臍ヘルニア(Umbilical hernia)とは、おへその部分で腹壁に開口部ができ、腹腔内の臓器や脂肪組織が皮膚の下に飛び出してしまう状態を指します。
この疾患は、腹圧が高まることで腹壁が弱くなり、内臓が押し出されて発生します。
臍(さい)ヘルニアは赤ちゃんや小児でよく見られますが、大人でも発症するケースがあります。
臍ヘルニアの症状
臍ヘルニアの主な症状には臍部の膨らみや痛み、消化器系の問題などがあり、症状の程度は個人差が大きいです。
臍部の膨らみ
臍ヘルニアの最も特徴的な症状は、臍部の膨らみです。
腹圧が上がったときに顕著になるほか、立位や咳をしたときに目立つことが多く、横になると自然に引っ込みます。
膨らみの大きさは様々で、小さなものから数センチに及ぶものまであります。
痛みや不快感
軽度から中程度の痛みを感じる場合もあり、鈍痛が持続的または断続的に現れます。
腹部に圧迫感や違和感を感じる方もいて、身体を動かしたり、重いものを持ち上げたりすると症状が悪化します。
消化器系の問題
ヘルニアによって腸管が圧迫され、吐き気や嘔吐、便秘や下痢、腹部膨満感、食欲不振などの症状が生じる場合があります。
臍ヘルニアに関連する代表的な消化器系の症状
- 吐き気や嘔吐
- 便秘や下痢
- 腹部膨満感
- 食欲不振
症状の変化と注意すべきサイン
臍ヘルニアの症状は徐々に進行しますが、急激な変化が見られる際は注意が必要です。
特に激しい痛みや持続的な嘔吐、発熱などの症状が現れた場合は、医療機関への受診を検討することが大切です。
注意すべき症状 | 考えられる状態 |
激しい痛み | 絞扼の可能性 |
嘔吐の持続 | 腸閉塞の疑い |
発熱 | 感染の可能性 |
臍ヘルニアの原因
臍ヘルニアは、腹壁の脆弱性が主な原因です。腹腔内の圧力上昇や腹壁の構造的問題により生じ、先天的要因と後天的要因が複雑に絡み合って発生します。
臍ヘルニアの基本的なメカニズム
臍ヘルニアは、腹壁の一部である臍部分に脆弱性が生じることで発症します。
通常、臍は腹壁の強固な部分ですが、何らかの理由でこの部分が弱くなると腹腔内の内容物が押し出され、ヘルニアを形成する場合があります。
先天的要因による臍ヘルニア
臍ヘルニアは特に新生児や乳児に多く見られる現象で、胎児期の発達過程における臍輪の閉鎖不全が主な原因とされています。
先天的要因 | 説明 |
臍輪の閉鎖不全 | 胎児期の腹壁形成過程で臍輪が完全に閉じない |
結合組織の脆弱性 | 遺伝的に腹壁の結合組織が弱い |
通常、胎児の腹壁は発達とともに閉じていきますが、この過程が不完全な場合に臍ヘルニアが発生する可能性が高まります。
また、結合組織の脆弱性を引き起こす遺伝的要因も発症リスクを高める一因となり得ます。
後天的要因による臍ヘルニア
成人の臍ヘルニアの主な後天的要因は以下のとおりです。
- 肥満
- 妊娠・出産
- 腹水
- 長期的な咳嗽
- 重量物の反復的な持ち上げ
圧力上昇要因 | メカニズム |
肥満 | 内臓脂肪の蓄積による腹腔容積の減少 |
妊娠 | 子宮の増大による腹腔内臓器の圧迫 |
腹水 | 腹腔内液体貯留による容積増加 |
肥満の場合、過剰な内臓脂肪の蓄積が腹腔内の空間を圧迫し、結果として内圧の上昇につながります。
妊娠中は子宮の急速な成長により腹腔内の臓器が圧迫され、臍部分に過度の負荷がかかることがあります。
また、腹水の貯留は腹腔内の容積を増加させ、同様に内圧の上昇を引き起こす要因となります。
臍ヘルニアの検査・チェック方法
臍ヘルニアの診察と診断には視診、触診、画像検査などの方法があり、これらを組み合わせて臨床診断および確定診断を行います。
視診
立位や仰臥位での腹部の様子を観察し、臍部の膨隆や変形の有無を確認します。
特に腹圧をかけた際の臍部の変化に注目し、咳をしたりいきんだりすると腹圧が上昇し、ヘルニアがより顕著になることがあります。
触診
- ヘルニア門の大きさと形状
- ヘルニア内容物の性状(軟らかいか硬いか)
- 還納の可能性と容易さ
- 圧痛の有無
画像検査
主に用いられる検査方法は以下の通りです。
検査方法 | 特徴 |
超音波検査 | 非侵襲的で簡便、リアルタイムで観察可能 |
CT検査 | 詳細な解剖学的情報が得られる |
MRI検査 | 軟部組織の評価に優れている |
超音波検査は外来でも簡単に実施でき、ヘルニア門の大きさや内容物の状態を観察できるため診断の補助として有用です。
CT検査やMRI検査はより詳細な解剖学的情報を得たい場合や複雑なケースで実施され、ヘルニアの正確な大きさや周囲組織との関係を把握できます。
臨床診断と確定診断
