輸入脚症候群(急性・慢性)

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)(Afferent loop syndrome)とは、胃の一部切除後に、残存胃と小腸を連結する部位(輸入脚)に異常が発生する疾患です。

輸入脚の通過障害によって、胆汁や膵液の流れが滞り、腹痛や嘔吐などの症状が出現します。

癒着や狭窄、内ヘルニアなどが原因として考えられ、頻度は高くありませんが、胃切除後の患者さんにおいて留意すべき合併症の一つです。

目次

輸入脚症候群の病型

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)には、完全閉塞のために生じる急性型と、不完全閉塞のために症状の悪化と軽快を繰り返す慢性型の2つの病型があります。

急性輸入脚症候群

急性輸入脚症候群は、輸入脚の完全閉塞によって突発的に発症し、急激な症状の悪化が特徴です。

輸入脚の完全閉塞により、消化液や内容物の流れが遮断されるため、重篤な合併症を引き起こす可能性が高くなります。

そのため、急性型では速やかな診断と治療介入が大切です。

特徴内容
閉塞の程度完全閉塞
発症突発的
症状急激な悪化
合併症のリスク高い

慢性輸入脚症候群

一方、慢性輸入脚症候群は、輸入脚の不完全閉塞によって引き起こされ、症状の悪化と軽快を繰り返す長期的な経過をたどります。

輸入脚の不完全閉塞により消化液や内容物の流れが部分的に妨げられるため、症状は軽度から中等度であるケースが多く、管理により良好な予後が期待できます。

ただし、慢性期においても定期的な経過観察が大切です。

特徴内容
閉塞の程度不完全閉塞
発症徐々に
症状悪化と軽快を繰り返す
予後適切な管理で良好

病型による治療アプローチの違い

急性輸入脚症候群
  • 早期診断と迅速な治療介入
  • 輸入脚閉塞の解除
  • 合併症の予防と管理
慢性輸入脚症候群
  • 定期的な経過観察
  • 症状に応じた対症療法
  • 閉塞の進行抑制

輸入脚症候群の症状

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)の主な症状としては、腹痛、嘔吐、腹部膨満感などが挙げられます。

これらの症状は、輸入脚の通過障害によって引き起こされます。

腹痛

輸入脚症候群において最もよく見られる症状は、上腹部の痛みです。食事の後に悪化する傾向にあり、ひどい時は耐え難いほどになることもあります。

症状特徴
腹痛上腹部の痛み
悪化要因食事摂取後

嘔吐

輸入脚症候群では、頻回の嘔吐が認められる場合があります。嘔吐物の中には未消化の食べ物が含まれ、時には胆汁が混じっていることもあります。

腹部膨満感

輸入脚内の内容物がうっ滞することで腸管内圧が高まり、腹部の張りや不快感が起こります。

症状原因
腹部膨満感輸入脚内容物のうっ滞
腹部不快感腸管内圧の上昇

その他の症状

  • 体重減少
  • 腹部の鼓動
  • 下痢や便秘
  • 発熱

これらの症状は、輸入脚の通過障害によって栄養吸収が悪くなったり、細菌が異常に増えたりすることが原因で起こります。

輸入脚症候群の原因

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)は、胃切除の際の再建方法であるBillroth Ⅱ法(ビルロートⅡ)またはRoux-en Y法(ルーワイ)後にしばしば発生する合併症です。

再建法の技術向上により、近年での発生頻度は減少傾向です。

吻合部の狭窄や閉塞

輸入脚症候群の主な原因は、胃や十二指腸の吻合部における狭窄や閉塞です。

術後の癒着や浮腫、縫合不全などにより、吻合部が狭くなったり閉塞したりすることで、十二指腸や空腸の内容物が胃に流れ込みにくくなります。

原因発生頻度
術後の癒着比較的多い
吻合部の浮腫比較的多い
縫合不全まれ

残胃の拡張

吻合部の狭窄や閉塞により、残胃が拡張することも輸入脚症候群の原因です。

残胃の拡張は吻合部を通過できない内容物がたまって起こり、残胃の運動機能低下を引き起こします。

輸入脚の過長

胃切除後の再建で、輸入脚が長すぎる場合にも輸入脚症候群が発生しやすくなります。輸入脚が長いと、内容物の通過が悪くなり、残胃への逆流が起こりやすくなります。

腸管の癒着や捻れ

  • 腸管の癒着
  • 腸管の捻れ
  • 内ヘルニア

手術後に腸管が癒着したり捻れたりすると、内容物の通過障害が起こる可能性があります。

原因症状
腸管の癒着腹痛、嘔吐
腸管の捻れ激しい腹痛、嘔吐

輸入脚症候群の検査・チェック方法

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)が疑われる場合、血液検査や画像検査を行い臨床診断をつけます。

