急性ウイルス性肝炎

急性ウイルス性肝炎(Acute viral hepatitis)とは、ウイルス感染によって引き起こされる肝臓の炎症です。

A型、B型、C型、E型などの肝炎ウイルスが主な原因で、数週間から数か月の経過で自然に回復することが多いですが、重症化する例もあります。

目次

急性ウイルス性肝炎の症状

急性ウイルス性肝炎では、突然現れる発熱、倦怠感、食欲不振、黄疸などが特徴です。

症状A型・E型B型・C型
症状の強さ比較的強い軽度か無症状が多い
経過4〜8週間程度慢性化のリスクあり
黄疸現れやすい軽度か現れないことも

ウイルス型によって症状が違う

急性ウイルス性肝炎の症状は、原因となるウイルスの型によって異なります。

A型肝炎ウイルスによる急性肝炎は重い症状を引き起こすことが多く、突然の発熱や強い倦怠感、食欲不振などが特徴です。

一方、E型肝炎ウイルスによる急性肝炎はA型に似た症状を示しますが、一般的に症状は軽いです。

B型やC型肝炎ウイルスによる急性肝炎は、無症状か軽度の症状にとどまることが多いですが、まれに重症化するケースもあります。

ウイルス型症状の特徴
A型突然の発熱、強い倦怠感、食欲不振
B型無症状か軽度の症状が多い
C型無症状か軽度の症状が多い
E型A型に似るが、やや軽度

初期症状

急性ウイルス性肝炎の初期症状は一般的な風邪やインフルエンザに似ていますが、ウイルスの型によって発症の仕方や症状の強さが異なります。

A型やE型では、他の型と比べて発熱や倦怠感、頭痛、筋肉痛などの初期症状が顕著に現れることが多いです。

症状は軽度から中程度のものが多く数日間続きますが、個人差が大きいのも特徴の一つです。

消化器系の症状

A型やE型肝炎では、食欲不振や吐き気、嘔吐、腹痛など、消化器系の症状が現れます。

下痢や便秘になる場合もあり、症状が長引く場合は脱水症状を起こす危険性があります。

黄疸

黄疸は急性ウイルス性肝炎の代表的な症状の一つで、皮膚や白目の黄色い変色が特徴です。

肝臓の機能が低下し、ビリルビンという物質が体内に蓄積されることで起こります。

A型やE型肝炎では黄疸が早期に現れますが、B型やC型では黄疸が現れない、もしくは軽度にとどまることも多いです。

その他の症状

  • かゆみ
  • 関節痛
  • 筋肉痛
  • めまい
  • 疲労感

無症状の場合もある

急性ウイルス性肝炎になっても、ほとんど症状が現れないケースがあります。

特にB型やC型肝炎では無症状または軽症で経過することが多く、気づかないうちに慢性化してしまうリスクがあります。

急性ウイルス性肝炎の原因

急性ウイルス性肝炎の主な原因は、A型からE型まで5種類存在する肝炎ウイルスの感染によるものです。

それぞれ異なる経路で体内に侵入し、肝臓に炎症を引き起こします。

主な肝炎ウイルスと感染経路

ウイルス主な感染経路
A型肝炎ウイルス経口感染
B型肝炎ウイルス血液・体液感染
C型肝炎ウイルス血液感染
D型肝炎ウイルスB型肝炎ウイルスとの重複感染
E型肝炎ウイルス経口感染

経口感染するA型肝炎ウイルス・E型肝炎ウイルス

A型肝炎ウイルスとE型肝炎ウイルスは、主に経口感染によって広がります。

汚染された食品や水を摂取することで体内に入り込むため、特に衛生状態が悪い地域では感染リスクが高くなります。

血液を介して感染するB型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス

B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して感染します。

感染者との性的接触、感染した母親から新生児への母子感染、汚染された注射器の使用、医療行為中の事故(針刺し事故)などの状況で感染する可能性があります。

慢性化しやすい特徴があるため、感染した場合は長期間の治療が必要となるのが一般的です。

D型肝炎ウイルス

単独では増殖できずB型肝炎ウイルスの存在が必要となるため、D型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスと共に感染することが特徴です。

両方のウイルスに感染すると、肝臓への負担が大きくなります。

急性ウイルス性肝炎の検査・チェック方法

急性ウイルス性肝炎の検査では、血液検査で肝機能やウイルスに対する抗体などを調べ、画像検査で肝臓の状態を確認し肝炎のタイプや重症度を診断します。

血液検査

血液検査での主な検査項目は以下の通りです。

検査項目主な目的
AST (GOT)肝細胞障害の評価
ALT (GPT)肝細胞障害の評価
γ-GTP胆道系酵素の評価
総ビリルビン黄疸の程度の評価

血液検査の結果から肝機能の状態を把握し、肝炎の程度や進行状況を判断していきます。

ウイルス抗原・抗体検査

急性ウイルス性肝炎の原因となるウイルスを特定するため、特異的な抗原や抗体の検査を実施します。

代表的な検査項目

  • HBs抗原・抗体(B型肝炎ウイルス)
  • HCV抗体(C型肝炎ウイルス)
  • IgM-HA抗体(A型肝炎ウイルス)
  • HEV-IgA抗体(E型肝炎ウイルス)

