胃悪性リンパ腫(Gastric malignant lymphoma)とは、胃の粘膜下組織にリンパ球に由来する悪性腫瘍が発生する病気です。
比較的珍しい疾患ですが、胃癌と並んで胃に発生する悪性腫瘍の代表的な疾患の一つとされています。
症状としては、上腹部の痛み、食欲の低下、体重の減少、貧血などが認められ、進行すると胃の壁の肥厚により内腔が狭窄したり、穿孔を起こしたりする可能性もあります。
胃悪性リンパ腫の病型
胃悪性リンパ腫は、病理組織学的な特徴によっていくつかの種類に分けられます。
- MALTリンパ腫
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
- 濾胞性リンパ腫
- 未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)
MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)が95%以上を占めます。
また、病期分類としてLugano国際会議分類が使われています。
MALTリンパ腫
MALTリンパ腫は、胃悪性リンパ腫の中でも最もよく見られる病型です。
B細胞由来の低悪性度リンパ腫でありゆっくりと進行するのが特徴で、ピロリ菌感染と関係があることが分かっており、除菌療法により60~80%が寛解します。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
DLBCLは胃悪性リンパ腫の中で2番目に多く見られる病型です。B細胞由来の高悪性度リンパ腫で、急速に進行します。
化学療法や放射線療法など、複数の治療法を組み合わせるケースが多いです。
濾胞性リンパ腫
濾胞性リンパ腫は胃悪性リンパ腫の中では珍しい病型で、B細胞由来の低悪性度リンパ腫です。
ゆっくりと進行するのが特徴で、全身性の濾胞性リンパ腫の一部として胃に病変が見られる場合があります。
未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)
ALCLはT細胞由来の高悪性度リンパ腫で、急速に進行するのが特徴です。
非常に珍しい病型で、予後が悪く複数の治療法を組み合わせることが必要になります。
Lugano国際会議分類
Lugano国際会議分類は、胃悪性リンパ腫の病期分類として用いられています(病期Ⅲはありません)。
病期 | 定義 |
Ⅰ期 | 消化管に限局(単発あるいは非連続性多発病変) |
Ⅱ期 | 腹腔内に進展(リンパ節浸潤) |
II-1:局所リンパ節への浸潤(胃・腸間膜周囲) II-2:より遠隔への浸潤(傍動脈・傍静脈) IIE:漿膜を穿通し、隣接臓器組織に浸潤する(実際の浸潤臓器を列記する、例えばstage IIIE(膵臓)、stage IIIE(大腸)、stage IIIE(腹壁)) 穿孔/腹膜炎 | |
IV期 | 広範な節外または横隔膜上リンパ節への浸潤を伴う胃腸管浸潤 |
胃悪性リンパ腫の症状
胃悪性リンパ腫は初期の段階では無症状である場合が多いですが、腫瘍の増大に伴って様々な症状が現れてきます。
上腹部痛
胃悪性リンパ腫の患者さんの多くが上腹部の痛みを訴えます。食事とは無関係に痛みが起こるのが特徴です。
嘔気・嘔吐
腫瘍が胃の出口を塞ぐと、食べ物が胃から十二指腸へ流れにくくなります。 その結果、嘔気や嘔吐が起こる可能性があります。
貧血
胃粘膜からの出血が続くと、貧血を来す可能性があります。また、 貧血によって以下のような症状が現れることがあります。
- 息切れ
- 動悸
- 全身の倦怠感
体重減少
胃悪性リンパ腫が進行すると、食欲不振から体重減少を来します。原因不明の体重減少が続く際は、専門医への相談するようにしましょう。
胃悪性リンパ腫の原因
胃悪性リンパ腫の原因については現在も研究が進められていますが、ピロリ菌感染や免疫異常、遺伝的な要因などが関与していることがわかっています。
ピロリ菌感染との関連
胃悪性リンパ腫の発生には、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染が大きく関係しています。
ピロリ菌は胃粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、長期間の感染により胃粘膜のリンパ組織が過形成を起こして悪性リンパ腫へと進展する可能性があります。
実際、胃悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)患者の多くがピロリ菌感染を伴っており、ピロリ菌の除菌治療により多くが寛解します。
免疫異常との関連
自己免疫疾患や免疫抑制状態にある患者では、胃悪性リンパ腫の発生リスクが高くなります。これは、免疫監視機構の破綻により、異常なリンパ球の増殖が抑制されないためだと考えられます。
遺伝的要因の関与
特定の遺伝子変異や多型が胃悪性リンパ腫のリスクを高めると指摘されていますが、遺伝的要因のみで発症するケースは稀であり、他の環境因子との相互作用が関係していると考えられています。
環境因子の影響
- 高塩分食品の過剰摂取
- 喫煙
- アルコール多飲
- 特定の化学物質への曝露
ただし、これらの環境因子と胃悪性リンパ腫との因果関係は完全には確立されておらず、さらなる研究が必要です。
胃悪性リンパ腫の検査・チェック方法
胃悪性リンパ腫の検査では、血液検査や画像検査、胃内視鏡検査などを行い診断を確定します。
血液検査と画像検査
血液検査では、血算や生化学検査、腫瘍マーカーなどを測定します。画像検査では、胃X線検査や胃内視鏡検査、CT検査などを行います。
検査名 | 目的 |
血算 | 貧血や感染症の有無を確認 |
