鼻の奥にある、上咽頭にできるがんを上咽頭癌(じょういんとうがん)(nasopharyngeal carcinoma)と呼びます。
上咽頭癌の主な原因は、EBウイルス(エプスタイン・バーウイルス)の感染だと考えられています。
症状は、首のリンパ節の腫れ、鼻づまり、鼻血、難聴など様々ですが、初期は自覚しにくい病気です。
この記事では、上咽頭癌の症状や原因、治療法について解説します。
上咽頭癌の病型
上咽頭癌は、発生部位や組織型によって分類され、それぞれの病型に応じた特徴があります。
上咽頭癌の発生部位による分類
上咽頭癌は、発生部位によって以下のように分類されます。
病型 | 発生部位 |
---|---|
上壁型 | 上咽頭の上壁 |
側壁型 | 上咽頭の側壁 |
後壁型 | 上咽頭の後壁 |
側壁型は最も頻度が高く、早期から頸部リンパ節転移を起こしやすい傾向があると報告されています。
上咽頭癌の組織型による分類
上咽頭癌は、組織学的特徴から以下の3つの病型に分類されます。
- 非角化型扁平上皮癌(WHO分類Type II)
- 未分化癌(WHO分類Type III)
- 角化型扁平上皮癌(WHO分類Type I)
非角化型扁平上皮癌と未分化癌は、EBウイルス関連上咽頭癌の代表的な組織型で、特に東アジア地域で高頻度に認められます。
一方、角化型扁平上皮癌はEBウイルスとの関連性が低く、欧米での発生頻度が比較的高いことが知られています。
上咽頭癌の病期分類
上咽頭癌の病期は、TNM分類に基づいて評価されます。
記号 | 意味 |
---|---|
T | 原発腫瘍の大きさと進展範囲 |
N | 所属リンパ節転移の有無と程度 |
M | 遠隔転移の有無 |
病期分類は、治療方針の決定や予後の予測に使用されます。
上咽頭癌の症状
上咽頭癌は早期発見が難しく、進行してから見つかるケースが多い病気です。症状は、がんの進行度によって変化します。
ステージ | 症状 |
---|---|
早期 | 鼻症状、耳症状 |
進行期 | 頸部リンパ節腫脹、神経症状 |
早期には鼻や耳の症状が主体ですが、進行すると頸部リンパ節腫脹や神経症状が現れてきます。
これらの症状に気づいたら、速やかに医療機関を受診しましょう。
鼻症状
上咽頭癌の初期症状として、鼻づまりや鼻水、鼻出血などの鼻症状が現れる場合があります。
腫瘍が鼻腔に侵入すると、これらの症状が持続的に見られるようになります。
耳症状
がんが進行すると、耳管開口部を圧迫し、耳が塞がった感覚や聴力低下、耳鳴りといった症状が現れます。
また、中耳炎を繰り返す可能性もあります。
症状 | 説明 |
鼻閉 | 鼻づまりが続く |
---|---|
鼻漏 | 鼻水が止まらない |
鼻出血 | 鼻からの出血が見られる |
耳閉感 | 耳が塞がった感覚がある |
難聴 | 聴力の低下が見られる |
耳鳴り | 耳鳴りが続く |
頸部リンパ節腫脹
上咽頭癌は、早期からリンパ節転移を起こしやすいのが特徴です。頸部のリンパ節の腫れにより、首のしこりや腫れが自覚される場合もあります。
神経症状
腫瘍が頭蓋底に侵入すると、脳神経を圧迫することで以下のような症状が現れます。
- 複視(物が二重に見える)
- 顔面のしびれや痛み
- 舌の運動障害
- 嚥下障害
上咽頭癌の症状は他の疾患でも見られる可能性があるため、これらの症状が長期間続く場合は、専門医への受診が必要です。
上咽頭癌の原因
上咽頭癌の主な原因は、EB(エプスタイン・バー)ウイルスの感染であると考えられています。
鼻の奥にある上咽頭は、リンパ組織が豊富に存在する部位であるため、EBウイルスが感染しやすく、増殖に適した環境となっています。
EBウイルス感染と上咽頭癌の関連性
上咽頭癌患者の腫瘍細胞からは、高い確率でEBウイルスが検出されます。
このことから、EBウイルス感染と上咽頭癌の発症には密接な関係があると考えられています。
EBウイルスによる発癌メカニズム
EBウイルスは、上咽頭の上皮細胞に感染し、長期間にわたって潜伏感染の状態で存在します。
EBウイルスってどんなもの?
