胃癌(Gastric cancer)とは、胃の内壁を覆う細胞が異常に増え、悪性の腫瘍を形成する病気です。
日本では年間約10万人もの方が胃癌と診断されており、がんによる死因の上位を占めているのが現状です。
発症リスクを高める要因としては、塩分の多い食事、喫煙習慣、ピロリ菌感染などが挙げられます。
胃癌の病型
胃癌は、早期胃癌と進行胃癌の2つに大別されます。
早期胃癌とは、癌が胃の粘膜層と粘膜下層にとどまっている状態を指し、一方で進行胃癌は、癌が胃の筋層や漿膜層まで浸潤している状態です。
肉眼型分類
胃癌の肉眼型分類には、0型(表在型)、1型(隆起型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん浸潤型)、5型(分類不能型)の6つの型があります。
0型は主に早期胃癌に多く見られ、1型から4型は進行胃癌に多く見られます。
肉眼型 | 特徴 |
0型 | 表在型 |
1型 | 隆起型 |
2型 | 潰瘍限局型 |
3型 | 潰瘍浸潤型 |
4型 | びまん浸潤型 |
5型 | 分類不能型 |
壁深達度
胃癌の壁深達度は、癌の浸潤が胃壁のどの層まで及んでいるかを表します。
壁深達度は、T1a(粘膜内)、T1b(粘膜下層)、T2(固有筋層)、T3(漿膜下層)、T4a(漿膜外)、T4b(他臓器浸潤)の6つに分類されます。
壁深達度 | 浸潤範囲 |
T1a | 粘膜内(M) |
T1b | 粘膜下層(SM) |
T2 | 固有筋層(MP) |
T3 | 漿膜下層(SS) |
T4a | 漿膜外(SE) |
T4b | 他臓器浸潤(SI) |
組織学的分類
胃癌は90%以上が腺癌であり、がん細胞の増殖の仕方や顕微鏡での見え方によって、分化型胃癌と未分化型胃癌の2つに分類されます。
- 腺管構造が比較的保たれている
- 細胞同士がまとまって増殖する
- ヘリコバクター・ピロリ菌との関連が強い
- 高齢者に多い
組織型:乳頭腺癌(pap)、管状腺癌(tub)
- 腺管構造が不明瞭または全くない
- 細胞がバラバラに増殖する
- 比較的若年者に多い
組織型:低分化腺癌(por)、印環細胞癌(sig)、粘液癌(muc)
胃癌の症状
胃がんは初期段階では自覚症状が出にくい病気ですが、進行するとさまざまな症状が現れます。
初期症状の特徴
胃がんの初期段階では、ほとんど自覚症状がない場合が多いのが特徴です。
また、症状が現れたとしても非特異的なケースが多く、胃炎や胃潰瘍など他の胃の病気と似ているため、見落とされやすい傾向があります。
初期症状 | 症状の特徴 |
胃部不快感 | 食後に胃が重く感じる |
食欲不振 | 食べる量が減少する |
胸やけ | 胸の奥が焼けるような感覚 |
進行期の症状
胃がんが進行すると、より明確な症状が現れ始めます。
- 体重減少
- 貧血症状(倦怠感、動悸、息切れなど)
- 黒色便(吐血や下血による)
進行期症状 | 症状の特徴 |
上腹部痛 | みぞおちや左肋骨下の痛み |
悪心・嘔吐 | 食べ物や胃酸の逆流 |
腹部膨満感 | 胃の出口の狭窄によって起こる |
その他の症状
胃がんの症状には個人差が大きく、以下のような症状が現れる場合もあります。
- 胃もたれ感
- げっぷ
- 早期満腹感
- 背中の痛み
胃癌の原因
胃がんの発生には、ピロリ菌感染、不適切な食生活、喫煙、過度の飲酒、遺伝的要因など、複数の原因が関わっています。
ピロリ菌感染
長期間のピロリ菌感染は、胃粘膜の萎縮や腸上皮化生を招き、胃がん発生のリスクを高めます。
実際、胃がん患者の多くがピロリ菌に感染していることが報告されています。
食生活の影響
塩分の多い食事や、燻製品、加工肉などの摂取過多は、胃がんのリスクを高める可能性があります。
喫煙と飲酒
タバコに含まれる発癌物質が胃粘膜に直接影響を与えるため、喫煙は胃がんのリスクを高める重要な因子の一つです。
また、過度の飲酒も胃がんのリスクを高めます。
遺伝的要因
家族に胃がんの患者がいる場合、遺伝的な要因によって胃がんのリスクが高まる可能性があります。
胃癌の検査・チェック方法
胃がんの診断は、主に内視鏡検査と生検による組織診断の結果を総合的に判断して行われます。
内視鏡検査(胃カメラ検査)
内視鏡検査では細長い内視鏡を口から挿入し、胃の内部を直接観察して胃粘膜の異常や腫瘍の有無、大きさ、位置などを詳細に確認できます。
早期発見には欠かせない検査であり、定期的な受診が推奨されています。
