腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)/Abdominal angina(chronic mesenteric artery ischemia)とは、腹部の主要な動脈が狭くなり、腸に十分な血液が行き渡らなくなる病気です。
この状態が長期間続くと、食事の後に激しい腹痛が起こりやすくなり、食事を避けるようになることから栄養不足や体重減少につながることがあります。
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の症状
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の主な症状は、食後の腹痛や体重減少です。これらの症状は、腸への血流不足が原因で起こります。
食後の激しい腹痛
腹部アンギナの最も特徴的な症状は、食後に生じる激しい腹痛です。通常、食事の15〜30分後に始まり、1〜2時間持続します。
痛みの程度は軽度から重度まで様々ですが、食事を恐れるようになるほどの強い痛みが多くのケースで起こります。
この痛みは、上腹部や臍の周りに集中する場合が多いです。
腹痛の特徴 | 詳細 |
発生タイミング | 食後15〜30分 |
持続時間 | 1〜2時間 |
痛みの部位 | 主に上腹部 |
痛みの性質 | 鈍痛や刺すような痛み |
体重減少と食事量の減少
食後の痛みを避けるために食事量を減らすようになった結果、栄養不足や体重減少が引き起こります。
体重減少は緩やかに進行し、数ヶ月から1年以上かけて10%以上の体重が減少するケースもあります。
体重減少は、患者さんの体力低下や免疫機能の低下につながる可能性があるため、注意が必要です。
消化器症状
腹痛以外にも、腸への血流不足による腸管機能の低下が原因で、以下のような消化器症状が現れる場合があります。
- 吐き気や嘔吐
- 下痢や便秘
- 腹部膨満感
- 食欲不振
症状の特徴と注意点
腹部アンギナの症状は、他の消化器疾患と似ているため、診断が難しい場合もあります。
症状のポイント
症状の特徴 | 詳細 |
食事との関連 | 食後に症状が悪化 |
痛みの部位 | 上腹部や臍の周り |
痛みの緩和 | 空腹時や姿勢変更で改善 |
進行性 | 徐々に症状が悪化 |
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の原因
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の主な原因は、腸管への血流が慢性的に減少することです。この血流低下は、主に動脈硬化や血栓形成によって引き起こされます。
リスク因子として、加齢、喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病などが挙げられます。
動脈硬化による血管狭窄
動脈硬化は腹部アンギナの最も一般的な原因で、年齢を重ねるにつれ、腸管に血液を供給する腸間膜動脈の内壁にコレステロールや脂肪、カルシウムなどが蓄積されていきます。
この蓄積により血管内腔が狭くなり、血流が制限され、腸管への十分な酸素や栄養の供給が妨げられます。
特に食後は腸管での血流需要が高まるため、狭窄した血管では十分な血液供給ができず、症状が顕在化しやすくなります。
動脈硬化の進行度合いによっては慢性的な腸管虚血状態を引き起こし、長期的な健康被害をもたらす可能性があります。
血栓形成による血流障害
血液中の凝固因子のバランスが崩れたり、血管内皮が損傷を受けたりすると、血栓が形成されやすくなります。
形成された血栓は、腸間膜動脈を部分的または完全に閉塞し、腸管への血流を著しく減少させます。
血栓の大きさや位置によっては、突然の激しい腹痛や腸管壊死などの深刻な合併症を引き起こす危険性があります。
血栓形成のリスク因子 | 説明 |
高血圧 | 血管壁への負担増加 |
糖尿病 | 血管内皮機能障害 |
喫煙 | 血管収縮と炎症促進 |
脱水 | 血液粘度の上昇 |
その他の血管異常
稀ではありますが、先天的な血管形成異常や血管炎なども腹部アンギナの原因となる場合があります。
腸間膜動脈の走行や分岐に異常が生じていたり、血管壁が慢性的に炎症を起こしていたりすると、血流障害が引き起こされます。
また、大動脈解離や腹部大動脈瘤なども、腸間膜動脈の起始部を圧迫または閉塞することで腹部アンギナの原因となる可能性があります。
リスク因子
腹部アンギナの発症リスクを高める要因には、以下のようなものがあります。
- 加齢(特に60歳以上)
- 喫煙習慣
- 高血圧
- 高コレステロール血症
