ダンピング症候群

ダンピング症候群(Dumping syndrome)とは、胃の切除手術後に起こる症状の一つです。

食事を摂ったとき、胃から小腸へ内容物が急速に排出されることでめまいや動悸、冷や汗、下痢などの症状が現れます。

早期ダンピング症候群は食事の直後から30分以内に起こり、後期ダンピング症候群は食事の1~3時間後に低血糖症状として現れるのが特徴です。

目次

ダンピング症候群の病型

ダンピング症候群には、「早期ダンピング症候群」と「後期ダンピング症候群」の2つ病型があります。

早期ダンピング症候群

  • 胃切除後の発症頻度:30%前後
  • 発症時期:食後の15~30分後

早期ダンピング症候群は、食事の15~30分後に発症します。

食べ物や飲み物が胃から小腸へ急速に移動することで、小腸内の浸透圧が上昇し、血管内の水分が小腸内に移動します。

その結果、血液量が減少し、腹痛や下痢、吐き気などのさまざまな症状を引き起すのが特徴です。

後期ダンピング症候群

  • 胃切除後の発症頻度:5%前後
  • 発症時期:食後の2~3時間後

後期ダンピング症候群は、食事の2~3時間後に発症します。

小腸内に急速に流入した糖質により血糖値が急上昇し、それに反応してインスリンの分泌が過剰に促進されることが原因です。

その結果、低血糖状態に陥り、動悸や冷汗、手指のふるえ、全身脱力感などの症状が引き起こされます。

ダンピング症候群の症状

早期ダンピング症候群では血液量減少に伴う症状が主体となる一方で、後期ダンピング症候群ではインスリン分泌過剰による低血糖症状が主体となります。

早期ダンピング症候群の症状

早期ダンピング症候群は、食事後30分以内に発症し、以下のような症状が見られます。

症状詳細
腹痛上腹部の痛み
下痢水様便や軟便
悪心・嘔吐吐き気や嘔吐
めまいふらつきや立ちくらみ

後期ダンピング症候群の症状

後期ダンピング症候群は、食事後2~3時間後に発症し、以下のような症状が特徴的です。

  • 低血糖症状(冷や汗、動悸、脱力感など)
  • 空腹感の亢進
  • 集中力の低下
  • 眠気や倦怠感

食事内容との関連性

ダンピング症候群の症状は、食べるものによっても変わってきます。特に、次のような食品を食べると、症状が悪くなりやすい傾向です。

  • 糖分の多い食品(ケーキ、アイスクリーム、ジュースなど)
  • 脂肪分の多い食品(揚げ物、油っこい料理など)
  • 乳製品(牛乳、チーズなど)

反対に、タンパク質や食物繊維をしっかり取ると、症状が良くなることもわかっています。

ダンピング症候群の原因

ダンピング症候群は胃の手術後に発症する疾患で、胃切除術や迷走神経切除術などを受けた患者さんにみられます。

胃切除術や迷走神経切除術との関連性

胃の手術を受けると、胃の食べ物を貯めておく力が弱くなり、食事が一気に十二指腸へ流れ込んでしまいます。

そうなると、小腸の中の浸透圧が急に高くなり、大量の水分が小腸に集まってきます。その結果、下痢やおなかの張りなどの症状が現れます。

手術名ダンピング症候群発症率
胃切除術20〜30%
迷走神経切除術10〜30%

腸内細菌との関連性

最近の研究で、ダンピング症候群と腸内細菌のバランスの乱れが関係していることがわかってきました。

胃の手術を受けたあとは腸内細菌のバランスが崩れ、体に悪い影響を与える細菌が増えやすくなります。

腸内細菌胃切除術後の変化
ビフィズス菌減少
乳酸菌減少
ウェルシュ菌増加
クロストリジウム属増加

このような腸内細菌のバランスの乱れが、ダンピング症候群の症状を悪化させている可能性があります。

ホルモン分泌異常との関連性

ダンピング症候群の患者さんでは、消化管のホルモンの分泌にも異常がみられます。

特に、インスリンやグルカゴンが過剰に分泌されると、低血糖の症状やめまい、動悸などが起こりやすいです。

また、セロトニンやヒスタミンなど、ホルモンの分泌異常もダンピング症候群の発症に関係しているという報告があります。

ダンピング症候群の検査・チェック方法

胃の切除後、食後の腹痛や下痢、動悸、発汗、手指の震えなどがみられた場合はダンピング症候群を疑います。

身体所見

症状早期ダンピング症候群後期ダンピング症候群
腹部症状腹痛、下痢、嘔気、腹部膨満感空腹感、腹鳴
全身症状動悸、発汗、めまい、脱力感空腹時の震え、動悸、発汗、意識障害

