若年性ポリポーシス症候群(JPS)

若年性ポリポーシス症候群(Juvenile Polyposis Syndrome:JPS)とは、消化管、特に大腸や胃に多発性のポリープが発生する遺伝性疾患です。

10万人に1人のまれな病気で、10代から20代の若い方に多く見られるのが特徴です。

ポリープとは消化管の内側に突出した良性の腫瘍を指し、通常は単発で見つかることが多いのですが、JPSでは複数の箇所に同時に発生します。

JPSではこれらのポリープが数多く形成されるため、様々な症状や合併症のリスクが高まる可能性があります。

目次

若年性ポリポーシス症候群の病型

若年性ポリポーシス症候群(JPS)は、発生部位と時期により全消化管型、胃限局型、大腸限局型、新生児・乳児期発症型の4つに分類されます。

全消化管型JPS

全消化管型は消化管全体にポリープが発生する病型であり、食道から直腸まで広範囲にわたってポリープが見られます。

この型では、消化管のあらゆる部位でポリープが形成される可能性があるため、定期的な内視鏡検査による全消化管の観察が必要です。

特徴詳細
発生部位食道から直腸まで
頻度比較的高い
経過観察全消化管の定期的な検査が必要

胃限局型JPS

胃限局型は胃にのみポリープが発生する病型であり、他の消化管部位にはポリープが見られないのが特徴です。

胃の粘膜にポリープが多発することが特徴的であり、胃の機能に影響を与える可能性があるため、定期的な胃内視鏡検査による経過観察が重要となります。

他の消化管部位に比べて胃がんのリスクが高いため、慎重な管理が求められ、場合によっては予防的な手術も検討される場合があります。

大腸限局型JPS

大腸限局型は大腸にのみポリープが発生する病型であり、結腸や直腸にポリープが多発するのが特徴です。

大腸の機能に影響を与える可能性があるため、定期的な大腸内視鏡検査による経過観察が必要となり、ポリープの数や大きさによっては内視鏡的切除や外科的切除が検討される場合もあります。

また、大腸がんのリスクが上昇することから定期的な内視鏡検査による経過観察が望ましいとされており、年齢や家族歴なども考慮した個別化された管理が推奨されます。

病型主な発生部位
全消化管型食道から直腸
胃限局型
大腸限局型結腸・直腸

新生児・乳児期発症型JPS

新生児・乳児期発症型は生後間もない時期に症状が現れる病型であり、他の病型に比べて稀ですが、早期に発見されるケースが多いです。

この型は、消化管の発達が未完成な時期に発症するため、栄養吸収障害や成長発達への影響が懸念されることから、小児科医と消化器専門医の連携による総合的な管理が必要となります。

また、新生児・乳児期発症型では、以下のような特徴が見られる場合があります。

  • 消化管出血
  • 貧血
  • 成長障害
  • 腸重積

新生児・乳児期発症型は、早期からの医療介入が予後を大きく左右する可能性があるため、専門医による綿密な管理が望まれます。場合によっては、緊急手術や集中治療が必要となるケースもあります。

若年性ポリポーシス症候群の症状

若年性ポリポーシス症候群(JPS)の主な症状には、消化管出血、貧血、腹痛、下痢などがあります。

症状考えられる原因
消化管出血ポリープからの出血
貧血持続的な出血による鉄分喪失
腹痛ポリープによる腸管刺激や炎症
下痢腸管機能障害や炎症

消化管出血

JPSの最も一般的な症状の一つが、ポリープからの出血によって引き起こされる消化管出血で、消化管のどの部位にポリープが存在するかによって出血の様子も異なります。

消化管出血は、便に血が混じる(血便)や黒い便(下血)として現れ、時には目に見えない微量の出血が長期間続く場合もあるため、定期的な検査が推奨されます。

出血の種類特徴
血便鮮血が混じる
下血黒色便

貧血

貧血は、JPSにおいて頻繁に見られる症状の一つであり、持続的な消化管出血による鉄分の喪失が原因です。

特に微量の出血が長期間続く場合は、気づかないうちに進行している可能性もあります。

貧血の症状としては、顔色の悪さ、疲労感、めまい、息切れなどが挙げられます。

腹痛

ポリープの存在による腸管の刺激や炎症が原因で腹痛が起こる場合があり、ポリープの大きさや数が増えるにつれて症状が顕著になります。

腹痛の程度や部位は、ポリープの大きさや位置によって異なり、時には急性腹症として緊急の医療介入が必要となる場合もあるため、注意深い経過観察が重要です。

下痢

下痢もJPSの一般的な症状の一つで、ポリープによる腸管の機能障害や炎症が原因となります。

下痢が持続すると、脱水や電解質バランスの乱れを引き起こす可能性があるため、注意が必要です。特に高齢者や小児の場合は深刻な健康問題につながる可能性があるため、早期の医療介入が望ましいとされています。

