胆嚢結石

胆嚢結石(たんのうけっせき, Cholecystolithiasis)とは、胆嚢の中に石ができてしまう病気です。

胆嚢は、肝臓で生成された胆汁(消化を助ける液体)を蓄えて濃縮し、必要に応じて十二指腸に放出する役割を担っています。

しかし、胆汁の成分バランスが乱れると、その一部が結晶化して石となることがあります。こうしてできた石が胆嚢内に留まっている状態を胆嚢結石と呼びます。

決して珍しい病気ではなく、年齢を重ねるにつれて発症するリスクは上昇します。

目次

胆嚢結石の病型

胆嚢結石は胆石症のひとつであり、胆石症は結石の位置によって分類されています。

  1. 胆嚢結石:胆嚢内に存在する結石
  2. 総胆管結石:総胆管(肝臓から十二指腸へ胆汁を運ぶ管)内に存在する結石
  3. 肝内(胆管)結石:肝臓内の胆管に存在する結石

胆石症のうち、胆嚢結石は全体の約70%を占めます。

結石の位置発生頻度主な特徴
胆嚢結石約70%最も一般的、無症状のことも多い
総胆管結石約20%黄疸や胆管炎のリスクが高い
肝内結石約10%治療が困難、再発率が高い

胆嚢結石の症状

胆嚢結石(たんのうけっせき)は症状が出ない人も多く、健康診断などで偶然見つかることがあります。症状は右上腹部の激しい痛み(疝痛)が代表的なもので、特に脂っこいものを食べた後や夜間に起こりやすく、吐き気や嘔吐を伴う場合もあります。

無症状の胆嚢結石

患者さんの多くが何も症状を感じておらず、結石が胆嚢の中にとどまり、胆管(たんかん:胆汁の通り道)を塞がない限りは体に異常を感じにくいです。

別の病気を調べるために行った腹部エコー検査やCTスキャンで、胆嚢結石が偶然発見されるケースはよくあります。

典型的な症状は胆石発作

胆石が胆管を一時的に塞ぐと、突如として激しい痛みに襲われます。 この症状を医学的には「胆石発作」と呼んでいます。

胆石発作の特徴的な症状

  • おなかの右上の部分や、みぞおちに激しい痛みが走る
  • 痛みが背中や右肩にまで広がる
  • 吐き気や嘔吐(おうと)を伴う
  • 熱が出ることもある

発作は30分から数時間続き、結石が移動して胆管の詰まりが解消されると、痛みが自然と和らいでいきます。

以前、胆石発作の痛みを「まるで背中から刃物で刺されているようだ」と表現する方がいました。 この表現は、痛みがいかに激しく、そして局所的であるかをよく表していると思います。

その他の症状

症状特徴
消化不良脂っこい食事の後に特に悪化する
おなかの張り食事の後に強くなる
黄疸(おうだん)結石が総胆管(そうたんかん)を塞いだ場合に起こる

重症化のサイン

胆嚢結石を長い間放っておくと、急性胆嚢炎や胆管炎などの合併症を起こす危険性があります。 以下のような症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診することが大切です。

  • 高い熱が続く
  • 強いおなかの痛みが数時間以上続く
  • 黄疸(皮膚や目の白い部分が黄色くなる)
  • 寒気や体が震える
合併症主な症状
急性胆嚢炎おなかの右上の痛みが続く、熱が出る
胆管炎高熱、黄疸、おなかの痛み

胆嚢結石の原因

胆嚢結石(たんのうけっせき)の主な原因は、胆汁中のコレステロールバランスの乱れと胆嚢機能の低下です。

胆石形成のしくみ

胆嚢結石は、胆汁中の成分が結晶化して形成されます。

胆汁は、通常、コレステロールが胆汁酸やレシチンによって溶解された状態に保たれていますが、このバランスが崩れるとコレステロールが析出し、結石の核となります。

その後、この核を中心に他の胆汁成分が付着し、徐々に大きくなっていくのです。

コレステロール過剰と胆汁うっ滞

高コレステロール血症や肥満の方は、胆汁中のコレステロール濃度が上昇しやすくなります。

要因影響
高コレステロール血症胆汁中コレステロール濃度上昇
肥満胆汁中コレステロール濃度上昇
急激な体重減少胆汁中コレステロールバランスの乱れ
不規則な食生活胆嚢機能の低下

