胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)

胃前庭部毛細血管拡張症(いぜんていぶもうさいけっかんかくちょうしょう)(Gastric Antral Vascular Ectasia:GAVE)とは、胃の前庭部と呼ばれる幽門に近い部分の毛細血管が拡張してしまう疾患を指します。

胃粘膜下層の毛細血管が拡張し蛇行するため、内視鏡検査で特徴的な所見が確認できるのが特徴です。拡張してしまった毛細血管は出血を起こしやすく、慢性的な貧血の原因となります。

高齢者や肝硬変の患者さんに多く見られ、特に肝硬変の場合は門脈圧亢進が影響しているとの指摘もあります。

目次

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の症状

胃前庭部毛細血管拡張症(いぜんていぶもうさいけっかんかくちょうしょう)(GAVE)では、慢性的な貧血や吐血・下血といった消化管出血が主な症状として現れます。

慢性的な貧血

胃粘膜の毛細血管が拡張し、断続的に出血することで鉄欠乏性貧血が起こります。貧血は慢性的に進行し、倦怠感や動悸、息切れなどの症状を伴うケースもあります。

症状詳細
倦怠感身体がだるく、疲れやすい状態が続く
動悸心臓の鼓動が早くなったり、強く感じたりする
息切れ少し動いただけで息切れを感じる

吐血・下血

拡張した毛細血管から出血が起こり、吐血や下血が起こる場合があります。

吐血の特徴
  • 鮮血や茶褐色の血液を嘔吐する
  • 酸味や金属味を伴う
下血の特徴
  • 黒色や赤黒い便(タール便)が見られる
  • 便が柔らかく、粘着性がある

貧血に伴う全身症状

GAVEによる慢性的な出血と貧血は、下記のような症状を引き起こします。

症状詳細
頭痛貧血による酸素供給の低下で頭痛が起こる
集中力低下貧血の影響で集中力が低下し、物忘れが増える
脱力感身体の力が入らず、脱力感を感じる

その他の症状

GAVEでは、上記の主要な症状以外にも、以下のような症状が見られます。

  • 胃部不快感や膨満感
  • 食欲不振
  • 体重減少

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の原因

胃前庭部毛細血管拡張症(いぜんていぶもうさいけっかんかくちょうしょう)が発症する原因は、門脈圧亢進やエストロゲンの増加、胃粘膜の強収縮による虚血などさまざまな説がありますが、その詳細は未だわかっていません。

自己免疫疾患との関連

GAVEは、全身性硬化症や原発性胆汁性胆管炎などの自己免疫疾患と関連があることが報告されています。

自己免疫疾患GAVEとの関連
全身性硬化症高い
原発性胆汁性胆管炎高い
シェーグレン症候群中程度
関節リウマチ低い

これらの疾患では、免疫系の異常により血管が傷つき、GAVEが発症すると考えられています。

肝硬変との関連

GAVEは、肝硬変の患者さんに多くみられる合併症の一つです。肝硬変では、門脈圧の上昇により胃の血流が増加し、毛細血管が拡張・蛇行すると考えられています。

また、肝硬変によって生じる凝固因子の異常もGAVEの発症に関与しているとの説もあります。

加齢の影響

GAVEは、中年以降の女性に多くみられる疾患です。加齢に伴って血管が脆くなったり、胃粘膜が萎縮したりすることがGAVEの発症リスクを高めている可能性があります。

年齢層GAVE発症率
40歳未満低い
40~60歳中程度
60歳以上高い

その他の要因

GAVEの発症には、以下のような要因も関与している可能性があります。

  • 慢性腎臓病
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用
  • 放射線照射の既往
  • 骨髄移植の既往

これらの要因が、どのようなメカニズムでGAVEの発症に関与しているのかはまだ十分に解明されていません。

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の検査・チェック方法

胃前庭部毛細血管拡張症(いぜんていぶもうさいけっかんかくちょうしょう)は内視鏡検査により診断されます。

内視鏡検査

内視鏡検査は、胃前庭部毛細血管拡張症に特有の所見を直接確認できる唯一の検査法です。

内視鏡で胃前庭部の粘膜をくわしく観察すると、この病気に特徴的な毛細血管の拡張やうねり、点状の出血などを確かめられます。

内視鏡所見の特徴

胃前庭部毛細血管拡張症の内視鏡所見には、次のような特徴があります。

  • 胃前庭部の粘膜に、毛細血管の拡張やうねりが見られる
  • 拡張した毛細血管が、スイカのような縞模様や放射状の模様を示す
  • 粘膜の表面に、点状の出血や粘膜下の出血が見られる場合がある
  • 粘膜が脆くて、触れるとすぐに出血する

