迷入膵/異所性膵

迷入膵(めいにゅうすい)/異所性膵(いしょせいすい)(Aberrant pancreas/Ectopic pancreas)とは、本来あるべき膵臓以外の場所に膵臓の組織ができてしまう状態です。

多くのケースでは自覚症状は現れませんが、腫瘤が大きくなると上腹部の痛みや吐き気、嘔吐などの症状が出ることもあります。

まれな疾患ですが、消化器の症状がある患者さんの中には、迷入膵/異所性膵が隠れているケースも見られます。

目次

迷入膵/異所性膵の病型

迷入膵(めいにゅうすい)/異所性膵(いしょせいすい)は、Heinrich分類によってⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型の3つの病型に分けられます。

Heinrich分類とは

Heinrich分類は、迷入膵/異所性膵の組織学的特徴に基づいた分類法です。この分類は、膵臓組織の構成要素である腺房細胞、導管、ランゲルハンス島の有無と割合によって行われます。

病型構成要素
Ⅰ型腺房細胞、導管、ランゲルハンス島
Ⅱ型腺房細胞、導管
Ⅲ型導管のみ

Ⅰ型:完全型

Ⅰ型は、腺房細胞、導管、ランゲルハンス島のすべてを有する完全型です。正常な膵臓組織と同様の構造が特徴であり、最も頻度が高い病型とされています。

構成要素有無
腺房細胞有り
導管有り
ランゲルハンス島有り

Ⅱ型:不完全型

Ⅱ型は、腺房細胞と導管のみを有する不完全型です。ランゲルハンス島を欠いている点が特徴であり、Ⅰ型に次いで頻度が高い病型です。

構成要素有無
腺房細胞有り
導管有り
ランゲルハンス島無し

Ⅲ型:導管型

Ⅲ型は、導管のみを有する導管型です。腺房細胞やランゲルハンス島を欠いており、非常にまれな病型とされています。

構成要素有無
腺房細胞無し
導管有り
ランゲルハンス島無し

迷入膵/異所性膵の症状

胃の粘膜下にできる腫瘍の一種である迷入膵(めいにゅうすい)や異所性膵(いしょせいすい)は、多くの患者さんで症状が現れません。

ただし、大きくなったり炎症を起こしたりすると、腹痛や消化不良などの症状が出る場合もあります。

上腹部痛

膵臓に炎症が起きたり、腫瘍が周囲を圧迫したりすると痛みが起きる場合があります。痛みは持続的であり、食事を取ると悪化する傾向です。

消化器症状

迷入膵・異所性膵は、消化管の通過をさまたげたり、潰瘍を作ったりして、吐き気、嘔吐、胸やけなどの消化器症状を引き起こすことがあります。

体重減少

迷入膵・異所性膵によって消化管の通過が妨げられたり、膵臓から出る消化酵素の分泌に異常が生じたりすると、食べ物の消化吸収がうまくいかなくなり体重が減少するケースもあります。

膵炎様症状

迷入膵・異所性膵は、まれに急性膵炎や慢性膵炎に似た症状を引き起こす場合があります。これらの症状には、激しい上腹部の痛み、熱の上昇、背中の痛みなどが含まれます。

症状特徴
急性膵炎様症状激しい上腹部痛、発熱、背部痛
慢性膵炎様症状持続的な上腹部痛、体重減少

迷入膵/異所性膵の原因

迷入膵(めいにゅうすい)や異所性膵(いしょせいすい)の主な原因は、胎児の発育段階で膵臓の組織が本来あるべき位置からの迷入や、逸脱です。

詳細な原因についてはわかっていない点が多く、今後のさらなる研究が期待されます。

胎生期における膵臓の発生過程

胎児が成長していく過程で、前腸から膵芽が発生し、やがて背側膵原基と腹側膵原基が形成されます。

通常、これらの原基の融合により膵臓が形成されますが、何らかの理由で一部の膵組織が本来の位置から逸脱してしまうことがあります。

このように迷入した膵組織が、胃や十二指腸などの臓器に定着、成長して迷入膵や異所性膵が発生すると考えられています。

発生段階背側膵原基腹側膵原基
胎生4週前腸背側に出現前腸腹側に出現
胎生5週分枝形成開始総胆管と接続

遺伝的要因の可能性

一部の研究では、迷入膵や異所性膵の発生に遺伝的要因が関与している可能性が示唆されています。しかし、現時点では明確な遺伝子異常は同定されておらず、さらなる研究が必要です。

迷入膵/異所性膵の検査・チェック方法

迷入膵(めいにゅうすい)・異所性膵(いしょせいすい)は、内視鏡検査(胃カメラ検査)で偶然発見されるケースが多いです。

内視鏡検査

通常の上部消化管内視鏡検査で粘膜下腫瘍の存在を確認し、その特徴的な所見から迷入膵・異所性膵を疑います。典型的な内視鏡所見としては、以下のようなものが挙げられます。

内視鏡所見特徴
粘膜下腫瘍表面平滑で境界明瞭な隆起性病変
中心陥凹腫瘍の中心部に認められる陥凹
開口部腫瘍表面に認められる開口部

超音波内視鏡検査(EUS)

