肝内(胆管)結石(Intrahepatic cholelithiasis)とは、肝臓内の胆管に結石ができる病気です。
胆汁は肝臓で生成され、胆管を通って十二指腸に排出されますが、胆管内に結石が形成されると胆汁の流れを妨げます。
右上腹部の痛みや発熱、黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄色くなる症状)が典型的な症状です。
肝内(胆管)結石の病型
肝内(胆管)結石は胆石症のひとつで、胆石症は発生部位により大きく3つに分けることができます。
肝内結石は肝臓内の胆管に形成される結石で、解剖学的位置の特徴から、診断や治療に特殊な技術や機器が必要です。また、他の胆石と比べて再発率が高いことも特徴です。
構成成分による分類
肝内結石は、その構成成分によっても分類されます。肝内結石の中で最も多く見られるのは、ビリルビンカルシウム結石です。
- ビリルビンカルシウム結石:ビリルビンとカルシウムを主成分とする
- コレステロール結石:コレステロールを主成分とする
- 混合石:上記の成分が混在する
肝内(胆管)結石の症状
肝内結石の代表的な症状には、右上腹部の激しい痛み、38度を超える高熱、そして皮膚や眼球が黄色く変色する「黄疸」があり、周期的に繰り返し症状が出現します。
肝内結石の主な症状
肝内結石では右上腹部に激しい痛みが突然起こり、数時間から数日間にわたって続きます。背部や右肩甲部にまで痛みが波及することも多いです。
主要症状 | 症状の特徴 |
右上腹部痛 | 急性または慢性的、放散痛を伴う |
高熱 | 38度以上の発熱が出現する場合も |
黄疸 | 皮膚や眼球の強膜が黄色くなる |
肝内結石に随伴する症状
- 強い吐き気や嘔吐
- 著しい食欲低下
- 全身のだるさや倦怠感
- 徐々に体重減少が進行する
肝内結石症状の変動性と再発
肝内結石の症状は、一時的な改善(寛解)と悪化(再燃)を繰り返すことが特徴的なパターンとなります。
症状の特性 | 出現頻度 |
再発性 | 非常に高い |
持続性 | 中程度 |
進行性 | 比較的低い |
肝内(胆管)結石の原因
肝内(胆管)結石の主な原因は、胆汁の停滞と胆管の狭窄です。なぜ起こるのかについては正確には解明されていませんが、胆道感染や胆管の異常、食生活などが関係していると考えられています。
主な原因・リスク要因
- 胆管の解剖学的異常(先天的な形成異常や後天的な狭窄)
- 慢性的な胆管炎や胆道感染
- 高脂肪・高コレステロール食の継続的な摂取
- 不規則な食生活や長期の絶食
- 遺伝的素因(特定の遺伝子変異)
- アジア人に多い(人種的要因)
- 肥満や急激な体重減少
- 妊娠や経口避妊薬の使用(ホルモンバランスの変化)
胆汁の停滞と結石形成
肝内(胆管)結石は、胆汁の流れが滞ることで発生します。
通常、胆汁は肝臓で生成され、胆管を通って十二指腸に排出されます。しかし、何らかの理由でこの流れが妨げられると、胆管内に胆汁が滞留してしまいます。
この停滞した胆汁中のコレステロールや色素(ビリルビンなどの色素成分)が結晶化すると、時間とともに大きくなって結石を形成します。
胆管の狭窄と解剖学的要因
胆管の狭窄(きょうさく:管が狭くなること)があると、胆汁の流れが妨げられ、結石ができやすくなります。
この狭窄には先天的なものと後天的なものがあり、先天的な要因としては、胆管の形成異常が挙げられます(生まれつき胆管の構造に問題がある状態)。
一方、後天的な要因には、慢性的な炎症や感染、手術後の癒着などがあります。
狭窄の種類 | 主な原因 | 特徴 |
先天的 | 胆管の形成異常 | 生まれつきの構造的問題 |
後天的 | 慢性炎症、感染、手術後の癒着 | 時間とともに発生する問題 |
感染と炎症
胆管内の細菌感染や慢性的な炎症のある方の場合は、胆管壁が傷つき、胆汁の性状を変化させることがあります。この胆汁には結石の核となる物質を含む場合があり、結石形成を促進します。
また、感染によって胆管内のpH(酸性度)が変化し、胆汁中の成分が析出(せきしゅつ:溶けていた成分が固体として分離すること)しやすくなることもあります。
食生活・生活習慣
高脂肪食や高コレステロール食は、胆汁中のコレステロール濃度を上昇させるため、結石形成のリスクが高くなります。特に、動物性脂肪の過剰摂取は注意が必要です。
生活習慣要因 | 結石形成への影響 | 予防策 |
