肝細胞癌(HCC)

肝細胞癌(Hepatocellular carcinoma:HCC)とは、肝臓の細胞が何らかの理由で異常に増殖し、形成される悪性の腫瘍を指します。

肝硬変や慢性肝炎といった既存の肝臓病を抱えている方や、B型やC型の肝炎ウイルスに感染している方、長期にわたる過度の飲酒、肥満の状態が続いている場合などは肝細胞癌を発症するリスクが高くなります。

目次

肝細胞癌(HCC)の病型

肝細胞癌(HCC)は、主に見た目の特徴から5つに分類されています。

肝細胞癌の5つの主要病型

病型特徴
小結節境界不明瞭型境界不明瞭な小結節
早い段階で見つかることが多く、比較的経過は良好
単純結節型明確な境界を持つ単一結節
単純結節周囲増殖型中心結節と周囲の衛星結節
多結節癒合型複数結節の融合
浸潤型びまん性浸潤
癌が最も進んだ段階であり、経過は比較的良くないとされます。

Eggel分類:3つの補助的病型

上で説明した5つの分類が難しい場合は、Eggel(エッゲル)分類という3つの分け方を使います。

  1. 結節型
  2. 塊状型
  3. びまん型

肝細胞癌(HCC)の症状

肝細胞癌(HCC)の初期段階では、特に症状を感じない場合が多いです。ただし、一部の方では、軽度のだるさや腹部の違和感などがみられます。

初期症状特徴
右上腹部の違和感持続的または断続的な不快感
だるさはっきりしない原因による疲労感
食欲低下ゆっくりと進行する食べる量の減少

HCCは、早期に発見できた場合の予後は良好とされています。逆に、進行してしまってから見つかった場合は予後が厳しくなります。気になる症状がある場合は、迷わずに病院を受診するようにしてください。

進行期の症状

病気が進行すると、お腹の痛みや、黄疸などの目立つ症状が現れ始めます。

  • お腹の痛みや張り感
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)
  • 体重が減る
  • 熱が出る

合併症に関連する症状

HCCでは、肝臓の働きが悪くなったり、門脈圧亢進症などの合併症が起こることもあります。

合併症関連する症状
肝不全(肝臓の働きが極端に悪くなった状態)むくみ、出血しやすくなる
門脈圧亢進症(門脈の圧力が異常に高くなった状態)食道静脈瘤(食道の血管が膨らむ)、腹水(おなかに水がたまる)

肝細胞癌(HCC)の原因

肝細胞癌(HCC)は、ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)が主な原因です。

ウイルス性肝炎による肝細胞癌

肝細胞癌(HCC)の主要な原因は、ウイルス性肝炎、特にB型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)への感染です。

長期間の感染により肝硬変(肝臓の組織が硬くなり、正常な機能が失われる状態)へと進行し、最終的に肝細胞癌を発症するリスクが大きくなります。

ウイルス感染経路慢性化率
HBV血液・体液5-10%
HCV血液70-80%

C型肝炎の治療を中断してしまったことで10年後に肝細胞癌を発症した症例もありますので、継続的な治療や定期的な経過観察を必ず受けるようにしてください。

アルコール性肝疾患

アルコールを常習的に多量摂取している場合、まずは脂肪肝へ、そしてその後、肝炎や肝硬変へと進行する場合があります。

そのままアルコール性肝疾患が進行すると、肝細胞癌へとつながる危険性があります。

以前、数ヶ月前から持続する右上腹部の鈍痛と、原因不明の体重減少を主訴に来院された女性患者さんがいましたが、問診で、以前からアルコール性肝硬変と診断されていたことがわかりました。

しかし、この方は症状が軽微だったため、ずっと定期的な検査を受けていませんでした。画像検査の結果、肝右葉に7cmの腫瘤が見つかり、HCCと診断されました。

こうした症例から、HCCの症状は見逃されやすいこともありますので、背景疾患がある方の場合は定期的な検査がいかに重要であるかが分かります。

非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)

非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)とは、過剰な栄養摂取や運動不足などの生活習慣により、肝臓に脂肪が蓄積した状態です。

