潰瘍性大腸炎(UC)

潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)とは、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる原因不明の慢性炎症性腸疾患です。

特徴的な症状は下痢、血便、腹痛などで、重症化した場合は貧血や体重減少、発熱などを伴う場合もあります。

10歳代後半~30歳代前半の若年者に多く発症し、再燃と寛解を繰り返す難治性の疾患です。

目次

潰瘍性大腸炎(UC)の病型

潰瘍性大腸炎は、病変が及ぶ範囲によって4つに分類されます。

右側あるいは区域性大腸炎型

潰瘍性大腸炎の中でも比較的珍しいタイプで、炎症が盲腸、上行結腸、横行結腸の右半分だけに限局しているときにこの種類に分類されます。

直腸炎型

直腸炎型は、潰瘍性大腸炎の中で最も頻度が高い種類の一つです。

炎症が直腸だけに限局しているものを指し、症状は軽度~中等症例が多く、治療への反応性が良好なのが特徴です。

左側大腸炎型

左側大腸炎型は、炎症が直腸から下行結腸までの範囲に及んでいるものを指します。

全大腸炎型

全大腸炎型は潰瘍性大腸炎の中でも最も重症度が高いタイプで、炎症が直腸から盲腸までの全大腸に及んでいるものです。

病変範囲
  • 直腸
  • S状結腸
  • 下行結腸
  • 横行結腸
  • 上行結腸
  • 盲腸

潰瘍性大腸炎(UC)の症状

潰瘍性大腸炎(UC)は大腸の粘膜の炎症や潰瘍により、血便や下痢、腹痛などを引き起こします。

血便・下痢

潰瘍性大腸炎の代表的な症状は、血便と下痢です。大腸の粘膜に炎症や潰瘍ができることで、出血を伴う下痢が起こります。

症状特徴
血便鮮血が混じる
下痢水様性または泥状

腹痛・腹部不快感

炎症による大腸の過敏化により、腹痛や腹部不快感が起こります。

症状特徴
腹痛左下腹部を中心とした痛み
腹部不快感張り感やガス貯留感

体重減少・全身倦怠感

慢性的な炎症と下痢により、体重減少や全身倦怠感が生じる場合もあります。

  • 食欲不振
  • 栄養不良
  • 貧血 など

関節痛・皮膚症状

潰瘍性大腸炎では、腸管外合併症として関節痛や皮膚症状が現れるケースもあります。

これは、炎症性の機序が全身に波及することが要因と考えられています。

潰瘍性大腸炎(UC)の原因

潰瘍性大腸炎(UC)の原因は、免疫異常、遺伝的要因、腸内細菌、環境因子などが複合的に関与していると考えられていますが、未だ明確には解明されていません。

遺伝的要因

特定の遺伝子変異があると、潰瘍性大腸炎を発症するリスクが高まることが報告されています。

遺伝子オッズ比
IL23R2.3
IL101.5

環境要因

喫煙や食事、ストレスなどは腸内環境に影響を与え、炎症反応を引き起こす原因になります。

  • 喫煙
  • 高脂肪食
  • 精神的ストレス

腸内細菌叢の変化

潰瘍性大腸炎の患者さんでは、健康な人と比べて腸内細菌叢の構成に変化が見られることが報告されています。

炎症性サイトカインを産生する細菌が増加し、腸管の炎症を引き起こしている可能性が指摘されています。

菌種UCでの変化
Faecalibacterium属減少
Enterobacteriaceae科増加

免疫系の異常

潰瘍性大腸炎の発症には、自然免疫と獲得免疫の両方の異常が関与していると考えられています。

具体的には、腸管上皮のバリア機能の低下や、制御性T細胞の機能不全などが報告されています。

潰瘍性大腸炎(UC)の検査・チェック方法

潰瘍性大腸炎(UC)の検査では、問診、血液検査、便検査、内視鏡検査(大腸カメラ)などを組み合わせて総合的に行います。

問診・身体診察