消化管造影検査

消化管造影検査では、造影剤を使って食べ物の通過の様子を観察し、ダンピング症候群に特徴的な所見をとらえます。

糖負荷試験

糖負荷試験では、ブドウ糖の液体を口から飲んで、その後の血糖値や症状の変化を見ていきます。

  • 早期ダンピング症候群では、飲んでから30分以内に血糖値が急に上がり、その後急激に下がります。
  • 後期ダンピング症候群では、飲んでから2~3時間後に反応性低血糖が起こります。
時間血糖値(mg/dL)
0分80-110
30分180以上
60分140以上
120分60以下

その他の検査

  • 上部消化管内視鏡検査:胃や十二指腸の粘膜の状態を直接観察します。
  • 腹部超音波検査:胃や十二指腸の形や動きを評価します。
  • 血中インスリン濃度測定:後期ダンピング症候群で起こる反応性低血糖の原因を特定します。

ダンピング症候群の治療方法と治療薬について

ダンピング症候群は食事療法による予防が基本です。軽症のダンピング症候群であれば、生活習慣の改善や食事療法によって症状が改善します。

食事療法の効果

食事療法の内容期待される効果
1回の食事量を減らし、食事の回数を増やす胃内容物の急激な排出を防ぐ
高糖質食品を避け、タンパク質や脂肪を多く摂取する急激な血糖上昇を抑える

薬物療法の役割

食事療法だけでは十分な効果が得られない場合、以下のような薬剤が使用されます。

  • 制吐剤:嘔吐を抑える
  • 止瀉薬:下痢を抑える
  • インスリン分泌抑制薬:急激な血糖上昇を抑える
病型治療薬
早期ダンピング症候群抗ヒスタミン薬、高セロトニン薬、抗不安薬など
後期ダンピング症候群α-グルコシダーゼ阻害薬の食前投与

ダンピング症候群の治療期間と予後

ダンピング症候群は、そのほとんどが食事療法、内科的治療により症状は良くなり、良好な予後が見込めます。

ダンピング症候群の治療期間

症状が軽い場合は、数週間~数ヶ月が目安となります。一方、症状が重い場合は薬物療法や手術が必要になり、治療期間が長くなる可能性があります。

重症度治療期間の目安
軽症数週間から数ヶ月
中等症数ヶ月から1年程度
重症1年以上

ダンピング症候群の予後

ダンピング症候群では、多くの場合で治療により良好な予後が期待できます。ただし、重症例や合併症を有する場合は治療が難渋する場合もあります。

また、症状が良くなっても、再発や合併症の発生を防ぐために定期的な検査が必要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

ダンピング症候群の治療には、副作用やリスクが伴います。

薬物療法の副作用

薬物療法では、消化管運動を調整する薬剤が使用されます。これらの薬剤は以下のような副作用が生じる可能性があります。

副作用症状
便秘排便回数の減少、硬い便
腹部膨満感お腹の張り、不快感
悪心・嘔吐吐き気、嘔吐

食事療法のリスク

食事療法では、以下のようなリスクがあります。

  • 栄養不足
  • 体重減少
  • 低血糖

長期的な影響

  • 低血糖発作
  • 骨粗鬆症
  • 貧血

ダンピング症候群の治療には長期的な影響が伴う場合もあるため、定期的な検査を受けるようにしてください。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

ダンピング症候群の治療費は保険適用となりますが、具体的な金額は症状や重症度によって大きく異なります。

検査費用

内視鏡検査や血液検査など、必要な検査の費用は以下の通りです。

検査項目費用
上部消化管内視鏡検査11,400円〜
血液検査3,000円〜

投薬・処置費用

症状に応じた薬剤の処方や、必要な処置の費用が加わります。

例えば、制酸剤や消化酵素剤などの薬剤費は、1ヶ月あたり数千円から1万円程度となります。

また、まれですが、重症のダンピング症候群で入院治療が必要になった場合は1日あたり約3万円〜5万円の入院費用がかかります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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