黄疸

黄疸(Jaundice)とは、肝臓の機能に異常が生じ、ビリルビンという黄色い色素が体内に蓄積される状態を指します。

皮膚や白目の黄色い変色が特徴的な症状で、肝炎やアルコール性肝障害、胆石症など、様々な原因で引き起こされます。

黄疸(おうだん)の程度や持続時間は原因となる疾患によって異なりますが、早期発見と対応が健康維持のためには大切です。

目次

黄疸の病型

黄疸の種類や分類方法は、新生児黄疸、障害部位による分類、病態による分類など多岐にわたります。

新生児黄疸

新生児黄疸は生後間もない赤ちゃんに見られる特殊な黄疸の形態で、生理的黄疸と病的黄疸に大別されます。

生理的黄疸はほとんどの新生児に見られる一時的な現象であり、通常は生後2~3日目から現れ、1~2週間程度で自然に消失します。

一方、病的黄疸はより早期の発症や長期化の可能性があり、注意が必要となります。

新生児黄疸の種類特徴
生理的黄疸一時的で自然消失
病的黄疸早期発症や長期化

障害部位による分類

黄疸は、その障害が起こる部位によって3つに分類されます。

肝前性黄疸肝臓に到達する前の段階で問題が生じる場合に起こり、溶血性貧血などが原因
肝性黄疸肝臓自体に問題がある場合に発生し、ウイルス性肝炎や肝硬変などが代表的な原因
肝後性黄疸胆汁の排泄経路に障害がある場合に生じ、胆石や胆管がんなどが原因

病態による分類

黄疸は、その発生メカニズムによっても分類されます。

黄疸の病態分類主な特徴
溶血性黄疸赤血球破壊の亢進
肝細胞性黄疸肝細胞機能の障害
肝内胆汁うっ滞性黄疸肝臓内での胆汁停滞

溶血性黄疸は赤血球の破壊が亢進することで発生し、肝細胞性黄疸は肝細胞の機能障害によって引き起こされます。

また、肝内胆汁うっ滞性黄疸は、胆汁の流れが肝臓内で滞り生じます。

その他の分類方法

黄疸には、上記以外にも様々な分類方法があります。

  • 発症時期による分類(急性黄疸、慢性黄疸)
  • 血清ビリルビン値による分類(軽度黄疸、中等度黄疸、重度黄疸)
  • 原因疾患による分類(ウイルス性肝炎による黄疸、薬剤性肝障害による黄疸など)

これらの分類方法を組み合わせて黄疸の状態をより詳細に把握し、対応につなげていきます。

黄疸の症状

黄疸は皮膚や白目の黄染が特徴ですが、その他にも尿や便の色の変化やかゆみなど、さまざまな症状が現れます。

皮膚や粘膜の黄染

黄疸の最も顕著な症状は、皮膚や粘膜が黄色く染まることです。通常、まず白目の部分(強膜)が黄色くなり、その後皮膚全体に広がっていきます。

体内のビリルビンが過剰に蓄積されるために起こる現象で、黄染の程度は軽度のものから濃い黄色までさまざまです。

尿の色の変化

黄疸が進行すると尿の色が濃くなる場合があり、通常の薄い黄色から、コーラのような濃い茶色やオレンジ色に変化します。

これは過剰なビリルビンが尿中に排出されるためで、皮膚の黄染が目立つ前に現れるケースもあります。

便の色の変化

便の色黄疸との関連
白色または灰色胆道閉塞の可能性
茶色正常
黒色消化管出血の可能性

黄疸に伴い、便の色が変化することがあります。特に、白っぽくなったり灰色がかったりする場合は、胆道が閉塞している可能性があります。

便が黒くなる場合は消化管出血を伴う肝疾患の可能性があるため、迅速な医療機関の受診が望ましいです。

かゆみ(掻痒感)

黄疸に伴って、全身にかゆみが生じることがあります。かゆみの程度は個人差が大きく、軽度のものから睡眠を妨げるほどの強いものまでさまざまです。

特に、夜間や入浴後にかゆみが悪化する場合が多いです。

全身倦怠感と食欲不振

肝臓機能低下のため、黄疸患者の多くに全身のだるさや疲労感がみられます。また、食欲不振や吐き気を伴うことも珍しくありません。

黄疸に伴う主な全身症状

  • 疲労感
  • だるさ
  • 食欲低下
  • 吐き気
  • 体重減少
  • 発熱(感染を伴う場合)