下痢や血便、腹痛といった特徴的な症状がどれくらいの期間継続しているのか、また過去にも同じような症状が現れた経験があるのかなどを確認します。

身体診察ではお腹の痛みや腫れ、肛門部の状態などをチェックします。

問診で確認すべき項目確認内容
症状下痢、血便、腹痛など
病歴過去の同様の症状の有無

血液検査・便検査

血液検査
  • 炎症反応(CRP、赤沈)の上昇
  • 貧血(ヘモグロビン低下)
  • 低アルブミン血症
便検査
  • 便潜血反応
  • 便中カルプロテクチン濃度の上昇

内視鏡検査

内視鏡で大腸の粘膜を直接観察し、潰瘍性大腸炎に特有の所見を確認します。

UC の典型的な内視鏡所見
  • 粘膜の発赤、浮腫
  • びらん、潰瘍
  • 粘膜の脆弱性亢進
  • 血管透見像の消失

内視鏡検査では、炎症の広がりと重症度を評価するとともに、生検で組織を採取して病理学的検査を実施します。

画像検査

潰瘍性大腸炎の診断や病状の把握に有用な画像検査としては、腹部超音波検査やCT検査、MRI検査などが一般的です。 これらの検査では、腸管壁の厚みや周囲リンパ節の腫れなどを評価できます。

ただし、画像検査だけで潰瘍性大腸炎の確定診断を下すのは難しく、あくまで補助的な役割となります。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療方法と治療薬について

潰瘍性大腸炎(UC)の治療は、炎症の程度や範囲に応じて、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、ステロイド剤、免疫調節薬、生物学的製剤などの薬物療法を中心に、症状によっては外科手術も行われます。

薬物療法

潰瘍性大腸炎の治療では、薬物療法が中心的な役割を担います。軽症から中等症の際は、5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)が第一選択薬として処方されるケースが多いです。

5-ASAには、腸の炎症を抑制する作用があり、寛解の導入と維持に効果を発揮します。

よく知られている5-ASA製剤としては、メサラジン(ペンタサ®)やサラゾスルファピリジン(サラゾピリン®)などが挙げられます。

薬剤名作用機序
メサラジン腸管の炎症を抑制
サラゾスルファピリジン腸管の炎症を抑制

中等症から重症のケースや、5-ASAで十分な効果が得られないときは、ステロイド薬が使われます。

ステロイド薬は、強力に炎症を抑える働きを持っており、病状のコントロールに有用です。

ただし、長期的な使用では副作用のリスクがあるため、寛解導入後は速やかに減量し、中止するのが大切です。

薬剤名作用機序
プレドニゾロン強力な抗炎症作用
ブデソニド局所的な抗炎症作用

免疫調節薬と生物学的製剤

ステロイドに依存する例や治療抵抗性の例においては、免疫調節薬や生物学的製剤の使用が検討されます。

免疫調節薬は、免疫システムの調整によって炎症を抑えます。

代表的な免疫調整薬
  • アザチオプリン(イムラン®)
  • 6-メルカプトプリン(ロイケリン®)

一方、生物学的製剤は、炎症の原因となる特定のタンパク質をターゲットとした治療薬です。

代表的な生物学的製剤
  • TNF-α阻害薬のインフリキシマブ(レミケード®)
  • アダリムマブ(ヒュミラ®)
  • IL-12/23阻害薬のウステキヌマブ(ステラーラ®) など

これらの薬は、難治性の潰瘍性大腸炎に対して効果を示すことが知られています。

外科的治療

内科的な治療で十分な成果が得られない際や、重い合併症がある場合は外科的治療が選択肢となり、一般的な手術方法は大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術(IPAA)です。

