IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-related sclerosing cholangitis:IgG4-SC)とは、胆管に炎症や線維化が生じる慢性の病気です。
体内の免疫システムが過剰に反応することで起こり、IgG4という抗体が関係しています。
黄疸(おうだん)や腹痛といった症状が現れる方もいますが、初期段階では無症状のケースも少なくありません。
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の病型
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)は、胆管造影検査で観察される胆管の狭窄パターンに基づき、4つのタイプに分類されます。
病型 | 特徴 |
Type 1 | 下部胆管のみに狭窄 |
Type 2 | 下部胆管と肝内胆管に多発性狭窄 |
Type 3 | 下部胆管と肝門部胆管に狭窄 |
Type 4 | 肝門部胆管のみに狭窄 |
Type 1
下部胆管のみに狭窄が見られるタイプで、膵臓の頭部に腫大が認められることが多く、自己免疫性膵炎(膵臓の慢性炎症性疾患の一種)との関連が強く疑われます。
Type 2
下部胆管だけでなく、肝内胆管(肝臓内の胆管)にも多発性の狭窄が観察されるタイプです。原発性硬化性胆管炎(PSC、胆管の慢性炎症性疾患)との鑑別が難しいことがあります。
Type 3
下部胆管と肝門部胆管(肝臓に出入りする大きな胆管)に狭窄が認められるものです。このタイプでは、胆管癌(胆管に発生する悪性腫瘍)との鑑別が重要となります。
Type 4
肝門部胆管のみに狭窄が見られるタイプで、こちらも胆管癌との鑑別が必要です。
各病型で注意すべき点
- Type 1:自己免疫性膵炎の合併に注意
- Type 2:原発性硬化性胆管炎(PSC)との鑑別
- Type 3:胆管癌との鑑別
- Type 4:胆管癌との鑑別、特に肝門部胆管癌との鑑別
一般的に、IgG4-SCはステロイド治療に良好な反応を示しますが、病型によって治療反応性や再発リスクが異なります。
病型 | 治療上の注意点 |
Type 1 | 自己免疫性膵炎の合併に注意し、膵臓も含めた治療計画を立てる |
Type 2 | 肝内胆管の多発狭窄に対する長期的な経過観察が重要 |
Type 3 | 胆管癌の除外後、慎重な経過観察が必要 |
Type 4 | 胆管癌の除外が最重要、治療反応性の慎重な評価を行う |
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の症状
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の主な症状には、黄疸、腹痛、倦怠感、発熱などがあります。
黄疸・皮膚症状
IgG4-SCの特徴的な症状の一つが黄疸です。胆管の狭窄や閉塞によって胆汁の流れが阻害されることで発生し、多くの場合、皮膚のかゆみも伴います。
症状 | 特徴 |
黄疸 | 皮膚や眼球が黄色く変色 |
皮膚のかゆみ | 全身に及ぶことがある |
腹部症状
腹部(右上腹部や上腹部全体)の不快感や痛みが出る方もいます。症状は軽度から中等度まで幅広く、背中にまで痛みが放散することもあります。
また、腹部症状には、吐き気や食欲不振が随伴することもあります。
全身症状
- 全身のだるさ(倦怠感)
- 発熱
- 体重減少
- 食欲不振
発熱はよく見られる症状の一つで、微熱程度の場合が多いですが、中には38度を超える高熱が出るような方もいます。
関連する臓器の症状
IgG4-SCは、他の臓器にもIgG4関連疾患を併発することがあり、特に、自己免疫性膵炎との合併が高頻度で認められます。
また、涙腺や唾液腺の腫脹により、ドライアイやドライマウスの症状が出現することもあります。
関連臓器 | 主な症状 | 日常生活への影響 |
膵臓 | 腹痛、背部痛、消化吸収障害 | 食事の制限、痛みによる活動制限 |
涙腺 | ドライアイ | 目の不快感、視力低下 |
唾液腺 | ドライマウス | 口腔内の不快感、味覚の変化 |
症状の進行と変動
