好酸球性食道炎(Eosinophilic esophagitis:EoE)とは、食道に炎症が慢性的に起こる病気です。
アレルギー反応によって、白血球の一種である好酸球が食道にたくさん集まることが原因だと考えられています。
胸やけ、胸の痛み、嚥下困難(飲み込みにくさ)、食べ物が詰まったような感覚などが主な症状で、放置すると食道が狭くなったり硬くなったりする変化が進み、QOL(生活の質)が大幅に下がる可能性があります。
好酸球性食道炎(EoE)の症状
好酸球性食道炎は食道の炎症を引き起こし、日常生活に支障をきたす症状が現れます。症状は軽症から重症まで幅広く見られ、個人差が大きいです。
- 嚥下困難
- 食道の詰まり感
- 胸やけや胸痛
- 吐き気や嘔吐
- 体重減少
嚥下困難
好酸球性食道炎では、食べ物や飲み物を飲み込むのが難しくなる嚥下困難がよく見られます。 食道の炎症が原因で、食べ物が詰まった感覚やのどに違和感を感じるのが特徴です。
症状 | 詳細 |
嚥下困難 | 食べ物や飲み物を飲み込むのが難しい |
食道の詰まり感 | 食べ物が詰まった感じがする |
胸やけや胸痛
また、EoEでは胸やけや胸の痛みを感じるケースがよくあります。 食道の炎症によって引き起こされるもので、食事の後に起こりやすい傾向です。
吐き気や嘔吐
吐き気や嘔吐も食道の炎症が原因で起こる症状の一つで、食後の発生が多いです。
症状 | 詳細 |
吐き気 | 食事の後に吐き気を感じる |
嘔吐 | 食べたものを吐いてしまう |
体重減少
嚥下困難や食事に伴う不快感から食事量が減り、体重が減少がみられる場合もあります。 特に小児の患者さんで顕著に見られる症状です。
好酸球性食道炎(EoE)の原因
好酸球性食道炎の原因は複雑で、アレルギー、遺伝、免疫異常、環境因子などが複雑に絡み合っていると考えられています。
アレルギーとの関連性
食物アレルギーや環境アレルギーが、好酸球性食道炎の発症に大きく関与していると考えられています。
特に、牛乳、小麦、大豆、卵、ピーナッツなどの食物アレルギーの報告が多いですが、花粉やダニなどの吸入アレルゲンも好酸球性食道炎の原因です。
アレルゲンの種類 | 具体例 |
食物アレルゲン | 牛乳、小麦、大豆、卵、ピーナッツなど |
吸入アレルゲン | 花粉、ダニなど |
遺伝的素因
特定の遺伝子多型が、好酸球性食道炎の発症リスクを高めることが報告されています。
しかし、遺伝的素因だけで好酸球性食道炎が発症するわけではなく、環境因子との相互作用が重要であると考えられています。
免疫系の異常
好酸球性食道炎では、食道への好酸球の浸潤が特徴的な所見です。この好酸球の浸潤は、免疫系の異常によって引き起こされると考えられています。
具体的には、以下のような免疫学的な異常の関与が指摘されています。
免疫学的異常 | 説明 |
Th2型免疫応答の亢進 | アレルギー反応に関与するT細胞の活性化 |
サイトカイン産生増加 | 炎症を誘導するタンパク質の過剰産生 |
上皮バリア機能の破綻 | 食道粘膜の防御機能の低下 |
環境因子の影響
食生活の変化や、衛生環境の改善などの環境因子も好酸球性食道炎の発症に関与している可能性があります。
好酸球性食道炎(EoE)の検査・チェック方法
好酸球性食道炎は、問診、内視鏡検査、生検、病理学的検査を組み合わせて総合的に判断します。
臨床的に好酸球性食道炎の可能性が高いときは、食道粘膜の複数箇所から組織を採取し、顕微鏡で詳しく調べて確定診断につなげます。
内視鏡検査
内視鏡検査では、食道粘膜の腫れ、縦の溝、白い斑点、狭窄などの特徴的な所見がみられるかどうかがチェックポイントです。
これらの所見は診断の手がかりになりますが、確定診断のためには組織を採取して顕微鏡で調べる必要があります。
生検と病理学的検査
検査 | 目的 |
内視鏡検査 | 食道粘膜の肉眼的観察 |
病理学的検査 | 好酸球浸潤の評価と確定診断 |
内視鏡検査で好酸球性食道炎が疑われるときは、食道粘膜の複数箇所(通常は下部、中部、上部食道の3か所以上)から組織を採取します。
採取した組織を顕微鏡で詳しく調べ、粘膜の表面に好酸球がどのくらい集まっているかを評価します。1視野あたり15個以上の好酸球がみられれば、好酸球性食道炎と確定診断されます。
他疾患との鑑別
好酸球性食道炎の診断では、以下の病気との区別が大切です。
- 胃食道逆流症(GERD)
- 好酸球性胃腸炎
- 感染性食道炎
- クローン病
これらの病気でも、好酸球性食道炎と似た症状や内視鏡所見がみられる場合があります。
好酸球性食道炎(EoE)の治療方法と治療薬について
好酸球性食道炎の治療では、アレルゲンの特定と除去、薬物療法、内視鏡的拡張術を組み合わせた多角的なアプローチが必要です。
食事療法によるアレルゲン除去
好酸球性食道炎の治療で最も重要なのは、原因となる食物アレルゲンの特定と除去です。
食物アレルゲンの特定方法 | 皮膚プリックテスト、特異的IgE検査、食物除去試験 |
主なアレルゲン食品 | 牛乳、小麦、大豆、卵、ナッツ類 |
