クローン病(Crohn’s disease)とは、消化管のあらゆる部位で炎症を引き起こす原因不明の難病です。
腹痛や下痢、発熱、体重減少などの症状が現れるのが特徴で、炎症が長期化すると腸に潰瘍や狭窄などが生じ、腸閉塞や瘻孔形成などの合併症を引き起こす可能性もあります。
クローン病の発症年齢は10代後半から30代前半の比較的若い世代に多く、日本では人口10万人あたり27人程度の割合で発症し、近年増加傾向にあるとされています。
男性に多いのも特徴で、発症の原因は解明されていませんが、遺伝的要因や環境要因、免疫異常などが複合的に関与していると考えられています。
クローン病の病型
クローン病は、炎症性の病変が生じる部位によって、小腸型、大腸型、小腸大腸型、上部病変の4つの病型に分類されます。
病型 | 病変部位 |
小腸型 | 小腸のみ |
大腸型 | 大腸のみ |
小腸大腸型 | 小腸と大腸 |
上部病変 | 空腸のみ |
小腸型
小腸にのみ炎症性の病変が認められるタイプであり、クローン病の中でも比較的よくみられる病型です。
大腸型
大腸に限局して炎症性の病変が生じるタイプで、小腸には病変が認められません。大腸のみに炎症が起こるのが特徴であり、小腸型とは対照的な病型といえます。
小腸大腸型
小腸と大腸の両方に炎症性の病変が認められる病型で、クローン病の中で最も患者数が多いとされています(50%)。
- 小腸と大腸の両方に病変
- クローン病で最も一般的な病型
- 広範な消化管に炎症が及ぶ
上部病変
他の病型と比べるとやや珍しいタイプで、空腸にのみ炎症性の病変が生じます。小腸の他の部位や大腸には病変がなく、空腸に限局した炎症が特徴です。
クローン病の症状
クローン病の主な症状は、腹痛、下痢、血便、発熱、体重減少などが特徴です。
腹痛
クローン病では強い腹痛が特徴で、炎症によって傷ついた腸管が原因で起こります。食事の後に痛みが強くなるケースが多く、嘔吐を伴うこともしばしばあります。
下痢
クローン病でみられる炎症は腸管の働きに悪影響を及ぼし、頻繁な下痢を引き起こします。下痢は水っぽく、血液や粘液が混じる場合もあります。
1日に何度もトイレに行かなければならず、日常生活に支障をきたす場合もあります。
体重減少
炎症の影響で栄養を吸収する力が弱まるため、体重が減少しやすい傾向です。食欲がわかず、必要な栄養が十分に摂れないためにさらに体重が減ってしまうことがあります。
BMI | 割合 |
18.5未満 | 40% |
18.5以上 | 60% |
その他の症状
- 発熱
- 関節痛
- 皮膚症状(結節性紅斑など)
- 眼症状(ぶどう膜炎など)
クローン病の原因
クローン病の明確な原因は不明ですが、遺伝的要因や免疫の異常、腸内細菌、食生活などの環境要因が複合的に関与していると考えられています。
遺伝的要因の関与
クローン病の発症には遺伝的な素因が関係していることが分かっていて、免疫反応や細菌の排除に関わる働きをもつNOD2、IL23R、ATG16L1などの遺伝子の変異がリスクを高めることが報告されています。
遺伝子 | 関連する機能 |
NOD2 | 腸管の免疫応答 |
IL23R | 炎症性サイトカインの受容体 |
ATG16L1 | オートファジーの制御 |
環境的要因の影響
遺伝的素因に加えて、環境的要因もクローン病の発症に関係していると考えられています。
- 喫煙
- 食生活
- ストレス
- 抗生物質の使用 など
特に喫煙はクローン病の発症リスクを2倍以上に高めるとされていて、重要な環境的リスク因子です。
腸内細菌叢の異常
- 腸内細菌叢の多様性の低下
- 特定の細菌の増加
- 腸管バリア機能の低下
クローン病の人の腸内細菌叢は、健康な人とは違う構成になっていることがわかっています。
腸内細菌叢の多様性が低下していたり、特定の細菌が増えていたりすることが観察されていて、これらの異常が腸の炎症を引き起こす可能性が示唆されています。