高脂肪食 | コレステロール濃度上昇 | バランスの取れた食事 |
不規則な食事 | 胆汁停滞のリスク増加 | 規則正しい食生活 |
脱水 | 胆汁の流れ低下 | 十分な水分摂取 |
運動不足 | 胆嚢の収縮低下 | 適度な運動習慣 |
遺伝的要因と人種差
特にアジア人は、欧米人と比較して肝内結石の発生率が高いことが知られています。また、遺伝的に胆汁の組成が結石を形成しやすい場合もあります。
肝内(胆管)結石の検査・チェック方法
肝内(胆管)結石の検査では、血液検査、画像診断、内視鏡検査などを実施します。
血液検査による評価
検査項目 | 主な評価内容 |
肝機能検査 | AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、ALP(アルカリホスファターゼ)、γ-GTP(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)など |
炎症マーカー | CRP(C反応性タンパク)、白血球数 |
胆道系酵素 | 総ビリルビン、直接ビリルビン |
血液検査では、肝臓や胆道系の機能異常や炎症の程度を調べます。特に胆道系酵素の上昇は、胆汁うっ滞や胆管炎を示唆するサインとなります。
画像診断
画像診断では、状況に応じて以下の検査を実施していきます。
- 腹部超音波検査
- CT(コンピュータ断層撮影:体の断面を撮影する検査)
- MRI(磁気共鳴画像法:強い磁気を用いて体内の様子を撮影する検査)
- MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影:MRIを用いて胆管と膵管を詳しく観察する検査)
中でも、MRCPは体を傷つけずにに胆管系の詳細な画像を得られるため、診断に大変有用です。
内視鏡検査による確定診断
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP:内視鏡を用いて胆管と膵管を造影する検査)では、十二指腸内視鏡を使って直接胆管を造影し、結石の存在や胆管の状態を調べることができます。必要に応じ、組織生検や治療的処置も同時に実施できます。
また、超音波内視鏡(EUS)は小さな結石の検出に優れた検査となります。
検査名 | 特徴 |
ERCP | 胆管の直接造影、組織生検が可能 |
EUS(超音波内視鏡) | 胆管壁や周囲組織の詳細な観察が可能 |
肝内(胆管)結石の治療方法と治療薬について
肝内(胆管)結石の治療は、結石の除去と再発予防を主な目的とし、内視鏡的治療や外科的治療、薬物療法を組み合わせて実施します。
治療法 | 適応 | 利点 | 注意点 |
内視鏡的治療 | 胆管へのアクセスが可能な症例 | 低侵襲、早期回復が可能 | 技術的難易度が高い場合がある |
外科的治療 | 内視鏡的治療が困難な症例 | 根治的、再発予防効果が高い | 身体への負担が大きい、慎重な適応判断が必要 |
薬物療法 | 全ての症例 | 非侵襲的、長期的な再発予防が可能 | 長期服用が必要 |
内視鏡的治療
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は内視鏡を用いて胆管に直接アプローチし、結石を除去します。体への負担が比較的少ないため、多くの症例で第一選択となっています。
結石が大きく、そのままでは除去が困難な場合は、電気水圧衝撃波結石破砕術(EHL)やレーザー結石破砕術を併用することがあります。
治療法 | 特徴 | 適応 |
ERCP | 低侵襲、直接的な結石除去 | 多くの肝内結石症例 |
EHL | 大きな結石の破砕に有効 | 通常のERCPで除去困難な大結石 |
外科的治療
内視鏡的治療が技術的に困難な場合や、胆管狭窄が顕著で内視鏡的アプローチが適さない場合には、外科的治療を選択します。
主な方法
- 肝切除術:結石が局在する肝区域を外科的に切除する方法です。
- 胆管空腸吻合術:胆汁の流れを改善し、結石の再発を防ぐ目的で行う手術です。特に胆管狭窄を伴う症例で効果的です。
薬物療法
ウルソデオキシコール酸(UDCA)は、コレステロール結石の溶解を促進する効果があります。また、胆汁の流れを改善し、胆汁うっ滞を軽減することで結石の再発予防にも効果を発揮します。
ウルソデオキシコール酸(UDCA)の作用
- 結石溶解効果:コレステロール結石を徐々に溶解する
