総胆管結石

総胆管結石(Choledocholithiasis)とは、胆汁が流れる管である「総胆管」に石が詰まることで起こる病気です。

胆のう(胆汁を濃縮・貯蔵する袋状の臓器)や肝臓で形成された胆石が、総胆管内へ移動することにより発症します。

総胆管(そうたんかん)が結石によって閉塞すると、胆汁の正常な流れが阻害され、右上腹部の激しい痛み、皮膚や白目の黄染(黄疸)、高熱などの症状が現れます。

目次

総胆管結石の病型

総胆管結石は胆道系の胆石症の一つであり、胆石は発生部位によって、大きく胆嚢結石、総胆管結石、肝内(胆管)結石の3つに分けられています。

また、結石の成分には、コレステロール結石、ビリルビンカルシウム結石、混合石などがあり、総胆管結石ではビリルビンカルシウム結石がよくみられます。

分類基準種類
発生部位胆嚢結石、総胆管結石、肝内(胆管)結石
成分コレステロール結石、ビリルビンカルシウム結石、混合石

発生部位による分類

  • 胆嚢結石:胆嚢内に形成される結石で、最も多いタイプです。
  • 総胆管結石:総胆管内に存在する結石を指し、胆嚢から落下したものや、総胆管内で直接形成されたものがあります。
  • 肝内(胆管)結石:肝臓内の胆管に形成されるもので、診断や治療が困難なケースが多いです。

成分による分類

  • コレステロール結石:コレステロールを主成分とする結石です。
  • ビリルビンカルシウム結石:ビリルビン(赤血球の分解産物)とカルシウムの化合物を主成分とする結石です。胆汁うっ滞や細菌感染が主な原因となります。
  • 混合石:コレステロールとビリルビンカルシウムの両方を含む結石のことを言います。

総胆管結石の場合がビリルビンカルシウム結石が多く見られますが、他の成分の結石も存在します。

結石の種類主な特徴形成要因
コレステロール結石黄白色、放射状構造胆汁中のコレステロール過飽和
ビリルビンカルシウム結石黒褐色、層状構造胆汁うっ滞、細菌感染
混合石両者の特徴を併せ持つ複合的な要因

総胆管結石の症状

総胆管結石(そうたんかんけっせき)の主な症状は、右上腹部の痛み、黄疸(おうだん)、発熱などがあります。

痛みの特徴

総胆管結石による痛みは、通常、右上腹部に起こります。急性で非常に強い痛みが特徴です。

一部の患者さんにおいては、背中や右肩に放散痛(ほうさんつう)を感じることもあります。

痛みの特徴解説
発生部位主に右上腹部
性質急性で激烈
随伴症状吐き気、嘔吐

黄疸の出現

黄疸は、皮膚や眼球の白い部分が黄色く変色する症状を指します。

総胆管が結石によって閉塞されると、胆汁が十二指腸へと流出できなくなります。結果として胆汁中のビリルビンが血液中へ逆流し、体内に蓄積することで黄疸が起こります。

黄疸は軽度の場合は目立ちませんが、重度になると全身の皮膚が黄色く変色してしまいます。

黄疸の部位特徴
眼球最初に黄色く変色する
皮膚進行すると全身に拡大
尿濃い茶色に変色する

発熱・感染症のリスク

総胆管結石に伴う発熱は、胆管炎(たんかんえん)という合併症の前兆となる可能性があります。胆管炎は、結石による胆管の閉塞と細菌感染が相まって発生します。

発熱の特徴

  • 急激な高熱(38.5度以上)
  • 悪寒や震えを伴う
  • 他の症状(腹痛、黄疸)と同時に現れる

胆管炎が疑われる場合、放置すると敗血症へと進展する危険性が高まるため、速やかな医療介入が必要です。

その他の随伴症状

  • 消化器症状:吐き気、嘔吐、食欲不振
  • 全身症状:倦怠感、体重減少
  • 皮膚症状:掻痒感(特に黄疸を伴う場合)

総胆管結石の原因

総胆管結石の原因は、胆汁の成分が過剰に排出されたり、胆道に感染症などの疾患があることで、胆汁の中で結晶化し石となることです。

胆汁組成の異常による影響

胆汁は肝臓で生成される消化液で、主に胆汁酸、コレステロール、リン脂質からできています。この成分バランスが崩れると、結石形成のリスクが上昇します。

特に、コレステロールの過剰な分泌や胆汁酸不足は、結石形成を促進する大きな原因となります。

胆汁成分正常値(概算)
胆汁酸60-70%
リン脂質20-25%
コレステロール5-10%

胆汁うっ滞による結石形成のリスク

胆汁の流れが滞っている場合には、総胆管結石が形成されやすくなります。

胆汁うっ滞(胆汁の流れの停滞)の主な原因

  • 胆管の狭窄(きょうさく:管が狭くなること)や閉塞
  • 胆嚢の機能不全
  • 妊娠による胆管への圧迫
  • 長期の絶食や経静脈栄養(血管から直接栄養を摂取すること)

