中咽頭癌(Oropharyngeal cancer)は、口の奥と声を出す喉の間にある、中咽頭というエリアにできるがんの一種です。
主な原因としては、タバコ、アルコールの過剰摂取、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が挙げられます。
中咽頭癌にかかると、喉が痛んだり、飲み込むのが難しくなったり、耳が痛くなったり、首にしこりができたりするなど、さまざまな症状が現れます。
この記事では、中咽頭癌の原因や症状、治療法について解説していきます。
中咽頭癌の病型
中咽頭癌には「扁平上皮癌」「腺様嚢胞癌」「粘表皮癌」といった病型があり、それぞれに特徴があります。
病型 | 特徴 |
---|---|
扁平上皮癌 | このがんの大多数を占め、細胞の成熟度によって高分化、中分化、低分化の3つに分けられます。 |
腺様嚢胞癌 | めったに見られないタイプで、ゆっくりと進行するものの、神経に広がったり遠くの臓器に転移したりするケースがあります。 |
粘表皮癌 | 珍しいタイプで、がんとしては比較的進行が遅いですが、再発や他の場所への転移が起こる可能性があります。 |
扁平上皮癌の特徴
中咽頭癌の中でも、扁平上皮癌が最もよく見られます。扁平上皮癌は3つのタイプに分けられます。
- 高分化型:細胞が比較的正常に近く、角質化する傾向があります。
- 中分化型:細胞にはある程度の異常が見られ、角質化する傾向が少なくなります。
- 低分化型:細胞が異常で、角質化はほとんどありません。
一般的に、細胞の成熟度が低いほどがんは悪性であり、治療が難しくなります。
腺様嚢胞癌と粘表皮癌
腺様嚢胞癌と粘表皮癌は、扁平上皮癌に比べて珍しいタイプです。
腺様嚢胞癌はゆっくりと進行するものの、神経に広がったり遠くの臓器に転移したりするリスクがあります。
一方で、粘表皮癌はがんとしては進行が遅いですが、再発したり他の場所へ転移したりすることがあるため、注意が必要です。
病型 | 頻度 | 悪性度 | 転移リスク |
---|---|---|---|
扁平上皮癌 | 多い | 成熟度による | 比較的高い |
腺様嚢胞癌 | 少ない | 中程度 | 高い |
粘表皮癌 | 少ない | 低い | 中程度 |
病型による治療方針の違い
中咽頭癌のタイプによって、治療の方法も変わってきます。
扁平上皮癌の場合は、成熟度やがんの進行度に応じて、手術や放射線治療、化学治療を組み合わせて行う場合が多いです。
一方、腺様嚢胞癌や粘表皮癌の場合は、主に手術が選ばれ、場合によっては放射線治療や化学治療が加えられることもあります。
中咽頭癌の症状
中咽頭癌は、初期には自分で気づきにくい特徴がありますが、がんが成長するにつれて症状が出始めます。
症状 | 詳細 |
---|---|
喉の違和感や痛み | がんによる周囲組織の圧迫や侵入が原因 |
声のかすれや話しにくさ | がんが声帯の動きを制限したり、神経を圧迫したりするため |
飲み込みにくさ | がんが食道入り口を狭めたり、飲み込み関連の筋肉や神経に影響を及ぼしたりするため |
リンパ節の腫れ | がん細胞が近くのリンパ節に広がるため |
喉の違和感や痛み
中咽頭癌が大きくなると、喉に違和感や痛みが生じる場合があります。これは、がんが周りの組織に圧力をかけたり、侵入したりするためです。
痛みは特に耳の奥や喉の深い部分で感じられることが多いです。
声のかすれや話しにくさ
がんが声帯や喉頭に影響を与えると、声がかすれたり、話しにくくなったりします。これは、がんが声帯の動きを妨げたり、神経を圧迫したりすることによるものです。
飲み込みにくさ
中咽頭癌が進行すると、がんが食道の入り口を狭め、飲み込みを助ける筋肉や神経に影響を及ぼします。
その結果、食べ物や飲み物を飲み込む時に痛みや違和感が生じたり、飲み込みにくくなります。
リンパ節の腫れ
中咽頭癌が進むと、がん細胞が近くのリンパ節に広がり、リンパ節が腫れる場合があります。
特に、顎の下や耳の下、首のリンパ節が腫れが一般的です。
中咽頭癌の症状分類
- 局所症状:喉の違和感や痛み、声のかすれ、話しにくさ、飲み込みにくさなど
- 領域症状:リンパ節の腫れ
- 全身症状:進行すると、全身の疲れや体重の減少などが見られることもあります
これらの症状は中咽頭癌に特有のものですが、他の病気でも似たような症状が出る場合があるため、正確な診断には専門の検査が必要です。また、症状の出方には個人差があり、定期的な健康診断と早期発見が大切です。
中咽頭癌の原因
