慢性膵炎/膵石症

慢性膵炎/膵石症(Chronic pancreatitis)とは、膵臓に炎症が持続的に発生し、組織の損傷が進行する病気です。

この病気になると、膵臓の機能が次第に低下していき、消化酵素やインスリンなどのホルモン分泌に支障をきたすようになります。

目次

慢性膵炎/膵石症の病型・原因

慢性膵炎/膵石症は、アルコール性と非アルコール性の2つに分類されます。

アルコール性慢性膵炎

アルコール性慢性膵炎は、その名の通り、長期間にわたる過度のアルコール摂取が原因となるタイプです。

40代から50代の男性で、20年以上にわたり1日80g以上のアルコールを摂取している方に多く見られます。

アルコール性慢性膵炎の特徴

  • 40〜50代の男性に好発する
  • 徐々に進行する経過をたどる
  • 膵機能の低下が段階的に進行する
重症度臨床像
軽度腹痛のみが認められる
中等度腹痛に加え、膵外分泌機能低下が出現する
重度腹痛、膵外分泌機能低下、膵内分泌機能低下が顕著となる

アルコール性慢性膵炎の原因

アルコールを慢性的に過剰摂取されている方は、膵臓に直接的・間接的な影響を与え続けていることになり、次第に膵臓の損傷を引き起こすリスクがあります。

どのように慢性膵炎へと進行していくかについてですが、アルコールは膵液の粘度を上昇させ、膵管内での石灰化を促進する作用があります。

この作用により、膵管内に蛋白栓が形成されやすくなり、膵液の流れが阻害されることで膵管内圧が上昇します。結果として、膵実質の線維化が進行し、慢性的な炎症状態に陥ります。

アルコールの影響膵臓への作用
膵液粘度上昇膵管内圧上昇
膵酵素分泌促進膵実質損傷
酸化ストレス増大細胞障害

また、アルコールの代謝過程で生成される有害物質には、膵臓細胞を傷つけ、炎症を悪化させてしまうような力があります。

それでもアルコールを飲み続けると、炎症と修復のサイクルが持続的に行われていきますので、最終的に膵臓の線維化や石灰化を起こしてしまうのです。

非アルコール性慢性膵炎

非アルコール性慢性膵炎は、アルコール以外の要因によって起こる慢性膵炎を指します。

非アルコール性慢性膵炎の主な原因と特徴

原因臨床的特徴
遺伝性若年期からの発症、家族歴が認められる
自己免疫性他の自己免疫疾患(例:1型糖尿病、シェーグレン症候群)の合併が見られる
特発性明確な原因が特定できず、高齢者に多く見られる
栄養障害主に発展途上国で観察され、低栄養状態が背景にある

自己免疫性膵炎(AIP)は、体内の免疫システムが誤って膵臓を攻撃し、持続的な炎症反応を起こしてしまうものを言います。

炎症状態が長期間継続すると、膵管の狭窄や閉塞を招き、最終的に膵石の形成につながる可能性があります。

このほか、高カルシウム血症や高脂血症などの代謝異常も、非アルコール性慢性膵炎の原因となる場合があります。

その他の原因

  • 膵管の先天的な形態異常(膵管狭窄や膵管分割不全など)
  • 長期的な高脂肪食の摂取
  • 喫煙

また、非アルコール性の慢性膵炎や膵石症は若年者や女性にもみられ、原因の特定が困難な場合も少なくありません。

まれな病型

アルコール性、非アルコール性以外に、まれなタイプの慢性膵炎もあります。

  1. 膵管狭窄関連慢性膵炎(膵管の狭窄が主な原因となる)
  2. 輸入管閉塞性慢性膵炎(膵臓に栄養を送る血管の閉塞が関与)
  3. 膵外分泌機能不全を伴う症候性偽嚢胞(膵液が貯留した嚢胞状の構造物が形成される)

慢性膵炎/膵石症の症状

慢性膵炎/膵石症の主な症状には、持続的な上腹部痛、消化不良、体重減少、そして糖尿病の発症などが挙げられます。

上腹部の痛み

慢性膵炎の代表的な症状は、上腹部に生じる痛みです。背中へと痛みが広がることが多く、食事をすると悪化します。

この痛みを言葉で表すと、「ベルトで強く締め付けられているような」感覚である、と表現する方が多いですが、痛みの強さは個々で異なります。

以前「まるで腹部に熱した鉄棒が押し付けられているようだ」と痛みを伝えられた患者さんがいらっしゃいましたが、このような表現からも、慢性膵炎/膵石症による痛みがいかに強烈であるかがうかがえます。

消化器に関連する症状

膵臓の機能が低下すると、食物の消化に不可欠な酵素の分泌量が減少し、以下のような症状が現れます。

症状特徴
油っぽい便や下痢便に油が浮いているように見える
お腹が張る感じ食事の後に特に強くなる
吐き気・嘔吐脂肪分の多い食事の後に特に顕著になる
食欲低下痛みや消化の問題により起こる