胆汁うっ滞が持続すると胆汁中の成分が沈殿し、結石の核となる可能性があります。また、胆汁の停滞は細菌感染のリスクも増大させますので、結石形成をさらに加速させることになります。

遺伝的要因

特定の遺伝子変異が、家族性に総胆管結石のリスクを高める可能性があることが分かってきています。しかしながら、遺伝的要因だけで病気が起こるのではなく、環境要因との相互作用によって結石形成に影響があると考えられています。

遺伝子関連する症状
ABCB4胆汁中リン脂質の減少
ABCB11胆汁酸輸送の障害
ATP8B1胆汁酸輸送の障害

生活習慣・環境要因

不適切な食生活、特に高脂肪・高コレステロール食は、胆汁組成の異常を引き起こす原因です。また、肥満や急激な体重減少も結石形成のリスクを高めます。

生活習慣結石形成への影響
高脂肪食胆汁中コレステロール増加
運動不足胆嚢収縮力低下
肥満胆汁組成異常
急激な減量胆汁うっ滞

また、年齢とともに胆汁の組成が変化するほか、胆嚢や胆管の機能が低下していくため、結石形成を促進する要因となります。

総胆管結石の検査・チェック方法

総胆管結石の検査では、血液検査、画像診断、内視鏡検査を組み合わせて実施します。

血液検査による評価

血液検査では、以下の項目を中心に評価を実施します。

  • 肝機能検査(AST、ALT、ALP、γ-GTP)
  • 総ビリルビン値
  • 炎症マーカー(白血球数、CRP)
  • 膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)
検査項目正常値総胆管結石時の変化
ALP100-340 U/L上昇
γ-GTP10-50 U/L上昇
総ビリルビン0.3-1.2 mg/dL上昇

画像診断

腹部超音波検査は身体に負担の少ない検査であるため、初期検査として広く行われている方法です。ただし、総胆管の深部については、調べるのが困難です。

そのため、より詳細な評価には、CT(コンピュータ断層撮影)やMRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)を実施します。

画像検査特徴診断精度
腹部超音波非侵襲的、簡便中程度
CT高解像度、周囲構造の評価可能高い
MRCP胆管全体の描出に優れる非常に高い

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)では、検査だけではなく、同時に乳頭切開や結石除去などの治療も可能です。

また、EUS(超音波内視鏡)も総胆管結石の診断に有効な検査方法です。高解像度の画像を得られるため、小さな結石の検出にも優れています。

確定診断

血液検査で胆道系酵素の上昇がみられ、画像検査で結石を疑う所見がある場合、高い確率で総胆管結石と診断することができます。

しかしながら、診断が困難なケースも存在し、そのような場合はERCPやEUSなどの精密検査を検討します。

診断段階実施する検査
初期評価問診、身体診察、血液検査
画像診断腹部超音波、CT、MRCP
精密検査ERCP、EUS

総胆管結石の治療方法と治療薬について

総胆管結石の治療は、内視鏡的治療や外科的治療、薬物療法を組み合わせて行います。

内視鏡的治療

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では、内視鏡を口から挿入して十二指腸まで進め、胆管に造影剤を注入することで結石の位置を把握します。

乳頭括約筋(十二指腸と胆管の接合部にある筋肉)を切開し、特殊なカテーテルを用いて結石を取り除きます。

外科的治療

内視鏡的治療が困難な場合や、胆嚢結石(胆嚢にできる結石)を併発している場合には、外科的治療を検討します。

腹腔鏡下胆嚢摘出術と総胆管切開術を組み合わせた手術が一般的で、胆嚢を摘出すると同時に、総胆管を切開して結石を取り除きます。

最近ではロボット支援手術の導入により、より精密な操作が可能になり、手術の質が向上しています。

治療法適応となる状況主な利点
ERCP単発の小さな結石体への負担が少なく、回復が早い
外科的治療複数の結石、胆嚢結石の合併根本的な治療が可能、再発を防ぐ

薬物療法

ウルソデオキシコール酸

総胆管結石を溶かし、再発を防ぐための薬剤です。胆汁酸(肝臓で作られる消化を助ける物質)の組成を変化させ、コレステロールでできた結石を溶解する効果があります。

長期間の服用が必要になりますが、副作用が少なく、安全性の高い治療法として広く認知されています。

また、結石が再び形成されるのを防ぐ効果もあるため、ERCPや外科的治療の後の補助療法としても積極的に使用しています。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