EBウイルスは上咽頭がんの原因の一つと考えられていますが、感染してもすぐにがんになるわけではありません。
- 風邪のような症状を引き起こすウイルスです。
- ほとんどの人が幼少期に感染し、体内に潜伏します。
- 普段は大人しくしていますが、免疫力が弱まると再び活性化する場合があります。
EBウイルスが上咽頭がんに関わるしくみ
EBウイルスが上咽頭の上皮細胞に感染すると、ウイルスは、細胞の増殖や生き延びるための指令を出すたんぱく質やRNAを作り出します。
これらの変化が蓄積することにより、正常な細胞の仕組みが壊れ、がん化していくと考えられています。
EBウイルス関連因子 | 作用 |
LMP1 | NF-κBやPI3K/Akt経路の活性化を介して細胞増殖や生存を促進 |
---|---|
EBNA1 | ウイルスゲノムの維持と複製に関与 |
EBERs | 抗アポトーシス作用や細胞増殖促進作用を示す |
遺伝的素因
EBウイルス感染だけでなく、遺伝的素因や環境因子も上咽頭癌の発症に関与していると考えられています。
特定のHLA(ヒト白血球抗原)型を持つ個人では、EBウイルス感染に対する免疫応答が異なるため、発癌リスクが高くなる可能性があります。
喫煙による影響
喫煙も上咽頭癌の発症リスクを高める要因の一つです。タバコに含まれる発がん物質が、上咽頭の粘膜を傷つけ、がん化を促すと考えられています。
喫煙量や喫煙期間が長いほど、リスクは上昇します。また、受動喫煙による影響も無視できません。
その他の危険因子
上記以外にも、上咽頭癌の危険因子として以下のようなものが知られています。
- 塩蔵食品や燻製食品の多量摂取
- 微量栄養素(ビタミンA、C、E等)の不足
- 職業性曝露(木材粉塵、ホルムアルデヒドなど)
これらの因子の複合的な作用により、上咽頭癌の発症リスクが高まると考えられています。
危険因子 | 詳細 |
---|---|
食生活 | 塩蔵食品や燻製食品の多量摂取 |
栄養 | 微量栄養素(ビタミンA、C、E等)の不足 |
職業的なリスク | 木材粉塵、ホルムアルデヒドなどへの曝露 |
上咽頭癌の検査・チェック方法
上咽頭癌の初期症状は風邪や喉の痛みなどと似ているため、見逃してしまいがちです。 以下のような症状が続くときは、医療機関を受診し、専門医に相談しましょう。
自覚症状のチェック
症状 | 詳細 |
鼻閉 | 片側または両側の鼻づまりが続く |
---|---|
鼻血 | 頻繁な鼻血や片側からの出血 |
耳の症状 | 難聴、耳鳴り、耳の詰まった感じ |
頭痛 | 片側の頭痛や顔面痛 |
定期的な検診の受診
上咽頭癌を早期発見するには、定期的な検診を受けましょう。 特にEBウイルス感染者や家族に上咽頭癌の患者がいる方は、高リスク群として年1回の検診が推奨されています。
検診では次のような検査が行われます。
- 視診・触診:口腔内や咽頭部の異常を視覚的・触覚的に確認
- 内視鏡検査:上咽頭の詳細な観察と組織採取
- 画像検査(CT、MRI):腫瘍の広がりや周囲組織への浸潤の評価
EBウイルス抗体検査
EBウイルスは上咽頭癌の主要な要因であるため、EBウイルス抗体検査(血液検査)でEBウイルスの関連抗体(VCA-IgA、EA-IgA)の有無を調べます。
抗体陽性の場合、上咽頭癌の可能性が高いと判断され、さらなる検査が必要となります。
EBウイルス抗体 | 基準値 | 上咽頭癌の可能性 |
VCA-IgA | <1:10 | 低リスク |
---|---|---|
VCA-IgA | ≥1:10 | 高リスク |
EA-IgA | <1:10 | 低リスク |
EA-IgA | ≥1:10 | 高リスク |
生検による確定診断
上咽頭癌が疑われる場合、生検による組織学的診断を行います。 内視鏡下で腫瘍組織を採取し、病理医が顕微鏡で検査します。
