偽膜性大腸炎

偽膜性大腸炎(Pseudomembranous colitis)とは、抗生物質の使用などが原因で腸内の正常な細菌叢のバランスが崩れ、クロストリジウム・ディフィシルという細菌の異常増殖によって発症する炎症性の腸疾患です。

この疾患の主な症状は発熱や下痢、腹痛などが挙げられ、重症化した際には大量の粘血便や脱水、電解質異常などを引き起こす危険性があります。

目次

偽膜性大腸炎の症状

偽膜性大腸炎の主な症状は水様性または粘血便を伴う下痢で、腹痛、発熱、吐き気などを伴う場合もあります。

激しい下痢

偽膜性大腸炎において最も代表的な症状は、激しい水様性の下痢です。

中には1日10回以上もの頻回な下痢が生じる方もおり、重症になると1日20回以上に達する場合もあります。下痢便には、血液や粘液が混じっていることがあります。

症状頻度
下痢90%以上
血便50%程度

腹痛

偽膜性大腸炎の患者さんの多くに、腹痛がみられます。下腹部を中心とした痛みが特徴的で、ときには激しい痛みに襲われる場合もあります。

お腹を押さえたときに痛みを感じたり、急に手を離したときに痛みが増したりする場合は、腹膜の炎症を疑う所見だと考えられます。

発熱

偽膜性大腸炎ではしばしば発熱も見られ、38℃以上の高熱を出す方も少なくありません。全身のだるさや、食欲の低下といった症状を伴うケースもあります。

その他の症状

先に挙げた主要症状以外にも、偽膜性大腸炎では下記のような症状が現れる可能性があります。

  • 悪心・嘔吐
  • 脱水症状(口渇、皮膚ツルゴール低下など)
  • 電解質異常(低カリウム血症、低アルブミン血症など)

これらの症状は、激しい下痢によって体内の水分や電解質が失われることが原因です。

重症の患者さんの中にはショック状態に陥る方もおり、偽膜性大腸炎が時として重篤な経過をたどる疾患であるとわかります。

偽膜性大腸炎の原因

偽膜性大腸炎は、抗生物質の使用などにより腸内細菌のバランスが崩れ「クロストリジウム・ディフィシル」という細菌が異常増殖し、その毒素によって大腸に炎症が起こる病気です。

抗菌薬の使用

抗菌薬を使用すると、腸内の細菌バランスが崩れてしまう可能性があります。

特に、幅広い種類の細菌に効果がある抗菌薬は腸内の正常な細菌まで抑えてしまうため、偽膜性大腸炎になるリスクが高くなります。

クロストリジウム・ディフィシルの異常増殖

抗菌薬によって腸内の正常な細菌が減ると、クロストリジウム・ディフィシルという菌が異常に増えます。この菌は抗菌薬に耐性があるため、他の細菌が減った環境で優位に立ててしまう特徴があります。

抗菌薬の種類偽膜性大腸炎のリスク
ペニシリン系
セフェム系

毒素の産生

増えたクロストリジウム・ディフィシルは毒素を作り出します。 この毒素が腸の炎症を引き起こし、偽膜性大腸炎の症状が現れるのです。

毒素の種類作用
毒素A腸の上皮細胞に作用し、炎症を引き起こす
毒素B毒素Aの作用を強める

免疫力の低下

また、免疫力が低下している方は偽膜性大腸炎になるリスクが高いことが分かっています。抗がん剤を使用している方や、重い基礎疾患がある方は特に注意が必要です。

偽膜性大腸炎の検査・チェック方法

偽膜性大腸炎の検査は、主に便中のクロストリジウム・ディフィシル毒素の検出や、大腸内視鏡検査で偽膜の有無を確認する方法で行われます。

症状と身体所見の確認

偽膜性大腸炎の症状は、下痢、腹痛、発熱などが代表的ですが、これらの症状は他の腸疾患でも見られるため、鑑別が必要となります。

身体所見では、腹部の圧痛や反跳痛、腸音の亢進などを確認します。

症状特徴
下痢水様性または粘血便
腹痛下腹部を中心とした痛み
発熱38℃以上の発熱

検査による評価

偽膜性大腸炎の診断には、以下の検査が有用です。

  • 便培養検査:クロストリジウム・ディフィシルの毒素を検出
  • 内視鏡検査:大腸粘膜の偽膜形成を確認
  • CT検査:大腸壁の肥厚や周囲リンパ節腫大を評価
検査名目的
便培養検査原因菌の特定
内視鏡検査大腸粘膜の観察