その他の症状

  • 体重減少
  • 栄養不良
  • 腸重積
  • 腹部膨満感

症状の発現時期と進行

JPSの症状は、幼少期から現れる場合もある一方で、成人期になって初めて気づかれることもあり、症状の発現時期は個人差が大きいのが特徴です。

急速に進行するケースもあれば、長期間にわたってゆっくりと進行する場合もあります。

若年性ポリポーシス症候群の原因

若年性ポリポーシス症候群(JPS)は、主にSMAD4またはBMPR1A遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の疾患です。

遺伝子変異による発症

JPSの主な原因は、特定の遺伝子における変異にあります。

これらの遺伝子変異は、細胞の増殖や分化を制御する経路に影響を与え、結果として消化管内にポリープが形成されると考えられています。その発生メカニズムについては、現在も研究が進められている状況です。

遺伝子変異は親から受け継がれる場合もありますが、新たに発生する場合もあります。

関連遺伝子

BMPR1A遺伝子とSMAD4遺伝子の変異はJPS患者の約50%で確認されており、特に重要です。これらの遺伝子の変異パターンや頻度については、人種や地域によって差異がある可能性も指摘されています。

遺伝子名機能
BMPR1A細胞の成長と分化を制御
SMAD4細胞内シグナル伝達に関与
ENG血管形成に重要な役割

これらの遺伝子に変異が生じると、細胞の正常な増殖や分化が阻害され、ポリープの形成につながると考えられています。また、各遺伝子の機能や相互作用についてもさらなる解明が期待されています。

ENG遺伝子の変異は比較的まれではありますが、JPSの一部の症例で報告されています。

遺伝子変異のメカニズム

BMPR1A遺伝子とSMAD4遺伝子は、TGF-βシグナル伝達経路に関与しています。この経路は、細胞の増殖、分化、アポトーシスなどの重要な細胞機能を制御していて、生体の恒常性維持に不可欠な役割を果たしています。

これらの遺伝子に変異が生じると、TGF-βシグナル伝達経路が正常に機能せず、結果として異常な細胞増殖が起こり、ポリープが形成されると考えられています。

環境要因の影響

遺伝子変異が主な原因ですが、環境要因も発症に関与する可能性があります。この点については、遺伝要因と環境要因の相互作用という観点から研究が進められています。

JPSの発症に影響を与える可能性のある環境要因

  • 食生活(高脂肪食、低繊維食など)
  • 喫煙
  • 炎症性腸疾患の既往
  • 感染症

環境要因の正確な影響については、さらなる研究が待たれるところです。

遺伝形式と発症リスク

JPSの遺伝形式は常染色体優性遺伝であり、片親から変異遺伝子を受け継ぐだけで発症する可能性があります。

親の状態子の発症リスク
片親がJPS50%
両親が健康低い(新規変異の可能性あり)

JPSの患者さんの子どもが同じ遺伝子変異を受け継ぐ確率は50%ですが、遺伝子変異を受け継いでも必ずしも発症するわけではありません。

若年性ポリポーシス症候群の検査・チェック方法

若年性ポリポーシス症候群(JPS)の診断には、内視鏡検査や遺伝子検査などの複数の検査が必要です。

内視鏡検査

検査部位使用する内視鏡
上部消化管上部消化管内視鏡
下部消化管大腸内視鏡

内視鏡検査では、消化管内のポリープの有無や特徴を直接観察するできます。また、必要に応じてポリープの生検を行い、ポリープの性状や悪性度を詳細に調べられるため、より正確な診断につながります。

画像診断

CT検査腹部全体の状態を確認
MRI検査軟部組織の詳細な評価
超音波検査腹部臓器の状態を非侵襲的に観察

これらの検査を組み合わせ、ポリープの分布や大きさ、他の臓器への影響などを総合的に評価します。

遺伝子検査

遺伝子関連する症候群
SMAD4JPS, 遺伝性出血性末梢血管拡張症
BMPR1AJPS

これらの遺伝子に病的変異が確認されると、JPSの診断が確定します。

臨床診断と確定診断

JPSの臨床診断は、以下の基準のいずれかを満たす場合に考慮されます。

  1. 大腸全体に5個以上の若年性ポリープが存在する場合
  2. 消化管全体に複数の若年性ポリープが存在する場合
  3. 家族歴がある場合に1個でも若年性ポリープが存在する場合