また、腸管バリア機能の低下により、細菌やその成分が腸の壁を通過しやすくなり、炎症の原因となる可能性があります。
免疫システムの異常
クローン病の人では、腸の免疫システムが過剰に活性化している状態が見られます。T細胞やマクロファージなどの免疫細胞が腸の正常な細菌に対しても過剰に反応して、炎症を引き起こしている可能性があります。
また、制御性T細胞の機能が低下していて、炎症反応を抑制できなくなっている可能性も指摘されています。
クローン病の検査・チェック方法
クローン病の診断方法には、血液検査、便検査、内視鏡検査(大腸内視鏡、小腸内視鏡、カプセル内視鏡)、画像検査(X線、CT、MRI)などがあります。
身体所見
腹痛やお通じの回数、体重の減少などの症状について確認します。また、お腹の圧痛や腫れている場所がないかをチェックします。
病歴聴取 | 身体診察 |
腹痛 | 腹部の圧痛 |
下痢 | 腹部の腫瘤 |
体重減少 | 口腔内アフタ |
血液検査と便検査
炎症の程度や貧血の有無、栄養状態などを調べるために、CRPや赤沈、ヘモグロビン、アルブミンなどを測ります。
また、感染性の腸炎と区別するために、便の培養検査や寄生虫の検査を行う場合もあります。
内視鏡検査
大腸内視鏡検査では、潰瘍やアフタ、腸の狭窄などの特徴的な所見を観察します。小腸の病変を評価するには、カプセル内視鏡検査やバルーン内視鏡検査を用いる場合もあります。
内視鏡検査の種類 | 観察対象 |
大腸内視鏡検査 | 大腸 |
小腸内視鏡検査 | 小腸 |
カプセル内視鏡検査 | 小腸 |
画像検査
- 腹部CT検査
- 腹部MRI検査
- 小腸造影検査
これらの検査では、腸の壁が厚くなっていたり狭くなっていたり、瘻孔ができていたりする様子が確認できます。
クローン病の治療方法と治療薬について
クローン病の治療は、症状のコントロールと寛解状態の維持が主な目的です。
炎症を抑え症状を改善する薬物療法(5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤など)、栄養療法、手術療法などを組み合わせて行われます。
薬物療法
クローン病の治療では、抗炎症作用のある薬や免疫を抑制する薬などを使った薬物療法が行われるのが一般的です。
薬の種類 | 効果 |
メサラジン | 腸の炎症を和らげる |
ステロイド | 強い抗炎症作用がある |
炎症がひどい時期には、多くの場合ステロイド剤が処方されます。 しかし、長期間使い続けると副作用のリスクがあるため、症状が落ち着いてきたら少しずつ減らしていくことが大切です。
生物学的製剤
薬の名前 | 特徴 |
インフリキシマブ | 代表的な抗TNF-α抗体製剤 |
アダリムマブ | 自分で注射できる |
これらの薬は、炎症を引き起こすタンパク質であるTNF-αをターゲットとし、強力な抗炎症効果を発揮します。
治療が難しいクローン病に対して高い効果が報告されており、寛解の導入と維持に役立つとされています。
外科的治療
- 腸の狭窄や瘻孔などの合併症が起こったとき
- 薬での治療で十分な効果が得られないとき
- 癌の可能性が疑われるとき
このような場合には、外科的治療が検討されます。
栄養療法
症状が活発な時期には、腸を安静にするために絶食する場合があります。その場合は中心静脈栄養などで栄養状態を維持します。
クローン病の治療期間と予後
クローン病は完治が難しい慢性疾患ですが、治療により寛解(症状が落ち着いている状態)を維持し、通常の生活を送れる場合が多く、長期的な予後は良好です。
寛解導入療法の期間
クローン病の治療はまず寛解導入療法から始まり、炎症を抑えて症状を改善することを目的とします。寛解導入療法の期間は使用する薬剤や患者さんの状態によって異なりますが、通常は数週間から数ヶ月程度です。