この手術では、病変のある大腸を全て取り除き、回腸で人工的な肛門(回腸嚢)を作ります。これにより、排便機能を保ちながら、根本的な治療を目指すことができます。

寛解維持・再燃予防

潰瘍性大腸炎は寛解と再燃を繰り返す慢性的な疾患であるため、寛解を長く保ち、再燃を防ぐことが長期的な治療の目標です。

  • 薬物療法の継続
  • 生活習慣の改善(禁煙、ストレス管理など)
  • 定期的な血液検査やバイオマーカーの測定

これらを組み合わせ、寛解維持と再燃予防に取り組みます。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療期間と予後

潰瘍性大腸炎(UC)の治療期間は症状や重症度によって異なり、寛解導入後は再燃予防のため長期にわたる維持療法が必要です。

ただし、適切な治療と定期的な検査で寛解を維持できれば日常生活に支障なく過ごせる場合が多く、生命予後は一般の人とほぼ変わりません。

治療期間について

軽症から中等症のケースでは、5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)や副腎皮質ステロイド薬による治療が行われ、数週間から数ヶ月程度で寛解に至るケースが多いです。

一方、重症のケースや、治療反応性が乏しいときは免疫抑制剤や生物学的製剤の使用が必要となり、治療期間が長期化する傾向にあります。

重症度治療薬治療期間
軽症~中等症5-ASA、ステロイド数週間~数ヶ月
重症免疫抑制剤、生物学的製剤数ヶ月~年単位

寛解維持療法の重要性

UCは再燃と寛解を繰り返す慢性疾患であるため、症状が改善した後も、寛解維持療法の継続が重要です。

寛解維持療法では、5-ASAや免疫抑制剤などの薬剤を継続的に服用し、再燃を防ぎます。

予後について

多くのケースで薬物療法によって寛解を維持し、通常の社会生活を送ることが可能となっています。

しかし、一部の難治性UCでは、外科手術が必要となるケースもあります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

潰瘍性大腸炎(UC)の治療薬は、種類によって感染症のリスク増加、骨粗鬆症、肝機能障害、吐き気、下痢などの副作用があります。

また、長期的なステロイドの使用は、糖尿病、高血圧、白内障などのリスクを高める可能性があります。

ステロイド薬の副作用

ステロイド薬の種類副作用の例
プレドニゾロン感染症リスク増加、骨粗鬆症
ベタメタゾン白内障、緑内障

免疫抑制剤の副作用

免疫抑制剤は感染症のリスクが高まる場合があります。また、肝機能障害、腎機能障害などの重篤な副作用の可能性も指摘されています。

生物学的製剤の副作用

近年、UCの治療に用いられるようになった生物学的製剤は、炎症を効果的に抑制する一方で、感染症や悪性腫瘍のリスク増加が懸念されています。

生物学的製剤の種類副作用の例
インフリキシマブ感染症リスク増加
ベドリズマブ進行性多巣性白質脳症(PML)のリスク

手術療法のリスク

手術療法には以下のようなリスクがあります。

  • 術後合併症(出血、感染症など)
  • 術後の排便機能の変化
  • 人工肛門となった場合のストーマ管理の必要性

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

潰瘍性大腸炎(UC)は指定難病に認定されており、医療費助成制度の利用により自己負担額を軽減できます。

ただし、高額な薬剤を使用する場合や入院が必要な場合は、医療費が高額になる可能性があります。

指定難病について

潰瘍性大腸炎(UC)は、厚生労働省が定める「指定難病」の一つに認定されています。潰瘍性大腸炎の臨床的重症度を用いて、中等症異常が対象です。

対象者
  • 潰瘍性大腸炎と診断され、厚生労働省が定める診断基準を満たす方
  • 都道府県または指定都市に申請し、認定を受けた方

潰瘍性大腸炎(指定難病97)(難病情報センターホームページ)

検査費の目安

検査項目費用
大腸内視鏡検査約3万円
CT検査約2万円

処置費の目安

処置項目費用
ステロイド注腸1回約1,500円
ステロイド点滴1回約5,000円

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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