中咽頭癌の原因は、喫煙や飲酒、そしてヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が挙げられます。これらが組み合わさると、がんができやすくなると言われています。
喫煙
タバコの煙にはがんを引き起こす物質が含まれており、それが喉の奥の粘膜に害を及ぼします。タバコを長い間、たくさん吸っている人ほど、中咽頭癌になるリスクが高くなります。
喫煙状況 | 中咽頭がんのリスク |
---|---|
非喫煙者 | 基準 |
現在の喫煙者 | 2〜5倍 |
過去の喫煙者 | 1.5〜3倍 |
飲酒
飲酒も、喉の奥のがんにかかるリスクを高めます。アルコールは喉を刺激し、がんを引き起こす物質を活性化させたり、体の防御機能を弱めたりします。
特に、たくさんのお酒を長く飲み続ける人はリスクが大きくなります。
HPV感染
HPVというウイルスに感染すると、中咽頭癌になる場合があります。特に、HPV16型やHPV18型といった種類のウイルスは、がんの原因になるとわかっています。
HPVによる中咽頭癌は、他の原因でできたがんよりも治りやすいとされています。
複数が重なるとリスクはさらに高まる
これらの要因は一つだけでもがんを引き起こす可能性がありますが、複数が重なるとリスクはさらに高まります。以下の組み合わせは特に注意が必要です。
- タバコとお酒を一緒に摂る
- 喫煙者がHPVに感染する
- 飲酒量が多い人がHPVに感染する
中咽頭癌の検査・チェック方法
中咽頭癌は、早く見つけるほど治療の効果が高まります。
視診と触診
医師が直接、口の中やのどを見て変わったところがないかチェックします。さらに、首のリンパ節を手で触って、腫れていないかも調べます。
内視鏡検査
内視鏡を使って、口やのどの中を調べます。この検査で、がんの正確な場所や大きさ、どれくらい広がっているかを調べられます。
画像検査
CTやMRIを使って、がんの広がりや他の場所への転移を調べます。
検査名 | 目的 |
---|---|
CT検査 | がんの大きさや近くの組織への影響、リンパ節への転移をチェック |
MRI検査 | がんの詳細な広がりや、頭の骨に達していないかを見る |
PET-CT検査 | 体の他の部分にがんが広がっていないかを確認 |
生検
疑わしい部分から少し組織を取り、顕微鏡でがんかどうかを確かめます。
中咽頭癌の治療方法と治療薬について
中咽頭癌の治療方法は、患者さんの状態や癌の進行具合によって異なります。
手術、放射線療法、化学療法、標的療法など、複数の方法を組み合わせた治療が一般的です。
治療法 | 特徴 |
---|---|
外科手術 | 癌細胞を含む組織を直接取り除く |
放射線療法 | 高エネルギーの放射線で癌細胞を破壊 |
化学療法 | 薬を使って体内の癌細胞を攻撃 |
外科手術
中咽頭癌の手術では、癌細胞を含む組織を取り除くことが目的です。手術の種類は癌の位置や大きさによって変わり、小さな内視鏡手術から大きな開口手術までさまざまです。
手術後は、食べたり飲んだりする機能を取り戻すためのリハビリが大切になります。
放射線療法
放射線療法では、癌細胞を破壊するために高エネルギーの放射線を使います。
この治療には、体の外から放射線を当てる外部照射と、癌の近くに放射性物質を置いて治療する小線源治療があります。
化学療法
化学療法では、シスプラチンやドセタキセルなどの薬を使って、体内の癌細胞を攻撃します。これらの薬は、癌細胞の増殖を止めたり、細胞を死滅させたりして効果を発揮します。
標的療法による治療
標的療法では、癌細胞特有の分子を狙い撃ちにして、正常細胞への影響を最小限に抑えながら癌細胞を攻撃します。中咽頭癌では、EGFRをターゲットにしたセツキシマブなどが使われます。
これらの薬は、癌細胞の成長に必要なシグナルを遮断することで効果を示します。以下は、中咽頭癌治療に使われる主な薬剤です。
薬剤名 | 種類 | 作用機序 |
シスプラチン | 抗がん剤 | DNAに結合し、細胞の複製を阻害 |
---|---|---|
ドセタキセル | 抗がん剤 | 細胞分裂を妨げる |
セツキシマブ | 分子標的薬 | 癌細胞の成長シグナルを遮断 |
中咽頭癌の治療期間と予後
がんが見つかった時点でどれだけ進行しているかによって、治療にかかる時間は変わります。
治療期間の目安
進行度 | 治療期間の目安 |
---|---|
I期 | 6〜8週間 |
II期 | 8〜12週間 |
III期 | 12〜16週間 |
IV期 | 16週間以上 |
治療方法と予後(5年生存率)
全国がんセンター協議会の生存率共同調査(2022年11月集計)によると、中咽頭がんの病期別5年相対生存率はI期で79.4%、II期で72.2%です。