栄養不足による体重減少

消化機能が低下すると、体が必要な栄養素を十分に吸収できなくなります。その結果、多くの患者さんに著しい体重減少がみられます。

特に脂溶性ビタミン(A、D、E、K)が体内に吸収されにくくなるため、このような栄養不足の状態が長く続くと、骨がもろくなったり、免疫力が低下したりする危険性があります。

内分泌機能の乱れ

慢性膵炎/膵石症が進行すると、膵臓のホルモンを分泌する機能にも影響が現れてきます。

その最も顕著な結果が、糖尿病の発症です。膵臓のインスリンを作る細胞が壊れることで、血糖値のコントロールが難しくなるのです。

症状関係する膵臓の働き
水分をたくさん飲むインスリンの分泌が不足する
尿の量が増える血液中の糖分が増える
体重が減る糖分をうまく利用できない
疲れやすくなるエネルギーの代謝がうまくいかない

このような症状は糖尿病に特徴的な症状であるため、早い段階で発見し、血糖値の管理により合併症を防ぐことが大切です。

その他見られる症状

慢性膵炎/膵石症は、胆管の詰まりによる黄疸(おうだん)や、門脈の圧力が高くなることによる食道静脈瘤などの合併症を引き起こす場合もあります。

また、長期間続く痛みやストレスにより、眠れなくなったり気分が落ち込んだりするなど、心の健康にも影響が出ることがあります。

症状説明
黄疸皮膚や白目が黄色くなる
食道静脈瘤食道の血管が膨らむ
睡眠障害痛みのために眠れない
うつ症状気分が落ち込む、やる気が出ない

慢性膵炎/膵石症の検査・チェック方法

慢性膵炎/膵石症の診断では、血液検査、画像診断、膵機能検査などを実施します。

初期評価と問診

まずは症状、日々の生活習慣、家族の病歴などについて確認します。特に、腹部の痛みの性質や頻度、食事との関連性、アルコール摂取の習慣などが重要なポイントとなります。

身体診察では、腹部の圧痛や異常な腫れの有無を確認していきます。

血液検査

血液検査では、主に以下の項目を中心に評価を行います。

検査項目主な目的
血清アミラーゼ膵臓の炎症状態を調べる
血清リパーゼ膵臓の炎症をより特異的に示唆
HbA1c(ヘモグロビンA1c)膵内分泌機能障害の有無を確認
肝機能検査(AST、ALTなど)肝臓への影響を評価する

血液検査単独では確定診断を下すことは困難ですが、疾患の活動性や重症度を把握する上で重要な検査となります。

画像診断

画像検査では、膵管の拡張や狭窄、膵実質の萎縮、石灰化などの特徴的な所見を確認します。

検査法長所短所
US(超音波検査)身体への負担が少ない、低コスト、繰り返し実施可能検査者の技量に依存する面がある
CT(コンピュータ断層撮影)膵臓全体の状態把握が容易X線被曝の問題がある
MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)非侵襲的、詳細な膵管像が得られる検査費用が比較的高額
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)診断と同時に治療も可能侵襲的で合併症のリスクがある

膵機能検査

慢性膵炎/膵石症では、膵臓の外分泌機能(消化酵素の分泌機能)の低下が見られることが特徴です。この機能障害を評価するために、以下のような検査を実施することがあります。

検査名評価対象
BT-PABA試験膵臓から分泌されるトリプシンという酵素の活性
便中エラスターゼ1測定膵臓の外分泌機能の状態
13C呼気試験脂肪の消化吸収能力

確定診断

検査結果から、日本膵臓学会が定める診断基準に基づき確定診断を進めていきます。

診断を進める過程では、他の消化器疾患との鑑別も重要であり、特に膵臓がんとの鑑別には注意が必要です。

慢性膵炎/膵石症の治療方法と治療薬について

慢性膵炎/膵石症の治療は、日々の生活習慣の見直しのほか、薬による治療、内視鏡を用いた処置、手術による治療などを組み合わせて実施します。

薬による症状の管理

膵臓の消化機能が低下している状態を改善するために、消化酵素を補充する薬を用います。服用により食べ物の栄養をより効率的に吸収できるようになり、下痢などのつらい症状も軽くなります。

痛み止めの薬は、お腹の痛みが長く続く場合に使用します。非ステロイド性抗炎症薬(炎症を抑える作用のある薬)や、より強い痛み止め効果を持つオピオイド系と呼ばれる薬を選ぶこともあります。

薬の名前主にどのような効果があるか
パンクレリパーゼ消化を助ける酵素を補う
ロキソプロフェン痛みを和らげる
トラマドール中程度から強い痛みを和らげる

内視鏡を使った治療方法

内視鏡を用いた治療(内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP))は、膵臓から十二指腸へつながる管(膵管)が狭くなっている場合や、膵臓の中に石ができている場合に効果的です。

