アルコール性肝硬変(Alcoholic cirrhosis)とは、長年にわたって過剰なお酒を飲み続けることで起こる、重篤な肝臓の病気です。
この病気になると肝臓の細胞がゆっくりと損傷を受け、時間の経過とともに、健康な組織が硬い線維状の組織に置き換わっていってしまいます。
すると肝臓の働きが悪くなり、体のあちこちで健康上の問題が起こります。
初めのうちは目立った症状が現れない場合が多いため、定期的に健康診断を受けることが大切です。
アルコール性肝硬変の病型
アルコール性肝硬変は、Child-Pugh分類によって重症度が分けられています。
Child-Pugh分類とは
Child-Pugh分類では、以下の5つの項目を評価し、それぞれにスコアを付けて合計点を算出します。
- 血清ビリルビン値‥肝臓の解毒機能を反映する指標
- 血清アルブミン値‥肝臓のタンパク質合成能力を示す指標
- プロトロンビン時間‥肝臓での凝固因子産生能力を評価する指標
- 腹水の有無と程度‥門脈圧亢進症の程度を反映する指標
- 肝性脳症の有無と程度‥肝不全による脳機能障害の指標
スコア合計 | 分類グレード | 1年生存率の目安 |
5-6点 | A(軽症) | 約100% |
7-9点 | B(中等症) | 約80% |
10-15点 | C(重症) | 約45% |
分類は何に使うの?
Child-Pugh分類の結果によって、治療方針を決定します。例えば、次のようなときに判断材料となります。
- 外科的手術の適応や安全性の判断
- 薬物療法の選択、用量の調整
- 肝移植の必要性や、時期の評価
- 短期・長期的な予後予測、患者さんへの説明のとき
アルコール性肝硬変の症状
アルコール性肝硬変では、長期間の過度な飲酒により肝臓が硬くなり、全身倦怠感、食欲不振、黄疸、腹水などさまざまな症状を引き起こします。そして、最終的には肝不全に至る可能性があります。
全身に及ぶ症状と肝機能の低下
アルコール性肝硬変になると、ひどい疲れやだるさを感じるようになります。また、食べ物がおいしく感じられなくなったり、吐き気が起こるなど胃腸の不調も見られます。
このような症状は、肝臓が十分に機能しないために、体の中の物質の代謝バランスが乱れることが原因です。
50代の男性の患者さんの例をあげると、この方は数か月間原因不明の疲労感に悩まされていましたが、詳しい検査を行った結果、アルコール性肝硬変であることが分かりました。
このように、はっきりしない症状であっても、検査でアルコール性肝硬変の診断がつく場合があります。
黄疸と皮膚の変化
肝臓の機能が低下すると体の中でビリルビンという物質が蓄積され、黄疸という症状が現れます。黄疸になると、皮膚や目の白い部分が黄色く変色します。
また、胆汁酸という物質が体内にたまってしまい、体にかゆみを感じるようになります。
症状 | どんな特徴があるか |
黄疸 | 皮膚や目の白目が黄色くなる |
皮膚のかゆみ | 体がむずむずする |
お腹の症状とむくみ
アルコール性肝硬変が進行すると、腹水という水分がたまり、お腹が膨らんでしまうことがあります。また、門脈という血管の圧力が高くなることで、食道や胃の血管が瘤(こぶ)のように膨らむ場合もあります。
足のむくみもよく見られる症状の一つで、肝臓での血液の流れが悪くなったり、アルブミンという血液中のタンパク質が減ったりすることと関係しています。
心や神経の症状
肝性脳症はアルコール性肝硬変によって引き起こされる深刻な合併症です。
初めのうちは、物事に集中しにくくなったり、気分が変わりやすくなったりといった軽い症状が現れます。
しかし、症状が進むと、混乱したり意識がはっきりしなくなるなど、重い状態に発展することがあります。
- 集中力が落ちる
- 最近あったことを忘れやすくなる
- 気分が変わりやすくなる
- 頭の中が混乱する
- 意識がなくなる
出血しやすくなる傾向
肝臓は血液を固める働きをする物質を作る重要な臓器です。そのため、アルコール性肝硬変の患者さんは出血しやすくなることがあります。
どんな症状か | どこで起こるか |
鼻血 | 鼻の中 |
歯ぐきからの出血 | 口の中 |
皮膚の下での出血 | 皮膚 |
栄養が偏る・筋肉が弱くなる
