大腸憩室出血(Colonic Diverticular Hemorrhage)とは、大腸壁に形成された小さな袋状の突出部(憩室)から血液が漏れ出す状態を指します。
主に高齢者層に発症が多く、急な下血や腹部の痛みを伴います。
憩室の形成には、加齢や食習慣の変化が関与しており、便秘傾向や腸内の圧力上昇が出血のリスクを増大させる要因です。
大腸憩室出血の症状
大腸憩室出血で最も特徴的な症状は、突然起こる痛みのない血便です。
突然の血便(最も一般的な症状)
大腸憩室出血では、痛みを伴わない突然の血便が一般的な症状です。
血液の色は鮮やかな赤色から暗赤色まで様々で、量も少量から大量まで幅広く見られます。
| 特徴 | 詳細 | 
| 色 | 鮮赤色~暗赤色 | 
| 量 | 少量~大量 | 
| 痛み | なし | 
貧血症状
大腸憩室出血が続くと、貧血を引き起こす場合があります。
- 疲労感
 - めまい
 - 息切れ
 - 顔面蒼白
 
腹部不快感
大腸憩室出血に伴い、腹部に不快感を感じる場合があります。
| 症状 | 特徴 | 
| 腹痛 | 軽度~中等度 | 
| 膨満感 | あり | 
| 持続時間 | 断続的 | 
便通の変化(出血に伴う影響)
大腸憩室出血により、下痢や便秘といった症状が現れることもあります。
全身症状(重症化のサイン)
大量の出血が続くと、重症化のサインとして全身症状が現れます。
- 冷や汗
 - めまい
 - 立ちくらみ
 - 意識の混濁
 
これらの症状が現れた際は、緊急の医療介入が必要です。
大腸憩室出血の原因
大腸憩室出血は、主に加齢による腸の壁の弱体化と、日々の生活習慣が原因で起こります。
年齢を重ねることによる腸の壁の変化
年齢とともに、大腸の壁は徐々に薄くなり柔軟性を失っていきます。
その結果、腸の内部の圧力に耐えられなくなった部分が外側に膨れ、憩室ができやすくなります。
食事の影響
繊維が少なく脂肪が多い食事は、大腸憩室出血のリスクを上げます。
繊維不足は便秘の原因となり、腸の中の圧力を高めます。一方、脂肪の多い食事は腸内の細菌のバランスを崩し、炎症を起こしやすくします。
便秘と腸内の圧力上昇
長期間続く便秘は、大腸憩室出血の大切な原因の一つとなります。
固い便が腸の中を通る時、憩室に圧力をかけ、出血を起こす原因となる場合があります。
血管の弱まり
憩室の中にある血管はとても薄く、傷つきやすい状態です。次のような要因が血管を弱め、出血の危険性を高めます。
- 高血圧
 - 動脈硬化
 - たばこを吸う
 - お酒を多く飲む
 
薬の影響
一部の薬は大腸憩室出血のリスクを高める可能性があります。
- 血液をサラサラにする薬
 - 痛み止めの薬
 - アスピリン
 - ステロイド薬
 
これらの薬は、血液が固まりにくくなったり、腸の内側を傷つけたりすることで、出血の危険性を高める可能性があります。
大腸憩室出血の検査・チェック方法
大腸憩室出血の検査は、主に大腸内視鏡検査で行われ、出血源の特定や治療も同時に行うこともできます。
初期評価と臨床診断
大腸憩室出血が疑われる場合、排便の状態や腹痛の有無、既往歴などを確認します。
確認する主な症状や所見
- 新鮮血を含む便
 - 急性の下血
 - 腹痛(多くの場合は軽度)
 - 貧血症状(めまい、倦怠感など)
 
大腸憩室出血の主な検査方法と特徴
| 検査方法 | 特徴 | 
| 大腸内視鏡検査 | 直接的な出血源の確認が可能 | 
| CT血管造影 | 活動性出血の検出に有用 | 
| 核医学検査 | 間欠的な出血の検出に適している | 
確定診断
大腸内視鏡検査で直接的に出血源を確認できた場合は、診断の確実性が高まります。しかし、間欠的な出血の可能性があるため、一度の検査で出血源が特定できないケースもあります。
そのような状況では、経過観察と追加検査が必要です。
主な鑑別疾患
大腸憩室出血と類似した症状を示す疾患もあるため、鑑別診断も重要です。
| 鑑別疾患 | 特徴 | 
| 大腸癌 | 慢性的な出血、体重減少 | 
| 炎症性腸疾患 | 腹痛、下痢、粘液便 | 
| 痔核 | 排便時の出血、肛門部不快感 | 
大腸憩室出血の治療方法と治療薬について
大腸憩室出血の治療は、出血量や症状によって異なります。軽度であれば自然治癒を待ち、重度では内視鏡的止血術や血管塞栓術などの処置が行われます。
多くの場合、内科的な治療で症状はよくなります。
保存的治療の基本
保存的治療は大腸憩室出血の第一選択肢です。絶食と点滴による水分補給により腸管を休ませ、自然止血を促進します。
また、血圧管理や貧血の改善も重要で、場合によっては輸血が必要となる場合もあります。
| 保存的治療の主な内容 | 目的 | 
| 絶食 | 腸管の安静 | 
| 点滴 | 水分・電解質補給 | 
| 血圧管理 | 再出血予防 | 
| 貧血改善 | 全身状態の安定化 | 
薬物療法の役割
薬物療法は出血のコントロールや感染予防、炎症の抑制など、保存的治療を補完する形で行われます。
| 薬剤名 | 主な効果 | 
| トラネキサム酸 | 抗線溶作用による止血 | 
| カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム | 毛細血管強化による止血 | 
| 抗生物質 | 感染予防、炎症抑制 | 
内視鏡的治療
保存的治療で止血が困難な際は、内視鏡的治療が検討されます。
主な方法
- クリッピング法
 - 局注法
 - 熱凝固法
 - バンド結紮法
 
