MUTYH関連ポリポーシス(MUTYH-Associated Polyposis:MAP)とは、MUTYH遺伝子の異常が原因で起こる遺伝性の大腸ポリープ症です。
大腸に多数のポリープ(腺腫)が発生し、大腸がんのリスクが非常に高くなります。
ポリープの数は通常10個から数百個で、若年(30~50歳)での発症が多いです。
MUTYH関連ポリポーシスの症状
MUTYH関連ポリポーシスにおいて、最も特徴的な症状は大腸ポリープの多発と消化管出血です。ポリープは将来的に大腸がんへと進展する可能性があるため、注意が必要です。
大腸ポリープの多発
MUTYH関連ポリポーシスでは、大腸に数多くのポリープが形成されます。
多くのケースで、30歳代から40歳代にかけて大腸内視鏡検査によって10個から数百個のポリープが発見されます。
ポリープは大腸の右側に多く見られる傾向がありますが、大腸全体に広がっていることもあります。
ポリープの特徴 | 説明 |
数 | 10〜数百個 |
好発部位 | 大腸右側 |
発見年齢 | 20〜40代 |
消化管出血
ポリープは出血しやすい特性を持つため、消化管出血も多くみられる症状です。出血の状態によって、次のような症状が現れます。
- 血便
- 黒色便
- 貧血
その他の消化器症状
ポリープやそれに伴う出血以外にも、様々な消化器症状が見られます。
症状 | 説明 |
腹痛 | ポリープによる腸管の狭窄や炎症が原因 |
下痢 | 腸管の機能障害によって引き起こされる |
便秘 | ポリープによる腸管の閉塞が原因 |
無症状の例も
MUTYH関連ポリポーシスの患者さんの中には、はっきりとした症状が現れない方もいます。このような無症状の例では、定期検診や遺伝子検査によって偶然発見されるのが一般的です。
症状がなくても大腸がんのリスクは高いため、早期発見と対応が欠かせません。
MUTYH関連ポリポーシスの原因
MUTYH関連ポリポーシス(MAP)は、MUTYH遺伝子の両方のコピーに変異が生じて発症する遺伝性疾患です。
MUTYH遺伝子の機能
MUTYH遺伝子はDNAの修復過程で中心的な役割を担っていて、酸化ストレスによるDNA損傷を修復する、酵素の製造指令を含んでいます。
遺伝子変異の影響
MUTYH遺伝子に変異が起きると、DNA修復能力が低下します。その結果、大腸や直腸に多数のポリープが形成されやすくなります。
これらのポリープは、長期間放置すると大腸がんに進行するリスクが高いです。
環境因子の役割
遺伝子変異に加え、環境因子もMAPの発症に関与する可能性があります。
環境因子 | 健康への影響 |
食習慣 | 高脂肪・低繊維食でリスク上昇 |
喫煙 | DNA損傷を加速 |
MUTYH関連ポリポーシスの検査・チェック方法
MUTYH関連ポリポーシス(MAP)の診断では、大腸内視鏡検査と、MUTYH遺伝子変異の有無を調べる遺伝子検査などが用いられます。
内視鏡検査による大腸ポリープの評価
大腸内視鏡検査により、ポリープの数、大きさ、分布、および形態を詳しく観察できます。
MAPでは、通常20個以上の腺腫性ポリープが認められるケースが多いです。
特徴 | 典型的なMAP所見 |
ポリープ数 | 20個以上 |
好発部位 | 大腸全体 |
ポリープの性状 | 腺腫性 |
発症年齢 | 30-50歳代 |
生検と病理学的検査
内視鏡検査中に採取されたポリープの生検標本は病理学的検査に回され、ポリープの組織型や異型度を評価し、悪性化のリスクを判定します。
遺伝子検査による確定診断
MAPの確定診断には、MUTYH遺伝子の変異を特定する遺伝子検査が必要です。この検査は一般的に、血液サンプルから抽出されたDNAを用いて実施します。
MUTYH遺伝子の両アレルに病原性変異が検出されると、MAPと確定診断されます。
検査項目 | 内容 |
検査対象 | MUTYH遺伝子 |
検査方法 | シーケンス解析、欠失・重複解析 |
判定基準 | 両アレルの病原性変異 |
鑑別診断の重要性
MAPは他の遺伝性大腸ポリポーシス症候群と臨床的に似ているため、鑑別診断が必要です。
特に、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)や、POLE/POLD1関連ポリポーシスとの区別が必要となります。
MUTYH関連ポリポーシスの治療方法と治療薬について
MUTYH関連ポリポーシスの治療は、内視鏡的ポリープ切除または大腸切除術が中心となり、現時点で有効な治療薬はありません。
外科的治療
MUTYH関連ポリポーシスは大腸癌発症のリスクが高いことから、全結腸切除術や大腸全摘出術が選択されるケースが多くあります。
手術名 | 特徴 |
全結腸切除術 | 結腸全体を切除し、直腸は温存 |
大腸全摘出術 | 結腸と直腸を完全に摘出 |
術後は残存する直腸や小腸でのポリープ発生を監視するため、定期的な内視鏡検査が必要です。
MUTYH関連ポリポーシスの治療期間と予後
MUTYH関連ポリポーシス(MAP)の治療期間と予後は個々の症例によって異なりますが、早期発見・早期治療により、良好な経過が期待できます。
治療期間
ポリープが少ない場合や小さい場合は、内視鏡を使って切除できます。この治療は通常、数時間から1日程度で終了します。
ポリープの数が多い場合や大きい場合、がんがある場合は、外科手術が必要です。入院期間は、手術の種類や術後の回復状況によって異なりますが、通常1週間から数週間程度です。
