費について、詳しくは担当医や各医療機関へ直接ご確認ください。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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