身体所見と症状の評価

輸入脚症候群では、上腹部の痛みや嘔吐、お腹の張りなどの症状が現れやすいです。また、お腹を見ると膨らんでいたり、触ると痛みがあります。

症状所見
上腹部痛圧痛
嘔吐膨隆
腹部膨満感腸雑音の亢進

血液検査・画像検査

血液検査では、炎症反応や電解質のバランスの乱れ、肝臓の数値の異常などをチェックします。

輸入脚症候群の画像検査としては、以下のものが挙げられます。

  • 腹部単純X線検査
  • 腹部CT検査
  • 上部消化管内視鏡検査

これらの検査で、輸入脚の広がりや中に液体がたまっていないか、狭くなっている場所などがわかります。

臨床診断と確定診断

確定診断をつけるには上部消化管内視鏡検査が必要です。 内視鏡検査では、粘膜の異常を直接観察できます。

検査所見
上部消化管内視鏡検査輸入脚の狭窄・閉塞
粘膜面の発赤・びらん

輸入脚症候群の治療方法と治療薬について

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)の治療では、閉塞の解除が最優先の目標となります。

内視鏡を用いた治療法

内視鏡によって、狭窄箇所の拡張や閉塞物質の除去を行います。状況に応じて、バルーン拡張術やステント留置術などが選択されます。

治療法概要
バルーン拡張術狭窄部位にバルーンを挿入し、拡張させる
ステント留置術狭窄部位にステントを留置し、内腔を確保する

外科的アプローチ

内視鏡治療で十分な効果が得られない場合、輸入脚の切除と再建を行う手術の実施を検討します。

薬物による対症療法

輸入脚症候群に伴う諸症状の緩和を目的として、次のような薬剤が使われます。

  • 制酸薬:胃酸の分泌を抑制し、症状を和らげる
  • 消化酵素薬:食物の消化を促進し、症状を改善する
  • 止瀉薬:下痢を抑制する
薬剤作用
H2ブロッカー胃酸分泌を抑制
プロトンポンプ阻害薬胃酸分泌を強力に抑制
パンクレリパーゼ膵酵素の補充
ロペラミド腸管運動を抑制し、下痢を改善

輸入脚症候群の治療期間と予後

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)の治療期間は、症状の重さによって異なります。軽い症状であれば、薬物療法などの保存的治療で数週間から数ヶ月で症状は良くなっていきます。

しかし、重い症状の際は手術が必要になるケースが多く、手術後の回復期間も含めると数ヶ月から半年ほどの治療期間が必要です。

治療期間の目安

重症度治療方法治療期間
軽度保存的治療数週間〜数ヶ月
重度手術数ヶ月〜半年

予後

早期発見と早期治療開始により、多くの場合で良好な予後が期待できます。ただし、原因となった病気によっては、治療後も長期的な管理が必要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)の治療には、副作用やリスクが伴います。

手術療法に伴う合併症のリスク

輸入脚症候群の外科的治療では、癒着剥離術や輸入脚空置術などの手術が行われます。これらの手術療法には、出血、感染、縫合不全などの合併症のリスクがあります。

合併症発生頻度
出血1-5%
感染1-3%
縫合不全1-2%

薬物療法の副作用

輸入脚症候群の治療で用いられる制吐剤や鎮痛剤などには、眠気、便秘、口渇などの副作用が報告されています。

薬剤主な副作用
制吐剤眠気、便秘、口渇
鎮痛剤眠気、便秘、胃腸障害

栄養療法に関連するリスク

輸入脚症候群では、輸入脚の通過障害により栄養吸収不良を来たす場合があり、その際には中心静脈栄養などの栄養療法が必要です。

栄養療法には、カテーテル感染や代謝異常などのリスクが伴います。

再発のリスク

輸入脚症候群の治療後も、再発のリスクが残ります。特に癒着剥離術後の再癒着や、輸入脚空置術後の盲端症候群の発生などが問題となるため、定期的な経過観察が大切です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

輸入脚症候群(ゆにゅうきゃくしょうこうぐん)の治療費用は医療保険の適用です。

検査費用

輸入脚症候群を診断するたのCTやMRIといった画像検査を受ける際は、1回につき10,000円から50,000円が一般的な費用となります。

処置費・手術費用

内視鏡を用いた処置や外科手術が必要になったときは、医療費が高額になります。

処置・手術金額
内視鏡的治療数十万円~
外科的手術数百万円~

入院費

輸入脚症候群の治療で入院が必要な場合、1日あたりの入院費用は通常1万円前後となります。入院期間は症状や治療方針によりますが、数日から数週間かかるケースが多いです。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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