薬剤 | 期間 |
5-アミノサリチル酸製剤 | 4-8週間 |
ステロイド | 6-12週間 |
寛解維持療法への移行
寛解導入療法で症状が改善した後は、寛解維持療法に移行します。この段階では、再燃を防ぎ、長期的な寛解の維持を目的とします。
寛解維持療法では、免疫調整薬や生物学的製剤などが使用されます。
薬剤 | 特徴 |
免疫調整薬 | ゆっくりと効果が現れる |
生物学的製剤 | 速やかに効果が現れる |
長期的な治療の必要性
クローン病は慢性的な疾患であるため、長期的な治療が必要となります。
- 定期的な診察
- 必要に応じた検査
- 薬物療法の継続
- 生活習慣の改善
これらを継続的に行って再燃を防ぎ、症状をコントロールしていきます。
予後
近年の治療の進歩により、クローン病患者さんの予後は大きく改善しています。治療により多くで寛解を維持し、日常生活を送れるようになっています。
クローン病の手術率 | 発症後5年:33.3% |
---|---|
発症後10年:70.8% | |
手術後の再手術率 | 5年:28% |
診断後10年の累積生存率 | 96.9% |
難病情報センターによるとクローン病の手術率は高く、さらに手術後の再手術率も高率であることから、再燃・再発予防が重要であるとされています。
診断後10年の累積生存率は96.9%と、生命予後は良好です。ただし個人差があるため、定期的な診察と治療の継続が重要となります。
薬の副作用や治療のデメリットについて
クローン病の薬物療法では、感染症のリスク増加、肝機能障害、吐き気、腹痛などの副作用や、長期的な使用による骨粗鬆症、高血圧、糖尿病などのリスクが考えられます。
薬物療法の副作用
クローン病治療に使われる薬には、副腎皮質ステロイド剤、免疫抑制剤、生物学的製剤などがありますが、免疫系に影響するため感染症リスクが上がります。
また、長期使用で骨粗鬆症、糖尿病、高血圧などの合併症を起こすリスクがあります。
薬剤 | 主な副作用 |
副腎皮質ステロイド | 感染症、骨粗鬆症、糖尿病、高血圧 |
免疫抑制剤 | 感染症、肝機能障害、腎機能障害 |
外科的治療のリスク
クローン病の合併症や難治性症状には外科的治療を検討しますが、手術にはリスクがあり、術後合併症や再発の可能性も考える必要があります。
- 術後合併症(感染症、癒着、縫合不全など)
- 再発(吻合部再発、残存腸管の再燃など)
- ストーマ(人工肛門)の問題(皮膚炎、脱水など)
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
クローン病は指定難病に該当するため、医療費助成制度を利用でき、自己負担限度額を超えた医療費は公費で負担されます。ただし、薬の種類や治療内容によっては高額になる場合があります。
指定難病について
クローン病は、厚生労働省が定める指定難病の一つに該当します。
指定難病とは、発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立していない希少な疾患で長期の療養を必要とするものを指します。
IOIBDスコアを用いて、2点以上が医療費助成の対象です。詳しくは難病情報センターのホームページをご確認ください。
検査費の目安
検査名 | 費用 |
内視鏡検査 | 5万円~10万円 |
CT検査 | 2万円~5万円 |
処置費の目安
処置名 | 費用 |
内視鏡的拡張術 | 10万円~20万円 |
瘻孔閉鎖術 | 20万円~30万円 |
入院費の目安
クローン病の症状が重い時には入院治療が必要となる場合もあり、その場合の入院費は1日あたり1万円程度が一般的です。
以上
参考文献
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