内視鏡検査の種類 | 特徴 |
経口内視鏡検査 | 口から内視鏡を挿入し、胃の内部を観察する方法 |
経鼻内視鏡検査 | 鼻から細径の内視鏡を挿入し、胃の内部を観察する方法 |
生検と組織診断
内視鏡検査で異常が見つかった際は、生検を行います。
生検とは、内視鏡下で胃粘膜の一部を採取し、顕微鏡で詳細に観察する検査方法です。採取した組織は病理医によって分析され、胃がんの確定診断が下されます。
- 内視鏡下で異常部位を確認する
- 生検鉗子を用いて組織を採取する
- 採取した組織を病理検査に提出する
- 病理医が組織を顕微鏡で詳細に観察し、診断を行う
画像検査
胃がんの診断や進行度の評価には、内視鏡検査以外にも画像検査が用いられます。
画像検査の種類 | 目的 |
CT検査 | 胃がんの進行度評価や他臓器への転移の有無を確認する |
超音波内視鏡検査 | 胃壁の深達度や近接リンパ節転移の評価を行う |
臨床診断と確定診断
内視鏡検査や生検、画像検査の結果を総合的に判断し、胃がんの臨床診断が行われます。症状が現れる前の早期段階で胃がんを発見できれば、治癒の可能性が高くなります。
胃癌の治療方法と治療薬について
胃癌の治療では手術療法、化学療法、分子標的治療などを組み合わせて行います。
手術療法
早期の胃癌では、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や腹腔鏡下胃切除術が行われる場合が多いです。
一方、進行胃癌の場合は、開腹手術による胃全摘出術や胃部分切除術が選択されます。
胃癌ステージ | 主な手術方法 |
早期胃癌 | ESD、腹腔鏡下胃切除術 |
進行胃癌 | 開腹手術(胃全摘出術、胃部分切除術) |
化学療法
化学療法は、手術前後の補助療法として、あるいは手術不能な進行胃癌に対する主要な治療法として用いられます。
代表的な抗がん剤としては、以下のようなものがあります。
- 5-FU(フルオロウラシル)
- シスプラチン -カペシタビン
- パクリタキセル
これらの薬剤は、単剤または併用療法として使用されるのが一般的です。
分子標的治療
分子標的治療は、がん細胞の増殖や生存に関わる特定の分子を標的とする治療法です。
代表的なものとしては、以下の薬剤が挙げられます。
分子標的薬 | 作用機序 |
トラスツズマブ | HER2受容体阻害 |
ラムシルマブ | VEGFR-2阻害 |
従来の抗がん剤とは異なり、がん細胞に特異的に作用するため、副作用が比較的少ないという特徴があります。
胃癌の治療期間と予後
胃がんの治療にかかる期間は、がんがどの程度進行しているかによって大きな差が生じます。
早期の胃がんであれば、内視鏡を使った切除手術や腹腔鏡下の手術など、体への負担が比較的少ない治療で完治できることが多く、入院が必要な期間は1週間ほどで済むのが一般的です。
それに対して、進行した胃がんの場合は、お腹を切開して広範囲にリンパ節を取り除きながら胃の切除手術を行う必要があるため、入院期間は2〜3週間程度かかります。
加えて、手術後に抗がん剤治療を行うことになれば、治療期間はさらに長くなります。
胃がんの進行状況 | 治療方法の選択肢 | 入院が必要な期間 |
早期の胃がん | 内視鏡的切除術、腹腔鏡下手術 | およそ1週間 |
進行した胃がん | 開腹手術、リンパ節郭清を伴う胃切除術 | およそ2〜3週間 |
胃がんの予後は早期発見・早期治療が鍵
胃がんの予後を左右するのは、いかに早い段階で発見し、速やかに治療を始められるかどうかです。
早期の胃がんでは、5年生存率が90%を超えるほど予後が良好ですが、進行した胃がんになると50%程度にまで低下してしまいます。
そのため、定期的にがん検診を受けて早期発見につなげていくことが何より大切だと言えます。
胃がんの進行状況 | 5年生存率 |
早期の胃がん | 90%以上 |
進行した胃がん | およそ50% |
術後の補助化学療法が予後改善に寄与
進行した胃がんの場合、手術後に抗がん剤治療の併用によって、予後の改善が期待できるとわかっています。
ただし、補助化学療法が適しているかどうかは、患者さんの全身の状態や年齢なども考慮しながら慎重に判断していく必要があります。
薬の副作用や治療のデメリットについて
胃がんの治療には副作用やリスクが伴います。治療には手術療法、化学療法、放射線療法などがありますが、いずれも一定の副作用が生じる可能性があります。