アルコール性肝硬変になると、栄養を吸収する力が弱くなる、体の中での物質の変化がうまくいかなくなるなどの理由から、栄養状態が悪くなります。
その結果、筋肉の力が弱くなったり、体重が減ったりする症状が起こります。
症状 | どんな影響があるか |
筋肉の力が弱くなる | 日常生活の動作が制限される |
体重が減る | 免疫力が落ちる |
アルコール性肝硬変の原因
アルコール性肝硬変の原因は、長期間にわたる過度な飲酒により肝臓が慢性的な炎症を起こし、線維化の進行によって肝臓が硬くなって機能が低下することです。
アルコールが肝臓に与える影響
お酒の主成分であるアルコールは、私たちの体の中で主に肝臓で分解されます。そのため、お酒を飲み過ぎると、肝臓に直接的な悪影響を与えてしまいます。
アルコールの一種であるエタノールが分解される過程で生成される、「アセトアルデヒド」という物質は特に強い毒性を持っていて、肝臓の細胞を痛めつけます。
アルコールから生じる有害物質 | 肝臓への悪影響 |
アセトアルデヒド | 細胞に対する毒性 |
活性酸素 | 酸化ストレス |
脂肪酸 | 脂肪肝の原因 |
長期間の飲酒がもたらす栄養の偏り
お酒を長期間にわたって飲み過ぎ続けると、体に必要な栄養素を摂取したり、吸収したりすることが難しくなります。
このような状態が続くと、体に必要なタンパク質やビタミン、ミネラルなどが不足してしまい、肝臓が自分自身を修復する力が弱くなります。
特に、ビタミンBの仲間やビタミンEが足りなくなると肝臓の細胞が壊れやすくなり、体の中で発生する有害な物質に対する抵抗力が弱くなります。
生まれつきの体質・生活習慣
アルコール性肝硬変になりやすいかどうかには、生まれつきの体質も関係があります。お酒の成分を分解する酵素の遺伝子には、人それぞれ違いがあることが分かっています。
アセトアルデヒドを分解する酵素であるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きが弱い人は、体の中にアセトアルデヒドがたまりやすくなり、肝臓を傷つけるリスクが高いです。
また、次のような生活習慣の方は、アルコール性肝硬変発症のリスクが高くなります。
- B型やC型の肝炎ウイルスに感染している
- 太り過ぎや糖尿病がある
- たばこを吸う習慣がある
- 仕事で有害な化学物質に触れる機会が多い
お酒の飲み方と肝硬変のリスクの関係
毎日お酒を飲む方は肝臓に休む時間がないため、特に肝臓への悪影響があります。
また、短時間の間に大量のお酒を一気に飲む「イッキ飲み」のような飲み方も、急激に肝臓に負担をかけてしまうため危険です。
お酒の飲み方 | 肝硬変になるリスク |
毎日飲酒 | とても高い |
週に2〜3日休む | やや高い |
月に1〜2回程度 | 比較的低い |
ほとんど飲まない | 低い |
アルコール性肝硬変の検査・チェック方法
アルコール性肝硬変の診断では、問診や身体診察のほか、血液検査や画像診断を行い肝臓の状態を調べます。場合によっては、肝生検をする場合もあります。
問診・身体診察
お酒を飲む習慣について、どのくらいの頻度で、どれくらいの量を、どのくらいの期間飲んでいたのかなど、状況を把握します。
また、身体診察では次のような点を確認し、アルコール性肝硬変の可能性を判断していきます。
体の変化 | どんな特徴があるか |
皮膚や白目の黄ばみ | 全身が黄色っぽく見える |
手のひらの赤み | 手のひらが赤くなる |
細かい血管の拡張 | 皮膚の表面に赤い斑点が現れる |
お腹の水たまり | お腹が膨らんで波打つように動く |
血液検査で肝臓の働きを調べる
肝臓の働きを反映する検査項目として、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、ALP、総ビリルビンなどを測定します。
この値が高くなっていると、肝臓の細胞が傷ついていたり、胆汁の流れが滞っていたりする可能性があります。
また、アルブミンやプロトロンビン時間の値が低下していると、肝臓の働きが弱っていることを示しています。
検査項目 | どんな意味があるか |
AST、ALT | 肝臓の細胞が傷ついているかどうか |