また、胆汁うっ滞も結石形成を促進します。

ホルモンバランスの影響

女性ホルモンであるエストロゲンは、胆汁中のコレステロール濃度を上昇させる作用があることがわかっています。このため、妊娠中や経口避妊薬の使用時には、胆石のリスクが高まります。

また、閉経後のホルモン補充療法も同様の影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。

ホルモン関連の要因胆石形成リスク
妊娠上昇
経口避妊薬使用上昇
閉経後ホルモン補充療法上昇の可能性
通常の月経周期標準

その他の原因

  • 加齢による胆嚢機能の低下
  • 慢性的な胆嚢炎
  • 胆嚢の運動機能障害
  • 特定の疾患(クローン病、溶血性貧血など)

胆嚢結石の検査・チェック方法

胆嚢結石の検査では、血液検査を行うほか、腹部超音波検査で胆嚢にできた石を直接画像で確認します。

血液検査による評価

  • 肝機能検査(AST、ALT、ALP、γ-GTP)
  • 炎症マーカー(白血球数、CRP)
  • 胆道系酵素(ビリルビンという胆汁の成分)
検査項目正常値
AST10-40 IU/L
ALT5-45 IU/L
ALP100-325 IU/L
γ-GTP男性: 10-50 IU/L, 女性: 10-30 IU/L

値が基準値より高くなっている場合、胆道系に問題があることを示しています。ただし、血液検査だけでは胆嚢結石の確定診断はできませんので、画像診断と合わせて判断をしていきます。

画像診断

超音波検査では、胆嚢の中の結石の有無やサイズ、数を調べます。また、胆嚢の壁が厚くなっていないか、胆嚢全体が大きくなっていないかなど、結石によって起こる変化も分かります。

画像検査法特徴
腹部超音波体への負担が少なく、リアルタイムで観察可能
CTお腹全体の様子を把握するのに優れる
MRI軟部組織の違いがよく分かる
MRCP胆道系の詳しい様子が分かる

CT検査では結石の位置や周りの臓器との関係を、MRIやMRCP(磁気共鳴胆道膵管造影)は小さな結石や胆管の中の異常を調べます。

確定診断・追加検査

画像診断で結石が確認されれば、ほぼ確定診断となります。ただし、症状や検査結果によってはさらに詳しい検査が必要となる場合があります。

追加検査目的
内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)胆管の詳しい評価、治療
胆道シンチグラフィー胆嚢の機能評価(症状のない胆嚢結石の治療方針を決める際に有用)

