肝内胆管癌(胆管細胞癌)

肝内胆管癌(Intrahepatic Cholangiocarcinoma)とは、肝臓内部にある胆管から発生する悪性の腫瘍を指します。

胆管は、私たちの体内で消化を助ける役割を担う「胆汁」を運搬する管状の組織です。

肝内胆管癌は他の癌と比べると発症頻度が低い部類に入りますが、ここ数年、その発生率が上昇傾向にあるという報告が医学界でなされています。

初期段階での発見が困難であり、何らかの症状が現れた時点では、すでに病気がかなり進行していることが多い病気のひとつです。

目次

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の病型

肝内胆管癌(胆管細胞癌)は、主に肉眼的特徴と発生部位に基づいて分類が行われています。

肉眼的分類

分類特徴
腫瘤形成型はっきりとした境界を持つ塊状の腫瘍
胆管浸潤型胆管(胆汁の通り道)に沿ってじわじわと広がる
胆管内発育型胆管の内側に沿って成長するタイプ

発生部位による分類

  1. 末梢型(肝臓の外側部分にできるタイプ)
  2. 肝門型(肝臓の中心部分にできるタイプ)

病型ごとの一般的な治療の方向性

病型主な治療アプローチ
腫瘤形成型手術で取り除くことが最初の選択肢になります
胆管浸潤型抗がん剤治療や放射線治療を組み合わせることが多いです
胆管内発育型内視鏡(体の中を見る細い管)を使った治療が効果的な場合があります
末梢型比較的取り除きやすい位置にあります。
肝臓の一部を切除します。
肝門型肝臓の広い範囲を切除するため、複雑な手術が必要になることが多いです。

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の症状

肝内胆管癌(胆管細胞癌)は、肝門型では閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)をきたしやすく、比較的早期に症状が現れます。一方、末梢型では無症状のまま進行することが多く、発見が遅れがちです。

特に、リスク因子(慢性肝疾患、胆管結石、原発性硬化性胆管炎など)をお持ちの方は、定期的な検査を受けることが大切です。

肝門型の主な症状

肝臓の中心部に近い、大きな胆管に発生する肝門型肝内胆管癌の主な症状には、以下のようなものがあります。

症状特徴
閉塞性黄疸皮膚や白目が黄色くなる
掻痒感(そうようかん)全身のかゆみ
灰白色便便の色が灰白色になる
褐色尿尿の色が濃くなる

閉塞性黄疸は、腫瘍が大きな胆管を圧迫したり閉塞したりすることで胆汁の流れが妨げられ、ビリルビン(胆汁色素)が体内に蓄積することで起こります。

全身の皮膚や白目が黄色くなるのが特徴的で、比較的早期に気づきやすい症状です。

末梢型の主な症状

末梢型の肝内胆管癌は、肝臓の外側に近い小さな胆管に発生するタイプです。無症状のまま進行する場合が多く、症状が現れたときには、すでにある程度進行しているケースが多くなります。

  • 右上腹部痛(肝臓がある右上のお腹に痛みを感じる)
  • 腹部不快感
  • 体重減少
  • 食欲不振
  • 倦怠感・体がだるく感じる

右上腹部痛や腹部不快感は肝臓の腫れによるものですが、初期段階ではあまり目立ちません。また、体重減少や食欲不振の症状も緩やかに進行するため、進行するまでは気づきにくいです。

その他の症状と合併症

肝内胆管癌の進行に伴い、以下のような症状や合併症が現れることがあり、肝門型、末梢型のどちらでも起こる可能性があります。

症状・合併症詳細
発熱胆管炎の合併
腹水(ふくすい)腹腔内に液体が貯留する
肝腫大肝臓が腫れて大きくなる
門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう)食道静脈瘤など

発熱は、特に肝門型で胆管炎を合併した際に現れやすい症状です。胆管が詰まることで細菌感染を起こしやすくなり、高熱を伴うことがあります。

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の原因

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の主な原因として、慢性炎症やウイルス性肝炎、原発性硬化性胆管炎などの基礎疾患や胆管の損傷が挙げられますが、遺伝も関係していると考えられています。

慢性炎症・胆管損傷の影響

肝臓の炎症状態が長期間つづくと、肝臓細胞にダメージを与え、癌化のリスクが高まっていきます。

特に、胆管周囲の炎症は、胆管上皮細胞(胆管の内側を覆っている細胞)の異常な増殖や遺伝子変異を起こす可能性があります。

ウイルス性肝炎との関連

ウイルス性肝炎、とりわけB型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)の感染は、肝内胆管癌の発症リスクを上昇させます。

