上腸間膜動脈症候群(Superior Mesenteric Artery Syndrome)とは、上腸間膜動脈と大動脈の間の角度が狭くなることによって十二指腸が圧迫され、通過障害を引き起こす比較的まれな疾患です。
この症候群の症状としては、食事の後に現れる腹痛や嘔吐、体重減少などが確認されています。
発症の原因としては、やせ型の体型や、脊椎の変形、手術後の癒着などが考えられます。
上腸間膜動脈症候群の症状
上腸間膜動脈症候群は、食後に吐き気や嘔吐、腹痛などが起こります。特に仰向けで悪化し、うつぶせで改善する傾向がある病気です。
腹痛
腹痛は十二指腸の圧迫により生じ、食事の後に悪化する傾向です。
症状 | 詳細 |
腹痛 | 上腹部の鈍痛または激痛 |
腹部膨満感 | 食事後に顕著 |
嘔吐
嘔吐は主に食後に起こり、吐き出すものは胃の内容物や胆汁です。嘔吐により十二指腸内の内容物が減少し、圧迫が軽減されるため、一時的に症状が緩和されるのが特徴です。
- 食後すぐに発生
- 未消化の食物を含む
- 胆汁を含む場合もある
体重減少
摂食障害や吸収障害により、著しい体重減少が生じます。
症状 | 詳細 |
体重減少 | 数週間から数ヶ月にわたって急激に進行 |
栄養不良 | 体重減少に伴って発生 |
食後の吐き気や嘔吐、腹痛などの症状により食事を十分に摂れなくなり、食事を避けようとする心理的な要因も影響します。
また、十二指腸の圧迫によって消化吸収機能が低下し、栄養素を十分に吸収できなくなります。
その他の症状
- 早期満腹感
- 胸焼け
- 腹部膨満感
- 便秘または下痢
これらの症状は、十二指腸の閉塞とそれに伴う消化管の機能不全によって引き起こされます。
上腸間膜動脈症候群の原因
上腸間膜動脈症候群は、上腸間膜動脈と大動脈の間の角度が狭くなり、十二指腸が圧迫されて発症します。
体重減少による脂肪組織の減少
急激な体重減少により上腸間膜動脈と大動脈の間にある脂肪組織が減ってしまうと、十二指腸が圧迫されます。
原因 | 詳細 |
拒食症 | 極端な食事制限による急激な体重減少 |
外傷後 | 大きな手術やけがによる長期臥床での体重減少 |
解剖学的要因
生まれつき上腸間膜動脈と大動脈の位置関係が近い場合、十二指腸が圧迫されやすくなります。以下のような解剖学的要因が関与しているとされいます。
- 上腸間膜動脈と大動脈の位置関係が近い
- 十二指腸の可動性が低い
- 腸間膜の脂肪組織が少ない
脊椎の変形や手術
脊椎の変形や脊椎の手術によって上腸間膜動脈と大動脈の位置関係が変化し、十二指腸が圧迫されてしまうことがあります。
原因 | 詳細 |
脊椎側湾症 | 脊椎の変形により腹部臓器が圧迫される |
脊椎固定術 | 脊椎の手術による上腸間膜動脈の位置変化 |
その他の要因
上記以外にも、以下のような要因が上腸間膜動脈症候群の発症に関与していると考えられています。
- 妊娠による子宮の増大
- 腹部腫瘍による圧迫
- 腹部手術による癒着
上腸間膜動脈症候群の検査・チェック方法
上腸間膜動脈症候群の診断では、主に画像検査(腹部X線、CT、超音波など)を用いて、十二指腸の拡張や上腸間膜動脈と大動脈の角度の狭小化を確認します。
問診・身体診察
食事の後に現れる特有の症状、腹部が張った感じ、吐き気、体重の減少などを確かめます。
身体診察では、上腹部が膨れていないか、圧迫すると痛みがないか、腸の動きが活発になっていないかなどを調べます。
検査項目 | 目的 |
腹部単純X線検査 | 十二指腸の拡張や胃泡の有無を確認 |
上部消化管造影検査 | 十二指腸水平脚の狭窄や通過障害を確認 |
画像検査
- 腹部CT検査:上腸間膜動脈と大動脈のなす角度(SMA角)の測定や、十二指腸水平脚が圧迫されている様子を確認します。
- 腹部超音波検査:SMA角の測定、十二指腸水平脚が拡張していたり通過障害が起きていたりする状態を把握します。
- 腹部MRI検査:CT検査と同じような所見が得られ、放射線被曝を避けられる利点があります。
SMA角 | 診断 |
25度以下 | 上腸間膜動脈症候群の可能性が高い |
25度以上 | 上腸間膜動脈症候群の可能性が低い |