- 糖尿病
- 肥満
- 運動不足
これらの因子は、動脈硬化の進行や血栓形成のリスクを高め、腹部アンギナの発症に関与します。特に複数のリスク因子を併せ持つ場合、発症リスクが相乗的に高まります。
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の検査・チェック方法
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の検査は、主に腹部超音波検査、CTアンギオグラフィー、MRA(MRアンギオグラフィー)などの画像診断によって、腸管への血流を評価し、動脈の狭窄や閉塞の有無を確認します。
必要に応じて、より詳細な情報を得るために、血管造影検査を行う場合もあります。
画像検査
- CT血管造影(CTA)
- MR血管造影(MRA)
- 超音波検査(腹部エコー)
- 血管造影検査
画像検査では、腸間膜動脈の狭窄や閉塞の程度を詳細に評価できます。
血液検査
血液検査は、炎症マーカーや栄養状態の評価を行い、病態の全体像を把握するために行います。
検査項目 | 評価内容 |
CRP | 炎症の有無と程度 |
血清アルブミン | 栄養状態の指標 |
電解質 | 体内の電解質バランス |
血液検査の結果は、腹部アンギナの診断や重症度の評価に加え、全身状態の把握にも有用です。
臨床診断と確定診断
臨床診断では、典型的な症状と身体診察で得られた所見を総合的に評価し、診断の精度を高めていきます。
臨床診断の要素 | 内容 |
食後の腹痛 | 食後30分〜1時間程度で発生する特徴的な痛み |
体重減少 | 食事量減少に伴う栄養状態の悪化による変化 |
腹部血管雑音 | 聴診器を用いた丁寧な聴診により確認される異常音 |
確定診断に至るためには、腸間膜動脈の狭窄や閉塞の確認が必要です。
血管造影検査は腸間膜動脈の狭窄度を直接的かつ詳細に評価できるため、最終的な診断を下す際の決め手となります。
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の治療方法と治療薬について
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の治療は、薬物療法と血行再建術が主な選択肢です。
治療法 | 特徴 | 主な適応 |
薬物療法 | 低侵襲、症状緩和 | 軽度~中等度の症状 |
血管内治療 | 低侵襲、早期回復 | 局所的な狭窄、軽度~中等度の症状 |
バイパス手術 | 根本的治療、侵襲大 | 広範囲の病変、重度の症状 |
薬物療法による症状管理
主に使用される薬剤には抗血小板薬や抗凝固薬があり、これらは血栓形成を抑制し、血流を改善する働きがあるため、症状の軽減に寄与します。
また、血管拡張薬も用いられるケースがあり、腸管への血流を増加させる効果が期待できるため、虚血による症状の改善に役立ちます。
痛みのコントロールには、鎮痛薬が使用されます。
腹部アンギナの治療に用いられる主な薬剤と作用
薬剤分類 | 主な作用 |
抗血小板薬 | 血小板凝集抑制 |
抗凝固薬 | 血液凝固抑制 |
血管拡張薬 | 血管拡張による血流改善 |
鎮痛薬 | 疼痛緩和 |
血行再建術による根本的治療
血行再建術は、狭窄や閉塞した腸間膜動脈の血流回復が目的です。
血行再建術には主に以下の2つの方法があり、それぞれの特性に応じて選択されます。
- 血管内治療(カテーテル治療)
- 外科的バイパス手術
血管内治療は、カテーテルを用いて狭窄部位を拡張したり、ステントを留置したりする方法です。比較的低侵襲であり、回復も早いという利点があるため、適応となる患者さんが多くいます。
一方、外科的バイパス手術は、人工血管や自家静脈を用いて、狭窄部位を迂回する新たな血行路を作成する方法です。より複雑な病変や、血管内治療が困難な場合に選択されます。
治療後の定期観察
腹部アンギナの治療後は、再狭窄や新たな病変の発生を早期に発見するための定期観察が欠かせません。
定期観察の項目
- 症状の再発や変化の有無
- 血液検査による栄養状態の評価
- 画像検査による血流状態の確認
また、日常生活における注意点や、食事療法についても指導を受ける場合があり、患者さん自身による自己管理も治療の一環として捉えられています。
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の治療期間と予後
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の治療には長期的な取り組みが必要であり、継続的な治療により予後の改善が期待できます。