IgG4-SCの症状は初期段階では無症状の場合も多く、健康診断や他の疾患の検査中に偶然発見されるケースもあります。
症状が徐々に進行し、数週間から数ヶ月かけて悪化していくパターンのほか、症状が一時的に改善したり悪化したりを繰り返すこともあるため、早期発見が難しい点が課題となっています。
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の原因
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の原因は、現時点では完全には解明されていませんが、免疫系の異常な反応によって起こる自己免疫疾患であることが現在の医学的見解です。
免疫系の異常反応
通常、免疫系は私たちの体を外敵から守る重要な役割を果たしていますが、IgG4-SCでは、この防御システムが誤って自身の組織を攻撃してしまうという現象が起こります。
特に、胆管周囲の組織が標的となり、炎症や線維化(組織が硬くなること)が徐々に進行していくのが特徴です。
IgG4の過剰産生
IgG4-SCの特徴的な所見として、血液中のIgG4(免疫グロブリンG4)濃度が著しく上昇することが挙げられます。
IgG4は通常、アレルギー反応を抑制する働きを持つ抗体(体内に侵入した異物を攻撃する物質)ですが、この疾患では過剰に産生されてしまいます。
過剰につくられたIgG4は、胆管に集まって炎症を引き起こします。この炎症が長期間つづくと、胆管が硬く厚くなる線維化が進んでしまうのです。
医学的には、IgG4の血中濃度が135 mg/dL以上に上昇した場合、IgG4-SCの可能性を疑います。
IgG4の正常値 | IgG4-SCにおける値 |
4-108 mg/dL | 135 mg/dL以上 |
自己抗体の関与
IgG4-SCでは、自己抗体(自分自身の組織に対する抗体)の存在が、病気の進行に関与している可能性があります。
自己抗体は、本来なら体内の正常な組織を攻撃しないはずのものですが、この疾患では誤って自身の組織を標的としてしまうのです。
特に、胆管上皮細胞に対する自己抗体が検出されることがあり、これが持続的な炎症反応を引き起こす一因となっている可能性が高いと考えられています。
IgG4-SCにおいて検出される代表的な自己抗体には、以下のようなものがあります。
自己抗体の種類 | 標的となる組織 |
抗核抗体 | 細胞核 |
抗平滑筋抗体 | 平滑筋 |
炎症性サイトカインの過剰産生と組織障害
IgG4-SCは、体内の免疫システムがうまく働かなくなり、ある特定のタンパク質(サイトカイン)が過剰に作られてしまうことが原因の一つです。
サイトカインは、私たちの体の中で、免疫細胞同士が連絡を取り合うための手紙のようなものです。
この手紙が適切にやり取りされることで、体は外から侵入してきた悪いもの(細菌やウイルスなど)と戦い、傷ついた部分を修復できます。
IgG4-SCでは、このサイトカインという手紙が、ある特定の種類だけ大量に作られてしまいます。そうすると、免疫細胞たちは必要以上に興奮状態になり、周りの組織を攻撃し続けてしまうのです。
この攻撃が長く続くと、胆管という臓器が傷つき、修復の過程で硬くなってしまう(線維化)ことがあります。
まるで、何度も擦り傷を繰り返した皮膚が硬くカサカサになってしまうようなイメージです。胆管が硬くなると、胆汁の流れが悪くなり、様々な症状が現れます。
IgG4-SCにおいて代表的な炎症性サイトカイン
- インターロイキン-4(IL-4)
- インターロイキン-5(IL-5)
- インターロイキン-13(IL-13)
- 形質転換増殖因子β(TGF-β)
サイトカインの中でも、特にTGF-βは組織の線維化を促進する作用が強いと言われています。
サイトカイン | 主な作用 |
IL-4 | IgG4産生促進 |
IL-5 | 好酸球増多 |
IL-13 | 線維芽細胞活性化 |
TGF-β | 細胞外マトリックス産生 |
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の検査・チェック方法