画像診断

腹部超音波検査やCT検査などの画像診断では、肝臓の腫大や脂肪肝の有無、他の肝疾患の可能性を確認します。

画像検査主な目的
腹部超音波肝臓の形態や内部構造の確認
CT検査肝臓の詳細な形態評価
MRI検査より精密な肝臓の状態評価

急性ウイルス性肝炎の治療方法と治療薬について

急性ウイルス性肝炎の治療は、原因ウイルスの種類や症状の程度に応じて安静や対症療法が中心となります。

治療の基本方針

急性ウイルス性肝炎の治療では、まずは安静にすることが重要となります。体を休めることで肝血流量を増加させ、肝臓の回復を促進します。

多くのケースで入院治療が必要ですが、症状が軽度の場合は自宅療養も可能です。

過度の安静は筋力低下を招くおそれがあるため、医師の指示に従って徐々に活動量を増やしていくことを推奨しています。

対症療法

症状に応じて対症療法を行います。

  • 発熱や倦怠感に対する解熱鎮痛剤の投与
  • 吐き気や食欲不振に対する制吐剤の使用
  • かゆみに対する抗ヒスタミン薬の処方など

抗ウイルス薬による治療

B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスによる急性ウイルス性肝炎では、抗ウイルス薬による治療が効果的な場合があります。

ウイルスの種類主な抗ウイルス薬
B型肝炎エンテカビル
C型肝炎ソホスブビル/レジパスビル

抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑制し、肝臓の炎症を軽減する効果があるため、症例に応じて使用を検討します。

急性ウイルス性肝炎の治療期間と予後

急性ウイルス性肝炎の治療期間は通常2〜3ヶ月程度で、ほとんどの場合は完治し良好な予後が期待できます。

ただし重症化や慢性化のリスクもあるため、経過観察が必要です。

治療期間

軽症から中等症の場合は、2〜3ヶ月程度で症状が改善するケースが多いです。ただし、重症例や合併症がある場合には、より長期の治療が必要な場合もあります。

症状の程度一般的な治療期間
軽症1〜2ヶ月
中等症2〜3ヶ月
重症3ヶ月以上

予後の見通し

急性ウイルス性肝炎の予後は多くの場合良好であり、治療と休養によって大半の方は完全に回復できます。

ただし、一部では慢性化や重症化のリスクがあります。

高齢の方や基礎疾患がある方、治療の開始が遅れた場合は注意が必要となります。

治療後の経過観察

急性ウイルス性肝炎からの回復後も、再発や慢性化のリスクを早期に発見するため、定期的な経過観察が欠かせません。

経過観察の期間は、通常6ヶ月から1年程度続けられることが多いです。

経過観察項目頻度
肝機能検査1〜3ヶ月ごと
ウイルス検査3〜6ヶ月ごと
腹部超音波検査6ヶ月〜1年ごと

薬の副作用や治療のデメリットについて

急性ウイルス性肝炎の治療には、抗ウイルス薬の副作用や長期的な肝機能障害のリスクがあります。

抗ウイルス薬の副作用

急性ウイルス性肝炎の治療に用いられる抗ウイルス薬には、以下のような副作用があります。

副作用症状
消化器症状吐き気、下痢、食欲不振
精神神経症状不眠、うつ、めまい
皮膚症状発疹、かゆみ

副作用は個人差が大きく、軽度で一時的なものから治療の中断を要する重度のものまで様々です。

また、抗ウイルス薬による治療は肝機能に影響を与える可能性があるため、治療中は定期的な肝機能検査が必要です。

免疫系への影響

急性ウイルス性肝炎の治療に用いられる薬剤の中には免疫系に影響を与えるものがあり、他の感染症にかかりやすくなったり自己免疫疾患のリスクが高まる恐れがあります。

全身状態を考慮しながら、免疫機能のバランスを保つことが治療上の課題になります。

薬物相互作用

急性ウイルス性肝炎の治療薬と他の薬剤との相互作用にも注意が必要で、特に以下のような薬剤との併用には注意が必要です。

併用薬起こりうる相互作用
抗凝固薬出血リスクの増加
免疫抑制剤免疫機能の過度な低下
降圧薬血圧コントロールの悪化

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

急性ウイルス性肝炎の治療費は保険が適用されるため、自己負担は軽減されます。

治療費が高額になる可能性が高いことから、B型・C型ウイルス性肝炎治療では医療費の助成が受けられます。

詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。

入院費用の内訳

急性ウイルス性肝炎の治療で入院が必要となった場合、以下のような費用が発生します。

  • 入院基本料
  • 検査料(血液検査、画像診断など)
  • 投薬料
  • 注射料
  • 食事療養費

具体的な費用は入院期間や治療内容によって変動しますが、1日あたりの入院基本料は1~2万円程度となるのが一般的です。

外来治療の費用

項目概算費用(保険適用前)
血液検査5,000円~10,000円
腹部超音波検査5,000円~8,000円
薬剤費5,000円~20,000円

これらの費用も保険適用されるため、実際の自己負担額はこの3割程度となります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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