治療期間の概要
腹部アンギナの治療期間は、症状の重症度や血管の状態、全身状態などによって大きく異なります。
一般的に、初期治療から経過観察まで含めると、以下のような期間が想定されます。
治療段階 | 期間 |
初期治療 | 1〜3か月 |
継続治療 | 6か月〜2年 |
経過観察 | 2年以上 |
多くのケースで、症状の安定化や血流改善のために、少なくとも6か月から1年程度の継続的な治療が必要です。
特に、血管形成術や外科的治療を受けた場合は、術後の回復期間や再狭窄予防のための経過観察が欠かせません。
予後
腹部アンギナの予後は、早期発見・早期治療が行われれば良好です。特に、血行再建術の成功率は高く、多くのケースで症状の改善が見られます。
治療が遅れた場合は腸管壊死につながる可能性が高まるため、症状が悪化する前に医療機関を受診し、検査・治療を受けることが重要です。
また、基礎疾患である動脈硬化の進行を完全に止めることは難しいため、長期的な経過観察と生活習慣の改善も重要となります。
薬の副作用や治療のデメリットについて
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の薬物療法では、血管拡張薬による頭痛やふらつき、抗血小板薬による出血傾向などの副作用があり、血管内治療や外科手術では、出血、感染、血栓などの合併症のリスクがあります。
薬物療法の副作用
薬物療法で使用される抗血小板薬や抗凝固薬には出血のリスクがあり、特に消化管出血には注意が重要です。また、長期使用による副作用として、胃腸障害や肝機能障害が報告されています。
また、血管拡張薬を使用する際は、血圧低下や頭痛などの副作用が生じる場合があります。特に高齢者や心機能低下のある患者さんでは、血圧低下に伴うめまいや失神に注意が必要です。
副作用 | 対策 |
消化管出血 | 定期的な血液検査、内視鏡検査 |
血圧低下 | 血圧モニタリング、投与量調整 |
頭痛 | 症状に応じた鎮痛剤の使用 |
胃腸障害 | 制酸剤の併用、食事指導 |
血管内治療のリスク
血管内治療(カテーテルを用いて狭窄した血管を拡張する方法)には、以下のようなリスクがあります。
- 血管損傷
- 血栓形成
- 造影剤アレルギー
- 腎機能障害
- 再狭窄
特に、造影剤使用による腎機能への影響は慎重に考慮する必要があります。腎機能が低下している患者さんでは、造影剤の使用量を最小限に抑えるなどの対策が取られます。
また、血管内治療後の再狭窄のリスクも考慮する必要があります。再狭窄を予防するために、抗血小板薬の継続的な服用や定期的な画像検査による経過観察が行われます。
外科的治療のリスク
外科的治療では、一般的な手術リスクに加えて、以下のような特有のリスクがあります。
リスク | 説明 |
腸管虚血 | 血流再開後の腸管虚血再灌流障害 |
吻合部狭窄 | バイパスグラフトと血管の接合部の狭窄 |
感染 | 手術部位の感染 |
グラフト閉塞 | バイパスに使用したグラフトの閉塞 |
これらのリスクは、全身状態や手術の複雑さによって変わってきます。特に、高齢者や糖尿病、心疾患などの合併症がある患者さんでは、手術リスクが高くなる傾向です。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
腹部アンギナ(慢性腸間膜動脈虚血症)の治療費は保険適用です。治療法や合併症の有無によって費用は異なり、高額療養費制度の利用も可能です。
保存的治療の費用
治療内容 | 概算費用(3か月) |
薬物療法 | 15,000円~30,000円 |
食事指導 | 5,000円~10,000円 |
定期検査 | 20,000円~40,000円 |
外科的治療の費用
重症例や血管内治療が適さない場合の外科的治療(バイパス手術などの大きな手術)は、入院期間も長くなりがちで、総費用は高額になる傾向です。
しかし、多くの場合保険適用となるため、実際の自己負担額は大幅に抑えられます。
治療法 | 概算総費用 | 保険適用後の自己負担額(3割負担の場合) |
血管内治療 | 80万円~150万円 | 24万円~45万円 |
バイパス手術 | 150万円~300万円 | 45万円~90万円 |
長期的な費用
治療後は、定期的な検査や再発予防のための投薬など、長期的な管理が必要です。また、合併症の有無によっても費用は変動します。
治療費の例
- 術後のリハビリテーション費用
- 栄養指導や生活習慣改善のためのカウンセリング費用
- 合併症治療のための追加医療費
以上
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