γ-GTP、ALP | 胆汁の流れが滞っているかどうか |
アルブミン | 肝臓がタンパク質を作る力 |
プロトロンビン時間 | 血液を固める物質を作る力 |
血小板の数 | 肝硬変がどのくらい進んでいるか |
画像検査で肝臓の形を調べる
お腹の超音波検査では、肝臓の大きさや表面のでこぼこ、内部の様子などを調べます。また、脾臓が大きくなっていないか、お腹に水がたまっていないかも確認します。
CT・MRIの検査では、肝臓が小さく縮んでいないか、表面にできものができていないか、門脈という血管の圧が高くなっていないかなどを調べていきます。造影剤という薬を使うと、肝臓の中の血液の流れ方も分かります。
肝生検
以下のような場合に肝生検を検討します。
- 診断がはっきりしない時
- 他の肝臓の病気との見分けが必要な時
- 治療方法を決めるのに組織の様子を知る必要がある時
- 症状や他の検査結果がうまく説明できない時
肝生検は、肝臓の一部を採取して顕微鏡で観察する検査方法です。体に針を刺して組織を取る検査なので、行うかどうかは慎重に判断します。
血液が固まりにくくなっている患者さんや、お腹に水がたくさんたまっている場合は、合併症の危険が高くなります。
肝生検で分かること | どんな意味があるか |
肝細胞の変性 | 肝臓の細胞がどれくらい傷んでいるか |
線維化の程度 | 肝臓がどれくらい硬くなっているか |
脂肪の沈着 | 肝臓に脂肪がどれくらいたまっているか |
炎症の状態 | 肝臓の中で炎症がどの程度起きているか |
アルコール性肝硬変の治療方法と治療薬について
アルコール性肝硬変の治療は、お酒を完全に控えることを基本として、バランスの取れた食事療法や薬による治療を組み合わせて進めていきます。
断酒治療の必要性
アルコール性肝硬変の治療では、お酒を完全に断つことが最も効果的な方法です。
私が実際に診察した患者さんの中で、50代の男性の方がお酒を完全に断ち、半年後には肝臓の機能を示す数値が驚くほど良くなった例があります。
断酒期間 | 肝臓の機能が良くなる割合 |
1ヶ月 | 20% |
3ヶ月 | 40% |
6ヶ月 | 60% |
1年以上 | 80% |
栄養バランスを整える食事療法
アルコール性肝硬変の患者さんは、多くの場合、体の栄養状態が良くない状況にあります。タンパク質が多く、エネルギーも十分にある食事を心がけ、ビタミンやミネラルのバランスにも気をつけましょう。
必要に応じて、栄養バランスを整えるため、点滴による栄養補給を行うこともあります。
薬による治療
アルコール性肝硬変の主な薬とその効果は、次の通りです。
薬の種類 | 主な効果 |
肝臓を守る薬 | 肝臓の細胞を守り、新しい細胞ができるのを助ける |
むくみを取る薬 | おなかの水やむくみを減らす |
血液をサラサラにする薬 | 血液の塊ができるのを防ぐ |
抗生物質 | 感染症を防ぐ |
肝臓の移植手術について
重症のアルコール性肝硬変の場合、内科的な治療だけでは十分な効果が得られず、肝臓の移植手術が最後の治療の選択肢となる場合があります。
肝臓の移植手術を受けられるかどうかは厳しい基準があり、単に肝臓の病状だけでなく、手術前後の生活やサポート体制なども総合的に判断されます。
肝臓移植の条件 | 詳しい内容 |
体の状態 | 肝臓の働き、体全体の健康状態 |
お酒を断った期間 | 半年以上お酒を飲んでいないこと |
周りの人のサポート | 家族の協力、お金の問題がないこと |
心の安定 | アルコール依存症の治療を受けていること |
また、移植手術を受けた後は生涯にわたって免疫抑制剤という薬を飲み続け、定期的に病院で検査を受けていただきます。
アルコール性肝硬変の治療期間
アルコール性肝硬変は時間をかけてゆっくりと進行するため、医療機関での継続的な診療と日々の生活改善が大切になってきます。
治療にかかる時間は症状の程度や他の病気の有無などによって変わってきますが、基本的に一生涯続けます。
治療の基本的な考え方
アルコール性肝硬変の治療では、肝臓の働きを少しでも良い状態に保ち、病気の進行を食い止めることを目指します。
完全に元通りになることは難しいですが、治療を受け生活習慣を見直すことで、つらい症状を和らげ、他の病気の併発を防ぐことができます。