生検

内視鏡検査で胃前庭部毛細血管拡張症が疑われた場合、確定診断のために生検を行います。

組織学的所見特徴
毛細血管の拡張内腔が拡張した毛細血管が増生
フィブリンの析出血管周囲にフィブリンの析出を伴う
炎症細胞浸潤リンパ球や形質細胞の浸潤を伴う

鑑別診断

胃前庭部毛細血管拡張症の診断では、次のような病気との区別が必要です。

  • 胃炎
  • 胃潰瘍
  • 胃がん
  • ポートワイン母斑

これらの病気は、内視鏡で見た所見が胃前庭部毛細血管拡張症と似た特徴を示します。

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の治療方法と治療薬について

胃前庭部毛細血管拡張症(いぜんていぶもうさいけっかんかくちょうしょう)の治療は、内視鏡的治療と薬物療法を組み合わせて行うのが一般的です。

内視鏡的治療

内視鏡的治療の第一選択はアルゴンプラズマ凝固(APC)です。APCでは、高周波電流を用いて病変部位を焼灼します。

治療法特徴
APC比較的低侵襲で、出血のコントロールに有効
内視鏡的粘膜切除術(EMR)病変部位を切除するため、再発リスクが低い

薬物療法

薬物療法では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)が処方されます。

これらの薬剤は、胃酸分泌を抑制し、粘膜の修復を促進する効果があります。

薬剤代表的な商品名
PPIオメプラゾール、ランソプラゾール
H2ブロッカーファモチジン、ラニチジン

鉄欠乏性貧血への対応

GAVEによる慢性的な出血は鉄欠乏性貧血を引き起こす恐れがあるため、必要に応じて鉄剤の投与が行われます。

経口鉄剤や静注鉄剤が用いられ、貧血の改善が図られます。

定期的な経過観察

GAVEは再発のリスクがあるため、定期的な経過観察が欠かせません。内視鏡検査を定期的に行い、病変の再発や進行の有無を確認します。

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の治療期間と予後

胃前庭部毛細血管拡張症(いぜんていぶもうさいけっかんかくちょうしょう)の治療期間は、状態や治療法によって異なります。

内視鏡的治療による治療期間

内視鏡的治療の回数は患者さんの状態によって異なりますが、通常は数回の治療で症状が改善します。

治療法治療回数治療間隔
APC1~3回2~4週間
MPEC1~2回4~8週間

内視鏡的治療後の予後

内視鏡的治療後の予後は良好であり、多くの患者さんで貧血の改善が見られます。

しかし、一部の患者さんでは再発する可能性があるため、定期的な経過観察が必要です。再発した際には、内視鏡的治療を再度行い対応します。

薬物療法による治療期間

薬物療法は、通常は内視鏡的治療後に継続して行われ、数ヶ月から数年間継続します。

薬剤投与期間
PPI6~12ヶ月
オクトレオチド3~6ヶ月

長期的な予後

治療により多くの場合で良好な予後が期待できますが、以下のようなケースでは注意が必要です。

  • 肝硬変などの基礎疾患がある場合
  • 高齢者や全身状態が不良な場合
  • 治療に反応しない難治性の場合

薬の副作用や治療のデメリットについて

胃前庭部毛細血管拡張症(いぜんていぶもうさいけっかんかくちょうしょう)の治療を行う上では、副作用やリスクについても考慮する必要があります。

内視鏡的治療の副作用とリスク

内視鏡的治療はGAVEに対する標準的な治療法ですが、次のような副作用やリスクが伴います。

副作用・リスク説明
出血治療中や治療後に、治療部位からの出血が起こる可能性があります。
穿孔まれに、内視鏡操作により胃壁に穴があく可能性があります。

薬物療法の副作用とリスク

GAVEの治療に用いられる薬剤には、以下のような副作用やリスクがあります。

  • エストロゲン製剤:血栓症のリスクが高まる可能性があります。
  • オクトレオチド:胆石症や耐糖能異常などの副作用が報告されています。
薬剤主な副作用
プロトンポンプ阻害薬骨折リスクの増加、低マグネシウム血症など
鉄剤胃腸障害、便秘など

外科的治療の副作用とリスク

外科的治療は侵襲性が高く、次のようなリスクが伴います。

  • 術後合併症(感染症、縫合不全など)
  • 手術関連死亡

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

胃前庭部毛細血管拡張症(いぜんていぶもうさいけっかんかくちょうしょう)の治療費は、症状や治療法によって大きく変動します。

検査費の目安

内視鏡検査は1回につき5,000円〜10,000円程度が目安です。血液検査は項目によって異なりますが、1回につき数千円〜数万円程度となります。

処置費の目安

処置名費用
アルゴンプラズマ凝固法(APC)約10万円
ラジオ波焼灼術(RFA)約20万円

入院費

胃前庭部毛細血管拡張症の治療で入院が必要となった場合、1日あたり約5万円〜10万円の入院費が発生します。入院期間は症状や治療法によって異なりますが、通常1週間〜2週間程度です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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