生検によって、上咽頭癌の確定診断とともに、癌の種類や分化度も明らかになります。
確定診断後は、がんの進行度(ステージ)に応じて治療方針が決定されます。
上咽頭癌の治療方法と治療薬について
上咽頭癌の治療法と治療薬の選択は、病期や症状に応じて異なります。放射線療法と化学療法の併用が主流ですが、手術療法や分子標的薬なども選択肢に含まれます。
放射線療法と化学療法の併用
上咽頭癌の治療では、放射線療法と化学療法を組み合わせた併用療法が第一選択とされています。
放射線療法は、高エネルギーの放射線を照射して癌細胞を破壊する治療法です。一方、化学療法は、抗がん剤を用いて全身的に癌細胞の増殖を抑制する治療法です。
治療法 | 概要 |
放射線療法 | 高エネルギーの放射線を照射し、癌細胞を破壊する |
---|---|
化学療法 | 抗がん剤を用いて全身的に癌細胞の増殖を抑制する |
手術療法
上咽頭癌の治療における手術療法は、例えば、放射線療法や化学療法で十分な効果が得られなかった場合や、再発した場合などに検討されます。
手術療法では、癌組織を切除することで、病巣のコントロールを図ります。
ただし、上咽頭は解剖学的に複雑な部位であるため、手術の難易度は高くなります。
分子標的薬
近年、上咽頭癌の治療に分子標的薬が用いられるようになってきました。分子標的薬は、癌細胞の増殖や生存に関与する特定の分子を狙い撃ちにする薬剤です。
上咽頭癌では、EBウイルス関連タンパク質を標的とした分子標的薬が開発されており、治療成績の向上が期待されています。
分子標的薬は、従来の治療法と組み合わせることで、更なる効果が得られる可能性があります。
治療薬 | 種類 | 作用機序 |
シスプラチン | 抗がん剤 | DNAの合成を阻害し、癌細胞の増殖を抑制 |
---|---|---|
5-フルオロウラシル | 抗がん剤 | DNAの合成を阻害し、癌細胞の増殖を抑制 |
セツキシマブ | 分子標的薬 | 上皮成長因子受容体を阻害し、癌細胞の増殖を抑制 |
その他のサポート
- 疼痛管理: 癌による痛みを和らげるための薬物療法や神経ブロックなど
- 栄養管理: 治療による食欲不振や嚥下障害に対する栄養サポート
- 口腔ケア: 放射線療法による口内炎や歯科問題への対処
- 精神的サポート: 癌治療に伴う不安や抑うつへの心理的ケア
上咽頭癌の治療期間と予後
上咽頭癌の治療にかかる期間は、がんがどの程度進行しているか、そしてどのような治療法を選ぶかによって変わってきます。
上咽頭癌の進行度に応じた治療期間の目安
多くの場合、放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせて行い、その期間は数か月に及ぶ場合もあります。
進行度 | 治療期間の目安 |
---|---|
I期 | 6~8週間 |
II期 | 8~10週間 |
III期 | 10~12週間 |
IV期 | 12週間以上 |
上咽頭癌の予後
上咽頭癌の予後は、がんの進行具合と治療開始のタイミングによって大きく左右されます。
早期発見と治療により、5年生存率は向上しつつあります。
進行度 | 5年生存率の目安 |
---|---|
I期 | 80~90% |
II期 | 70~80% |
III期 | 50~70% |
IV期 | 30~50% |
上咽頭癌の治療後の通院や検査(フォローアップ)
上咽頭癌の治療が終わった後は、定期的に通院し検査を受けることが大切です。
再発や転移がないかどうかを確認するため、次のような検査が行われます。
- 身体診察
- 画像検査(CT、MRI、PET-CTなど)
- 血液検査(EBウイルス関連抗体の測定など)
通院や検査の間隔は治療終了からの期間によって異なりますが、少なくとも5年間は定期的に受ける必要があります。