これらの方法により、直接出血部位を処置できます。
外科的治療の適応
内視鏡的治療でも止血が困難な場合や、再出血を繰り返す際には、外科的治療が必要です。
腹腔鏡下手術や開腹手術により、出血部位を含む腸管の切除を行います。
※ショックに至るほどの大量出血がみられるなど、状態によっては緊急手術となる可能性もあります。
大腸憩室出血の治療期間と予後
大腸憩室出血の治療期間は、軽度であれば数日で退院できますが、重度の場合や合併症がある場合は数週間かかるケースもあります。
予後は一般的に良好ですが、再出血のリスクがあるため定期的な検査が必要です。
治療期間の一般的な目安
大腸憩室出血の治療にかかる期間は、出血の状態や併発症の有無で変化します。
軽い症状なら1週間ほどで良くなることもありますが、深刻な場合は2週間以上の入院を要する場合もあります。
| 症状の程度 | 一般的な治療期間 | 
| 軽度 | 3-7日 | 
| 中等度 | 7-14日 | 
| 重度 | 14日以上 | 
治療中は食事を控え、点滴で水分を補給します。状況に応じて輸血も行います。出血が収まり体調が安定したら、少しずつ食事を始めていきます。
予後
死亡率は1%程度と、予後は一般的に良好です。
再発リスクと長期的な経過
大腸憩室出血は再発する可能性があります。最初の発症後、再出血する割合は次のように報告されています。
- 1年以内:約15-25%
 - 5年以内:約30-40%
 - 10年以内:約50%
 
長期的に良い経過をたどるには、再発を防ぐことが大切です。以下の生活習慣の見直しが効果的です。
| 予防策 | 効果 | 
| 食物繊維の摂取 | 腸内環境の改善 | 
| 水分摂取 | 便秘予防 | 
| 禁煙 | 血管健康の維持 | 
| 適度な運動 | 腸の蠕動運動の促進 | 
合併症と経過への影響
大腸憩室出血の経過は概ね良好ですが、合併症が起きると治療期間が延び、その後の状態に影響します。
主な合併症
- 大量出血
 - 敗血症
 - 腹膜炎
 - 腸閉塞
 
高齢者の治療と経過
高齢者は合併症のリスクが高く、回復に時間がかかることが多いです。また、既に抱えている健康上の問題が治療に影響を与える場合もあります。
栄養状態を保ち、早めに体を動かすことを促すなど、全身の状態管理が経過改善のために必要です。
治療後の経過観察
大腸憩室出血の治療後は、定期的な経過観察が必要です。再発の可能性を評価し、生活習慣の指導を行い、必要に応じて検査を実施します。
経過観察の頻度は個々の状況で異なりますが、以下のような頻度が一般的です。
| 期間 | 経過観察の頻度 | 
| 退院後1か月 | 1-2週間ごと | 
| 1-6か月 | 1-2か月ごと | 
| 6か月以降 | 3-6か月ごと | 
薬の副作用や治療のデメリットについて
大腸憩室出血の治療薬である鉄剤は、便秘や吐き気などの副作用を引き起こす可能性があります。また、内視鏡的止血術や血管塞栓術などの治療は、まれに穿孔や感染症などの合併症のリスクを伴います。
薬物療法の副作用
| 薬剤 | 主な副作用 | 
| 鉄剤 | 便秘、吐き気 | 
| NSAIDs | 胃腸障害、腎機能障害 | 
| ステロイド | 免疫抑制、骨粗鬆症 | 
また、薬物の長期使用は、腸内細菌叢の変化や薬剤耐性菌の出現を引き起こす可能性があります。
内視鏡治療のリスク
- 腸管穿孔
 - 出血の再発
 - 感染症
 - 麻酔関連の合併症
 
これらの合併症は珍しいものの、発生すると重篤化する恐れがあるため注意が必要です。
血管内治療の副作用
| 副作用 | 発生頻度 | 
| 造影剤アレルギー | 1-3% | 
| 腎機能障害 | 2-5% | 
| 血栓塞栓症 | <1% | 
これらの副作用は、既往歴や全身状態によって発生リスクが変動します。
手術療法における合併症のリスク
- 術後感染
 - 縫合不全
 - 腸閉塞
 - 術後出血
 
高齢の方や基礎疾患のある方の場合は、合併症のリスクが上昇する傾向です。また、長期的には腸管癒着による症状が現れる可能性も考えられます。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
大腸憩室出血の検査や治療は基本的に保険適用となります。治療費は出血量や治療法、入院期間などによって異なり、高額療養費制度の利用も可能です。
初診料・再診料
- 初診料:約2,820円
 - 再診料:約730円
 
これらの費用には保険が適用されるため、自己負担は1~3割となります。
検査費用の目安
| 検査項目 | 概算費用 | 
| 血液検査 | 3,000円〜5,000円 | 
| 大腸内視鏡検査 | 15,000円〜25,000円 | 
処置費用の目安
出血を止める処置が必要となった際には、内視鏡的止血術の費用が発生します。
| 処置内容 | 概算費用 | 
| 内視鏡的止血術 | 20,000円〜40,000円 | 
| 輸血 | 1単位あたり8,000円〜10,000円 | 
入院費用
症状が重い場合は入院が必要となり、それに伴う費用が加算されます。
1日あたりの入院費用は、約20,000円〜30,000円程度です。入院期間は通常3日〜1週間程度ですが、個々の症状により変動します。
以上
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