胃粘膜下腫瘍

胃粘膜下腫瘍(Gastric submucosal tumor)とは、胃の粘膜下層に発生する腫瘍の総称を指します。

胃粘膜下腫瘍には良性と悪性のものがあり、代表的なものとしては、平滑筋腫、神経鞘腫、脂肪腫、カルチノイド、GISTなどが挙げられます。

胃粘膜下腫瘍の多くは無症状で経過し、検診や他の疾患の精査中に偶然発見されるケースが多いです。

目次

胃粘膜下腫瘍の病型

代表的な胃粘膜下腫瘍には、GISTや平滑筋腫、神経鞘腫、異所性膵などがあります。

GIST(消化管間質腫瘍)

GISTは胃粘膜下腫瘍の中で最も頻繁に認められる種類です。消化管壁に存在する特殊な細胞(カハールの介在細胞)を起源としています。

GISTには良性と悪性の2種類があり、腫瘍の大きさが増すほど悪性である確率が上昇します。

GIST の分類特徴
良性 GIST小型の腫瘍(通常5cm未満)、増大速度が遅い
悪性 GIST大型の腫瘍(通常5cm以上)、増大速度が速い、転移の危険性あり

平滑筋腫

平滑筋腫は胃の筋層を発生母地とする良性腫瘍です。

大半の症例で無症状であり、内視鏡検査や CT スキャンにて偶発的に発見されるケースが多いとされています。

ただし腫瘍が増大した際には、出血や腫瘤の触知などの症状が出現する可能性があります。

神経鞘腫

神経鞘腫は胃の神経組織から発生する良性腫瘍です。極めて稀な腫瘍であり、無症状であることが多いとされています。

内視鏡検査で粘膜下腫瘍として認識され、生検にて確定診断が下されます。

迷入膵/異所性膵

迷入膵/異所性膵は、本来の位置(膵臓)以外の部位に膵組織が存在する先天性の異常です。

胃壁内に迷入した膵組織が、粘膜下腫瘍として認識されます。大部分の症例では無症状ですが、稀に膵炎や膵癌を合併する場合があります。

悪性リンパ腫

胃悪性リンパ腫は、胃のリンパ組織から発生する悪性腫瘍です。

胃原発の悪性リンパ腫の大部分を占めるのは、MALTリンパ腫とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫です。

MALTリンパ腫はピロリ菌感染と関連が深く、低悪性度のリンパ腫です。一方、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は高悪性度のリンパ腫で、急速に進行する傾向があります。

胃悪性リンパ腫の症状は、腹痛、体重減少、貧血など多彩です。内視鏡検査と生検により診断されます。

胃粘膜下腫瘍の症状

胃粘膜下腫瘍の症状は、腫瘍の大きさや発生した場所によって異なりますが、多くの場合は無症状です。

無症状の場合が多い

胃粘膜下腫瘍は、早期の段階では特に症状が現れないケースが多いです。

腫瘍のサイズ症状の有無
2cm未満無症状
2cm以上症状が出現する可能性あり

腫瘍が大きくなると症状が出現

しかし、腫瘍が大きくなってくると、以下のような症状が現れ始めます。

  • 上腹部の不快感や痛み
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 貧血

出血を伴う場合もある

腫瘍が粘膜面に露出して、出血を伴う場合もあります。

症状頻度
吐血まれ
黒色便まれ

腫瘍の種類によって症状が異なる

胃粘膜下腫瘍にはさまざまな種類があり、それぞれ特有の症状を示します。例えば、GISTでは腫瘍が大きくなると、腹痛や出血などの症状が現れやすいとされています。

一方で、平滑筋腫では、症状が現れることは比較的少ないとされています。

胃粘膜下腫瘍の原因

胃粘膜下腫瘍が発症する原因は、主に遺伝的な要因、環境的な要因、加齢などが関与していると考えられています。

遺伝的要因

von Hippel-Lindau病や多発性内分泌腫瘍症などの遺伝性疾患では、胃粘膜下腫瘍の発症率が高いことが知られています。

遺伝性疾患関連する遺伝子
von Hippel-Lindau病VHL遺伝子
多発性内分泌腫瘍症RET遺伝子

環境要因

  • 喫煙
  • 飲酒
  • ヘリコバクター・ピロリ菌感染

喫煙や飲酒などの生活習慣は胃粘膜下腫瘍の発生リスクを高めます。また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染も、胃粘膜下腫瘍の発症に関連があるとする報告があります。

加齢

胃粘膜下腫瘍の発症リスクは、加齢とともに増加します。高齢者では、胃粘膜の防御機能が低下し、腫瘍が発生しやすくなると考えられています。

実際に、胃粘膜下腫瘍の患者の多くは、50歳以上の中高年層に集中しているのが特徴です。

胃粘膜下腫瘍の検査・チェック方法

胃粘膜下腫瘍の診断では、内視鏡検査や超音波内視鏡検査などの画像診断を実施し、腫瘍の位置や大きさや性状を評価します。これらの情報をもとに、総合的な判断を下し臨床診断を行います。

