複雑性(絞扼性)腸閉塞

複雑性(絞扼性)腸閉塞(Complicated [Strangulating] Intestinal Obstruction)とは、腸管が何らかの原因で閉塞し、腸管の血流障害を伴っている状態を指します。

腸管への血流の阻害により、腸管の壊死や穿孔のリスクが高い危険な状態です。

目次

複雑性(絞扼性)腸閉塞の症状

複雑性(絞扼性)腸閉塞を発症すると、激しい腹痛、頻回の嘔吐、著明な腹部膨満感、そして排便・排ガスの停止といった症状が現れます。

症状特徴
腹痛突然発症、激しい痛み
嘔吐頻回、胆汁を含む
腸管虚血激しい腹痛
腸管拡張腹部膨満感、嘔吐

激しい腹痛

複雑性(絞扼性)腸閉塞の最も特徴的な症状は、突然発症する激しい腹痛です。腸管の血流が阻害され組織が壊死に陥り、強い痛みを引き起こします。

嘔吐と腹部膨満感

腸閉塞により腸管内容物が停滞し、嘔吐を繰り返すようになります。嘔吐物は当初は胃内容物ですが、次第に胆汁を含むようになり、特有の緑色を呈します。

また、腸管内にガスや液体が貯留することで、著明な腹部膨満感を伴います。

排便・排ガスの停止

複雑性(絞扼性)腸閉塞では、腸管の通過障害により排便や排ガスが停止します。

これは閉塞部より肛門側の腸管が空虚になるためであり、重要な所見ですが、直腸に残存する便が排出される場合があり注意が必要です。

その他の症状

  • 発熱
  • 頻脈
  • 血圧低下
  • 冷汗

これらは腸管壊死に伴う全身状態の悪化を反映した症状であり、敗血症やショックに進展する危険性があります。

複雑性(絞扼性)腸閉塞の原因

複雑性(絞扼性)腸閉塞の原因は多岐にわたりますが、主に腸管の血流障害や腸管壁の損傷によって引き起こされます。

腸管の癒着

腹部手術後や炎症性腸疾患などによって腸管に癒着が生じると、腸管の通過障害を引き起こし、複雑性腸閉塞の原因となる場合があります。

原因説明
腹部手術後手術操作による腸管の損傷や炎症が癒着を引き起こす
炎症性腸疾患クローン病や潰瘍性大腸炎などの慢性的な腸管の炎症が癒着を引き起こす

ヘルニア

ヘルニアが生じると、腸管が嵌頓し、血流障害や腸管壁の損傷を引き起こす可能性があります。特に高齢者や肥満者では、ヘルニアのリスクが高くなります。

  • 鼠径ヘルニア
  • 大腿ヘルニア
  • 腹壁瘢痕ヘルニア

腸重積

腸重積は、腸管の一部が隣接する腸管内に入り込む状態で、特に小児で多く見られます。腸重積が長時間続くと、腸管の血流障害や壊死を引き起こす危険性があります。

原因説明
腸管の異常メッケル憩室や腸管のポリープなどの異常が腸重積を引き起こす
ウイルス感染ロタウイルスなどのウイルス感染が腸重積のリスクを高める

腸軸捻転

腸軸捻転は、腸管が自身の軸を中心に回転し、血流障害や腸管壁の損傷を引き起こす状態です。高齢者や精神疾患を有する患者で多く見られます。

複雑性(絞扼性)腸閉塞の検査・チェック方法

複雑性(絞扼性)腸閉塞を診断するためには、画像検査や血液検査、腹水検査などが必要です。

身体所見

複雑性(絞扼性)腸閉塞が疑われる場合、お腹の張り具合、腸の動きを反映する腸蠕動音の増加や消失、お腹を押したときの痛みの有無などを確認します。

身体所見評価ポイント
腹部膨満閉塞部位や程度の把握
腸蠕動音亢進や消失の有無
腹部圧痛圧痛部位や反跳痛の有無

画像検査

腹部単純X線検査や、CT検査などの画像検査を行います。

腹部単純X線検査では、拡張した小腸にたまったガスの像や鏡面像と呼ばれる所見の有無をチェックします。 CTでは、詰まっている場所や原因となる病気の特定、腸管壁の状態評価が可能です。

血液検査と腹水検査

  • 血液検査では炎症反応や電解質異常の評価
  • 腹水検査では腹水の性状評価や細菌培養
検査項目評価ポイント
白血球数炎症の有無
CRP炎症の程度
電解質脱水や代謝異常の有無

臨床診断と確定診断

上記のような身体所見、画像検査、血液・腹水検査の結果を総合的に判断し、複雑性(絞扼性)腸閉塞の臨床診断を下します。

確定診断をつけるためには原因となっている病気を特定することが重要で、癒着が原因のイレウス、絞扼が原因のイレウス、腫瘍が原因のイレウスなどを見分ける必要があります。

手術所見や切除標本の病理検査により、最終的な確定診断が下されるのが一般的です。

複雑性(絞扼性)腸閉塞の治療方法と治療薬について

複雑性(絞扼性)腸閉塞の治療では、早期の外科的介入が必要です。

外科的治療

複雑性(絞扼性)腸閉塞では、腸管の血流が阻害されているため、早期の外科的治療が求められます。

手術の目的は、閉塞の原因となっている癒着や腫瘍などを取り除き、腸管の血流を回復させることです。手術が遅れると腸管が壊死してしまう可能性があり、生命に関わる危険性があります。