超音波内視鏡検査(EUS)は、内視鏡検査で迷入膵・異所性膵が疑われた場合に行われる検査です。

EUSでは、高周波の超音波を用いて腫瘍の内部構造や周囲組織との関係を詳細に評価できます。

迷入膵・異所性膵に特徴的なEUS所見としては、以下のようなものが知られています。

  • 均一な低エコー腫瘤
  • 腫瘤内部に点状または線状の高エコー像(膵管や血管に相当)
  • 第3層(粘膜下層)から第4層(固有筋層)にかけての限局性病変

画像検査

CT検査やMRI検査では、腫瘍の位置や大きさ、周囲臓器との関係を評価できます。ただし、画像検査のみでは確定診断には至らないため、内視鏡検査やEUSとの併用が必要となります。

画像検査評価項目
CT検査腫瘍の位置、大きさ、周囲臓器との関係
MRI検査腫瘍の性状、周囲組織への浸潤の有無

迷入膵/異所性膵の治療方法と治療薬について

偶発的に迷入膵(めいにゅうすい)/異所性膵(いしょせいすい)が見つかり、症状がない場合は経過観察が原則です。内視鏡検査やCT検査を定期的に行い、病変の大きさや形の変化を監視します。

症状がある場合は外科的切除が検討されます。

症状がある場合の外科的切除

迷入膵/異所性膵で症状が現れた場合や、悪性化が疑われるときは外科的切除が検討されます。病変の位置や大きさに応じて、次のような術式の選択肢があります。

  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
  • 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
  • 腹腔鏡下胃局所切除術 – 開腹胃局所切除術
術式適応
EMR/ESD粘膜下層までの病変
腹腔鏡下/開腹胃局所切除術粘膜下層を超える病変

薬物療法

迷入膵/異所性膵による症状がある場合は、薬物療法も組み合わせる場合があります。炎症を抑え、症状を和らげるのが主な目的です。

主に次のような薬が使われます。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸の分泌を抑え、胃粘膜を守る
  • H2受容体拮抗薬:胃酸の分泌を抑える
  • 消化酵素薬:膵臓の酵素を補い、消化を助ける
  • 鎮痛薬:痛みをコントロールするのに用いる

迷入膵/異所性膵の治療期間と予後

迷入膵(めいにゅうすい)/異所性膵(いしょせいすい)の治療期間と予後は、個々の症例によって大きく異なります。

症状がない場合

無症状の迷入膵/異所性膵の場合は経過観察が基本となり、定期的な内視鏡検査や画像検査を行い、腫瘍の大きさや形状に変化がないか確認します。

多くの場合、無症状の迷入膵/異所性膵は良性であり、悪性化のリスクは低いとされています。

検査方法間隔
内視鏡検査6ヶ月~1年ごと
CT検査1年ごと

症状がある場合

症状を伴う迷入膵/異所性膵の場合は外科的切除が検討され、一般的に腹腔鏡下手術が選択され、術後の回復期間は2~3週間程度です。

悪性化が疑われる場合

迷入膵/異所性膵が悪性化した場合、リンパ節郭清を伴う広範囲な切除が必要となります。術後の回復期間は、切除範囲や患者の全身状態によって異なりますが、通常は1ヶ月以上を要します。

また、術後の補助化学療法が必要な場合もあり、その場合の治療期間はさらに長期化します。

予後について

無症状で経過観察されている迷入膵/異所性膵の予後は良好であり、生命予後に影響を与えることは稀です。

一方、まれですが、症状を伴う場合や悪性化した場合の予後は、発見時期や治療方法によって大きく異なります。

早期発見と治療により良好な予後が期待できますが、進行例では予後不良となる可能性が高くなります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

迷入膵(めいにゅうすい)・異所性膵(いしょせいすい)の治療を行う場合には、副作用やリスクが伴う可能性があります。

外科的切除の副作用とリスク

外科的切除では出血、感染、術後の痛みなどが発生する可能性があり、まれに anastomotic leak(吻合部リーク)などの合併症が起こる場合もあります。

副作用・リスク発生頻度
出血比較的まれ
感染まれ
術後の痛み一般的
吻合部リークまれ

内視鏡的切除の副作用とリスク

  • 出血
  • 穿孔
  • 不完全な切除による再発リスク

内視鏡的切除は低侵襲な治療法ですが、出血や穿孔などの副作用やリスクがあります。また、病変の大きさや位置によっては完全な切除が難しく、再発のリスクが高くなる場合があります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

迷入膵や異所性膵の治療には、基本的に健康保険が適用されます。しかし、先進医療に分類される治療を受ける際は、一部自己負担となるケースもあります。

治療方法別の費用目安

代表的な治療方法とその費用の目安は以下の通りです。

治療方法費用目安
内視鏡的切除術50万円~100万円
腹腔鏡下手術100万円~150万円
開腹手術150万円~200万円

健康保険適用の場合の自己負担額は1割~3割です(年齢や状況により異なります)。

費用は目安となりますので、正確な費用については各医療機関へ直接ご確認ください。

高額療養費制度の活用

治療費が高額になるケースでも、高額療養費制度を利用すれば、自己負担額を一定の上限内に収められます。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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