臨床診断と確定診断

偽膜性大腸炎の臨床診断は、症状や身体所見、検査結果を総合的に評価して行います。確定診断には、内視鏡検査で大腸粘膜の偽膜形成の確認が必要です。

以下の条件を満たす場合、偽膜性大腸炎の可能性が高いと判断されます。

  • 抗菌薬投与後の下痢症状
  • 便培養検査でクロストリジウム・ディフィシルの毒素検出
  • 内視鏡検査で大腸粘膜の偽膜形成を確認

偽膜性大腸炎の治療方法と治療薬について

偽膜性大腸炎の治療において大切なのは、原因となった抗菌薬の使用中止と、バンコマイシンやメトロニダゾールといった特殊な抗菌薬の投与です。

原因となる抗菌薬の中止

偽膜性大腸炎の発症に関与した、抗菌薬の使用を即座に中止することが非常に重要です。原因薬剤の中止のみで症状が改善する場合も多いです。

原因薬剤中止後の改善率
ペニシリン系80-90%
セフェム系70-80%

バンコマイシンの投与

症状が重い場合や、原因薬剤の中止だけでは十分な改善が得られないときには、バンコマイシンの経口投与を行います。

バンコマイシンは偽膜性大腸炎の原因菌である、クロストリジオイデス・ディフィシルに対して強力な抗菌作用を発揮します。

バンコマイシン用量投与期間
成人 125-500 mg 1日4回10-14日間
小児 40 mg/kg/日 分3-47-10日間

メトロニダゾールの投与

何らかの理由でバンコマイシンが使用できないとき、あるいは妊娠中の方においては、メトロニダゾールの内服が選ばれます。

メトロニダゾールもまた、クロストリジオイデス・ディフィシルに対する抗菌作用を持っています。

  • 成人の場合、メトロニダゾールの標準的な用量は500 mgを1日3回内服です。
  • 小児の場合は、30 mg/kg/日を3回に分けて内服します。
  • 投与期間は通常10-14日間とされています。

再発例に対する治療

偽膜性大腸炎は、10-20%の頻度で再発する可能性があることが分かっています。

再発した際にはバンコマイシンを再投与しますが、繰り返し再発する場合には、バンコマイシンの漸減療法やSaccharomyces boulardii(サッカロミセス・ブラウディ)などのプロバイオティクスの併用を検討します。

偽膜性大腸炎の治療期間と予後

偽膜性大腸炎の治療期間は、軽症例では1~2週間程度、重症例では数週間から数ヶ月が目安です。軽症のケースでは抗菌薬をやめるだけで自然に治る場合もありますが、中等症以上になると抗菌薬治療が必要不可欠です。

治療を受ければ予後は良好ですが、再発の可能性も考慮する必要があります。

抗菌薬治療の期間

抗菌薬治療の第一選択薬は、バンコマイシンまたはフィダキソマイシンです。 これらの薬剤による治療期間は通常10日から14日程度で、重症例では長期化する場合もあります。

抗菌薬治療期間
バンコマイシン10-14日
フィダキソマイシン10日

再発の可能性と予防

偽膜性大腸炎は治療後も再発する可能性があり、再発率は10~20%程度とされています。再発予防のためには、不必要な抗菌薬の使用を避けることが重要です。

重症化のリスクと対策

高齢者や基礎疾患を有する場合では、重症化のリスクが高くなります。 重症化した場合、入院治療が必要となり、治療期間も長期化します。

また、まれではありますが、中毒性巨大結腸症や腸穿孔などの合併症を引き起こし、致死的となるケースもあります。

重症度治療期間目安
軽症7-10日
中等症10-14日
重症14日以上

重症化を防ぐためには、早期発見と早期治療開始が不可欠です。

長期的な予後

治療が行われれば、偽膜性大腸炎の長期的な予後は良好です。ただし、再発を繰り返す場合や重症化した場合は、長期的なQOLの低下につながる可能性もあります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

偽膜性大腸炎の治療薬である抗菌薬には、下痢や腹痛、吐き気などの副作用や、薬剤耐性菌の出現による再発リスクといったデメリットがあります。

抗菌薬治療の副作用

偽膜性大腸炎の治療には、バンコマイシンやメトロニダゾールなどの抗菌薬が使用されます。 これらの薬剤は、腸内細菌叢のバランスを乱し、下痢や腹痛などの消化器症状を引き起こすことがあります。

抗菌薬副作用
バンコマイシン吐き気、腹痛
メトロニダゾール味覚障害、末梢神経障害

薬剤耐性菌の出現による再発リスク

偽膜性大腸炎の治療において抗菌薬の使用は不可欠ですが、その一方で薬剤耐性菌の出現による再発リスクがデメリットとして挙げられます。

抗菌薬の使用により、クロストリジウム・ディフィシル菌の中には、薬剤に対して耐性を持つものが現れる可能性があります。

これらの薬剤耐性菌は通常の抗菌薬では効果が薄く、治療が困難になる場合があります。

また、薬剤耐性菌が出現すると、偽膜性大腸炎が再発するリスクが高まります。再発を繰り返すと治療がさらに難しくなり、重症化する場合もあります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

偽膜性大腸炎の治療は、保険診療の対象です。治療費は検査内容や入院の有無などによって異なりますが、高額療養費制度などを利用すると自己負担額を抑えられます。

初診料と再診料の目安

  • 初診料:2,820円
  • 再診料:720円程度

検査費の目安

便培養検査や内視鏡検査などが必要となります。

  • 便培養検査:3,000円〜5,000円
  • 内視鏡検査:20,000円〜30,000円

処置費について

重症例ではバンコマイシンの注腸投与などの特殊な処置が行われ、高額になるケースもあります。

入院費の目安

重症化すると入院治療が必要となり、1日あたり数万円の費用がかかります。

  • 個室:20,000円〜30,000円/日
  • 大部屋:10,000円〜15,000円/日

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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