生化学検査 | 肝機能や腎機能などを評価 |
腫瘍マーカー | 腫瘍の存在や進行度を評価 |
胃内視鏡検査と生検
胃内視鏡検査では、胃粘膜の異常や腫瘍の有無を直接観察します。生検では、腫瘍組織を採取して病理学的に診断します。
- 胃内視鏡検査の所見
- 胃粘膜の発赤、びらん、潰瘍など
- 粘膜下腫瘍の存在
- 腫瘍の大きさ、形状、表面の性状など
生検の種類 | 方法 |
通常生検 | 鉗子で腫瘍組織を採取 |
粘膜下層剥離術 | 粘膜下層を剥離し、腫瘍を切除 |
病理学的診断と確定診断
生検で得られた組織を病理学的に検査し、悪性リンパ腫の確定診断を行います。免疫染色や遺伝子検査などの特殊検査も必要に応じて実施します。
胃悪性リンパ腫の治療方法と治療薬について
胃悪性リンパ腫の治療法は、リンパ腫の種類や病期、患者さんの状態によって異なります。
MALTリンパ腫に対しては除菌療法、それ以外の胃悪性リンパ腫では化学療法や放射線療法が中心です。
除菌療法
ピロリ菌が陽性のMALTリンパ腫に対して行われます。ピロリ菌の除菌により、リンパ腫が縮小または消失する場合が多くあります。
化学療法
抗がん剤を用いてがん細胞を攻撃する方法です。MALTリンパ腫以外の大部分の胃悪性リンパ腫に対して行われます。
R-CHOP療法では、リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロンという薬剤を組み合わせて投与します。
薬剤名 | 作用機序 |
リツキシマブ | CD20陽性のB細胞を標的とするモノクローナル抗体 |
シクロホスファミド | DNA合成を阻害し、細胞分裂を抑制 |
放射線療法
放射線を用いてがん細胞を攻撃します。手術が難しい場合や再発した場合などに用いられます。
胃悪性リンパ腫の放射線療法では、通常、リンパ節領域に20〜30Gyの照射が行われます。
胃悪性リンパ腫の治療期間と予後
胃悪性リンパ腫の治療期間は、病期や組織型、治療法によって変動します。早期の限局期の場合、化学療法と放射線療法の併用で数ヶ月の治療期間で完治を目指す場合が多いです。
一方、進行期の場合は化学療法を中心とした長期の治療が必要となり、1年以上の治療期間を要するケースもあります。
MALTリンパ腫の治療期間
初期の場合、ヘリコバクター・ピロリ除菌療法や放射線療法が選択され、治療期間は数週間から数か月程度です。
進行期の場合、化学療法や放射線療法を組み合わせた治療が行われ、治療期間は数か月から半年程度になります。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL)
化学療法 (R-CHOP療法など) が中心となり、治療期間は半年から8か月程度です。手術や放射線療法を組み合わせる場合もあります。
予後
MALTリンパ腫
初期の場合、予後は良好で、5年生存率は90%以上と報告されています。進行期の場合、予後はやや低下しますが、それでも5年生存率は70%程度です。
DLBCL
5年生存率は50~70%程度です。若年者や限局期の症例では、より良好な予後が期待できます。
進行期で高悪性度の組織型の場合
5年生存率は50%程度と、予後不良となります。
胃悪性リンパ腫の再発リスク
胃悪性リンパ腫は治療後も再発のリスクがあるため、定期的な経過観察が重要です。
再発リスクは組織型によって異なり、低悪性度型は晩期再発が多いのに対し、高悪性度型は早期再発が多い傾向にあります。
組織型 | 再発時期 | 経過観察期間 |
低悪性度型 | 晩期 | 10年以上 |
高悪性度型 | 早期 | 5年程度 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
胃悪性リンパ腫の治療を行う際は、副作用やリスクが伴います。
化学療法の副作用
化学療法では吐き気、嘔吐、食欲不振、脱毛、口内炎などが代表的な副作用として挙げられます。
また、骨髄抑制による感染症のリスクも高まるため、治療中は感染予防に努めることが求められます。
放射線療法の副作用
放射線療法も胃悪性リンパ腫の治療に用いられますが、照射部位の皮膚炎や粘膜炎などの副作用が生じる可能性があります。
また、長期的な影響として、二次がんの発生リスクが高まることも知られています。
手術療法のリスク
胃悪性リンパ腫に対する手術療法では、出血や感染、縫合不全などの合併症が起こり得ます。手術後は、栄養状態の管理や感染予防に留意が必要です。
リスク | 頻度 |
出血 | 1-5% |
感染 | 3-10% |
縫合不全 | 1-3% |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
胃悪性リンパ腫の治療費は、病期や治療方法によって大きく異なります。
化学療法の治療費
胃悪性リンパ腫に対する化学療法では、R-CHOP療法が標準的に用いられます。 R-CHOP療法は、リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロンの5剤を組み合わせた治療法です。
治療費は約100万円から150万円程度が目安とされています(自己負担額は1~3割、高額療養費制度も利用できます)。通常、6~8回の治療が行われるため、総治療費は高額となります。
放射線療法の治療費
放射線療法の治療費は1回あたり1万円から2万円程度が目安です。 通常、20~30回の照射が行われます。
上記の治療費は目安となり、合併症の有無や入院期間などによって治療費は大きく異なりますので、具体的な治療費については担当医や各医療機関へ直接ご確認ください。
以上
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