腹部症状

症状特徴
右上腹部痛鈍痛や圧痛
腹部膨満感腹水貯留の可能性
肝腫大触診で確認可能

黄疸の原因となる肝疾患によっては腹部にも症状が現れることがあり、右上腹部の痛みや違和感は、肝臓の腫大や炎症の可能性があります。

また、腹水貯留による腹部膨満感は、進行した肝硬変などで見られます。

黄疸の原因

黄疸は肝臓疾患と密接に関連しており、肝細胞の損傷、胆汁の流れの阻害、赤血球の過剰破壊などの要因が黄疸を引き起こします。

肝細胞の損傷による黄疸

肝炎ウイルスの感染や過度の飲酒、薬物の副作用などにより、肝細胞が傷つくことがあります。

肝細胞が正常に機能しなくなると、ビリルビンの処理能力が低下し、血中のビリルビン濃度上昇によって皮膚や粘膜が黄色く変色する黄疸の症状が現れます。

肝細胞損傷の原因具体例
ウイルス感染B型肝炎、C型肝炎
薬物性肝障害アセトアミノフェン過剰摂取
アルコール性肝障害慢性的な過度の飲酒

胆汁の流れの阻害

胆石や腫瘍などにより胆管が閉塞すると、肝臓で生成された胆汁が十二指腸へ正常に排出されなくなります。

このような状態を閉塞性黄疸と呼び、胆汁うっ滞によりビリルビンが血液中に逆流して黄疸の症状が現れます。

赤血球の過剰破壊

赤血球の寿命は約120日ですが、何らかの原因でこれより早く破壊されることがあります。

赤血球が過剰に破壊されると体内のビリルビン量が増加し、肝臓の処理能力を超えてしまうことがあり、この状態を溶血性黄疸と呼びます。

赤血球の過剰破壊を引き起こす可能性のある疾患や状態

  • 溶血性貧血
  • マラリア感染
  • 輸血反応
  • 自己免疫疾患

その他の原因

その他、肝硬変や肝臓がんなどの進行した肝疾患では肝機能が著しく低下し、ビリルビンの処理が困難になります。

また、先天性の酵素欠損症や代謝異常症も黄疸の原因となり得ます。

疾患名特徴
ジルベール症候群ビリルビン代謝酵素の遺伝的欠損
クリグラー・ナジャー症候群重度のビリルビン代謝障害

黄疸の検査・チェック方法

黄疸の診断は、視診による黄染の確認から始まり、血液検査で肝機能や胆道系の状態を評価し、必要に応じて腹部超音波検査やCT、MRIなどの画像診断を行います。

さらに詳細な診断が必要な場合は、ERCPや肝生検などの精密検査を実施します。

黄疸の視診と身体所見

視診では皮膚や眼球結膜の黄染の程度を確認し、黄疸の有無を判断します。

黄疸の程度を確認するところは、以下のような部位です。

  • 眼球結膜
  • 口腔粘膜
  • 皮膚(特に手掌や足底)

また、腹部の触診や打診によって肝臓や脾臓の腫大、腹水の有無などを確認し、黄疸の原因となっている疾患の手がかりを得ていきます。

血液検査による評価

血液検査での主な検査項目は以下の通りです。

検査項目主な意義
総ビリルビン黄疸の程度を評価
直接ビリルビン肝胆道系の障害を示唆
肝機能酵素(AST、ALT、ALP、γ-GTP)肝細胞障害や胆汁うっ滞の程度を評価

検査結果をもとに黄疸の原因や重症度を推定することが可能となり、さらなる精密検査の必要性を判断する基準ともなります。

画像検査による精密診断

血液検査の結果を踏まえ、必要な場合は画像検査を行います。

検査方法主な目的
腹部超音波検査肝臓・胆道系の形態異常や腫瘤の有無を確認
CT検査肝臓・胆道系の詳細な構造を観察
MRI/MRCP胆道系の詳細な描出と閉塞部位の特定

画像検査では、黄疸の原因となっている病変の位置や大きさ、周囲への影響などを詳細に評価できます。

確定診断のための追加検査

画像検査で異常が認められた際には、さらに詳細な検査が行われる場合もあります。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)

胆道系の精密な観察と同時に、治療的処置も可能な検査方法です。

肝生検

肝臓の組織を直接採取して、顕微鏡で観察します。

黄疸の治療方法と治療薬について

黄疸の治療は原因疾患の特定と治療が基本で、ウルソデオキシコール酸などの胆汁酸製剤、フェノバルビタールなどの酵素誘導薬、光線療法、重症例では血漿交換療法が用いられます。

黄疸治療の基本方針

黄疸の治療において、最も重要なのは原因となる肝臓疾患に対する対応です。

個々の症例に合わせた治療方針を立てていき、治療の目標は肝機能の回復と黄疸症状の軽減にあります。

薬物療法による黄疸の治療

黄疸の治療における主な処方薬とその効果をまとめました。

薬剤名主な効果
ウルソデオキシコール酸胆汁の流れを改善し、肝機能を保護
コルチコステロイド炎症を抑制し、免疫系の反応を調整
抗ウイルス薬ウイルス性肝炎による黄疸の治療に使用
利胆薬胆汁の分泌を促進し、胆道系の機能を改善

