急性膵炎(Acute pancreatitis)とは、膵臓に急性の炎症が起こる病気です。ほとんどの場合突発的に始まり、上腹部に耐え難いほどの激痛が起こります。
すぐに治療を受けないと、重症化し、命にかかわることもあります。激しい腹痛や嘔吐、高熱、呼吸困難などの症状が現れた場合は、早急に医療機関を受診してください。
急性膵炎の病型
急性膵炎は、主に間質性膵炎と壊死性膵炎の2つに分類されます。
間質性膵炎
間質性膵炎は、膵臓の間質(細胞と細胞の間の組織)に炎症が起こるものです。
膵臓の細胞自体には大きな損傷がなく、炎症は主に間質に限局しているため、膵臓の機能は比較的保たれます。
間質性膵炎の特徴
- 膵酵素(膵臓から分泌される消化酵素)の上昇は軽度から中等度
- 画像検査で膵臓の腫大が見られる
- 全身症状は比較的軽度
壊死性膵炎
壊死性膵炎は、間質性膵炎よりも重症度が高く、膵臓の実質(機能を担う細胞)が壊死に陥ります。
膵臓の一部または広範囲が壊死するため、症状が重篤化しやすく、全身性炎症反応症候群(SIRS)や多臓器不全が起こるリスクが高い状態です。
特徴 | 間質性膵炎 | 壊死性膵炎 |
炎症の範囲 | 間質に限局 | 実質にも及ぶ |
---|---|---|
膵機能 | 比較的保たれる | 著しく低下 |
重症度 | 軽度〜中等度 | 中等度〜重度 |
急性膵炎の症状
急性膵炎の主な症状は突然の激烈な腹痛、嘔吐、発熱などで、急激に進行します。
突如として襲いかかる激烈な痛み
急性膵炎では、上腹部に激烈な痛みが突然起こります。
鉄の帯で強く締め付けられるような、あるいは鋭い刃物で刺し貫かれるような痛み、などと表現されるほどの強い痛みです。
痛みの特徴 | 詳細 |
発症部位 | 上腹部、背中へ広がる |
痛みの質 | 締め付けるような、刺し貫くような |
経時変化 | 突然始まり、徐々に悪化 |
消化器系の乱れ
急性膵炎を発症すると、上腹部の痛みと同時に、吐き気や嘔吐といった消化器系の症状が現れます。
他にも、腹部の膨満感や便秘、まれに下痢を伴うこともあります。
全身状態の変化
炎症を引き起こす物質が全身に広がることにより、多くの患者さんに38度以上の高熱が見られます。悪寒や全身のだるさを伴うほか、重篤な例では、血圧の低下や心拍数の増加などのショック症状が出現することもあります。
全身症状 | 出現頻度 |
高熱 | 非常に多い |
悪寒 | やや多い |
ショック | 重症例に限られる |
その他の症状
- 黄疸(皮膚や白目の部分が黄色くなる症状)
- 呼吸が苦しくなる
- 意識がもうろうとする
- お腹に水がたまる(腹水)
症状には個人差がある
急性膵炎の症状の現れ方や程度は個々によって大きな差異があり、軽度の場合、上腹部の痛みと軽微な消化器症状のみで済むこともあります。
一方で、重症化すると多臓器不全(複数の臓器の機能が低下する状態)に至り、生命の危険を伴う深刻な状態に陥ることもあります。
重症度 | 主な症状 |
軽症 | 上腹部痛、軽微な消化器症状 |
中等症 | 持続する腹痛、高熱、激しい嘔吐 |
重症 | ショック、多臓器不全の徴候 |
早期発見・早期対応が予後を大きく左右するため、症状に気づいたら、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
急性膵炎の原因
急性膵炎の主な原因は、アルコールの過剰摂取と胆石(胆のう内にできる結石)です。
アルコールと胆石が主要な原因
急性膵炎を引き起こす主な原因として、アルコールの過剰摂取が挙げられます。アルコールは膵臓を直接傷つけたり、膵液の流れを悪くしたりすることで、急性膵炎の発症リスクを高めます。
また、胆石もよくある原因の一つです。胆石は胆管(胆汁を運ぶ管)を通過する際に膵管を圧迫し、膵液の流れを妨げることがあります。
代謝異常
高トリグリセリド血症(血中の中性脂肪が異常に高い状態)や、高カルシウム血症(血中のカルシウム濃度が高い状態)などの代謝異常がある場合、膵臓の機能に悪影響を与え、炎症を引き起こす原因となることが分かっています。
代謝異常 | 急性膵炎への影響 |
高トリグリセリド血症 | 膵酵素の活性化 |
高カルシウム血症 | 膵管の閉塞 |
薬剤による影響
一部の薬剤が急性膵炎の原因となる場合もあります。