胆嚢結石の治療方法と治療薬について

胆嚢結石(たんのうけっせき)の治療方法には、薬物療法や手術による治療があり、症状の程度や結石の大きさに応じて選びます。

胆嚢結石の治療法

胆嚢結石を治療する方法には、主に二つの方向性があります。

  • お薬を使う方法
  • 手術をする方法

症状が軽い場合や結石が小さい場合は、まずお薬による治療を行います。症状が重症である、または結石が大きい場合は、手術を検討します。

お薬による治療

お薬による治療でよく使われるのは、ウルソデオキシコール酸というお薬です。

このお薬は胆汁酸の一種で、コレステロールでできた結石を少しずつ溶かす効果があります。

お薬の名前主な働き
ウルソデオキシコール酸コレステロール結石を溶かす
痛み止め激しい痛みが起きたときに痛みを和らげる

服用は6ヶ月から2年程度つづけますが、全ての結石に効果があるわけではなく、カルシウムでできた結石や大きな結石にはあまり効果がありません。

また、結石が完全に溶けてもまた新しい結石ができる可能性があるため、食事や運動などの生活習慣を改善することも大切です。

手術による治療の種類

よく行われる手術が、腹腔鏡下胆嚢摘出術(ふくくうきょうかたんのうてきしゅつじゅつ)です。お腹に小さな穴を数カ所開けて行う、体への負担が少ない手術です。

昔ながらの大きく切開する手術と比べると、手術後の痛みが少なく、回復も早い点がメリットとなっています。

ただし、炎症がひどい場合や、体の構造的に難しい場合は、お腹切開する手術に変更することもあります。

手術の方法特徴
腹腔鏡下胆嚢摘出術体への負担が少なく、回復が早い
開腹胆嚢摘出術複雑な症例でも対応できる

手術後は通常1週間程度で退院できます。ほとんどの場合、手術後の経過は良好ですが、まれに胆汁が漏れたり、感染したりする合併症が起こることがあります。

胆嚢結石の治療期間

胆嚢結石(たんのうけっせき)の治療期間は、治療方法や患者さんの状態によって大きく異なりますが、1週間から3ヶ月程度が目安となります。

治療方法による期間の違い

治療方法平均的な治療期間
内視鏡的治療1〜2週間
外科的治療2〜4週間
薬物療法1〜3ヶ月

内視鏡的治療は比較的短期間で済むことが多く、外科的治療の場合は手術後の回復期間がある分、治療期間が長くなります。

また、薬物療法は胆石を溶かすために長期間の服薬が必要となるため、治療に時間がかかります。

治療後の経過観察期間

治療が終了したあとは、体調の回復や再発防止のために経過観察を行っていきます。

フォローアップ内容期間
定期的な検査3〜6ヶ月
生活習慣の改善継続的

生活習慣の改善は胆石の再発リスクを下げるために重要となりますので、バランスの取れた食事や、適度な運動を心がけることが大切です。

治療期間中の生活への影響

治療期間中は、日常生活にある程度の制限がかかります。特に外科的治療を受けた場合、回復期間中は激しい運動や重い物の持ち上げが避けるようにしてください。

制限事項制限期間の目安
激しい運動4〜6週間
重い物の持ち上げ2〜4週間
長時間の座位1〜2週間

薬の副作用や治療のデメリットについて

胆嚢結石(たんのうけっせき)の治療における薬の副作用としては、下痢や吐き気などがあります。また、手術には出血や感染などのリスクがあります。

薬物療法の副作用

ウルソデオキシコール酸(胆石を溶かす薬)には、まれに副作用が現れることがあります。

ウルソデオキシコール酸の主な副作用

副作用頻度
下痢まれ
腹痛まれ
肝機能異常ごくまれ

副作用の多くは一時的なものであり、重篤な症状に至ることは少ないのですが、継続的な経過観察が必要となります。気になる症状がある場合、速やかに担当医に相談するようにしましょう。

手術療法のリスク

  • 出血
  • 感染
  • 胆管損傷(胆汁の通り道を傷つけてしまうこと)
  • 周辺臓器の損傷

術後の消化器症状について

胆嚢摘出後には、一部の患者さんで消化器症状が現れることがあります。術後症候群と呼ばれ、食事指導や生活習慣の改善により対処していきます。

症状対処法
下痢低脂肪食
腹痛少量頻回食
消化不良消化酵素剤

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

胆嚢結石の治療費は健康保険が適用されるため、自己負担額は1~3割となります。ただし、入院時の食事代や差額ベッド代については、原則として保険適用外となります。

治療法別の概算費用

治療法概算費用(3割負担の場合)
薬物療法1〜3万円/月
体外衝撃波結石破砕術5〜10万円
腹腔鏡下胆嚢摘出術10〜20万円
開腹胆嚢摘出術15〜30万円

高額療養費制度の活用

胆嚢結石の治療で高額な医療費がかかったときは、高額療養費制度を利用できます。この制度では、月ごとの自己負担額に上限が設定され、それを超えた分が後日払い戻されます。

所得区分自己負担限度額(70歳未満の場合)
年収約1,160万円超252,600円+(医療費-842,000円)×1%
年収約770〜約1,160万円167,400円+(医療費-558,000円)×1%
年収約370〜約770万円80,100円+(医療費-267,000円)×1%
〜年収約370万円57,600円
住民税非課税35,400円

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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