臨床診断と確定診断
特徴的な症状と画像検査の所見から上腸間膜動脈症候群の診断を行いますが、確定診断を下すには他の病気との区別が必要です。
例として、神経性食思不振症や慢性特発性偽性腸閉塞症などとの鑑別が必要となります。
上腸間膜動脈症候群の治療方法と治療薬について
上腸間膜動脈症候群の治療は、基本的には保存的治療(食事療法、体位変換、薬物療法など)が中心で、重症例や保存的治療で効果がない場合は手術療法が検討されます。
保存的治療
まずは保存的治療として体位変換や高カロリー輸液を行い、症状の軽減を目指します。体位変換では左側を下にした姿勢や腹ばいの姿勢をとり、十二指腸にかかる圧力を和らげます。
高カロリー輸液では鼻から管を通して栄養を補給したり、中心静脈から直接栄養を点滴したりして栄養状態の改善を図ります。
薬物療法
薬物治療では、消化管の動きを活発にする薬や吐き気止めなども使用します。
- メトクロプラミド:消化管の動きを促して胃からの排出を良くする効果が期待できます。
- ドンペリドン:吐き気を抑える作用と消化管の動きを活発にする作用があります。
- エリスロマイシン:マクロライド系の抗菌薬ですが、消化管の動きを強力に促進させる効果も持っています。
外科的治療
保存的治療を試みても十分な効果が得られない際には、外科的治療の適用を検討します。
- 十二指腸空腸吻合術:十二指腸と空腸をつなぎ合わせ、通過障害を取り除きます。
- 十二指腸授動術:十二指腸を動かしやすくして上腸間膜動脈とのなす角度を変えていきます。
上腸間膜動脈症候群の治療期間と予後
上腸間膜動脈症候群の治療期間は、保存的治療の場合は数週間から数ヶ月、手術療法の場合は術後の回復も含めて数週間程度です。治療を行えば、予後は良好とされています。
保存的治療の期間と予後
保存的治療の期間は、通常数週間から数ヶ月程度が目安となります。保存的治療で症状が良くなり、良好な予後が期待できる患者さんが大半です。
治療法 | 期間 |
栄養療法 | 数週間〜数ヶ月 |
体位変換 | 数週間〜数ヶ月 |
外科的治療の必要性と予後
手術後の回復期間は、通常数週間から数ヶ月です。長期的な予後は良好だとされています。
手術法 | 回復期間 |
十二指腸空腸吻合術 | 数週間〜数ヶ月 |
十二指腸授動術 | 数週間〜数ヶ月 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
上腸間膜動脈症候群の薬物療法では吐き気止めや消化管運動改善薬などが用いられますが、薬によっては眠気や便秘などの副作用が生じる可能性があります。
保存的治療の副作用とリスク
胃管挿入や経鼻胃管留置などの処置では、不快感や合併症が生じたりする可能性があるので、慎重な管理が求められます。
処置 | 副作用・リスク |
胃管挿入 | 不快感、嘔吐、誤嚥性肺炎 |
経鼻胃管留置 | 鼻腔・咽頭の損傷、不快感 |
外科的治療の副作用とリスク
手術では合併症のリスクがあり、術後の回復期間中は注意深いケアが必要です。
合併症 | 対策 |
感染 | 適切な抗菌薬投与と創部管理 |
縫合不全 | 慎重な手術手技と術後管理 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
上腸間膜動脈症候群は保険適用疾患であり、治療費は症状の程度や治療法(保存的治療か手術療法か)、入院の有無などによって異なります。
初診料と再診料
初診料は2,820円、再診料は720円が基本料金です。 ただし、医療機関によっては金額が異なる場合があります。
検査費の目安
検査名 | 費用 |
腹部単純X線検査 | 3,000円程度 |
腹部CT検査 | 10,000円程度 |
上部消化管内視鏡検査 | 15,000円程度 |
入院費
上腸間膜動脈症候群の治療で入院が必要になる場合、1日あたりの費用は1万円程度が目安です。
入院種別 | 1日あたりの費用 |
一般病棟 | 10,000円程度 |
集中治療室 | 50,000円程度 |
以上
参考文献
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