メッケル憩室(Meckel’s diverticulum)とは、消化管の先天性異常の一つで、小腸の一部が袋状に膨らんでいる状態を指します。
通常は胎児の発生過程で自然に消失するはずの構造が残ってしまったもので、多くの場合は症状がなく偶然発見されますが、時に合併症を引き起こす場合があります。
メッケル憩室の症状
メッケル憩室は、多くの場合無症状で経過しますが、合併症を引き起こすと様々な症状が現れます。
主な症状には、腹痛、下血、腸閉塞などがあり、年齢や合併症の種類によって症状の現れ方が異なります。
腹痛と消化器症状
メッケル憩室による腹痛は、主に右下腹部または臍周囲に生じます。
痛みの性質は、鈍痛から激しい疝痛まで様々で、持続時間も一過性のものから長時間続くものまで幅広く見られます。
腹痛に加えて、悪心や嘔吐といった消化器症状を伴う場合もあります。
症状 | 特徴 |
腹痛 | 右下腹部または臍周囲 |
悪心・嘔吐 | 腹痛に伴って出現 |
下血と貧血
メッケル憩室の特徴的な症状の一つが下血です。
下血は、多くの場合無痛性で大量に生じ、特に小児では、メッケル憩室からの出血が貧血の原因となる場合があります。
また、下血の色調は鮮紅色から暗赤色まで様々で、時に血液凝固物を含む場合もあります。
腸閉塞症状
メッケル憩室が原因で、腸閉塞が生じることがあります。
腸閉塞の症状としては、腹部膨満感、腹痛、嘔吐、排便・排ガスの停止などが一般的です。
腸閉塞は急性腹症の一つであり、早急な診断と対応が求められます。
腸閉塞の主な症状 | 発症機序 |
腹部膨満感 | メッケル憩室による腸管の巻き込み |
嘔吐 | 腸重積の発生 |
排便・排ガスの停止 | 腸管の通過障害 |
年齢別の症状の特徴
メッケル憩室の症状は、年齢によって異なる特徴を示します。
小児では、無痛性の下血が最も多く見られる症状で、腸重積や腸閉塞も小児に多く見られます。
一方、成人では腹痛や腸閉塞の症状が多く、下血は小児ほど頻繁ではありません。
高齢者では、憩室炎や穿孔による腹膜炎症状が見られるケースがあります。
その他の症状
- 発熱
- 腹部腫瘤
- 腹部膨満
- 便秘または下痢
- 体重減少(慢性的な症状の場合)
これらの症状は、メッケル憩室の合併症の種類や重症度によって異なり、また、症状の組み合わせや持続期間も個々によって様々です。
メッケル憩室の原因
メッケル憩室は、胎生期の卵黄腸管遺残が主な原因です。発生学的要因や遺伝的背景が関与し、腸管壁の構造異常や血流障害も一因となる可能性があります。
発生学的要因
メッケル憩室の主たる原因は、胎生期における卵黄腸管の不完全な閉鎖にあります。
通常、胎生5〜7週頃に卵黄腸管は退縮し消失しますが、この過程が完全に進行しないと、小腸壁に憩室として残存します。
腸管壁の構造異常
メッケル憩室の形成には、腸管壁の構造異常も関与していると考えられています。
具体的には、腸管壁の筋層や、粘膜層の形成不全が憩室の発生を促進する要因となる場合があります。
腸管壁の構造異常の要素
- 筋層の菲薄化
- 粘膜下層の脆弱性
- 血管構造の異常
- 神経叢の分布異常
血流障害による影響
胎生期における腸管への血流不全は、組織の正常な発育を妨げ、結果として憩室形成のリスクを高める要因となる場合があります。
血流障害は、腸管壁の局所的な虚血や低酸素状態を引き起こし、組織の脆弱化や異常な発育を促進させる可能性があります。
メッケル憩室の検査・チェック方法
メッケル憩室は、通常、腹部の画像検査(超音波検査、CTスキャン、MRI)または内視鏡検査で診断されます。
臨床診断
- 症状
- 病歴
- 腹部の触診や聴診
- 腹部の圧痛の有無
- 腸蠕動音の異常がないか
これらの身体所見と併せて、血液検査や尿検査などの基本的な検査結果を総合的に評価します。
ただし、臨床症状だけでメッケル憩室を確定診断するのは困難であり、画像診断や特殊検査が必要となる場合が多いです。
画像診断
検査方法 | 特徴 |
超音波検査 | 非侵襲的で簡便、小児にも適用可能 |
CT検査 | 憩室の位置や大きさ、周囲の炎症を評価 |
MRI検査 | 軟部組織の詳細な評価が可能 |
画像検査により、メッケル憩室の存在や合併症の有無を視覚的に確認できます。
特殊検査による確定診断
メッケル憩室シンチグラフィー(通称メッケルスキャン)は、異所性胃粘膜を含むメッケル憩室の検出に特に有用であり、非侵襲的に異所性胃粘膜の存在を確認できます。
この検査は、放射性同位元素が異所性胃粘膜に集積する性質を利用しており、高い感度と特異度を持ちます。
ただし被曝の問題や検査時間の長さなどのデメリットもあり、適応を慎重に判断する必要があります。
診断のための内視鏡検査
内視鏡検査法 | 適応 |
ダブルバルーン内視鏡 | 深部小腸の観察に適する |
カプセル内視鏡 | 非侵襲的な全小腸観察 |
腹腔鏡検査 | 外科的介入を要する場合 |
これらの検査方法は、メッケル憩室の形態や周囲粘膜の状態を詳細に評価でき、診断の確実性を高めるとともに、合併症の有無や程度を直接確認可能です。
特に、ダブルバルーン内視鏡は、従来の内視鏡では到達困難であった深部小腸まで観察できます。
メッケル憩室の治療方法と治療薬について
メッケル憩室の治療は、無症状の場合は経過観察が基本となります。合併症が生じた際には、段階的な治療が行われます。
無症状のメッケル憩室への対応