治療段階 | 期間 |
初期評価 | 1-3ヶ月 |
手術介入 | 2-4週間 |
術後回復 | 4-8週間 |
長期的な経過観察 | 生涯 |
長期的な経過観察の重要性
MAPでは、生涯にわたる定期的な経過観察が欠かせません。大腸がんのリスクが高いため、定期的な内視鏡検査とポリープ切除が重要です。
経過観察項目 | 頻度 |
大腸内視鏡検査 | 1-2年ごと |
血液検査 | 6-12ヶ月ごと |
画像診断 | 必要に応じて |
長期的な経過観察を通じて、再発や二次癌の早期発見が可能となり、予後の改善につながります。
薬の副作用や治療のデメリットについて
MUTYH関連ポリポーシスの治療では、内視鏡的治療による出血や穿孔のリスク、外科的治療による合併症のリスクなどがあります。
手術療法の副作用とリスク
手術療法には以下のようなリスクが伴います。
- 術後感染症
- 腸閉塞
- 縫合不全
- 排便機能障害
また、手術には、出血、感染、腸閉塞、吻合不全などの合併症のリスクがあります。
内視鏡検査に伴うリスク
- 穿孔
- 出血(まれですが発生する可能性あり)
- 感染
ポリープ切除時に出血が起こる可能性があります。通常は軽度ですが、大量出血の場合は輸血や追加治療が必要になります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
MUTYH関連ポリポーシスの治療は保険適用です。内視鏡的治療や外科的治療、定期的な検査など、治療内容によって自己負担額は異なります。
初診料と再診料
診療種類 | 費用範囲 |
初診料 | 3,000円~5,000円 |
再診料 | 1,000円~3,000円 |
検査費用の目安
大腸内視鏡検査にかかる費用は約20,000円から30,000円程度が目安です。
処置費と手術費用の目安
処置内容 | 費用範囲 |
ポリープ切除術 | 50,000円~100,000円 ※ポリープの数や大きさにより変わります |
大腸切除術 | 数十万円 |
入院費の目安
入院が必要となる場合、1日あたり10,000円から20,000円程度の費用がかかります。個室の場合は、個室代が別途必要です。
以上
参考文献
NIELSEN, Maartje, et al. MUTYH-associated polyposis (MAP). Critical reviews in oncology/hematology, 2011, 79.1: 1-16.
SAMPSON, Julian R.; JONES, Natalie. MUTYH-associated polyposis. Best practice & research clinical gastroenterology, 2009, 23.2: 209-218.
AELVOET, Arthur S., et al. Management of familial adenomatous polyposis and MUTYH-associated polyposis; new insights. Best Practice & Research Clinical Gastroenterology, 2022, 58: 101793.
NIELSEN, Maartje, et al. Analysis of MUTYH genotypes and colorectal phenotypes in patients with MUTYH-associated polyposis. Gastroenterology, 2009, 136.2: 471-476.
VOGT, Stefanie, et al. Expanded extracolonic tumor spectrum in MUTYH-associated polyposis. Gastroenterology, 2009, 137.6: 1976-1985. e10.
POULSEN, M. L. M.; BISGAARD, M. L. MUTYH associated polyposis (MAP). Current Genomics, 2008, 9.6: 420.
ARETZ, Stefan, et al. MUTYH‐associated polyposis: 70 of 71 patients with biallelic mutations present with an attenuated or atypical phenotype. International journal of cancer, 2006, 119.4: 807-814.
CHEADLE, Jeremy P.; SAMPSON, Julian R. MUTYH-associated polyposis—from defect in base excision repair to clinical genetic testing. DNA repair, 2007, 6.3: 274-279.
KANTOR, Micaella, et al. Hereditary Colorectal Tumors: A Literature Review on MUTYH‐Associated Polyposis. Gastroenterology Research and Practice, 2017, 2017.1: 8693182.