一方、確定診断は遺伝子検査で病的変異が同定された際に下されます。

若年性ポリポーシス症候群の治療方法と治療薬について

若年性ポリポーシス症候群(JPS)では、根治のための治療法はありません。ポリープに対しては、内視鏡的ポリープ切除術と外科的手術が行われます。

薬物療法は補助的な役割を果たし、症状の緩和や合併症の予防に用いられます。

内視鏡的ポリープ切除術

内視鏡的ポリープ切除術は、JPSの初期段階や小さなポリープに対して有効な治療法です。

この手法では、大腸内視鏡を用いて消化管内のポリープを直接観察し、専用の器具で切除します。切除したポリープは病理検査に提出され、悪性化の有無を確認します。

外科的手術

外科的手術は、多数のポリープが存在する場合や、内視鏡的切除が困難な大きなポリープがある場合に選択されます。

手術の範囲はポリープの分布や悪性化のリスクに応じて決定され、部分的な腸管切除から結腸全摘出術まで、様々な術式が検討されます。

手術名適応
部分的腸管切除術限局したポリープ分布
結腸亜全摘術広範囲のポリープ分布
結腸全摘術高度なポリープ分布

術後は定期的な経過観察が必須であり、残存腸管の内視鏡検査や画像診断を行い、再発や新たなポリープの発生を監視します。

薬物療法

JPSの薬物療法は、主に症状の緩和や合併症の予防が目的です。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
  • プロトンポンプ阻害薬(PPIs)
  • 鉄剤
  • 制酸剤

ただし、薬物療法単独でJPSを根治することは困難であり、内視鏡的治療や外科的治療との併用が必要です。

若年性ポリポーシス症候群の治療期間と予後

若年性ポリポーシス症候群(JPS)の治療は長期にわたり、生涯を通じて継続的な管理が必要です。

予後は個々の症例により異なりますが、治療と定期的な経過観察により、多くのケースで良好な結果が得られています。

治療期間の概要

多くのケースで診断後すぐに治療を開始し、生涯にわたって継続的な管理が必要となります。

初期の集中的な治療期間は数か月から1年程度続き、その後も定期的な経過観察と必要に応じた治療介入を行っていきます。

治療段階期間
初期集中治療数か月〜1年
経過観察・維持療法生涯

経過観察の頻度は個々の状態に応じて調整されますが、一般的に年1〜2回の定期検査が推奨されています。

予後に影響を与える要因

  • 診断時の年齢と症状の重症度
  • 遺伝子変異の種類
  • ポリープの数と分布
  • 治療への反応性
  • 定期的な経過観察の遵守

早期発見と治療により、多くのケースで良好な予後が期待できますが、個々の症例によって予後は異なる場合があります。

また、一部では合併症のリスクが高まる場合もあります。

リスク因子予後への影響
多発性ポリープ
遺伝子変異の重症度中〜高
治療遅延
定期観察の不履行

薬の副作用や治療のデメリットについて

若年性ポリポーシス症候群(JPS)の外科的治療は、合併症のリスクや再発の可能性が伴います。

内視鏡的ポリープ切除の副作用とリスク

副作用・リスク発生頻度対処法
出血1-2%止血処置、輸血
腸管穿孔0.1-0.3%緊急手術
麻酔合併症0.1%未満適切な管理

出血は、内視鏡的ポリープ切除後に生じる可能性がある合併症の一つです。ポリープを切除した部位から出血が起こる場合があり、時に輸血や緊急手術が必要となる可能性があります。

また、腸管穿孔のリスクも考慮する必要があります。内視鏡操作中や切除時に腸管壁に穴が開くことがあり、この場合は緊急手術が必要です。

外科的手術の副作用とリスク

手術に伴う一般的なリスクとしては、感染症、出血、麻酔合併症などが挙げられます。

特にJPSの手術では、広範囲の腸管切除が必要となる場合があり、短腸症候群のリスクが高まります。

また、癒着性腸閉塞は、腹部手術後に比較的高頻度で発生する合併症の一つです。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

若年性ポリポーシス症候群(JPS)は指定難病に認定されており、医療費助成制度を利用することで自己負担額を軽減できます。

指定難病とは、発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立していない希少な疾患で、長期の療養を必要とするものを指します。

治療費の目安

治療内容概算費用
内視鏡的ポリープ切除術10万円~30万円
外科的手術(入院含む)100万円以上

定期検査の費用

JPSでは、定期的な内視鏡検査が欠かせません。これらの検査費用は、1回あたり2万円から5万円程度となる場合が多いです。

血液検査や画像診断などの追加検査が必要となる場合もあり、その際は別途費用が発生します。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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