ブラインドループ症候群(盲管症候群)

ブラインドループ症候群(盲管症候群)(Blind loop syndrome)とは、手術によって生じた盲管内で腸内細菌が異常増殖し、吸収不良症候群をきたす病態を言います。

盲管とは、腸管の一部が袋状に突出した状態です。 手術後に盲管ができると、そこに腸内容物がたまり、腸内細菌が異常に増えてしまうのです。その結果ビタミンやミネラルの吸収が妨げられ、吸収不良症候群が引き起こされます。

ブラインドループ症候群の症状には、下痢、体重減少、貧血、倦怠感などがあります。

目次

ブラインドループ症候群(盲管症候群)の症状

ブラインドループ症候群では、下痢や体重減少、お腹の張り、貧血などの症状が代表的です。

多くの場合で慢性的な経過をたどり、症状が進んでいくと栄養不足や貧血がさらに悪化します。

下痢

ブラインドループ症候群では、腸内細菌の異常増殖により下痢が起こります。この下痢は長く続くのが特徴で、ひどい場合では1日に10回以上、水のような便が出る場合もあります。

下痢の回数や程度には個人差がありますが、慢性的な下痢が続く場合が多いです。

症状詳細
下痢の頻度1日に数回〜10回以上
下痢の性状水様便が多い

体重減少

長期間続く下痢によって栄養が十分に吸収されなくなり、体重が減ってしまう場合があります。

体重が減る程度は症状の重さによって異なりますが、数ヶ月で体重の10%以上減ってしまう方もいます。体重減少は栄養不足の表れであり、重要な症状の一つです。

腹部膨満感

ブラインドループの中で細菌が異常に増えると、ガスが多く作られるようになり、お腹が張ります。

お腹の張りは食事と関係が深く、食べた後に悪化しやすい傾向です。

貧血

ブラインドループ症候群では、次のような理由で貧血が起こります。

  • ビタミンB12が吸収されにくくなる
  • 葉酸が吸収されにくくなる
  • 鉄が吸収されにくくなる

中でも、ビタミンB12が吸収されないことによる悪性貧血が高い頻度で認められます。貧血の程度はさまざまですが、ヘモグロビンの値が10g/dL以下になるケースもあるため、注意が必要です。

ブラインドループ症候群(盲管症候群)の原因

ブラインドループ症候群は、胃の切除手術や胃と腸をつなぐ手術の後に起こる合併症の一つで、手術で作られた袋状の盲管の中で腸内細菌の異常増殖が原因です。

胃切除の際の再建方法であるBillroth-II 法(ビルロートⅡ法)で生じます。

手術による解剖学的変化

胃切除術や胃腸吻合術などの手術を受けると、消化管の解剖学的な構造が変わってしまいます。

手術で作られた盲管は消化管の通り道から外れた袋のような構造になっているため、食べ物や消化液の流れが滞りやすくなるのです。

こうした環境が、腸内細菌が異常に増えるきっかけとなります。

腸内細菌の異常増殖

手術で作られた盲管の中には、次のような特徴があります。

  • 食べ物や消化液の流れが滞りやすい
  • 酸素が少ない嫌気的な環境である
  • 胆汁や膵液などの消化液が十分に届きにくい

このような環境では、特定の腸内細菌が異常に増え、腸内細菌のバランスが崩れてしまうのです。

腸内細菌叢のバランス崩壊

腸内細菌のバランスが崩れると、次のような問題が起こります。

  • 有害な代謝物質の産生が増える
  • 腸の粘膜に炎症や傷ができる
  • ビタミンB12の吸収が悪くなる
  • 脂肪の吸収が悪くなる

これらの問題が複雑に絡み合い、ブラインドループ症候群特有の症状が引き起こされます。

ブラインドループ症候群(盲管症候群)の検査・チェック方法

胃切除の際の再建方法であるBillroth-II 法(ビルロートⅡ法)後に、腹痛や腹部膨満感、体重減少、脂肪便や貧血がみられる場合はブラインドループ症候群を疑います。

