急性肝不全

急性肝不全(Acute Liver Failure)とは、突然肝臓の機能が著しく低下し、数日から数週間という短期間で進行する深刻な病態です。

通常の肝炎とは異なり、急性肝不全では肝臓が体内の毒素を処理できなくなり、さまざまな臓器に影響を与えます。

早期発見と迅速な対応が予後を大きく左右するため、症状に気づいたら直ちに医療機関を受診することが大切です。

目次

急性肝不全の病型

急性肝不全は、症状の進行速度や重症度によって非昏睡型急性肝不全、昏睡型急性肝不全(急性型、亜急性型)に分けられます。

病型意識障害進行速度
非昏睡型なし比較的遅い
昏睡型(急性型)あり非常に速い
昏睡型(亜急性型)あり中程度

非昏睡型急性肝不全

非昏睡型急性肝不全は比較的軽度の急性肝不全を指し、意識障害が現れず、肝臓の機能低下は見られるものの脳への影響は限定的な病型です。

早期発見・早期対応により、回復の見込みが高いとされています。

昏睡型急性肝不全

昏睡型急性肝不全はより重症度の高い病型で、意識障害が現れるのが特徴です。肝臓の機能がより深刻に低下し、脳への影響も大きくなります。

急性型と亜急性型に分けられ、それぞれ以下のような特徴があります。

急性型発症から肝性脳症の出現まで10日以内で進行し、予後が不良な場合が多いため、迅速な対応必要です。
亜急性型発症から肝性脳症の出現まで11日以上56日以内で進行し、急性型よりも緩やかです。治療により回復する可能性があります。

※昏睡型急性肝不全で肝炎(ウイルス性、薬物性、自己免疫性など)を伴うものを劇症肝炎といいます。

日本では、急性肝不全の年間発症数は約1,000~1,200人と推定されています。決して多くはありませんが、迅速な対応が必要な深刻な状態であるため、症状に気づいたら速やかに医療機関を受診してください。

急性肝不全の症状

急性肝不全の症状は黄疸、倦怠感、腹痛、吐き気、嘔吐、意識障害など多岐にわたり、肝臓の機能が急激に低下する深刻な状態です。

初期症状

急性肝不全の初期症状では、強い倦怠感、食欲不振や吐き気、嘔吐などの消化器症状が現れます。

一般的な体調不良と似ているため見逃されやすく、他の病気でも見られる症状が多いですが、急速な進行が特徴です。

特徴的な症状

特徴的な症状は「黄疸」で、皮膚や白目が黄色くなる症状です。肝臓の機能が低下すると、ビリルビンという物質が体内に蓄積され、黄疸として現れます。

また、右上腹部の痛みや不快感を感じる方も多く、これは肝臓の腫れや炎症によるものです。

進行した場合の症状

急性肝不全が進行するとより深刻な症状が現れ、意識障害は重要な警告サインの一つです。軽度の混乱から昏睡状態まで、さまざまな程度の意識障害が起こります。

出血傾向も見られ、鼻血が止まりにくくなったり、皮膚に小さな出血斑が現れたりします。

症状の段階主な症状
初期倦怠感、食欲不振、吐き気
特徴的黄疸、右上腹部痛
進行時意識障害、出血傾向

急性肝不全の症状は個人差があり、すべての症状が現れるわけではありませんが、症状が複数現れる場合はすぐに医療機関を受診することが大切です。

注意が必要な症状
  • 原因不明の強い倦怠感が続く
  • 急に黄疸が現れた
  • 右上腹部に持続的な痛みがある
  • 吐き気や嘔吐が治まらない

急性肝不全の原因

急性肝不全は、ウイルス性肝炎、薬物性肝障害、アルコール性肝障害、自己免疫性肝炎など、さまざまな要因が関与しています。

急性肝不全を引き起こす要因

急性肝不全の主な原因は、ウイルス性肝炎です。特に、B型肝炎ウイルスやA型肝炎ウイルスによる感染が急性肝不全につながることがあります。

日本では、B型肝炎ウイルスによる急性肝不全が他の先進国と比べて比較的多く見られます。

また、薬物性肝障害も急性肝不全の原因です。 一部の医薬品や健康食品、サプリメントなどが肝臓に悪影響を与え、急激な機能低下を招くケースが報告されています。

原因リスク要因
ウイルス性肝炎不衛生な環境での飲食、感染者との接触
薬物性肝障害処方薬の過剰摂取、健康食品の不適切な使用
アルコール性肝障害習慣的な過度の飲酒、短期間の大量飲酒
自己免疫性肝炎遺伝的要因、環境因子

過度のアルコール摂取も肝臓に大きな負担をかけ、急性肝不全を引き起こします。 長期的な飲酒習慣だけでなく、短期間の大量飲酒でも発症することがあるため注意が必要です。