上咽頭癌の再発・転移への対応
上咽頭癌は、再発や転移を起こしやすいがんの一つです。
再発や転移が見つかった場合、患者さんの全身の状態や再発・転移の場所、広がり方などを考慮して、次のような治療が行われます。
- 再放射線療法
- 全身化学療法
- 分子標的薬による治療
薬の副作用や治療のデメリットについて
上咽頭癌の治療には放射線療法や化学療法が用いられますが、がん細胞を攻撃して死滅させる働きがある一方で、同時に正常な細胞にもダメージを与えてしまう場合があります。
放射線療法の副作用
放射線療法ではがんのある部分に放射線を照射してがん細胞を死滅させますが、照射部位の皮膚や粘膜に炎症が起こり、口内炎や皮膚炎などの症状が現れることがあります。
また、味覚障害や口腔乾燥といった副作用も生じる場合があり、患者さんのQOLを大きく損ねてしまうことも少なくありません。
化学療法の副作用
化学療法では抗がん剤を用いて全身のがん細胞を攻撃しますが、正常な細胞も影響を受けるため、悪心・嘔吐、食欲不振、脱毛などの副作用が起こる場合があります。
中でも、骨髄抑制は白血球や赤血球、血小板の数が減少する危険な状態で、感染症のリスクが高まります。
治療に伴う長期的な影響
口腔乾燥 | 唾液腺への放射線照射による永続的な口腔乾燥 |
---|---|
歯科的問題 | 虫歯や歯周病のリスク増加 |
嚥下障害 | 飲み込みの難しさ、誤嚥のリスク |
二次がん | 放射線療法や化学療法によって引き起こされる可能性 |
保険適用の有無と治療費の目安について
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
上咽頭癌の治療に用いられる放射線療法、化学療法、手術療法などは高額になることが多いです。
上咽頭癌の治療費が高額になる場合、高額療養費制度を利用できます。
上咽頭癌の保険適用について
基本的に上咽頭癌の治療は健康保険が適用されますが、治療内容によって保険適用の範囲は異なります。
放射線療法や化学療法は保険適用となる一方、新しい治療法や高度な医療技術を用いた治療の一部は保険適用外となる可能性があります。
入院費や薬剤費は保険適用の対象に含まれます。
上咽頭癌の一般的な治療費
治療法 | 費用 |
---|---|
放射線療法 | 100万円~300万円 |
化学療法 | 100万円~500万円 |
手術療法 | 200万円~500万円 |
これらの費用は保険適用後の自己負担額ですが、実際の治療費はさらに高額になる場合もあります。
高額療養費制度について
上咽頭癌の治療費が高額になる場合、高額療養費制度を利用できます。この制度は、一定の上限額を超えた医療費について、超過分を支給するものです。
上限額は、加入者の前年の所得に基づいて決められます。高額療養費制度を利用すると、自己負担額を大幅に軽減できます。
治療費の助成制度について
上咽頭癌の治療費が高額になる場合、各自治体や民間団体が実施している助成制度も利用できます。以下のような制度が代表的です。
自治体による医療費助成制度 | 所得に応じて医療費の一部を助成 |
---|---|
がん患者支援団体による助成金制度 | がん治療に関する費用の一部を助成 |
民間企業による治療費援助制度 | 治療費の一部を援助 |
詳しくは各自治体や民間団体にご確認ください。また、保険適用の可否は診察時に担当医師に直接確認してください。
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なお、当記事の内容は予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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