身体診察

診察項目確認ポイント
お腹を見る張りがないか
お腹の音を聴く腸の動きが活発になっていないか
お腹を触る痛みがないか
栄養状態の評価体重減少、肌の乾燥、むくみ

血液検査

検査項目確認ポイント
血液一般検査貧血がないか
生化学検査電解質バランス、タンパク質不足、肝機能低下
炎症反応の検査炎症の有無

画像検査

お腹のレントゲン検査やCT検査を行い、盲管が拡がっていないか、中に液体がたまっていないか、腸の壁が厚くなっていないかを確認します。

また、小腸を造影する検査や小腸内視鏡検査は盲管の位置や範囲、粘膜の状態を直接確認でき、確定診断に役立ちます。

ブラインドループ症候群(盲管症候群)の治療方法と治療薬について

ブラインドループ症候群の治療は、手術で盲管を切除し、抗菌薬を投与して細菌の異常増殖を抑えることが中心です。同時に、栄養状態の改善にも取り組む必要があります。

治療の基本

ブラインドループ症候群の治療の基本は、栄養状態の改善と感染のコントロールです。

治療法内容
栄養療法静脈栄養や経腸栄養による栄養状態の改善
抗菌薬治療腸内細菌の異常増殖を抑制するための抗菌薬の投与

手術療法

内科的治療で改善が得られない場合や、重症例では手術療法が選択されます。

手術法目的
盲管切除術盲管を切除し、腸内細菌の異常増殖を防ぐ
バイパス手術盲管を迂回するルートを作り、腸内容物の流れを改善する

盲管を取り除くことで、細菌が異常に増殖する場所がなくなります。

抗菌薬療法

手術と並行して、抗菌薬を投与し、細菌の異常増殖を抑制します。よく使われる抗菌薬は次のとおりです。

  • メトロニダゾール
  • バンコマイシン
  • リファキシミン

これらの薬は、腸内細菌、特に嫌気性菌の増殖を抑える働きがあります。

栄養療法

ブラインドループ症候群では吸収不良から栄養障害が起こるため、栄養状態の改善が重要です。

栄養療法概要
経静脈栄養静脈から直接栄養を投与する方法
経腸栄養チューブを用いて消化管から栄養を投与する方法

ブラインドループ症候群(盲管症候群)の治療期間と予後

ブラインドループ症候群の治療は数週間から数ヶ月を要するケースが多く、予後については原因や重症度によってさまざまです。

治療期間

内科的治療では、栄養状態の改善と感染のコントロールに数週間から1〜2ヶ月程度を要するのが一般的です。

手術療法を行ったケースでは、術後の回復期間として数週間から1〜2ヶ月ほど必要となります。

予後

原因となった疾患や重症度、治療開始までの期間などによって異なりますが、早期治療により多くのケースで良好な経過をたどります。

しかし重症例や合併症を有する症例では、治療に難渋したり、長期的な経過観察が求められる可能性もあります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

ブラインドループ症候群の治療で行われる抗菌薬投与や外科的な盲管切除には、副作用やリスクが伴います。

抗菌薬の副作用

長期間の抗菌薬使用は、薬剤耐性菌の出現や腸内細菌叢のバランス崩壊を引き起こす可能性があります。

抗菌薬の種類副作用
ペニシリン系アレルギー反応、腎障害
セファロスポリン系偽膜性大腸炎、肝障害

外科的治療のリスク

外科的な盲管切除術後の合併症として、以下のようなものが挙げられます。

  • 感染症
  • 出血
  • 縫合不全
  • イレウス
合併症発生頻度
感染症5-10%
出血1-3%

再発のリスク

ブラインドループ症候群の治療後も、再発のリスクが完全になくなるわけではありません。抗菌薬の投与を中止したり、外科的治療後に新たな盲管が形成されたりすると、再び細菌の異常増殖が起こる可能性があります。

そのため、定期的な経過観察と予防措置が大切です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

盲管症候群の治療費用は医療保険の適用です。症状や治療内容によって大きく異なりますが、高額になるケースが多いです。

検査費の目安

検査の種類概算費用
上部消化管内視鏡検査約15,000円
腹部CT検査約20,000円

処置費や手術費

盲管症候群の治療では盲管の切除手術が実施されるケースが多く、手術費用は100万円以上になる場合もあります。

入院費

手術後は入院治療が必要となり、1日あたりの入院費用は10,000円程度が一般的です。

以上

参考文献

DONALDSON, R. M., et al. Studies on the pathogenesis of steatorrhea in the blind loop syndrome. The Journal of Clinical Investigation, 1965, 44.11: 1815-1825.

JUSTUS, P. G., et al. Altered myoelectric activity in the experimental blind loop syndrome. The Journal of clinical investigation, 1983, 72.3: 1064-1071.

TOSKES, P. P., et al. Small intestinal mucosal injury in the experimental blind loop syndrome: light-and electron-microscopic and histochemical studies. Gastroenterology, 1975, 68.5: 1193-1203.

GIANNELLA, R. A.; ROUT, W. R.; TOSKES, P. P. Jejunal brush border injury and impaired sugar and amino acid uptake in the blind loop syndrome. Gastroenterology, 1974, 67.5: 965-974.

REILLY, R. W., et al. The blind loop syndrome. Gastroenterology, 1959, 37: 491-494.

GIANNELLA, Ralph A.; TOSKES, Phillip P. Gastrointestinal bleeding and iron absorption in the experimental blind loop syndrome. The American Journal of Clinical Nutrition, 1976, 29.7: 754-757.

GOLDSTEIN, Franz. Mechanisms of malabsorption and malnutrition in the blind loop syndrome. Gastroenterology, 1971, 61.5: 780-784.

BADENOCH, John. The blind loop syndrome. 1960.

MATCHETT, Caroline; WANG, Xiao Jing. S3039 A Case of Blind Loop Syndrome: A Rare Mimicker. Official journal of the American College of Gastroenterology| ACG, 2021, 116: S1255-S1256.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次