治療法内容
開腹手術腹部を切開し、直接閉塞部位を確認・治療する
腹腔鏡下手術小さな傷口から腹腔鏡を挿入し、閉塞部位を治療する

薬物療法

薬剤目的
抗菌薬感染予防・治療
鎮痛薬疼痛管理
制吐薬嘔気・嘔吐の予防・治療

これらの薬剤を使用し、苦痛の軽減や合併症を予防します。

複雑性(絞扼性)腸閉塞の治療期間と予後

複雑性(絞扼性)腸閉塞の治療では、症例に応じた迅速な対応が必要不可欠であり、治療期間や予後は大きく変動します。

早期診断・治療開始の重要性

複雑性(絞扼性)腸閉塞では腸管の血流障害が進行するため、早期の診断と治療開始が予後を左右します。

症状出現から治療開始までの時間が長引くほど腸管壊死のリスクが高まり、予後が悪化する危険性が高まります。

治療開始までの時間予後良好の割合
12時間以内80%以上
24時間以内50-60%
48時間以上20%以下

治療期間

複雑性(絞扼性)腸閉塞の多くは、手術療法を必要とします。術後は腸管機能の回復を待ちながら、徐々に経口摂取を再開していきます。

一般的に術後の入院期間は1~2週間程度ですが、腸管切除範囲が広い症例や合併症を伴う際は入院期間が長引く可能性があります。

予後

複雑性(絞扼性)腸閉塞は早期発見・早期治療が重要であり、治療が行われれば予後は良好ですが、放置すると腸管壊死や重篤な合併症を引き起こし、生命に関わる危険性があります。

予後良好の条件予後不良の可能性が高い条件
早期診断・治療開始診断・治療開始の遅れ
腸管壊死範囲が限定的広範な腸管壊死
全身状態が安定全身状態不良
重篤な併存疾患がない重篤な併存疾患を有する

長期的な予後と合併症

複雑性(絞扼性)腸閉塞の治療後は、短腸症候群や癒着性イレウスなどの合併症を発症するリスクがあり、特に広範な腸管切除を行った症例では短腸症候群による栄養吸収障害が問題となります。

定期的な経過観察と栄養管理が長期的な予後の改善に寄与すると考えられていて、癒着性イレウスに対しては再手術が必要となるケースがあり、特に注意深い経過観察が求められます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

複雑性腸閉塞の治療には、様々な副作用やリスクが伴う可能性があります。

感染症のリスク

複雑性腸閉塞の治療では手術が必要となる場合が多く、手術は感染症のリスクを高めます。また、術後の感染症は重篤な合併症につながる恐れがあるため、注意が必要です。

感染症の種類リスク因子
創部感染長時間の手術、糖尿病、肥満
腹腔内膿瘍腸管損傷、腹膜炎の併発

癒着形成のリスク

複雑性腸閉塞の手術後には、腸管同士や腸管と腹壁の癒着が起こりやすくなります。癒着は再度の腸閉塞を引き起こす原因となるため、予防が大切です。

短腸症候群のリスク

広範囲の腸管切除が必要なケースでは、短腸症候群を発症するリスクがあります。短腸症候群では、栄養吸収障害から様々な合併症を引き起こします。

短腸症候群の合併症症状
脱水下痢、尿量減少
電解質異常筋力低下、不整脈
栄養不良体重減少、浮腫

短腸症候群の予防と治療には、残存腸管の適応促進と栄養管理が不可欠です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

複雑性腸閉塞の治療は医療保険の適用です。

手術の有無や入院期間、医療機関の種類などによって大きく異なり、保険適用でも数万円から数十万円程度かかる場合があります。

検査費の目安

検査名費用
CT検査15,000円
MRI検査20,000円

処置費の目安

緊急手術が必要な場合が多く、手術料として100,000円以上の費用がかかります。

処置名費用
緊急手術150,000円
腸切除術200,000円

入院費

集中治療室での管理が必要となった場合、入院費の目安は1日あたり30,000円程度となります。

以上

参考文献

FRAGER, David. Intestinal obstruction: role of CT. Gastroenterology Clinics, 2002, 31.3: 777-799.

HOLDER JR, Walter D. Intestinal obstruction. Gastroenterology Clinics of North America, 1988, 17.2: 317-340.

SILVA, Ana Catarina; PIMENTA, Madalena; GUIMARAES, Luis S. Small bowel obstruction: what to look for. Radiographics, 2009, 29.2: 423-439.

FRAGER, David. Intestinal obstruction: role of CT. Gastroenterology Clinics, 2002, 31.3: 777-799.

GORE, Richard M., et al. Bowel obstruction. Radiologic Clinics, 2015, 53.6: 1225-1240.

RAMI REDDY, Srinivas R.; CAPPELL, Mitchell S. A systematic review of the clinical presentation, diagnosis, and treatment of small bowel obstruction. Current gastroenterology reports, 2017, 19: 1-14.

CATENA, Fausto, et al. Bowel obstruction: a narrative review for all physicians. World Journal of Emergency Surgery, 2019, 14.1: 20.

CAPPELL, Mitchell S.; BATKE, Mihaela. Mechanical obstruction of the small bowel and colon. Medical Clinics of North America, 2008, 92.3: 575-597.

PERRY JR, John F.; SMITH, Grafton A.; YONEHIRO, Earl G. Intestinal obstruction caused by adhesions: a review of 388 cases. Annals of surgery, 1955, 142.5: 810.

FRANKLIN JR, M. E., et al. Laparoscopic diagnosis and treatment of intestinal obstruction. Surgical Endoscopy And Other Interventional Techniques, 2004, 18: 26-30.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次