定期的に病院に通うことが大切
アルコール性肝硬変の治療では、定期的に病院に通って診てもらうことが大切です。血液検査やレントゲンなどの検査を通じて、肝臓の状態や、他の病気が出ていないかを確認します。
生活習慣の改善も継続します
日々の生活習慣を見直しや改善は、一時的なものではなく、治療の一環として継続的に行う必要があります。
生活習慣の改善項目 | どのくらい続けるか |
お酒を控える | ずっと |
バランスの良い食事 | 一生涯 |
適度な運動 | 継続的に |
薬の副作用や治療のデメリットについて
アルコール性肝硬変の治療では、副作用やリスクについて理解しておくことが大切です。
お薬による治療で気をつけるべきこと
アルコール性肝硬変の治療ではさまざまな薬を使いますが、副作用が出る可能性もあります。
主な副作用には次のようなものがあります。
- おなかの調子が悪くなる(吐き気、おなかの痛み、下痢など)
- 皮膚がかゆくなったり、発疹が出たりする
- めまいがしたり、頭が痛くなったりする
- 体がだるくなる
薬の種類 | 気をつけるべき副作用 |
水分を出す薬 | 体の中の塩分のバランスが崩れる、水分不足になる |
血液をサラサラにする薬 | 出血しやすくなる、貧血になる |
患者さんの中には、水分を出す薬の副作用で体の中の塩分のバランスが大きく崩れ、一時的に入院が必要になった方もいます。
このような事態を防ぐためにも、定期的に血液検査を受け、体調の変化を担当医に伝えることが重要です。
栄養管理で気をつけるべきこと
アルコール性肝硬変の治療中はバランスの良い食事が欠かせませんが、タンパク質を取りすぎないように気をつけすぎると、逆に筋肉が減ってしまう可能性があります。
また、取りすぎると頭がボーッとする症状(肝性脳症)が起こりやすくなります。塩分を多く取りすぎるとおなかに水がたまりやすくなるので、医師の指示に従い、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
栄養素 | 気をつけるべきこと |
タンパク質 | 取りすぎると頭がボーッとする症状が悪化する可能性がある |
塩分 | 取りすぎるとおなかに水がたまりやすくなる |
肝臓の状態が悪くなるリスク
治療中であっても、肝臓の状態が悪くなる可能性は常にあります。 特に、お酒を完全にやめられない患者さんはリスクが高くなります。
肝臓の状態が悪くなると、次のような症状が現れます。
- 皮膚や目の白い部分が黄色くなる(黄疸)
- おなかに水がたまる量が増える(腹水)
- 出血が止まりにくくなる
- 頭がボーッとする症状が出る(肝性脳症)
これらの症状に気づいたら、すぐに医師に相談するようにしてください。 早めに対処することで、症状の悪化を防げます。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
アルコール性肝硬変の治療費は、患者さんの状態や必要な治療内容によって大きく変わります。保険適用により負担は軽減されますが、長期にわたる治療のため総額は高額になります。
治療費の目安
治療内容 | おおよその費用範囲 |
外来診療 | 1回 10,000円〜30,000円 |
入院治療 | 1日 50,000円〜150,000円 |
保険適用について
健康保険が適用されるため、患者さんの自己負担は原則として3割です。高額療養費制度を利用すると月々の支払い上限額が設定され、経済的負担が軽減されます。
具体的な治療費の内訳
- 血液検査(肝機能検査 5,000円〜10,000円、凝固能検査 3,000円〜5,000円)
- 画像診断(腹部エコー 5,000円〜10,000円、CT 15,000円〜30,000円、MRI 30,000円〜50,000円)
- 薬物療法(肝庇護薬 月額10,000円〜30,000円、利尿薬 月額5,000円〜15,000円)
- 栄養療法(栄養指導 5,000円〜10,000円/回)
- 合併症に対する処置(内視鏡的食道静脈瘤結紮術 100,000円〜200,000円/回)
以上
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