薬剤性膵炎の原因となる可能性のある主な薬剤
- 利尿剤
- 抗HIV薬
- 免疫抑制剤
- 抗てんかん薬
感染症・外傷
ウイルスや細菌による感染が急性膵炎を引き起こす場合もあります。
特にムンプスウイルス(おたふくかぜの原因ウイルス)やコクサッキーウイルスなどが膵臓に感染すると、炎症反応が誘発されることがあります。
また、外傷、特に腹部への強い衝撃(交通事故や転落などによる)も急性膵炎の原因になります。
その他の原因
他にも、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP、胆道や膵管を調べる検査)などの医療処置後に急性膵炎が発症することがあります。
また、自己免疫疾患や膵臓の腫瘍なども、急性膵炎の原因となる可能性があり、見逃してはいけません。
稀ですが、妊娠中や分娩後に急性膵炎を発症するケースもあり、産婦人科領域でも注意を要する疾患です。
医療処置 | 急性膵炎のリスク |
ERCP | 3-5% |
腹部手術 | 1-2% |
急性膵炎の検査・チェック方法
急性膵炎の診断では、血液検査や画像診断などを実施していきます。
血液検査の主な検査項目
検査項目 | 意義 |
血清アミラーゼ | 膵炎の初期診断に有用 |
血清リパーゼ | アミラーゼより特異性が高い |
CRP(C反応性タンパク質) | 炎症の程度を反映 |
白血球数 | 感染の有無を調べる |
画像診断
画像検査では、膵臓の腫大、周囲の液体貯留、壊死の有無などを調べていきます。
代表的な画像検査方法
- 腹部超音波検査
- CT検査
- MRI検査
- ERCP
重症度評価
急性膵炎の診断後、重症度評価を行い治療方針を決定します。
重症度評価に用いられる主な指標
評価指標 | 内容 |
Ranson基準 | 入院時と48時間後の11項目で評価 |
APACHE II スコア | 生理学的パラメータに基づく評価 |
CT重症度スコア | 膵臓の形態変化と壊死の程度を評価 |
確定診断と鑑別診断
急性膵炎の確定診断には、典型的な臨床症状に加えて、血清膵酵素の上昇と画像所見での膵臓の異常が確認できることが必要となります。
しかしながら、類似した症状を呈する他の疾患との鑑別も重要です。
主な鑑別疾患
急性膵炎の治療方法と治療薬について
急性膵炎の治療は、原因の除去と炎症の鎮静化を目指し、薬物療法と支持療法を組み合わせて行います。
治療の基本方針
間質性膵炎の場合は保存的治療が中心となり、絶食、輸液、鎮痛剤の投与などを行い、膵臓の安静を図ることで炎症の沈静化を目指します。
一方、壊死性膵炎では積極的な治療介入が必要となり、集中治療室での管理や外科的な処置も必要です。
病型 | 主な治療アプローチ | 注意点 |
間質性膵炎 | 保存的治療(絶食、輸液、鎮痛) | 膵臓の安静を保つ |
壊死性膵炎 | 積極的治療(集中管理、ドレナージ) | 合併症のリスクに注意 |
治療目標
- 炎症を抑える
- 合併症を予防する
- 膵臓の機能回復を促す
薬物療法
薬物療法では、症状の緩和と炎症の制御を目指し、状態や重症度に応じて投与します。
主な処方薬
薬剤分類 | 主な効果 | 代表的な薬剤名 |
鎮痛薬 | 腹痛の緩和 | ペンタゾシン |
制吐薬 | 嘔吐の抑制 | メトクロプラミド |
蛋白分解酵素阻害薬 | 膵酵素の活性化抑制 | ナファモスタットメシル酸塩 |
抗生物質 | 感染症の予防と治療 | カルバペネム系抗菌薬 |
支持療法
急性膵炎の治療では、薬物療法と並行して支持療法が重要となります。
- 輸液療法:脱水の改善と循環動態の安定化を図ります
- 酸素療法:低酸素血症(血液中の酸素濃度が低下した状態)の改善
- 経腸栄養:腸管機能の維持と感染予防を目的として行います
- 疼痛管理:苦痛軽減と安静の確保
重症例への対応
治療法 | 適応 | 主な目的 |
人工呼吸器 | 呼吸不全 | 適切な酸素化の維持 |
持続的血液濾過透析 | 急性腎不全 | 老廃物の除去と電解質バランスの調整 |
経皮的ドレナージ | 膵周囲液体貯留 | 感染リスクの軽減と症状改善 |
外科的介入 | 感染性膵壊死 | 壊死組織の除去と感染制御 |
回復期の管理
急性期を脱した後も、慎重な経過観察が必要です。食事の再開は段階的に行い、消化機能の回復を確認しながら進めていきます。