ウイルスリスク増加率
HBV2-3倍
HCV3-5倍

長期のウイルス感染は肝硬変(肝臓の線維化が進行した状態)を引き起こし、それが肝内胆管癌の発症基盤となることが少なくありません。

そのため、ウイルス性肝炎の早期発見と治療が肝内胆管癌の予防において重要となっています。

原発性硬化性胆管炎(PSC)の影響

原発性硬化性胆管炎(PSC)は胆管の炎症と瘢痕化(傷跡化)を特徴とする自己免疫疾患です。

PSCと診断された患者さんのうち、10-20%が肝内胆管癌を発症するとされています。

PSCの罹患期間肝内胆管癌発症リスク
10年未満5-10%
10-20年10-15%
20年以上15-20%

その他の原因

  • 寄生虫感染(特に東南アジアで問題となる肝吸虫症)
  • 肝内結石症(胆管内に石が形成される病気)
  • 先天性胆管拡張症(生まれつき胆管が異常に拡張している状態)
  • 化学物質への暴露(例:ダイオキシンやアスベスト)
  • 過度の飲酒や長期の喫煙習慣

遺伝的要因

IDH1/2遺伝子やFGFR2遺伝子の変異が肝内胆管癌患者さんで高頻度に観察されているため、肝内胆管癌の発症に関与している可能性が強いことが分かってきています。

遺伝子変異頻度主な機能
IDH1/210-20%細胞の代謝調節
FGFR25-10%細胞増殖シグナル伝達

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の検査・チェック方法

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の診断では、腹部超音波、CT検査、MRI検査、内視鏡検査、生検、細胞診などを行い、胆管の狭窄や拡張、腫瘍の有無や広がりなどを詳しく調べていきます。

肝内胆管癌の初期診断

肝内胆管癌の初期診断では、症状や病歴についてお話を伺ったあと、血液検査や腫瘍マーカー(がんの存在を示す目印となる物質)の測定を行います。

また、血液検査では、肝臓の働きを示す指標や胆道系の酵素に異常がないかを確認します。

代表的な腫瘍マーカーとしてCA19-9やCEA(がん胎児性抗原)があり、これらの値が通常よりも高くなっていることがよくあります。

検査項目主な確認ポイント
AST/ALT(肝臓の酵素)肝細胞が傷ついていないか
ALP/γ-GTP(胆道系の酵素)胆汁のうっ滞(たまり)具合
ビリルビン(胆汁の色素)黄疸の程度
CA19-9(腫瘍マーカー)がんの存在を示す目印

画像診断による腫瘍の特定方法について

肝内胆管癌の画像診断には、超音波検査、CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像法)、PET-CT(陽電子放出断層撮影法)などを使用します。

それぞれの検査法には特徴があるので、組み合わせて使うことで診断の精度を高めることができます。

超音波検査腫瘍の場所や大きさ、周りの血管との関係などを調べる
CT・MRI腫瘍の性質や広がり具合を調べる
PET-CT体のほかの場所への転移(がんが別の場所に移動すること)を調べる

生検による確定診断

画像診断で肝内胆管癌の疑いがある場合、最終的な確定診断には組織生検(体の一部を採取して調べること)が必要となります。

生検には主に2つの方法があります。

  • 経皮的針生検:CTやエコーの画像を見ながら、皮膚を通して細い針で腫瘍の組織を採取する方法
  • 内視鏡的生検:内視鏡(細い管状の医療機器)を使って胆管の内側から組織を採取する方法
生検方法特徴
経皮的針生検体への負担が比較的少なく、広い範囲の腫瘍に対して行える
内視鏡的生検胆管の内側にある病変に適しており、同時に胆汁の流れを改善することも可能

採取した組織は病理検査に回し、顕微鏡で観察します。 免疫組織化学染色という特殊な染色方法なども使って、腫瘍がどの細胞から発生したのか、どのくらい悪性度が高いのかを判断していきます。

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の治療方法と治療薬について

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の治療は、手術で腫瘍(しゅよう)を取り除くことを中心に、抗がん剤治療や放射線治療を組み合わせていきます。

手術による治療

手術治療では、がんがある部分の肝臓を切り取る手術を行い、腫瘍を全て取り除くことを目指します。

手術ができるかどうかは、腫獰の大きさや場所、肝臓の働き具合、全身の健康状態などを総合的に判断して決めます。

最近では、おなかに小さな穴を開けて行う腹腔鏡(ふくくうきょう)手術や、ロボットを使う手術など、体への負担が少ない手術の技術が進歩し、手術後の回復も早くなってきています。

薬による治療

手術が難しい進行がんや、再発したがんの場合は、薬による治療が中心となります。

肝内胆管癌に対する標準的な抗がん剤治療として、ゲムシタビンとシスプラチンという2種類の薬を組み合わせて使う方法(GC療法と呼びます)が広く行われています。

薬の名前主な働き方
ゲムシタビンがん細胞のDNA(設計図)を作るのを邪魔する
シスプラチンがん細胞のDNAをくっつけて動きを止める

最近では、がん細胞の特定の部分だけを狙い撃ちする分子標的薬や、体の免疫力を高めてがんと闘う免疫チェックポイント阻害薬などの新しい薬も開発されています。

FGFR2という遺伝子に特殊な変化がある患者さんには、その変化を狙い撃ちするFGFR阻害薬という薬が効果を示しています。

局所的な治療

手術ができない場合や、体の調子があまり良くない患者さんに対しては、がんがある場所を直接治療する方法が選択肢となります。

  • ラジオ波で熱を加えてがん細胞を壊す治療(ラジオ波焼灼療法)
  • マイクロ波で熱を加えてがん細胞を壊す治療(マイクロ波凝固療法)
  • がんに栄養を送る血管を詰めて、同時に抗がん剤を届ける治療(肝動脈化学塞栓療法)

