脂肪肝(Fatty Liver)とは、肝臓に余分な脂肪が溜まってしまう病気です。
普段から肝臓には適度な量の脂肪が存在していますが、それが度を超えて増えてしまうと、脂肪肝と呼ばれる状態になります。
始めのうちは体に異変を感じにくいため、健康診断を受けたときに思いがけず見つかることも珍しくありません。
脂肪肝を長い間放っておくと、肝炎や肝硬変といった肝臓の病気へと進行してしまうため、早いうちに発見して日々の生活を見直すことが大切です。
脂肪肝の病型
脂肪肝は、大きく分けてアルコールが原因のものと、お酒とは関係のないものの2種類があります。
脂肪肝の種類 | 主な原因 | 特徴的な症状 | 進行のリスク |
アルコール性 | 過度の飲酒 | 肝機能の低下 | 飲酒を続けると高い |
非アルコール性(NAFLD) | 生活習慣病 | 初期は無症状 | 生活習慣改善で低下 |
お酒が原因の脂肪肝
この種類の脂肪肝では、アルコールが直接肝臓の細胞に作用して、そこに脂肪をためこんでしまいます。
長い間お酒を飲みすぎていることが主な原因です。
特徴 | 内容 |
原因 | お酒の飲みすぎ |
診断のコツ | お酒を飲む習慣を確認する |
主に見られる人 | 長期間、大量にお酒を飲んでいる人 |
お酒以外が原因の脂肪性肝疾患(NAFLD)
NAFLDは更に2つに分けられます。一つは単純に脂肪がたまっているだけの「単純性脂肪肝」、もう一つはそれが悪化した「脂肪性肝炎」です。
病気の種類 | 特徴 |
単純性脂肪肝 | 脂肪がたまっているだけで、炎症はない |
脂肪性肝炎 | 脂肪がたまっていて、さらに炎症もある |
NAFLDになってしまう原因には、太りすぎや糖尿病、血液中の脂質が多くなる病気など、普段の生活習慣と関係の深い病気が関わっています。
単純性脂肪肝(NAFL)
単純性脂肪肝は、肝臓に脂肪がたまっているけれど、炎症は起きておらず、肝臓の組織が固くなる変化も見られない状態です。
この段階では、肝臓の働きを調べる検査をしても、ほとんど異常が見つかりません。
生活習慣を改善すれば、肝臓を健康な状態に戻すことができる段階だと言えます。
脂肪性肝炎(NASH)
脂肪性肝炎は単純性脂肪肝が進んでしまった状態で、肝臓に脂肪がたまっているだけでなく、炎症が起きていたり、肝臓の細胞が傷ついていたりする状態です。
この段階になると、肝臓の働きを調べる検査で、異常な数値が出ることが多くなります。
脂肪性肝炎を放っておくと、肝硬変という重い病気になったり、肝臓がんになったりする危険性があるので、早いうちに見つけて対処することが大切です。
以前、40歳くらいの男性の患者さんで、健康診断で脂肪肝を指摘されたのに気にせずにいたところ、数年後に脂肪性肝炎に進んでしまったケースがありました。
脂肪肝と診断された場合は、放置せず、医療機関で医師の指示に従った治療を続けるようにしてください。
脂肪肝の症状
脂肪肝は、初期段階では自覚症状がほとんどないのが特徴です。しかし病状が進行すると、さまざまな体の変化が現れてきます。
気づきにくい初期の状態
脂肪肝になり始めたばかりの頃は、ほとんどの人が何も症状を感じません。
そのため、定期的に健康診断に行き、肝臓の働きを調べる検査を受けることが早期発見につながります。
全身のだるさ・疲れやすさ
脂肪肝が進んでくると、体全体がだるく感じたり、普段より疲れやすくなったりします。
日々の生活に支障が出るほど、強い疲労感を感じる人も少なくありません。
おなかの右上の違和感
肝臓が腫れてくると、おなかの右上の部分に、鈍い痛みや圧迫されるような感覚が出てきます。症状は食事の後や、長時間座っているときに悪化しやすいです。
症状 | どんなときに起こりやすいか |
おなかが張る感じ | 食べた後に強くなる |
右上のおなかの痛み | 鈍い痛みが続く |
胃腸の調子の変化
- 吐き気や実際に吐いてしまう
- 食欲がなくなる
- 便秘や下痢になる
見た目の変化
脂肪肝が進行すると、黄疸(おうだん)と呼ばれる症状や、おなかが膨らんでくるような症状が見られます。
外から見てわかる変化 | どんな風に見えるか |
黄疸 | 皮膚や目の白い部分が黄色っぽくなる |
おなかの膨らみ | おなかが張ってくる感覚がある |
体の代謝に関連する症状
脂肪肝は体の代謝機能の乱れとも関係があるため、体重が増える、血液中の糖の量が増える、血圧が高くなるなどの症状も出てきます。
症状は脂肪肝が悪化するにつれて、ひどくなっていきます。
脂肪肝の原因
脂肪肝は、アルコールの過剰摂取や肥満、糖尿病など、生活習慣の乱れが主な原因です。摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り、余分なエネルギーが脂肪として肝臓に蓄積されることで起こります。
過剰なカロリー摂取・運動不足