進行すると非アルコール性脂肪肝炎(NASH)となり、さらに肝硬変へと進展することで肝細胞癌のリスクを上昇させてしまいます。

NAFLD進行段階特徴肝細胞癌リスク
単純性脂肪肝脂肪蓄積のみ低い
NASH炎症・線維化中程度
肝硬変高度線維化高い

その他の原因

  • カビ毒
  • 喫煙
  • 肥満
  • 糖尿病

肝細胞癌(HCC)の検査・チェック方法

肝細胞癌(HCC)の診断では、画像診断や生検などの検査を行います。

初期評価と画像診断

症状や過去の病歴、普段の生活習慣などの確認の後、血液検査や腫瘍マーカー検査(がんの存在を示す指標となる物質の検査)を行い、肝臓の機能・腫瘍があるかどうかなどを調べていきます。

また、CTやMRIなどの精密検査も行います。

検査方法特徴
超音波検査体に負担が少なく、リアルタイムで観察可能
CT 検査高い解像度で、造影剤を使うと血流の評価も可能
MRI 検査軟らかい組織の違いがよく分かり、放射線被曝がない

HCCに特徴的な画像所見として、造影剤を使ったCTやMRIで腫瘍が早い段階で濃く染まり、後の段階で薄くなる(wash out)という現象があります。

ただ、他の肝臓の腫瘍との見分けが難しい場合もあるため、複数の検査方法を組み合わせた評価が大切です。

確定診断のための生検

画像診断だけでは確定的な診断が難しい場合、肝生検を検討します。生検は、腫瘍の組織を直接採取し、顕微鏡で調べる検査方法です。

生検の方法は、腫瘍の位置や患者さんの状態に応じて選んでいきます。出血や、がん細胞が広がってしまうリスクもありますので、実施するかどうかは個別に検討します。

  • 超音波ガイド下経皮的針生検(超音波を使って皮膚の上から針を刺して組織を採取する方法)
  • CT ガイド下生検(CTを使って針を刺す方法)
  • 腹腔鏡下生検(おなかに小さな穴を開け、腹腔鏡という器具を入れて組織を採取する方法)
生検の良い点
生検の注意点
  • 確実な診断ができる
  • 腫瘍の種類を詳しく調べられる
  • 分子レベルでの詳しい解析ができる
  • 出血の危険性がある
  • がん細胞が広がる可能性がある
  • 腫瘍の一部しか調べられないため、結果が実際と違う可能性がある

診断基準

日本肝癌研究会が定めた診断基準に基づき、画像検査の結果と腫瘍マーカーの組み合わせでHCCと診断できる場合があります。典型的な画像所見を示す腫瘍の場合は、生検をしなくても確定診断が可能です。

典型的でない所見や小さな病変では、しばらく様子を見たり、追加の検査をしたりすることもあります。

診断項目評価のポイント
画像検査の結果造影パターン、腫瘍の形
腫瘍マーカーAFP、PIVKA-II の上昇
元からある肝臓の病気肝硬変、慢性肝炎の有無
顕微鏡で見た組織の様子細胞異型、構造異型

肝細胞癌(HCC)の治療方法と治療薬について

肝細胞癌(HCC)の治療は、手術、ラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法、薬物療法などがあり、がんの進行度や肝機能の状態によって決めていきます。

治療方針を決める際の基準

HCCの治療方針を決める際、肝臓の働きを評価する指標として、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類がよく使われます。

Child-Pugh分類スコア肝臓の働き
A5-6点良好
B7-9点中程度
C10-15点良くない

Child-Pugh分類がAまたはBで、がんが肝臓の外に広がっていない、あるいは血管に入り込んでいない場合は、がんを完全に治すことを目指した治療(根治的治療)を第一に考えます。

一方、Child-Pugh分類がCの場合は、肝臓の働きを改善させることを中心とした対症療法を行います。

根治的治療の選択肢

  • 外科的切除:がんが単発で、血管に入り込んでいない場合に実施します
  • 肝移植:ミラノ基準(がんの大きさや数に関する基準)を満たす場合に検討します
  • 局所療法:ラジオ波焼灼療法(RFA)(特殊な針を使ってがんを熱で焼く方法)や、経皮的エタノール注入療法(PEIT)(がんにアルコールを注入して壊死させる方法)などがあります