非薬物療法と生活指導

薬物療法と並行して、非薬物療法や生活指導も黄疸治療の重要な要素となります。

具体的な内容

  • 十分な休養と栄養バランスの取れた食事
  • アルコール摂取の制限または禁止
  • 定期的な運動(医師の指示に従う)
  • ストレス管理と十分な睡眠

生活習慣の改善は、肝臓の負担を軽減して回復を促進する効果があります。個々の生活環境や習慣を考慮しながら、指導を行います。

重症例における治療法

重度の黄疸や急性肝不全を伴う場合は、より集中的な治療が必要です。

治療法適応
血漿交換療法毒素の除去と凝固因子の補充
肝透析肝機能の一時的な代替
肝移植末期肝不全の場合の最終手段

黄疸の治療期間と予後

黄疸の治療期間と予後は、原因となる肝臓疾患の種類や重症度によって大きく異なります。

一般的に急性の場合は数週間から数か月、慢性の場合は数か月から数年の治療期間を要する場合もあります。

黄疸の治療期間

黄疸の治療期間は、基礎疾患や患者さんの状態によって個人差が大きいのが特徴です。

急性肝炎による黄疸の場合、通常2〜4週間程度で症状が改善するケースが多いですが、慢性肝炎や肝硬変に伴う黄疸では長期的な管理が必要となります。

原因疾患一般的な治療期間
急性肝炎2〜4週間
慢性肝炎数か月〜数年
肝硬変数年以上

黄疸の予後

早期発見と治療介入が行われた場合、多くの患者さんで良好な予後が期待できます。ただし、進行した肝硬変や肝がんに伴う黄疸では予後が不良となることがあります。

予後に影響を与える要因

  • 原因疾患の種類と重症度
  • 治療開始までの期間
  • 患者さんの年齢と全身状態
  • 合併症の有無
  • 治療への遵守度

薬の副作用や治療のデメリットについて

黄疸治療薬の主な副作用には、肝機能障害、皮膚発疹、消化器症状、薬剤耐性の可能性、長期投与による合併症リスクなどがあります。

薬物療法に伴う副作用

患者さまの状態や使用する薬剤によって、副作用の種類や程度は異なりますが、代表的なものを以下の表にまとめました。

副作用症状
消化器系吐き気、腹痛、下痢
皮膚発疹、かゆみ
神経系めまい、頭痛
血液貧血、血小板減少

これらの副作用が現れた際は、速やかに担当医に相談してください。症状の程度によっては投薬量の調整や、別の薬剤への変更が必要となる場合もあります。

手術療法のリスク

手術に関連する主なリスクには以下のようなものがあります。

  • 感染症
  • 出血
  • 麻酔による合併症
  • 手術部位の痛み
  • 術後の回復の遅れ

放射線療法における副作用

放射線療法は効果的な治療法である反面、正常な組織にも影響を与える可能性があります。

副作用影響を受ける部位
皮膚の炎症照射部位周辺
疲労感全身
食欲不振消化器系
骨髄抑制血液系

これらの副作用の多くは一時的なものですが、長期的な影響が懸念される場合もあります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

肝臓疾患の一種である黄疸の治療費は、症状の程度や原因によって大きく異なりますが、多くの場合健康保険が適用されるため患者の自己負担は軽減されます。

入院や高度な治療が必要となると、費用が高額になります。

外来治療にかかる費用の内訳

軽度の黄疸の場合は外来での治療が可能であり、主な費用は血液検査や画像診断などの検査費用、薬剤費となります。

項目概算費用(保険適用後の自己負担)
血液検査1,000円~3,000円
超音波検査2,000円~5,000円
CT検査5,000円~10,000円
薬剤費(1ヶ月分)3,000円~10,000円

入院治療が必要な場合の費用

重度の黄疸や原因疾患の治療が必要な場合は入院が必要となる場合があり、その場合は入院基本料に加えて、各種検査や治療、薬剤費などが発生します。

入院期間や治療内容によって費用は大きく変動しますが、一般的に外来治療よりも高額になります。

項目概算費用(保険適用後の自己負担)
入院基本料(1日あたり)3,000円~10,000円
処置料1,000円~5,000円
手術料30,000円~100,000円以上

高額療養費制度の活用方法

黄疸の治療費が高額になった場合、高額療養費制度を利用することで経済的負担を軽減できます。

この制度は、月々の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に、超過分が払い戻される仕組みです。

所得や年齢によって自己負担限度額が異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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