人の体に取り込まれた余分なカロリーは、中性脂肪として肝臓に蓄積されます。 特に、高脂肪食や糖質の過剰摂取は、脂肪肝のリスクを高めることが分かっています。
また、日常的な運動不足も発症に大きく関わっています。
食生活の問題点 | 運動不足がもたらす影響 |
高脂肪食の摂取 | 脂肪燃焼能力の低下 |
糖質の過剰摂取 | インスリン抵抗性の増加 |
アルコールの過剰摂取
アルコールは主に肝臓で代謝されますが、過剰な摂取は肝臓における脂肪酸の代謝を阻害します。
その結果として、中性脂肪が肝細胞内に蓄積し、脂肪肝を引き起こす可能性が高くなります。
インスリン抵抗性と糖尿病
体内でインスリン抵抗性が生じると、肝臓における脂肪の合成が促進される一方で、脂肪の分解が抑制されてしまいます。
このような代謝の変化により、肝臓に脂肪が蓄積されやすい状態が作り出されてしまうのです。
※糖尿病患者の多くが、脂肪肝を合併している事実があります。
インスリン抵抗性がもたらす影響 | 糖尿病との関連性 |
肝臓での脂肪合成が活発化 | 高い確率で合併する |
脂肪分解のプロセスが抑制される | 血糖値のコントロールが不良になりやすい |
遺伝的要因
PNPLA3という遺伝子に変異がある場合、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)を発症するリスクが上昇するといわれています。
ただし、遺伝的要因のみで脂肪肝が発症するわけではありません。生活習慣の改善によってリスクを低減できる場合も多いです。
その他の要因
要因 | 脂肪肝への影響 |
肥満 | 内臓脂肪の増加による代謝異常 |
短期間での急激な体重減少 | 体内脂肪酸の急激な放出 |
特定の薬剤の長期使用 | 脂質代謝に悪影響がある |
ホルモンバランスの乱れ | 脂肪の蓄積や分解のバランスが崩れる |
脂肪肝の検査・チェック方法
脂肪肝の診断では、血液検査で肝機能の数値を確認し、超音波検査やCTスキャンなどの画像検査で肝臓に脂肪が蓄積しているかどうかを見ていきます。
問診・身体診察のポイント
- 普段の生活習慣
- お酒を飲む頻度
- 過去にかかった病気
- ご家族の病歴 など
身体診察では、お腹を触って、肝臓が腫れていないか、押すと痛みがないかなどを確認します。
血液検査
血液検査では、主に以下の項目を調べます。
検査項目 | 何を調べるのか |
AST (GOT) | 肝臓の細胞が壊れていないか |
ALT (GPT) | 肝臓の細胞が傷ついていないか |
γ-GTP | 胆道系の働きに問題がないか |
アルブミン | 肝臓の働きは正常か |
ただし、血液検査の結果だけでは脂肪肝かどうかはわかりません。他の肝臓の病気との区別も必要なので、追加でほかの検査も行います。
画像検査
- お腹の超音波検査
- CT検査
- MRI検査
中でもお腹の超音波検査は、体への負担が少なく簡単にできるので、最初に選ばれることが多いです。CT検査やMRI検査は、より詳しく肝臓の状態を調べたい時に使います。
特にMRIは肝臓に溜まった脂肪の量を数値で表せるので、より正確な診断につながります。
検査方法 | どんな特徴があるか |
お腹の超音波 | 体への負担が少なく、簡単にできる |
CT | 詳しい画像が得られる |
MRI | 脂肪の量を数値で表せる |
肝生検(確定診断)
画像検査や血液検査の結果から脂肪肝の可能性が高いと考えられても、最終的な確定診断には肝生検が必要になることがあります。
肝生検とは、肝臓の一部を細い針で採取し、顕微鏡で直接観察する検査方法です。肝生検を行うと、脂肪がどのくらい溜まっているか、炎症や線維化の程度はどうかなど、詳しく調べられます。
ただし、体への負担がある検査なので、本当に必要かどうかをよく考えて判断します。
肝生検を行う場合
- 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が疑われる場合
- 他の肝臓の病気との区別が難しい場合 など
脂肪肝の治療方法と治療薬について
脂肪肝の治療では、代謝性脂肪肝(非アルコール性脂肪肝)とアルコール性脂肪肝では、基本的な対応に違いがあります。
どちらの場合も、治療の目的は肝臓に脂肪がたまっている状態を良くし、肝硬変や肝臓がんといったより深刻な病気に進まないようにすることです。
生活習慣の見直し
代謝性脂肪肝の治療で最初に取り組むべきことは、普段の生活習慣の見直しです。
体重が多めの方は、今の体重から5〜10%ほど減らすのを目標にします。急に体重を落とすとかえって体に良くない影響が出る可能性があるので、ゆっくりと時間をかけて体重を減らすようにします。
適度な運動も大切です。 ウォーキングやジョギングなど、息が少し上がる程度の運動を中心に、週に3〜5回、1回30分以上続けることをお勧めします。