ERCPを行った後に起こる可能性のある、膵炎(膵臓の炎症)を予防するために使用することがあります。

治療後の注意点

生活改善の項目具体的な実践方法
食事の管理脂肪分を控えめにし、食物繊維を積極的に摂取する
運動の実践ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行う
体重のコントロール体格指数(BMI)25未満を目標にする
水分の摂取1日に2リットル以上の水分を意識的に取る

総胆管結石の治療期間

総胆管結石は、軽症例では数日から1週間程度で治療が完了する場合もありますが、複雑な症例や合併症がある場合は、数週間から数ヶ月の治療期間が必要です。

治療方法による期間の違い

治療方法一般的な治療期間
内視鏡的治療3日~1週間
外科的治療1週間~2週間
薬物療法2週間~3ヶ月

薬物療法は結石の溶解に時間がかかるため、数週間から数ヶ月と治療には時間がかかります。

要因影響備考
結石の大きさ大きいほど治療期間が長くなる1cm以上の結石は難治性
結石の数多いほど治療期間が長くなる複数の結石がある場合
患者の年齢高齢者ほど回復に時間がかかる65歳以上は特に注意
合併症の有無合併症があると治療期間が延長する胆管炎や膵炎の合併がある場合

平均的な入院期間

  • 外来での内視鏡的治療 日帰りまたは1〜2泊
  • 腹腔鏡下手術 3〜5日
  • 開腹手術 7〜10日

薬の副作用や治療のデメリットについて

総胆管結石の治療では、薬の副作用として薬剤性肝障害や消化器症状などが、また、内視鏡的治療では出血や感染症などの合併症、外科手術における麻酔リスクや癒着などの合併症が起こる可能性があります。

内視鏡的治療に伴うリスク

合併症発生率
膵炎3-5%
出血1-2%
穿孔<1%

膵炎は内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)の最も一般的な合併症の一つで、膵液の流れが妨げられることで膵臓に炎症が起こる場合があります。

出血は、特に乳頭切開(胆管の出口を切開する処置)を行う際に起こりやすくなります。多くの場合、軽度で自然に止まりますが、時に輸血や追加の内視鏡処置を行わなければならない場合があります。

手術療法に伴うリスクと副作用

  • 胆汁漏(胆汁が漏れ出すこと)
  • 胆管狭窄(胆管が狭くなること)
  • 残存結石(結石が残ってしまう)
  • 術後膵炎(手術後に膵臓に炎症が起こる)

この他、手術部位感染や、まれに敗血症(全身性の重症感染症)に至る可能性があります。高齢者や基礎疾患のある患者さんでは、リスクが高いため注意が必要です。

合併症発生頻度
胆汁漏2-3%
術後膵炎1-2%
手術部位感染3-5%

薬物療法による副作用

ウルソデオキシコール酸などの胆石溶解薬を用いる場合、消化器症状が現れることがあります。

下痢や腹痛、吐き気などが主な副作用であり、症状は通常一過性で軽度ですが、対症療法や投薬調整が必要になることもあります。

長期服用では、肝機能への影響を監視する必要があり、定期的な血液検査を行っていきます。

また、大きな結石や石灰化した結石には効果が限られるという治療効果の面での制限もあるため、事前に十分な評価を行い、適応を慎重に判断するべきです。

経皮経肝胆道ドレナージのリスク

経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD:皮膚から肝臓を通して胆管にチューブを入れる処置)には、出血や胆汁漏、感染症のリスクがあります。

また、肝実質を穿刺するため、気胸(肺に空気がたまる状態)や肝損傷のリスクも存在するため、術者の高度な技術と経験が必要です。

また、PTBDカテーテル留置に伴う不快感や、長期留置による生活の質の低下も考慮すべき点です。

合併症リスク要因
出血凝固異常、抗凝固薬使用
胆管炎不完全ドレナージ
カテーテル逸脱不適切な固定

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

総胆管結石の治療費は保険適用となります。実際の費用は、治療法や入院期間によって自己負担額が変動します。

治療法別の概算費用

治療法概算費用(3割負担)
内視鏡的治療5〜10万円
開腹手術15〜30万円
腹腔鏡下手術10〜20万円

以上

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