アレルゲンとなる食品を徹底的に排除する除去食療法により、症状の改善と組織学的な寛解が期待できます。
薬物療法
好酸球性食道炎の薬物療法では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、局所ステロイド薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬などが処方されます。
薬剤 | 作用機序 |
PPI | 胃酸分泌抑制 |
局所ステロイド薬 | 抗炎症作用 |
ロイコトリエン受容体拮抗薬 | ロイコトリエンによる炎症抑制 |
内視鏡的拡張術
食道狭窄が進行した好酸球性食道炎の患者さんに対しては、内視鏡的バルーン拡張術やブジー拡張術が有効です。拡張術によって食道内腔を広げて、嚥下困難や食物のつかえ感といった症状を改善します。
拡張術は狭窄の解除には有効ですが、好酸球性食道炎の根本的な治療ではないため、アレルゲン除去や薬物療法との併用が必要です。
長期的な管理
好酸球性食道炎は慢性的な疾患であるため、継続的な管理が必要です。定期的な内視鏡検査を行い、食道粘膜の状態を評価して治療効果を判定します。
また、アレルゲン除去と薬物療法を長期的に継続し、症状の再燃を防ぎます。
好酸球性食道炎(EoE)の治療期間と予後
好酸球性食道炎の治療期間は、炎症の程度や治療への反応性によって変わってきます。
治療期間の目安
症状が軽度の場合は食事療法のみで改善する人もいますが、重症の場合、薬物療法を長期にわたって継続する必要がある人もいます。
炎症の程度 | 治療期間の目安 |
軽度 | 3〜6ヶ月 |
中等度 | 6〜12ヶ月 |
重度 | 1年以上 |
予後
好酸球性食道炎は治療を受ければ、長期的に良好な予後が得られる慢性疾患です。ほとんどの場合で、治療により症状をコントロールし、正常な生活を送ることができます。
ただし、以下のような合併症のリスクがわずかにあります。
- 食道狭窄:食道が狭くなり、嚥下困難を引き起こす
- 食道潰瘍:食道の内壁にできる小さな傷
- 食道がん:まれに、EoEが食道がんのリスクを高める可能性があります
合併症のリスクを減らすためには、定期的な経過観察と治療が重要です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
好酸球性食道炎の治療は、副作用やリスクが伴います。
ステロイド薬の副作用
ステロイド薬は好酸球性食道炎の炎症を抑える効果がありますが、長期使用による副作用のリスクがあります。
副作用 | 症状 |
骨粗鬆症 | 骨密度の低下、骨折リスクの増加 |
易感染性 | 感染症にかかりやすくなる |
高血糖 | 血糖値の上昇、糖尿病の悪化 |
体重増加 | 体脂肪の蓄積、肥満 |
食物除去療法の課題
好酸球性食道炎の原因となるアレルゲンを特定し、食事から除去する食物除去療法は有効な治療法ですが、以下のような課題があります。
- 除去食の継続が困難な場合がある
- 栄養バランスが偏る可能性がある
- アレルゲンの特定が難しいことがある
内視鏡検査の合併症
好酸球性食道炎の診断や治療効果の評価には内視鏡検査が不可欠ですが、まれに以下のような合併症が起こる可能性があります。
合併症 | 頻度 |
出血 | 0.3~1.0% |
穿孔 | 0.1~0.5% |
感染症 | 0.1~0.5% |
プロトンポンプ阻害薬(PPI)の副作用
PPIは好酸球性食道炎の症状を改善する効果がありますが、長期使用による副作用のリスクがあります。
- 低マグネシウム血症
- 腎機能障害
- クロストリジウム
- ディフィシル感染症
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
治療費の内訳
- 診察料
- 検査費用(内視鏡検査、血液検査、アレルギー検査など)
- 薬剤費(ステロイド剤、プロトンポンプ阻害薬など)
- 食事療法の指導料
これらの費用は、患者さんの症状や治療の方針によって変わります。
項目 | 費用の目安 |
診察料 | 5,000円~10,000円 |
内視鏡検査 | 20,000円~50,000円 |
保険適用の有無
好酸球性食道炎の治療では、保険が適用される場合と適用されない場合があります。 保険が適用されるための条件は以下の通りです。
- 症状が重くて、日常生活に支障をきたしている
- ステロイド剤の内服が必要とされる
- 食道が狭くなっていて、内視鏡で拡張する処置が必要とされる
一方で、症状が軽かったり、食事療法だけで管理できたりする場合は、保険の適用外となる場合があります。
治療費の例
重症度 | 治療内容 | 月額費用の目安 |
軽症 | 食事療法のみ | 1万円程度 |
中等症 | ステロイド剤の内服 | 5万円程度 |
重症 | 内視鏡的拡張術 | 100万円以上(入院費用含む) |
これらはあくまでも一例であって、実際の治療費は一人ひとりのケースによって異なります。
以上
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