病期(進行度) | 5年相対生存率(%) |
---|---|
I期 | 79.4% |
II期 | 72.2% |
III期 | 71.0% |
IV期 | 56.5% |
中咽頭癌の治療には手術、放射線治療、化学治療、あるいはこれらを組み合わせた治療があり、それぞれの方法で期待できる生存率は次のようになっています。
- 手術:初期のがんに効果的で、5年生存率は約70〜90%
- 放射線治療:手術が難しいケースや、機能を保ちたいときに選ばれ、5年生存率は約50〜70%
- 化学治療:進行したがんや再発したがんに使われることが多く、単独での5年生存率は約30〜40%
予後に影響を与える因子
因子 | 予後への影響 |
---|---|
癌の進行度 | 早期発見、早期治療が大切 |
癌の部位 | どこにがんがあるかで、治療やその後の生活が変わる |
患者の年齢 | 年を取ると他の病気を持っていることが多くなり、それが影響する |
全身状態 | 体全体の健康状態が悪いと、治療の選択肢が限られる |
治療後の通院・フォローについて
再発の早期発見と対応のためには、がんの治療が終わった後も、定期的な受診が大切です。
治療後の通院間隔の目安
- 治療後1〜2年:1〜3ヶ月ごと
- 治療後3〜5年:3〜6ヶ月ごと
- 治療後5年以降:6〜12ヶ月ごと
薬の副作用や治療のデメリットについて
放射線療法の副作用
放射線療法は中咽頭癌を治療する主な方法の一つですが、口内炎や味覚障害、口腔乾燥症などの副作用があります。
副作用 | 症状 |
---|---|
口内炎 | 口の中の粘膜が炎症を起こし、潰瘍ができる場合があります |
味覚障害 | 味が変わったり、味を感じにくくなる可能性があります |
口腔乾燥症 | 唾液が少なくなり、口の中が乾燥します |
化学療法の副作用
化学療法は全身に作用するため、副作用も全身に現れます。
- 吐き気や嘔吐
- 食欲がなくなる
- 髪の毛が抜ける
- 疲れやすくなる
- 感染症にかかりやすくなる
これらの副作用は一時的なものですが、治療期間中は日常生活に制限が出ます。
手術による治療の副作用
手術による治療では、腫瘍の取り除かれた範囲に応じて、様々な機能障害が起こる可能性があります。
副作用 | 影響 |
---|---|
嚥下障害 | 食べ物や飲み物を飲み込むのが難しくなります |
発声障害 | 声が変わったり、話すのが難しくなります |
呼吸障害 | 気管切開が必要になることがあります |
これらの障害はリハビリテーションで改善を目指せますが、完全に元通りになるとは限りません。
保険適用の有無と治療費の目安について
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
中咽頭癌の治療は、通常、健康保険が適用される範囲内で行われます。
保険適用範囲
- 放射線療法
- 化学療法
- 手術療法
- 緩和ケア
治療費の目安
中咽頭癌の治療にかかる費用は、選択する治療法やがんの進行度によって大きく変わります。
治療法 | 費用の目安 |
---|---|
放射線療法 | 100万円~300万円 |
化学療法 | 50万円~200万円 |
手術療法 | 200万円~500万円 |
上記はあくまで目安であり、実際には患者さんの状態や治療の内容によって変動します。保険適用の可否や詳細については、診察時に担当医師に直接ご相談ください。
高額療養費制度
中咽頭癌の治療には高額な費用がかかるケースが多く、高額療養費制度の利用により医療費の負担を軽減できます。
この制度では、医療費が一定額を超えた場合はその超えた分について保険からの支払いがあります。
所得に応じた月額の上限額は段階的に見直しが行われていますので、詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。
当記事に掲載されている情報は、信頼できる情報源に基づいて作成されていますが、その正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療的助言や診断、治療の代替となるものではありません。
また、記事に掲載されている情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。医療に関する判断や行動を行う際は、必ず医療専門家にご相談ください。
なお、当記事の内容は予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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