典型的な症例では、所見のみで診断がつく場合も少なくありません。
一方、確定診断には画像検査が用いられる場合があり、特に以下のような場合に画像検査が考慮されます。
状況 | 画像検査の意義 |
非典型的な所見 | 他の腹壁疾患との鑑別 |
複雑なケース | ヘルニアの詳細な評価 |
手術計画の立案 | 正確な解剖学的情報の取得 |
臍ヘルニアの治療方法と治療薬について
臍ヘルニアの治療法には主に保存的治療と手術療法があり、症状の程度や状態に応じて選択されます。
保存的治療
臍ヘルニアの保存的治療は、主に症状が軽度な場合や手術リスクが高い患者さんに対して行われます。
この方法では、経過観察を行いながら症状の悪化を防ぐことを目指します。
保存的治療の主な方法
- 腹帯の着用
- 生活習慣の改善(重い物を持たない、便秘を避けるなど)
- 定期的な医療機関の受診
手術療法
手術療法は、症状が重度な場合や保存的治療で改善が見られない場合に選択されます。
手術の目的は、ヘルニア門を閉鎖し、脱出した臓器を正常な位置に戻すことです。
手術の種類
手術方法 | 特徴 |
直接縫合法 | ヘルニア門を直接縫合して閉じる |
メッシュ法 | 人工補強材を用いてヘルニア門を閉鎖する |
処方薬について
臍ヘルニアの治療において、薬物療法は主に症状の緩和を目的として以下のような薬剤が処方されます。
薬剤の種類 | 主な効果 |
消炎鎮痛剤 | 痛みや炎症の軽減 |
胃腸薬 | 消化器症状の改善 |
臍ヘルニアの治療期間と予後
臍ヘルニアの治療期間と予後は症状の程度や患者さんの状態によって異なりますが、多くの場合、治療により良好な経過をたどります。
治療期間の概要
保存的治療を選択した場合、数か月から数年にわたって経過観察が必要となります。
一方、手術を選択した場合の手術自体は通常1〜2時間程度で終了しますが、入院期間や術後の回復期間を含めると、全体の治療期間は数週間から数か月に及ぶ場合があります。
治療法 | 治療期間の目安 |
保存的治療 | 数か月〜数年 |
手術治療 | 数週間〜数か月 |
手術後の回復期間
手術後の回復期間は年齢や健康状態、手術の種類によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 入院期間 1〜3日程度
- 日常生活への復帰 1〜2週間程度
- 通常の身体活動への復帰 4〜6週間程度
- 完全回復 2〜3か月程度
回復期間中は医師の指示に従い、無理のない範囲で徐々に活動量を増やしていくことが推奨されます。
予後に影響を与える要因
要因 | 影響 |
患者の年齢 | 高齢者はリスクが高い |
ヘルニアの大きさ | 大きいほど合併症リスクが上昇 |
基礎疾患の有無 | 糖尿病等で回復が遅延する可能性 |
喫煙習慣 | 創傷治癒を遅らせる可能性 |
再発リスクと長期的な経過観察
臍ヘルニアの手術後、一定の確率で再発のリスクがあります。再発率は手術法や患者さんの状態によって異なりますが、一般的に5〜10%程度です。
再発リスクを最小限に抑えるためには、以下の点に注意が必要です。
- 適切な術後ケアの実施
- 過度の腹圧上昇を避ける
- 体重管理の徹底
- 定期的な経過観察の継続
薬の副作用や治療のデメリットについて
臍ヘルニアの治療には手術が一般的ですが、傷跡が残ったり、感染症などのリスクがあります。
手術に伴う一般的なリスク
手術を受ける際には、麻酔や術後の合併症など一般的なリスクがあります。
感染症や出血、血栓形成といった問題が生じる可能性があるほか、麻酔による副作用として、吐き気や嘔吐、めまい、喉の痛みなどが起こる可能性があります。
臍ヘルニア手術特有のリスク
臍ヘルニア手術に特有のリスクとしては、以下のようなものがあげられます。
- 再発
- 慢性的な痛み
- 腸閉塞
- 腹壁の変形
再発は比較的まれですが、完全な排除はできず、特に大きなヘルニアや複雑な症例では再発のリスクが高まることがあります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
臍ヘルニアの手術は健康保険が適用されます。自己負担は3割程度で、高額療養費制度の適用を受けられる場合もあります。
臍ヘルニアの治療費用の内訳
臍ヘルニアの治療費用は、主に手術費用、入院費用、術後の経過観察のための費用などがあります。
項目 | 費用の目安 |
手術費用 | 20万円〜50万円 |
入院費用 | 5万円〜30万円 |
術後の経過観察 | 5万円〜20万円 |
以上
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