食事の面では、食べる量を減らし、バランスの良い食事を心がけるようにしていきます。
積極的に食べたい食品 | なるべく控えたい食品 |
野菜、果物 | 脂肪分の多い食べ物 |
玄米などの精製していない穀物 | 加工食品 |
青魚 | お酒 |
豆類 | 糖分の多い食べ物 |
アルコール性脂肪肝の治療
アルコール性脂肪肝の場合、最も重要な治療は断酒です。アルコールの摂取を完全に止めて、肝臓の回復を促します。
断酒により、多くの場合、数週間から数ヶ月で肝機能の改善が見られます。
ただし、長期的な過度の飲酒により肝臓が深刻なダメージを受けている場合は、回復に時間がかかります。
薬による治療
生活習慣を改善しただけでは十分な効果が得られない場合や、他の病気を併発するリスクが高い患者さんには、薬による治療を検討します。
現時点では、脂肪肝だけを治すための特別な薬はありませんが、以下のような薬が主に使われます。
- インスリンの働きを良くする薬(チアゾリジン誘導体という種類の薬)
- 血液中の脂質を減らす薬(フィブラート系という種類の薬)
- 肝臓を守る働きのある薬(ウルソデオキシコール酸)
脂肪肝の治療期間
脂肪肝の治療期間は、3〜6ヶ月程度の期間が目安となります。この期間中、食事療法や運動療法などの生活習慣の改善を継続し、肝機能の回復と脂肪の減少を目指します。
ただし完全な回復までには長い時間がかかる場合もあるため、医師の指導のもと、個別に治療期間を設定します。
治療期間には個人差があります
軽い症状の脂肪肝であれば、3ヶ月ほど生活習慣を改善することで肝機能が正常に戻る場合もあります。
一方で、症状が進行している場合や、長年にわたって健康的とは言えない生活を続けてきた場合には、6ヶ月以上の治療期間が必要なケースもあります。
治療の継続と長期的な健康管理
治療を始めてから3〜6ヶ月で肝機能の改善が見られたとしても、そこで治療を終わりにするのではなく、良い状態を保ち続けるためには長期的に健康管理を継続すべきです。
健康的な生活習慣を続け、定期的に検査を受けて脂肪肝の再発を防ぎます。
治療の段階 | 目指すこと |
初期(3〜6ヶ月) | 肝機能の改善 |
中期(6ヶ月〜1年) | 脂肪肝の症状改善 |
長期(1年以上) | 健康な状態の維持 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
脂肪肝の治療中は、気をつけなければならない点があります。
お薬による治療で起こりうる体への影響
インスリンの働きを良くする薬として使われる「チアゾリジン誘導体」という種類の薬には、体重が増える、むくみが出る、心臓の働きが悪くなるなどの副作用が報告されています。
また、血液中の脂質を減らす薬である「スタチン系」の薬では、まれに横紋筋融解症という重い副作用が起きる可能性があります。
生活習慣を改善する際の注意点
急に食事の量を減らしすぎると、体に必要な栄養が足りなくなる恐れがあります。特にタンパク質やビタミン、ミネラルが不足すると、肝臓の働きが悪くなることがあります。
一方で、運動をする際には、やりすぎると筋肉を傷つける危険性があります。特に、体重が多い脂肪肝の患者さんの場合は、関節への負担も考えに入れなければなりません。
治療を途中でやめてしまうと?
脂肪肝の治療は長い時間がかかるため、患者さんの中には途中でやめてしまう方もいます。
治療を途中でやめてしまうと病気の状態が悪くなるだけでなく、次のような危険性が高まる可能性があります。
- 肝硬変という重い病気に進行してしまう
- 肝臓がんができる危険性が高くなる
- 糖尿病や心臓の病気など、他の病気も悪化する
治療を続けることが難しいと感じたら勝手にやめるのではなく、まずは担当の先生に相談し、それぞれの状況に合わせた対策を考えていきましょう。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
脂肪肝の治療費は健康保険が適用されます。ただし、生活習慣の改善が主な治療法となるため、食事や運動に関連する費用(ジムに行くなどした場合)は自己負担となります。
保険適用される検査と治療
脂肪肝の診断や経過観察に必要な血液検査や画像診断は、健康保険の対象です。
検査項目 | 自己負担額(3割負担の場合) |
血液検査 | 1,500円〜3,500円 |
腹部超音波検査 | 2,500円〜4,500円 |
腹部CT検査 | 4,000円〜7,000円 |
薬物療法の費用の目安
薬剤タイプ | 月間自己負担額(3割負担の場合) |
肝機能改善薬 | 2,500円〜6,000円 |
糖尿病治療薬 | 3,500円〜9,000円 |
高脂血症治療薬 | 2,000円〜5,000円 |
以上
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