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の診断では、血液検査、画像診断、組織生検などを実施します。
血液検査による初期評価
血液検査では、正常値を大きく上回る血清IgG4濃度が確認された場合、IgG4-SCの可能性を強く示唆する所見として考えられます。
ただし、他の自己免疫性疾患や悪性腫瘍でも血清IgG4濃度が上昇することがあるため、血清IgG4濃度の上昇のみでは確定診断には至りません。
また、炎症マーカーや肝機能検査も併せて実施し、全身の炎症状態や肝胆道系の機能を評価します。
検査項目 | 意義 |
血清IgG4濃度 | IgG4-SCの可能性を示唆 |
炎症マーカー | 全身の炎症状態を評価 |
肝機能検査 | 肝胆道系の機能を評価 |
画像診断による胆管の評価
画像診断は、まずは超音波検査(US)、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴胆管膵管撮影(MRCP)などの身体に負担の少ない検査から開始するのが一般的です。
検査により、胆管壁の肥厚や狭窄、胆管内腔の不整などのIgG4-SCに特徴的な所見を確認していきます。
必要な場合には、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を行うことがあります。ERCPでは、胆管の狭窄パターンや壁の不整を直接観察でき、同時に胆管からの組織採取も可能となるため、診断精度を高めることができます。
組織生検による確定診断
IgG4-SCの確定診断では、ERCPや経皮的針生検により胆管や周囲組織から組織を採取し、評価を行います。
病理学的所見 | 特徴 |
IgG4陽性形質細胞浸潤 | 組織中にIgG4を産生する細胞が多数存在 |
線維化 | 組織の繊維化が進行 |
閉塞性静脈炎 | 静脈の炎症と閉塞 |
花筵状線維化 | 特徴的な線維化のパターン |
このような所見が確認されれば、IgG4-SCの確定診断となります。
鑑別診断
IgG4-SCの診断において、原発性硬化性胆管炎(PSC)や胆管癌との鑑別に注意が必要です。
鑑別すべき疾患 | 鑑別のポイント |
原発性硬化性胆管炎(PSC) | 血清IgG4濃度、組織所見 |
胆管癌 | 画像所見の詳細評価、組織生検 |
自己免疫性膵炎 | 膵臓の所見、IgG4関連疾患の合併 |
胆管結石 | 画像検査での結石の有無 |
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の治療方法と治療薬について
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の治療では、主にステロイド薬を用いた免疫抑制療法を中心に実施し、症状の改善と再発防止を目指します。
ステロイド治療
多くの場合、ステロイド投与により症状の顕著な改善が認められます。
通常、治療初期にはプレドニゾロン(副腎皮質ステロイドホルモンの一種)を1日30-40mg程度から開始し、患者さんの症状や各種検査結果に応じて段階的に減量していきます。
投与期間 | プレドニゾロン投与量 |
初期 | 30-40mg/日 |
2-4週間後 | 25-30mg/日 |
8週間後 | 15-20mg/日 |
3-6ヶ月後 | 5-10mg/日 |
免疫抑制剤
ステロイド治療に十分な反応が得られない場合や、ステロイドの減量に困難を伴う場合には、免疫抑制剤の併用を検討します。
免疫抑制剤 | 一般的な投与量 |
アザチオプリン | 50-100mg/日 |
ミコフェノール酸モフェチル | 1000-2000mg/日 |
胆管ステント留置術
薬物療法と並行して、胆管の狭窄が顕著な場合には内視鏡的胆管ステント留置術を実施します。この処置では、胆汁の流れを改善し、黄疸や肝機能障害の緩和を図ることができます。
※ステント留置は一時的な処置であり、薬物療法の効果が十分に現れるまでの橋渡し的な役割となります。
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の治療期間
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の治療期間は、通常6ヶ月から3年程度の長期にわたります。