無症状のメッケル憩室は、多くの場合、特別な治療を必要としません。定期的な経過観察が推奨される場合もありますが、積極的な介入は通常行われません。
これは、無症状のメッケル憩室が将来的に問題を引き起こす可能性が比較的低いためです。
ただし、状態や医師の判断によっては、予防的な手術を検討する可能性はあります。
内科的治療から外科的介入
炎症や潰瘍などの合併症が生じた場合、まず内科的治療を試みます。
この段階では、安静や酸分泌抑制薬の投与などが行われ、症状の改善を目指します。
しかし、内科的治療で効果が見られない場合や、穿孔、腸閉塞といった重篤な合併症が生じた場合は、外科的治療へと移行します。
治療段階 | 方法 |
第一段階 | 内科的治療(安静、薬物療法) |
第二段階 | 外科的治療(憩室切除、小腸部分切除) |
外科的治療の主な選択肢は、憩室切除術と小腸部分切除術です。憩室切除術は憩室のみを切除する方法で、小腸部分切除術は憩室を含む小腸の一部を切除します。
これらの手術は通常、腹腔鏡下で行われ、患者さんの負担を軽減できる利点があります。
処方薬による症状と合併症の管理
メッケル憩室に関連する症状の緩和や合併症の管理には、様々な薬剤が使用されます。
主な処方薬
- 酸分泌抑制薬(異所性胃粘膜からの酸分泌を抑制し、潰瘍の治癒を促進)
- 抗生物剤(感染症の治療や予防に使用)
- 鎮痛薬(腹痛や不快感の軽減に効果)
- 止血薬(出血を制御するために投与)
メッケル憩室の治療期間と予後
メッケル憩室の治療期間は症状や合併症の有無によって異なり、一般的に数日から数週間程度となります。
多くの場合、治療により良好な予後が期待できますが、合併症のリスクや再発の可能性もあるため長期的な経過観察が重要です。
治療期間の概要
メッケル憩室では、症状がない場合や軽度の場合は、経過観察のみで対応する場合もあります。
手術が必要となる場合、手術後の入院期間は通常5〜7日程度、退院後は約2〜4週間程度の自宅療養期間が必要となる場合が多いです。
治療法 | 期間 |
経過観察 | 継続的 |
手術(入院) | 5〜7日 |
術後自宅療養 | 2〜4週間 |
長期的な経過観察の必要性
メッケル憩室の治療後は、再発や新たな合併症の早期発見のため、定期的な経過観察が欠かせません。
一般的な経過観察の頻度
- 治療後1ヶ月
- 3ヶ月後
- 6ヶ月後
- 1年後
- その後は年1回
経過観察では、症状の有無や血液検査、画像検査などが行われます。
経過観察項目 | 内容 |
症状確認 | 腹痛、出血など |
血液検査 | 貧血、炎症反応など |
画像検査 | 超音波、CT、MRIなど |
薬の副作用や治療のデメリットについて
メッケル憩室の手術のリスクは、感染症、出血、腸閉塞などがあります。
手術に伴う一般的なリスク
手術を行う際には、どのような手術であっても一定のリスクが伴います。メッケル憩室の手術においても例外ではありません。
また、麻酔に関連するリスクも考慮する必要があり、麻酔薬に対するアレルギー反応や、稀に心臓や肺に負担がかかることがあります。
リスク | 頻度 |
術後痛 | 高い |
麻酔関連合併症 | 低い |
創部感染 | 中程度 |
出血 | 低い |
メッケル憩室特有の手術リスク
メッケル憩室の手術には、一般的な手術リスクに加えて、特有のリスクが存在します。
その中でも特に注意が必要なのが、腸閉塞のリスクです。
手術によって腸管の一部を切除する場合があるため、術後に癒着が生じ、腸閉塞を引き起こす可能性があります。
また、メッケル憩室は異所性胃粘膜や膵組織を含むこともあるため、切除が不完全な場合、症状が再発するリスクがあります。
さらに、憩室が小腸の血流に重要な役割を果たしている場合、切除後に腸管虚血が生じる可能性もあります。
術後合併症のリスク
合併症 | 対応 |
創部感染 | 抗菌薬投与、創処置 |
腹腔内膿瘍 | ドレナージ、抗菌薬投与 |
縫合不全 | 再手術、集中治療 |
術後出血 | 輸血、再手術 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
メッケル憩室の治療費は、健康保険が適用されます。
メッケル憩室の治療方法と費用の概要
メッケル憩室では、無症状の場合は一般的に経過観察となりますが、症状がある場合や合併症が生じた際には手術が選択される場合が多いです。
手術方法としては、開腹手術や腹腔鏡下手術が一般的です。
治療方法 | 概算費用 |
経過観察 | 5,000円〜10,000円/回 |
開腹手術 | 50万円〜80万円 |
腹腔鏡下手術 | 60万円〜100万円 |
入院費用について
手術を受ける場合、入院が必要となります。入院期間は通常5日から10日程度で、1日5,000~20,000円程度の入院費が想定されます。
また、個室を希望する場合は追加の費用がかかります。
項目 | 概算費用 |
入院室料 | 5,000円〜20,000円/日 |
食事療養費 | 460円〜/食 |
保険適用と自己負担額
メッケル憩室の治療は健康保険の適用対象となるため、患者さんの実質負担額は大幅に軽減されます。
自己負担割合は、年齢や所得によって異なります。
- 70歳未満 3割負担
- 70歳以上75歳未満 2割または3割負担
- 75歳以上 1割または2割負担
以上
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