症状・病歴の確認

確認項目具体的な内容
症状腹痛、胸やけ、吐き気、体重減少など
病歴既往歴、家族歴、生活習慣など

身体診察

身体診察では、腹部の触診や聴診を行い、腫瘍による圧痛や腫瘤の有無を確認します。

内視鏡検査

通常の上部消化管内視鏡検査に加え、必要に応じて超音波内視鏡検査も行います。内視鏡検査では以下のような所見を確認します。

検査法評価項目
上部消化管内視鏡検査腫瘍の位置、大きさ、形状、粘膜面の性状
超音波内視鏡検査腫瘍の内部構造、発生層、周囲への浸潤の有無

病理検査

確定診断のためには、病理検査が必要です。内視鏡下で腫瘍から組織を採取し、顕微鏡で詳しく観察することで腫瘍の種類や悪性度を判定します。

胃粘膜下腫瘍の治療方法と治療薬について

胃粘膜下腫瘍の治療方針は、腫瘍の大きさや位置、症状の有無などを総合的に判断して決定します。多くの事例で手術療法が第一に選ばれ、内視鏡的切除術や腹腔鏡下手術などを実施します。

内視鏡的切除術

内視鏡的切除術は、内視鏡を用いて腫瘍を切除する手技です。比較的小さな腫瘍に対して行われ、侵襲性が低く回復も早いというメリットがあります。

切除した腫瘍は病理検査に提出され、悪性度の評価が行われます。

手技名適応腫瘍径
ESD2cm以下
LECS2〜5cm

腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術は、腹壁に小さな穴を開け、そこから腹腔鏡と手術器具を挿入して行う手術方法です。内視鏡的切除術の適応とならない大きさの腫瘍に対して選択されます。

開腹手術に比べて傷が小さく、回復が早いのがメリットです。

薬物療法

胃粘膜下腫瘍に対する薬物療法としては、以下のようなものがあります。

  • 抗がん剤:悪性度の高い腫瘍に対して、手術前後に投与されることがあります。
  • プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸分泌を抑制し、腫瘍による出血や潰瘍形成を予防します。
  • 鎮痛薬:腫瘍による疼痛に対して処方されます。
薬剤名作用機序
オメプラゾール胃酸分泌抑制
セレコキシブCOX-2選択的阻害

経過観察

小さく、悪性度が低いと判断された腫瘍に対しては、定期的な経過観察が選択されるケースもあります。増大傾向や悪性所見が認められた場合には、治療方針の再検討が必要です。

胃粘膜下腫瘍の治療期間と予後

胃粘膜下腫瘍の治療期間・予後は腫瘍の種類や大きさによって大きく異なりますが、治療により多くで良好な予後が期待できると考えられています。

治療期間の目安

内視鏡的治療の場合、比較的短期間で治療が完了する場合が多いです。一方、外科的手術が必要な場合は入院期間が長くなる傾向です。

治療方法治療期間の目安
内視鏡的治療数日〜1週間程度
外科的手術2〜4週間程度

予後

GIST超低リスクや低リスクのGIST:外科切除により90%以上の治癒が期待できる
高リスクGISTの5年生存率:50%
MALTリンパ腫初期:5年生存率は90%以上
進行期:5年生存率は70%程度
DLBCL5年生存率は50~70%程度
迷入膵/異所性膵無症状で経過観察されている場合の予後は良好

予後に影響する因子

予後良好な因子予後不良な因子
良性腫瘍悪性腫瘍
小さな腫瘍大きな腫瘍
転移なし転移あり
全身状態良好全身状態不良

薬の副作用や治療のデメリットについて

胃粘膜下腫瘍の治療を受ける際は、以下のような副作用やリスクがあります。

手術療法の副作用とリスク

手術療法では出血、感染、縫合不全といった合併症や、胃の機能低下、ダンピング症候群などの後遺症が起こる可能性があります。

合併症発生率
出血1〜3%
感染1〜5%
縫合不全1〜2%

内視鏡治療の副作用とリスク

内視鏡治療は体への負担が少ない治療法ですが、穿孔や出血などの合併症リスクがあります。腫瘍が大きかったり、粘膜下層まで浸潤していたりする際は、特に合併症のリスクが高まります。

  • ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の穿孔率:2〜5%
  • EMR(内視鏡的粘膜切除術)の穿孔率:1〜2%

薬物療法の副作用とリスク

分子標的薬をはじめとする薬物療法では、皮疹、下痢、肝機能障害などの副作用が現れる場合があります。また、長期間の使用により、耐性ができてしまったり、二次がんの発生リスクが高まったりする点も懸念されています。

副作用発生率
皮疹10〜30%
下痢20〜50%
肝機能障害5〜10%

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

胃粘膜下腫瘍の代表的な治療法には、内視鏡的切除術と外科的切除術があります。一般的に、内視鏡的切除術の方が外科的切除術よりも低コストで済む傾向です。

治療費の目安

治療法概算費用
内視鏡的切除術50万円~100万円
外科的切除術100万円~200万円

経過観察に必要な主な検査

  • 内視鏡検査(1回あたり約3万円)
  • CT検査(1回あたり約2万円)

胃粘膜下腫瘍の治療は、多くの場合で健康保険が適用されるため、自己負担額は通常1~3割となります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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