治療期間の基本的な考え方
一般的に、初期治療として行うステロイド療法は約2〜4週間の集中期間を経て、その後徐々に減量していく段階に移行します。
この減量期間は通常3〜6ヶ月程度続き、症状の改善具合や再燃のリスクに応じて柔軟に調整していきます。患者さんの中には、より長期の減量期間が必要となる方もいらっしゃいます。
治療段階 | 期間 | 主な目的 |
初期治療 | 2〜4週間 | 急性炎症の抑制 |
減量期間 | 3〜6ヶ月 | 症状の安定化と副作用の軽減 |
また、IgG4-SCは再燃のリスクが高い疾患であるため、治療終了後も定期的な検査や診察を1〜2年間継続します。ただし、中には、5年以上の経過観察が必要な方もいます。
治療終了の判断基準
- 臨床症状の改善:腹痛や黄疸などの症状が消失している
- 画像検査での炎症所見の消失:胆管の狭窄や壁肥厚が改善している
- 血清IgG4値の正常化:基準値内に安定している
- 肝機能検査の正常化:胆道系酵素や胆汁うっ滞の指標が改善している
条件が満たされ、かつ再燃のリスクが低いと判断される場合に、治療の終了を考慮します。治療終了後も定期的な経過観察は継続し、再燃の早期発見に努めます。
薬の副作用や治療のデメリットについて
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の治療には、ステロイド薬の長期使用に伴う副作用や、免疫機能低下による感染リスクなどが伴います。
ステロイド治療の副作用
ステロイド治療は、長期にわたって行った場合、骨密度の低下による骨粗鬆症や全身の筋力低下など、身体的な変化が生じる可能性があります。
主な副作用
- 骨粗鬆症
- 血糖値上昇
- 筋力低下
- 皮膚の菲薄化
また、血中グルコース値の上昇や脂質代謝異常といった、代謝系への影響もあります。
免疫抑制状態時の感染症リスク
ステロイドや免疫抑制剤を使用すると、病原体に対する生体防御機能が低下します。特に注意が必要なのは、日和見感染症(通常の免疫機能を有する人では問題にならない微生物による感染症)の発症リスクです。
- ニューモシスチス・イロベチー(カリニ)による肺炎
- サイトメガロウイルスによる全身性感染症
- 帯状疱疹ウイルスの再活性化による皮膚症状
感染症リスクを軽減するため、予防的な抗生物質の投与や、定期的な感染症スクリーニング検査の実施を行う場合もあります。
複数薬剤併用時の相互作用
併用される薬剤 | 注意すべき相互作用 |
抗凝固薬(ワルファリンなど) | 出血リスクの増大 |
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | 消化管障害リスクの上昇 |
経口糖尿病薬 | 血糖コントロールへの影響 |
降圧薬 | 血圧管理への影響 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)の治療費は保険適用となります。具体的な費用は、治療期間や使用する薬剤によって変わります。
また、IgG4-SCは難病指定疾患として認定されており、医療費助成の対象となっています。詳しくは難病情報センターのホームページをご確認ください。
治療にかかる具体的な費用
IgG4-SCの治療費は、ステロイド治療にかかるものが主体となりますが、症状や合併症の有無によって追加の治療が必要となります。
項目 | 概算費用(3ヶ月あたり) |
ステロイド薬 | 20,000円〜40,000円 |
血液検査 | 15,000円〜25,000円 |
画像検査(CT/MRI) | 40,000円〜60,000円 |
長期的な治療費
IgG4-SCは慢性疾患であるため、長期的な治療と経過観察が必要です。症状が安定している場合でも定期的な検査や外来受診が続くため、年間を通じて一定の医療費が発生します。
年間の治療費概算
- 薬剤費 80,000円〜160,000円
- 検査費 120,000円〜240,000円
- その他関連費用 50,000円〜100,000円
以上
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