アルコール性脂肪肝(Alcoholic fatty liver)とは、習慣的な過度の飲酒によって肝臓に脂肪が蓄積していく病気です。
過剰なアルコール摂取が継続すると、肝臓の細胞内に脂肪が少しずつ蓄積し、次第に肝機能に悪影響が出てきます。
発症初期には自覚できる症状がほとんど現れないため、気づかないうちに病状が進行してしまうケースが多くみられます。
アルコール性脂肪肝の症状
アルコール性脂肪肝は、初めのうちはっきりとした症状が出にくい静かな病気です。ですが、進んでいくにつれて症状が目立つようになってきます。
症状が出ない時期の特徴
アルコール性脂肪肝では、初期の頃は多くの方が症状を感じません。
この時期に肝臓の働きを調べる検査をすると、少し数値が通常と違う場合もありますが、普段の生活に支障が出るような自分で分かる症状はほとんど現れません。
そのため、お酒を毎日飲む習慣がある方は、定期的に健康診断や人間ドックを受けて調べてもらうことが非常に大切になってきます。
お腹の調子に関する症状
病気が進行すると、お腹まわりに関係する症状が出始めます。
症状 | どんな感じか |
お腹が張る感じ | 肝臓が大きくなって、おなかがふくらんだような感覚がある |
右上のお腹の痛み | 肝臓に炎症が起きて痛みを感じる |
こういった症状は、食事をした直後やお酒を飲んだ後に特に強く感じます。また、吐き気がしたり実際に吐いてしまったり、食欲がなくなる方もいます。
体全体に関係する症状
アルコール性脂肪肝が進行すると、肝臓の働きが落ちるのに伴い、体のあちこちに症状が現れるようになります。
- 体がだるい
- 疲れやすい
- 少し熱がある
- 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
特に黄疸は、肝臓の機能が大きく低下したときに現れるサインです。
心や神経の症状
心の状態や、神経の働きに関係する症状も出てくることがあります。
症状 | 具体的に |
集中力が落ちる | 仕事の効率が下がったり、物忘れが増えたりする |
眠りの乱れ | 眠れなかったり、昼と夜が逆転したりするなど、睡眠のリズムが崩れる |
気分の波が激しくなる | イライラしやすくなったり、気分が落ち込みやすくなったりする |
皮膚に現れる症状
肝臓の働きが悪くなって血液の中の「胆汁酸」という物質が増え、ホルモンのバランスが崩れると、皮膚にも変化が現れます。
症状 | どんな感じか |
かゆみ | 体中の皮膚がかゆくなる |
クモの巣のような血管の模様 | 皮膚の表面に赤い斑点ができる |
気付きにくい病気ですが、早めに見つけて治療を開始すると予後がよくなります。定期的に健康診断を受け、何か気になる症状があればすぐに病院に相談しましょう。
アルコール性脂肪肝の原因
アルコール性脂肪肝は、習慣的な過度の飲酒が主な原因です。
アルコールの分解と肝臓への負担
私たちが飲んだお酒は、主に肝臓で分解されます。日常的に多量のアルコールを摂取すると、肝臓に大きな負担がかかり、脂肪が蓄積されやすくなります。
アルコールを分解する過程で生じる物質が、肝臓の細胞の働きを妨げてしまうのです。
体内の酸化と細胞内小器官の障害
毎日のようにお酒を飲み過ぎると、体の中で酸化反応が活発になります。
すると、肝臓の細胞の中にあるミトコンドリアという小さな器官が傷つき、エネルギーを作り出す力が弱くなってしまいます。
その結果、脂肪酸をうまく処理できなくなり、肝臓に脂肪がたまっていくことになるのです。
問題 | 体への影響 |
酸化反応の亢進 | ミトコンドリアの機能低下 |
ミトコンドリアの障害 | エネルギー生成能力の減少 |
食生活の乱れがもたらす影響
長期間にわたって大量のお酒を飲み続けている方は、食事の内容や食べ方が乱れがちになっているケースが非常に多いです。
アルコールから摂取するカロリーが増えてしまい、体に必要な栄養素が十分に取れていません。
このような食生活の乱れも、肝臓に脂肪がたまりやすくなる一因となっています。
個人差と遺伝的な背景
アルコール性脂肪肝になりやすいかどうかには、人によって違いがあることが分かっています。これは、お酒を分解する酵素の働き方に生まれつきの違いがあるからです。
例えば、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)という酵素の働きが弱い人は、アセトアルデヒドが体内にたまりやすく、肝臓を傷つけるリスクが高くなります。
遺伝的な要因 | 健康への影響 |
ALDH2の働きが弱い | アセトアルデヒドが蓄積しやすい |
ADHの働きが強い | アルコールの分解が早すぎる |
肝臓内の炎症による影響
お酒の飲みすぎが続くと、肝臓の中で炎症が起こりやすくなります。この炎症によって、肝臓の細胞に脂肪がたまる速度がさらに速くなってしまうのです。
長い間炎症が続くと、肝臓が硬くなったり、最終的には肝硬変という深刻な状態になったりする危険性もあります。
その他の原因
関連する原因 | 影響の仕方 |
太り過ぎ | 肝臓への負担増加 |