お腹を大きく切る手術に比べて体への負担が少なく、回復も早い点がメリットです。

また、体の外から衝撃波を当てて石を砕く方法(体外衝撃波結石破砕術(ESWL))と組み合わせることで、より効果的に膵臓の石を取り除くことができます。

治療の方法どのような時に行うか
ERCP膵管が狭くなっている時、小さな膵石を取り除く時
ESWL大きな膵石を砕く時

手術による治療の選択肢

薬や内視鏡による治療で十分な効果が得られない場合、手術による治療を考えます。手術の主な目的は、膵臓から出る消化液の流れを良くし、痛みを和らげることです。

代表的な手術の方法

  • 膵管空腸吻合術(膵臓の管と小腸をつなぐ手術)
  • 十二指腸温存膵頭切除術(十二指腸を残しながら膵臓の頭の部分を切除する手術)
  • 膵全摘術(膵臓全体を取り除く手術)

生活習慣の見直し

薬による治療や手術と並行して、日々の生活習慣を見直すことも治療の重要な部分です。特に、お酒を控えることや、禁煙は病気の進行を抑えるためにとても大切です。

また、脂肪の少ない食事や、タンパク質が多い食事など、正しく栄養を取ることも必要です。

慢性膵炎/膵石症の治療期間

慢性膵炎/膵石症の治療は、数ヶ月から数年にわたって長期的に継続します。

多くの事例において、完全な治癒を目指すのではなく、症状の緩和と合併症の予防に重点を置いた長期的な疾患管理が治療の中心となります。

治療の初期段階

治療の初期段階では、急性の症状を抑制し、膵臓の機能を安定させることが第一の目標です。この期間は1〜3ヶ月程度が目安で、患者さんの状態によっては入院治療が必要となる場合もあります。

長期的な疾患管理と生活習慣の改善

急性期を脱した後も、慢性膵炎/膵石症の管理は継続的に続けていきます。

治療法期間
薬物療法数年〜生涯
食事療法生涯
禁酒生涯
運動療法生涯

合併症への対応と治療期間への影響

慢性膵炎/膵石症の経過中には、さまざまな合併症が発生する可能性があります。

合併症治療期間の目安主な治療法
膵性糖尿病(膵臓の機能低下による糖尿病)生涯インスリン療法、血糖管理
膵外分泌不全(消化酵素の分泌低下)生涯膵酵素補充療法
胆管狭窄(胆管の狭まり)数週間〜数ヶ月内視鏡的治療、手術
膵臓がん状況による手術、化学療法、放射線療法

合併症の種類や重症度によっては追加の治療が必要となり、全体の治療期間が延長する場合があります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

薬物療法の副作用

消化酵素補充薬を長期間使用すると、まれに過敏症や口内炎が生じます。また、鎮痛薬を継続的に使用すると、胃腸障害や腎機能障害が起きるリスクがあります。

薬物主な副作用注意点
消化酵素補充薬過敏症、口内炎皮膚症状や口腔内の変化に注意
鎮痛薬胃腸障害、腎機能障害定期的な腎機能検査が必要

内視鏡治療のリスク

内視鏡的治療では、内視鏡挿入時の出血や穿孔(消化管に穴が開くこと)、処置後の膵炎悪化などが起こる可能性があります。

また、鎮静剤使用に伴う呼吸抑制や、循環動態の変化にも注意が必要です。

外科的治療のリスク

  • 術後出血
  • 感染症
  • 膵液瘻(膵液が漏れ出す状態)
  • 消化管運動障害
  • 術後膵機能低下

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

慢性膵炎・膵石症の治療費は、保険適用により負担が軽減されます。具体的な費用は治療内容や入院期間によって変動するため、詳細は担当の医師や医療機関で直接ご確認ください。

外来診療の費用の目安

項目自己負担額(3割負担の場合)
腹部CT検査3,000円〜5,000円
腹部エコー検査1,500円〜3,000円
血液検査1,000円〜3,000円
投薬(1ヶ月分)3,000円〜10,000円

入院治療の概算費用

症状が重い場合や、手術が必要な際は入院治療となります。入院費用には、治療費、入院料、食事代などがかかります。

治療内容入院期間自己負担額(3割負担の場合)
保存的治療1〜2週間15万円〜30万円
内視鏡的治療1〜2週間20万円〜40万円
外科的手術2〜4週間40万円〜80万円

治療に伴う追加費用

  • 膵酵素薬(1ヶ月分)3,000円〜6,000円
  • 鎮痛剤(1ヶ月分)2,000円〜4,000円
  • 栄養補助食品5,000円〜10,000円
  • 禁酒プログラム参加費10,000円〜30,000円

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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