また、再発予防のため、原因となった要因(アルコール、胆石など)の除去や生活習慣の改善指導を行います。
特に、アルコール性膵炎の患者さんには、断酒プログラムと併せた栄養指導の実施により再発率を大幅に低下させることができます。
急性膵炎の治療期間と予後
急性膵炎の治療期間は通常1週間から数週間程度ですが、症例の重症度や合併症の有無により大きく変動します。
治療期間の概要
軽症例では1週間程度で症状が改善するケースもありますが、重症例での治療期間は数週間から数か月に及びます。
重症度 | 一般的な治療期間 |
軽症 | 1〜2週間 |
中等症 | 2〜4週間 |
重症 | 4週間以上 |
入院~自宅療養まで
入院期間は症状の改善度合いによって個人差があります。入院中は、膵臓の安静を保ち、栄養管理と疼痛コントロールを行います。
症状が落ち着いてきたら、医師の判断のもと段階的に経口摂取を再開し、自宅療養への移行を検討していきます。
治療段階 | 主な内容 |
急性期 | 絶食、点滴による水分・栄養補給 |
回復期 | 経口摂取再開、活動量の増加 |
維持期 | 食事療法、生活習慣の改善 |
合併症への対応
急性膵炎の経過中に合併症が発生した際は、治療期間が延長します。例えば、膵臓周囲に液体貯留が生じた際は、その管理に数週間から数か月を要することもあります。
また、膵臓の壊死組織に感染が起こった場合は、長期の抗菌薬投与や外科的処置が必要です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
急性膵炎の治療過程では、薬剤の副作用や、治療法自体のリスクが回復経過に影響を与えることがあります。
治療に伴う主な副作用
オピオイド系鎮痛薬(強力な痛み止め)は便秘や呼吸抑制といった副作用が起こる可能性があるため、慎重な投与量の調整と継続的な経過観察が必要です。
また、抗生物質の長期投与は、腸内細菌叢(腸内の微生物のバランス)を崩し、下痢や腸炎などの消化器症状を誘発する可能性があります。
治療薬 | 主な副作用 |
鎮痛薬 | 便秘、呼吸抑制 |
抗生物質 | 下痢、腸炎 |
治療に伴う合併症リスク
急性膵炎の治療過程では、様々な合併症が発生するリスクがあります。
特に注意すべき合併症
- 膵壊死
- 膵膿瘍
- 仮性嚢胞
- 多臓器不全
栄養管理に関連するリスクとその対策
栄養管理法 | 関連するリスク |
経腸栄養 | 腸管虚血、再燃 |
中心静脈栄養 | カテーテル関連血流感染症 |
治療後の長期的な影響
急性膵炎の治療後、一部の患者さんで膵内外分泌機能の低下や慢性膵炎への移行など、長期的な影響が残ることがあります。
また、急性膵炎には再発リスクもあります。再発を繰り返すことで膵機能がさらに低下し、慢性膵炎へ移行する可能性もあります。
長期的影響 | 考えられる結果 | 予防するために |
膵内外分泌機能低下 | 消化吸収障害、糖尿病 | 定期的な膵機能検査、血糖値モニタリング |
慢性膵炎への移行 | 膵機能の進行性低下 | 定期的な画像検査、生活指導 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
急性膵炎の治療は健康保険の適用対象となるため、患者の自己負担は通常3割です。ただし、70歳以上の方や低所得者の方は負担割合が異なります。
また、高額療養費制度を利用することで、一定額を超えた医療費の還付を受けられます。
急性膵炎の治療にかかる費用の目安
症状の程度 | 平均入院期間 | 概算治療費 |
軽症 | 1〜2週間 | 30〜70万円 |
中等症 | 2〜4週間 | 70〜140万円 |
重症 | 4週間以上 | 140万円以上 |
入院に関する費用も保険適用の対象となりますが、差額ベッド代(個室の場合)や食事代などの自由診療分は全額自己負担です。
外来での継続治療費
退院後も定期的な検査や投薬が必要です。外来での継続治療にかかる費用は、月に1〜3万円程度が目安となります。
項目 | 概算費用(1回あたり) |
血液検査 | 3,000〜5,000円 |
腹部エコー検査 | 5,000〜8,000円 |
CT検査 | 10,000〜15,000円 |
以上
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