糖尿病 | 代謝異常の悪化 |
脂質異常症 | 脂肪の蓄積促進 |
ウイルス性肝炎 | 肝臓の炎症悪化 |
アルコール性脂肪肝の検査・チェック方法
アルコール性脂肪肝の診断では、血液検査、画像検査、場合によっては肝生検を行って肝臓の状態を調べていきます。
問診・身体診察で確認すること
- お酒を飲む習慣
- 飲む量
- 飲み方のパターン
体の診察では、肝臓が通常より大きくなっていないか、お腹の右上の部分を押したときに痛みがないかを調べます。また、アルコールへの依存傾向がないか、栄養状態は良好かといった点も確認します。
たまにお酒を飲む量を実際よりも少なく申告される方がいますが、診断のために必要となりますので、正直に伝えるようにしてください。
血液検査
血液検査は肝臓の働きの状態を調べるために行います。主な検査項目は次の通りです。
検査項目 | 分かること |
AST (GOT) | 肝臓の細胞が傷ついているかどうか |
ALT (GPT) | 肝臓の細胞が傷ついているかどうか |
γ-GTP | お酒による肝臓への影響 |
血清アルブミン | 肝臓でタンパク質を作る力 |
ASTとALTという2つの値を比べて、ASTがALTの2倍以上になっている場合、お酒による肝臓への影響を強く疑います。また、γ-GTP値は飲酒量が多いほど高くなります。
画像検査
超音波検査やCT、MRIなどの画像検査は、肝臓に脂肪がたまっている程度や形の変化を調べるために使います。
画像検査で見られる特徴的な所見
- 超音波検査:肝臓が通常より白く光って見える
- CT検査:肝臓の濃度が低下して見える
- MRI検査:脂肪を目立たなくする特殊な撮影方法で信号が弱くなる
肝生検について
肝生検は他の肝臓の病気がないかを確認したり、線維化がどの程度進んでいるかを調べたりするために行います。
確定診断をするのに確実な診断方法ですが、体への負担が大きい検査なので、必要性を慎重に判断します。
肝生検で調べる項目 | 脂肪肝がある場合の特徴 |
脂肪のたまり方 | 肝臓の細胞の中に大きな油滴が見られる |
炎症 | 主に好中球という白血球が集まっている |
線維化 | 中心静脈という血管の周りから徐々に進む |
マロリー体 | アルコールによる肝炎に特徴的な構造物 |
他の肝臓の病気との区別
アルコール性脂肪肝と診断するには、他の原因で起こる脂肪肝や、肝臓の障害ではないことの確認も大切です。
ウイルスによる肝炎、薬の副作用による肝臓への影響、自己免疫が関係する肝臓の病気などの可能性も考え、必要に応じて追加の検査をします。
アルコール性脂肪肝の治療方法と治療薬について
アルコール性脂肪肝の治療では、お酒を完全に控えるのが最も効果的な方法です。薬による治療と日々の生活習慣を見直しによって、肝臓の働きが回復するのを助けていきます。
治療には長い時間がかかる場合が多いですが、早いうちに発見して治療を行えば、肝臓の健康状態を良くできます。
お酒を控えることが一番大切です
アルコール性脂肪肝の治療で一番大事なのは、お酒を完全に断つことです。アルコールを摂らなくなると肝臓への負担が減り、たまっていた脂肪が少しずつ減っていきます。
だいたいお酒を控えてから3〜6ヶ月くらいで、肝臓の働きがよくなってくるのが分かります。
ただし、長い間たくさんお酒を飲んでいて肝硬変まで進んでしまった場合は、完全に元に戻すことはできません。そのため、早く見つけて早く治療を始めることがとても大切です。
薬による治療
お酒を控えるだけでは十分な効果が得られない時や、肝臓の働きを早く良くしたい時には、薬による治療も一緒に行います。
主に使われる薬には以下のようなものがあります。
- 肝臓を守る薬(ウルソデオキシコール酸など)
- 体の酸化を防ぐ薬(ビタミンEなど)
- インスリンの働きを良くする薬(ピオグリタゾンなど)
- 血液中の脂質を減らす薬(スタチン系の薬)
使用する薬には、肝臓の炎症を抑えたり、脂肪が溜まるのを減らしたりする効果があります。ただし、薬だけでは十分な効果が得られない場合が多いので、必ずお酒を控えることと一緒に行っていきます。
食事療法・運動療法
バランスの良い食事と適度な運動を心がけると、肝臓に溜まった脂肪を減らし、体全体の代謝を活発にする効果があります。
栄養素 | おすすめの食べ物 |
タンパク質 | 魚、豆腐や納豆、脂肪の少ないヨーグルト |
炭水化物 | 玄米や全粒粉のパン、野菜、果物 |
脂質 | オリーブオイル、アボカド |
ビタミン・ミネラル | ほうれん草やにんじん、ナッツ類 |
運動については、週に3〜5回、1回30分くらいの有酸素運動をおすすめしています。ウォーキングやジョギング、水泳などが良いですが、患者さんの体力や好みに合わせて選んでいきます。
アルコール性脂肪肝の治療期間
アルコール性脂肪肝の治療期間は患者さんによって差があり、症状が軽い場合は3〜6ヶ月程度で改善が見られます。
一方、症状が重い場合や長年お酒を飲み続けてきた方の場合は、1年以上の治療期間が必要な場合もあります。
お酒はどのくらいの期間控えればいいの?