体全体への負担が比較的少ないため、高齢の方や肝臓の働きが弱っている方でも治療を受けられる場合があります。

放射線を使う治療

放射線治療は、がんが周りに広がっている場合や、手術の後の追加治療として行います。

最近では、IMRTやSBRTといった高度な放射線治療の技術が発展し、がんの周りの正常な組織にはあまり影響を与えずに、がんの部分に集中して強い放射線を当てられるようになりました。

放射線治療の種類特徴
IMRTがんの形に合わせて放射線を当てる
SBRT少ない回数で強い放射線を当てる

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の治療期間

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の治療には、数か月から数年にわたる長期的な取り組みが必要です。

治療期間の概要

早い段階で見つかった患者さんでは半年から1年程度で一連の治療を終えられる場合もありますが、進行した状態では抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療などを組み合わせた総合的な治療が必要となり、治療期間は長くなります。

治療段階期間
診断・評価2〜4週間
手術前の準備4〜8週間
手術1日(入院期間は1〜2週間)
手術後の回復4〜8週間

主な治療法と治療期間

  • 手術療法:手術前の準備から手術後の回復まで、約3〜4か月
  • 抗がん剤治療(化学療法):1回の治療期間(コース)が3〜4週間で、これを6〜12回繰り返すので、計6〜12か月
  • 放射線治療:通常5〜6週間、毎日照射します
  • 総合的な治療:各治療を組み合わせるため、1年以上

経過観察について

がんの再発や、別の場所に広がるリスクを考えて、最低5年間は継続的に経過を見ていきます。

経過観察の期間検査の頻度
治療後1〜2年目2〜3か月ごと
3〜5年目3〜6か月ごと
5年目以降6〜12か月ごと

薬の副作用や治療のデメリットについて

肝内胆管癌(胆管細胞癌)の治療には、副作用やリスクが伴います。

手術療法に関連する副作用とリスク

術後の痛みや感染症のリスクといった一般的な問題のほか、肝臓の一部を切除することによる肝機能低下も起こりえます。また、まれですが、胆汁漏れや出血などの合併症が生じる場合があります。

副作用・リスク発生頻度
術後痛
感染症
肝機能低下
胆汁漏れ

化学療法に伴う副作用

化学療法の副作用には、吐き気、嘔吐、食欲不振、脱毛などがあります。

また、骨髄抑制(血液を作る骨髄の機能が低下すること)による白血球減少や血小板減少も起こり、感染症や出血のリスクが高くなります。

長期的な副作用としては、末梢神経障害(手足のしびれや痛み)や心機能障害なども報告されています。

副作用主な症状
消化器症状吐き気、嘔吐、食欲不振
骨髄抑制白血球減少、血小板減少
脱毛頭髪、体毛の脱落
末梢神経障害しびれ、痛み

放射線治療のリスクと副作用

  • 疲労感
  • 皮膚炎
  • 吐き気など

この他、照射部位周辺の正常組織に影響を与え、肝機能障害や胆管狭窄(胆管が狭くなること)などを引き起こす可能性があります。

免疫療法における副作用とリスク

  • 皮膚炎(発疹、かゆみ)
  • 消化器症状(下痢、大腸炎)
  • 肝機能障害
  • 内分泌障害(甲状腺機能異常、下垂体炎)
  • 肺炎
副作用タイプ主な症状管理方法
皮膚関連発疹、かゆみステロイド外用薬、抗ヒスタミン薬
消化器関連下痢、腹痛対症療法、ステロイド薬
内分泌関連倦怠感、食欲不振ホルモン補充療法

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

肝内胆管癌の治療費は、保険適用となります。

主な治療法ごとの概算費用

治療法概算費用(3割負担の場合)
手術30〜90万円
化学療法(1クール)6〜15万円
放射線療法(1クール)9〜18万円

治療費が高額になる際は、高額療養費制度を利用することで軽減できます。この制度では、1ヶ月の医療費が一定額を超えた部分が払い戻されます。

年齢や所得によって自己負担限度額が異なり、例えば70歳未満の標準的な所得の方の場合、月額の上限は約8万円程度です。

先進医療の費用考慮

保険適用外の先進医療を選択する際は、追加の費用が必要になります。

重粒子線治療は肝内胆管癌に対して効果が期待されていますが、1回の治療で約300万円程度かかり、費用は全額自己負担です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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