- 胆汁流改善作用:胆汁の粘性を下げ、スムーズな流れを促進させる
- 肝機能保護作用:肝細胞を保護し、肝機能を維持する
- 抗炎症作用:胆管の炎症を抑制し、結石形成のリスクを低減する
※UDCAによる治療は、長期的な服用が必要となります。
肝内(胆管)結石の治療期間
肝内(胆管)結石の治療期間は、結石の数や大きさ、肝臓内での位置、患者さんの全身状態などによって変わります。
内視鏡的治療や外科的治療(手術)の場合入院期間は1〜2週間程度が目安となりますが、治療後の経過観察や再発予防のための管理は長期にわたり、場合によっては生涯続くこともあります。
治療法による期間の違い
治療法 | 初期治療期間 | 経過観察期間 |
内視鏡的治療 | 1〜2週間 | 数か月〜数年 |
外科的治療 | 2〜3週間 | 数か月〜数年 |
薬物療法 | 数か月〜数年 | 継続的 |
治療後の経過観察期間
初期治療が終了した後も、再発のリスクがあるため、治療後少なくとも5年間は定期的な検査を受けることが大切です。
経過観察の頻度
- 治療後1年目:3〜4か月ごとに検査
- 治療後2〜3年目:6か月ごとに検査
- 治療後4〜5年目:年1回の検査
再発予防のための長期的管理
肝内結石は再発のリスクが高い疾患であるため、再発予防のための生活習慣の改善や、薬物療法の継続を長期間にわたって行っていきます。
管理内容 | 頻度 | 期間 |
食事療法 | 毎日 | 生涯 |
運動療法 | 週3〜5回 | 生涯 |
薬物療法 | 医師の指示に従う | 個別に設定 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
肝内結石の治療薬には、下痢や吐き気などの消化器症状や、まれに肝機能障害を引き起こす可能性があります。また、薬の効果が不十分で手術が必要になる場合もあります。
治療法 | 主な副作用やリスク |
薬物療法 | 肝機能障害、消化器症状、アレルギー反応 |
内視鏡的処置 | 出血、穿孔、感染 |
外科的介入 | 麻酔合併症、術後感染 |
内視鏡的処置のリスク
- 膵炎(膵臓の炎症)
- 出血
- 胆管穿孔(胆管に穴が開くこと)
- 感染(胆管炎)
合併症 | 発生率 | 対処法 |
膵炎 | 3-5% | 絶食、輸液、鎮痛剤 |
出血 | 1-2% | 内視鏡的止血、輸血 |
穿孔 | <1% | 抗生剤投与、手術 |
外科的介入に伴うリスク
外科的治療では、全身麻酔や開腹手術に伴うリスクがあります。また、術後合併症として、創部感染、胆汁漏(胆汁が漏れ出すこと)、腹腔内出血などが起こることがあります。
術後合併症 | 発生頻度 |
創部感染 | 5-10% |
胆汁漏 | 2-5% |
腹腔内出血 | 1-3% |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
肝内結石では内視鏡治療や手術療法が主な選択肢となるため、医療費は高額となります。健康保険が適用されるため、自己負担額は医療費のうち1~3割です。
年齢区分 | 自己負担割合 |
70歳未満 | 30% |
70歳以上 | 10~30%(所得により異なる) |
治療法別の費用概算
治療法 | 概算費用(3割負担時) |
内視鏡的治療 | 15万円~30万円 |
外科的治療 | 30万円~60万円 |
高額療養費制度
肝内結石の治療費が高額になった場合は、高額療養費制度により自己負担額の上限を抑えられます。この制度は、月ごとの医療費が一定額を超えた際に適用されます。
高額療養費制度の自己負担限度額は、年齢や所得により異なります。
70歳未満の場合の自己負担限度額例
- 年収約1,160万円超252,600円+(医療費-842,000円)×1%
- 年収約770万~約1,160万円167,400円+(医療費-558,000円)×1%
- 年収約370万~約770万円80,100円+(医療費-267,000円)×1%
- 年収約370万円以下57,600円
- 住民税非課税世帯35,400円
検査費用の概算
項目 | 概算費用(3割負担時) |
CT検査 | 4,000円~8,000円 |
超音波検査 | 2,000円~3,000円 |
血液検査 | 1,000円~3,000円 |
以上
参考文献
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