手術療法の副作用とリスク
手術療法は、術後に消化機能の低下や栄養吸収不良、ダンピング症候群などの副作用が生じる可能性があります。
副作用 | 症状 |
消化機能低下 | 食事量の減少、消化不良 |
栄養吸収不良 | 体重減少、貧血 |
ダンピング症候群 | 食後の動悸、めまい、下痢 |
化学療法の副作用とリスク
化学療法は抗がん剤を用いて癌細胞の増殖を抑える治療法です。抗がん剤は正常な細胞にも影響を与えるため、以下のような副作用が現れることがあります。
- 吐き気、嘔吐
- 脱毛
- 口内炎
- 骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)
放射線療法の副作用とリスク
放射線療法は高エネルギーのX線や粒子線を用いて癌細胞を破壊する治療法です。放射線療法の副作用としては、照射部位の皮膚炎や粘膜炎、倦怠感などが挙げられます。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
日本では、胃癌の治療は公的医療保険の対象です。先進医療に分類される治療や、自由診療となる治療は保険適用外となるケースがあります。
治療費の目安
治療方法 | 概算費用 |
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) | 100万円前後 |
腹腔鏡下胃切除術 | 200万円前後 |
医療保険が適用されるため、自己負担額は1割~3割です。また、治療費が高額になった際は、高額療養費制度を利用できます。
- 70歳未満の場合、所得に応じて自己負担限度額が設定されます。
- 70歳以上75歳未満の場合、一定以上の所得がある方は、自己負担限度額が上乗せされます。
- 75歳以上の場合、住民税非課税世帯は自己負担限度額が引き下げられます。
以上
参考文献
SMYTH, Elizabeth C., et al. Gastric cancer. The Lancet, 2020, 396.10251: 635-648.
VAN CUTSEM, Eric, et al. Gastric cancer. The Lancet, 2016, 388.10060: 2654-2664.
CATALANO, Vincenzo, et al. Gastric cancer. Critical reviews in oncology/hematology, 2009, 71.2: 127-164.
HARTGRINK, Henk H., et al. Gastric cancer. The Lancet, 2009, 374.9688: 477-490.
CORREA, Pelayo. Gastric cancer: overview. Gastroenterology Clinics of North America, 2013, 42.2: 211.
ORDITURA, Michele, et al. Treatment of gastric cancer. World journal of gastroenterology: WJG, 2014, 20.7: 1635.
CREW, Katherine D.; NEUGUT, Alfred I. Epidemiology of gastric cancer. World journal of gastroenterology: WJG, 2006, 12.3: 354.
CATALANO, Vincenzo, et al. Gastric cancer. Critical reviews in oncology/hematology, 2005, 54.3: 209-241.
THRIFT, Aaron P.; EL-SERAG, Hashem B. Burden of gastric cancer. Clinical gastroenterology and hepatology, 2020, 18.3: 534-542.
JOSHI, Smita S.; BADGWELL, Brian D. Current treatment and recent progress in gastric cancer. CA: a cancer journal for clinicians, 2021, 71.3: 264-279.