まれなケースとして、妊娠に関連した急性脂肪肝や、ウィルソン病などの遺伝性疾患が原因となることもあります。

急性肝不全の検査・チェック方法

急性肝不全の診断では、血液検査や画像検査、肝生検などを行います。

診察と検査の流れ

血液検査で肝機能を示す酵素や凝固因子、ビリルビンなどの値を調べます。値が通常よりも高くなっていると、肝臓の機能低下が疑われます。

画像検査では、超音波検査やCT、MRIなどを使って肝臓の大きさや形状、内部の状態を調べ、肝臓の腫れや萎縮、血流の変化などを見つけます。

また、状況に応じて肝生検が行われることもあります。肝生検では肝臓の一部を採取し、肝臓の細胞の状態や炎症の程度を直接確認します。

急性肝不全の診断に用いられる主な指標

指標正常値からの変化
プロトロンビン時間延長
総ビリルビン値上昇
肝臓酵素(AST、ALT)著しい上昇
血清アンモニア値上昇

上記の指標が急激に悪化し、肝性脳症などの症状が現れた時点で急性肝不全が強く疑われます。

診断基準

  • 肝疾患の既往がない、または6ヶ月以内に発症した肝障害
  • 肝機能の急激な低下
  • 凝固異常(プロトロンビン時間の延長)
  • 意識障害(肝性脳症)の出現

急性肝不全の治療方法と治療薬について

急性肝不全の治療では、原因の除去や肝機能のサポート、合併症の管理が中心です。重症度に応じて薬物療法、肝移植も検討します。

急性肝不全の治療

まず、原因となる物質の排除や中止が第一となります。例えば、薬物性の場合は原因薬剤の服用を直ちに中止し、体内からの排出を促します。

次に肝臓の機能をサポートする治療を行い、肝細胞の回復を促進します。肝機能を助ける薬剤の投与や、状況によっては人工肝補助装置の使用を検討し、肝臓の負担を軽減します。

また、合併症の予防や管理も重要です。脳浮腫や感染症などの合併症に対して処置を行い、全身状態の安定を図ります。

内科的治療では改善が見込めない重症例の場合は、肝移植を検討します。

急性肝不全の主な治療薬

治療薬の種類主な効果使用目的
グルカゴン肝再生促進肝細胞の修復
インスリン肝再生促進代謝改善
抗凝固薬血液凝固異常改善出血予防
アミノ酸製剤肝性脳症の改善意識障害の軽減
抗生物質感染症予防・治療二次感染の防止

グルカゴンやインスリンは肝臓の再生を促進する効果があり、肝細胞の修復を助ける目的で投与します。

また、抗凝固薬は肝不全に伴う血液凝固異常を改善するために使い、出血のリスクを軽減します。

急性肝不全の治療期間と予後

急性肝不全の治療は、一般的に入院が必要です。入院期間は患者さんの状態によって大きく異なりますが、2週間から3か月程度が目安となります。

また、退院後も外来での定期的な診察や検査が続きます。完全な回復までには、退院後数か月から1年程度かかることもあります。

回復の見込みについて

要因回復率
原因が特定され、早期に治療開始約70-80%
原因不明または治療開始が遅れた場合約30-50%
肝移植を受けた場合約70-90%

急性肝不全患者の全体的な生存率は約60%とされていますが、この数字は年々改善傾向にあり、医療技術の進歩とともに回復の見込みも向上しています。

急性肝不全は重篤な状態ですが、早期に治療が開始できれば回復の可能性は十分にあります。気になる症状がある場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。

薬の副作用や治療のデメリットについて

急性肝不全の治療では、どの治療法にも副作用が生じる可能性があります。

治療法主な副作用
薬物療法消化器症状、アレルギー反応
肝臓移植拒絶反応、感染症のリスク

薬物療法では、吐き気や下痢などの消化器症状が現れることがあります。

また、肝臓移植を行う場合は手術に伴うリスクや移植後の拒絶反応などが起こる可能性があり、長期的な経過観察が必要です。

感染症のリスク

急性肝不全の治療で特に注意が必要なのは、感染症のリスクです。

治療中は免疫力が低下することがあるため、通常なら問題にならない細菌やウイルスによる感染症にかかりやすくなり、重症化する恐れもあります。

また、長期的な薬の使用による副作用も懸念されます。例えば、ステロイド薬の長期使用は骨粗しょう症や糖尿病のリスクが高くなります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

急性肝不全の治療費は高額になりますが、健康保険が適用されるため自己負担は軽減されます。

治療費の目安

項目概算費用
入院費(1日あたり)2〜5万円
血液検査(1回あたり)5,000〜1万円
CT検査1〜3万円
薬剤費(1日あたり)1〜3万円

健康保険が適用されると、自己負担は通常1~3割になります。高額療養費制度を利用すると自己負担額の上限が設定されるため、さらに負担が軽減されます。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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