お酒を控え始めてから、だいたい2〜3週間程度で肝機能の改善が見られ始めます。しっかりと回復するためには、最低でも3ヶ月間はお酒を完全に控えてくださいとお伝えしています。
※3カ月は最低ラインですので、本当は6カ月間は頑張っていただくのが望ましいです。
定期的な検査の期間
治療の進み具合を確認するため、定期的に検査を受けていただきます。
- 治療開始から1ヶ月後:最初の経過確認
- 3ヶ月後:中間的な評価
- 6ヶ月後:治療効果の全体的な評価
- それ以降:3〜6ヶ月ごとの定期検査
定期検査では、血液検査や超音波検査などを行い肝臓の回復状況を確認します。
長期的な経過観察が必要です
アルコール性脂肪肝の治療は、短い期間で終わるものではありません。長い期間にわたって経過を見ていき、必要に応じて治療の内容を調整していきます。
今まで診てきた患者さんの多くは、お酒を控え続けながら治療を受けることで、1年後には大きく良くなりました。
ある50歳代の男性の患者さんは20年以上毎日たくさんお酒を飲んでいましたが、お酒を控え、薬による治療を1年間続けたところ、肝臓の働きを示す検査の数値が正常な範囲まで良くなりました。
このように、アルコール性脂肪肝は治療と生活習慣の改善により、良くなる見込みがある病気です。早いうちに治療を始め、医師の指導に従いながら長い期間をかけて病気を管理していくことが大切です。
また、再び症状が悪化するリスクを減らすため、少なくとも2〜3年間は継続的に経過を観察します。
期間 | 管理の内容 |
治療中(3〜6ヶ月) | お酒を控える、食事の改善、適度な運動、定期的な検査 |
治療後1年間 | 健康的な生活習慣の維持、3〜6ヶ月ごとの検査 |
1年以降 | 年に1〜2回の定期検査、健康的な生活習慣の継続 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
アルコール性脂肪肝の治療は禁酒や日々の生活改善が基本ですが、薬による治療を行う際には副作用に注意を払います。また、治療中には思いがけない合併症が起こることもあります。
薬による治療で気をつけたい副作用
どんな薬にも副作用が起こる可能性があります。肝臓の炎症を抑えるステロイド薬は、長く使い続けると体の抵抗力が弱くなったり、骨がもろくなったりするリスクがあります。
また、体の酸化を防ぐビタミンE製剤も、多くの量を長期間飲み続けると出血しやすくなってしまうことがあります。
薬の種類 | 気をつけるべき副作用 |
ステロイド薬 | 抵抗力の低下、骨のもろさ増加 |
ビタミンE製剤 | 出血しやすくなる |
副作用は体質や、飲む量、飲み続ける期間によって違いが出てきますので、体調をこまめに確認しながら、薬の使い方を考えていきます。
お酒を断つときに起こりうる体の反応
長年たくさんお酒を飲んでいた方が急にお酒を断つと、アルコールが抜ける際の症状が出ることがあります。
- 不安感やイライラ
- 手のふるえ
- 汗が止まらない
- 吐き気や嘔吐
- 眠れない
ひどい場合には、けいれんが起きたり意識がもうろうとしたりする「振戦せん妄」という状態になることもあります。 このような状況では、病院で適切な治療を受ける必要があります。
栄養を補給する際のリスク
治療の一環として栄養を補給する場合がありますが、急に栄養状態を良くしすぎると、かえって体に負担をかけてしまうことがあります。
起こりうる問題 | どんなことが起きるか |
再栄養症候群 | 急な栄養補給で体内のミネラルバランスが崩れる |
肝性脳症 | タンパク質を取りすぎて意識がもうろうとする |
栄養を補給する際は、体の様子を見ながらゆっくりと量を増やしていきます。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
アルコール性脂肪肝の治療費は健康保険が適用されるため、自己負担は通常3割程度です。入院や高度な検査が必要になると費用が増加します。
外来診療にかかる費用
検査項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
血液検査 | 1,500円〜3,000円 |
腹部エコー | 2,000円〜4,000円 |
CT検査 | 4,000円〜8,000円 |
入院治療の費用
症状が重い場合や、集中的な治療が必要な際には入院していただく場合もあります。入院費用は、滞在日数や治療内容によって大きく変わります。一般的な入院費用の目安は以下の通りです。
入院期間 | 概算費用(3割負担の場合) |
1週間 | 5万円〜10万円 |
2週間 | 10万円〜20万円 |
1ヶ月 | 20万円〜40万円 |
治療に必要な薬剤費の目安
- 肝機能改善薬 月額1,000円〜3,000円
- ビタミン剤 月額500円〜1,500円
- 利尿薬 月額1,000円〜2,000円
- 肝庇護薬 月額2,000円〜4,000円
以上
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