全身療法と分子標的薬

がんが進行している場合や、一度治療してもまた再発した場合には、全身療法を選択します。最近では、がん細胞だけを狙い撃ちする「分子標的薬」という薬による治療も行われています。

薬の名前作用機序
ソラフェニブマルチキナーゼ阻害剤
レンバチニブVEGFR/FGFR阻害剤
アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用免疫チェックポイント阻害剤+抗VEGF抗体

全身療法では、薬によって腫瘍の増殖や血管新生を抑制し、患者さんの生存期間を延ばすことを目指します。

支持療法と肝機能維持

肝機能の維持・改善のための薬として、ウルソデオキシコール酸や分岐鎖アミノ酸製剤を使います。

体調を整える治療目的
利尿薬腹水を減らす
抗ウイルス薬B型・C型肝炎をコントロールする
栄養療法栄養状態を良くし、筋肉量を保つ

肝細胞癌(HCC)の治療期間

肝細胞癌(HCC)は再発しやすいがんであるため、基本的に、長期間にわたり病気を管理していかなければならない病気です。

治療法による期間の違い

治療法治療期間の目安
手術1〜2か月(入院治療)
RFA数週間(通院で可能)
TACE数か月〜半年以上,複数回の治療
薬物療法数か月〜数年,長期的な服薬

経過観察について

肝細胞癌は再発のリスクが高いため、治療後は肝機能の状態や再発リスクに応じ、画像検査や血液検査など長期的な経過観察を続けていきます。

肝移植不能の場合の対応

肝細胞癌の進行度や他の健康状態によっては、残念ながら根治的な治療が難しい場合もあります。

肝移植が選択肢として考えられない状況では、患者さんの生活の質(QOL)を維持しながら症状をコントロールする緩和ケアを中心として行います。

緩和ケアは、痛みや不快な症状を和らげ、患者さんの希望や価値観を尊重しながら残された時間をどのように過ごすかを考えることに重点を置きます。

緩和ケアの内容目的
痛み管理身体的苦痛の軽減
症状コントロール食欲不振や倦怠感などの緩和
心理的サポート不安やストレスの軽減
家族支援介護者のケアと情報提供

薬の副作用や治療のデメリットについて

肝細胞癌(HCC)の治療には、副作用やリスクが伴います。

副作用の種類

治療法主な副作用
手術出血、感染
化学療法吐き気、脱毛
放射線療法皮膚炎、疲労

化学療法では、骨髄抑制(血液を作る機能が低下すること)による免疫力低下や、消化器症状の副作用が起こる可能性があります。

また、 放射線療法の副作用は、照射部位の皮膚障害や全身のだるさなどが挙げられます。

治療に伴う合併症について

  • 肝臓の働きが悪くなる
  • 血液が固まりやすくなる(血栓症)
  • 腎臓の機能が低下する
  • 心臓への負担が増える

特に肝臓の機能が低下している方は、治療による負担から肝不全を起こすことがあります。そのため、治療の前後で肝臓の機能を評価し、必要に応じて治療内容を調整していきます。

また、がんの再発や新しいがんができるリスクは、治療後も続きます。早い段階で発見できるよう、定期的に画像検査や腫瘍マーカー(がんの存在を示す物質)の測定を行います。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

肝細胞癌(HCC)の治療費は保険が適用されます。具体的な費用は、病期や治療法によって変わります。

治療法別の概算費用

治療法概算費用(3割負担の場合)
肝切除術80万円〜150万円
ラジオ波焼灼療法30万円〜60万円
肝動脈化学塞栓療法40万円〜80万円

高額療養費制度の活用

高額な治療費に対しては、高額療養費制度を利用することで自己負担額の上限が設定されます。

  • 70歳未満の標準報酬 月額28万円〜50万円の場合の自己負担上限額 80,100円+(医療費-267,000円)×1%
  • 70歳未満の標準報酬 月額53万〜79万円の場合の自己負担上限額 167,400円+(医療費-558,000円)×1%
  • 70歳未満の標準報酬 月額83万円以上の場合の自己負担上限額 252,600円+(医療費-842,000円)×1%

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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