胆管癌(Cholangiocarcinoma)とは、胆管と呼ばれる、肝臓で作られた胆汁を十二指腸に運ぶ管に発生する悪性腫瘍です。
胆汁は脂肪を消化する上で重要な役割をしており、胆管癌が進行すると胆汁の流れが妨げられ、黄疸やかゆみ、腹痛などの症状が現れます。
初期段階では自覚症状が乏しく、病状が進行するまで発見が遅れがちな病気です。
胆管癌の病型
胆管癌は、その発生部位により「肝門部領域胆管癌」と「遠位胆管癌」の2つに分類されます。
※肝内に発生するものは「肝内胆管癌」と呼ばれます。
肝門部領域胆管癌は、肝臓に近接した部分に発生する悪性腫瘍です。一方、遠位胆管癌は、十二指腸により近い部分に発生するものを指します。
分類 | 発生部位 |
肝門部領域胆管癌 | 肝門部から肝外胆管上部 |
遠位胆管癌 | 肝外胆管中部から下部 |
肝門部領域胆管癌の特徴
肝門部領域胆管癌は肝臓に近接した部位に発生するため、初期段階での発見が困難です。解剖学的に複雑な構造をしているため、正確な診断や治療を行うには高度な医療技術が必要となります。
肝門部領域胆管癌の中でも、特に肝門部胆管癌(クラッキン腫瘍)は、以下のように分類されます。
- Bismuth-Corlette分類I型:総肝管(肝臓から出てすぐの胆管)に限局しているもの
- Bismuth-Corlette分類II型:左右肝管の合流部にまで及んでいるもの
- Bismuth-Corlette分類IIIa型:右肝管(肝臓の右葉から出る胆管)にまで及んでいるもの
- Bismuth-Corlette分類IIIb型:左肝管(肝臓の左葉から出る胆管)にまで及んでいるもの
- Bismuth-Corlette分類IV型:両側の肝内胆管(肝臓内部の胆管)にまで及んでいるもの
遠位胆管癌の特徴
遠位胆管癌は比較的早い段階で症状が現れやすく、膵臓や十二指腸と近接しているため、周囲の臓器との関係性を十分に考慮した治療計画の立案が必要です。
遠位胆管癌の進展度分類
進展度 | 特徴 | 治療方針への影響 |
表在癌 | 胆管壁内に限局しているもの | 内視鏡的治療の可能性がある |
浸潤癌 | 胆管壁外に浸潤しているもの | 外科的切除が主な選択肢となる |
胆管癌の病理学的分類
胆管癌は、組織学的特徴によっても分類されています。
分類 | 特徴 | 予後との関連 |
管状腺癌 | 最も一般的なタイプで、管状構造を形成する | 予後は中程度 |
乳頭状腺癌 | 乳頭状の構造を示し、分化度が高い | 比較的予後は良好 |
粘液癌 | 粘液産生が著明で、粘液の中に腫瘍細胞が浮遊している | 予後不良な場合が多い |
胆管癌の症状
胆管癌の主要な症状は、黄疸、腹部の痛み、熱の上昇、全身のだるさ、体重の減少などです。
黄疸とそれに関連する症状
胆管癌の特徴とも言える症状が「黄疸(おうだん)」で、胆管が腫瘍によって詰まり、胆汁の流れが阻害されることにより起こります。
皮膚や眼球の白い部分が黄色く変色するほか、尿の色が濃くなったり、便の色が薄くなったりする症状も見られます。また、黄疸に伴い、体の痒みを感じる方も多いです。
腹部の痛み
胆管癌の患者さんの多くに腹部の痛みが見られます。痛みの部位は主に右上腹部や心窩部(みぞおち)に集中しますが、背中に痛みが広がることもあります。
全身に現れる症状
症状 | 特徴 |
発熱 | 間欠的または持続的に体温が上昇する |
倦怠感 | 日常生活に支障をきたすほどの強い疲労感 |
体重減少 | 食欲不振を伴うことが多く、急激に減少する |
全身の痒み | 黄疸に伴って現れることがある |
全身症状は、胆管癌の進行や胆管炎(胆管の炎症)の合併により生じることがあります。特に、短期間での急激な体重減少は注意が必要です。
消化器に関連する症状
胆汁の流れが妨げられることで消化機能が低下し、消化器症状が現れます。食欲不振や吐き気が続くと、結果として体重減少につながる可能性があります。
- 食べ物がおいしく感じられない、食欲が落ちる
- 吐き気を感じる、嘔吐する
- お腹が張った感じがする
- 便秘や下痢などの排便異常が生じる
症状の進行・合併症
胆管癌の症状は、病気の進行に伴って徐々に悪化していきます。病気の初期段階では無症状である場合も多いため、定期的な健康診断が早期発見につながる重要な機会となります。
進行段階 | 主に見られる症状 |
初期 | 無症状または軽度の腹部不快感程度 |
中期 | 黄疸、腹部の痛み、全身のだるさが出現 |
後期 | 激しい痛み、著しい体重減少、肝臓機能の低下 |
また、胆管炎の合併は特に深刻な問題となります。突然の高熱、悪寒、右上腹部の強い痛みを伴うときは、緊急の治療を要する状態です。
さらに胆管癌が進行すると、肝臓の機能障害や門脈圧亢進症(門脈の血圧が異常に高くなる状態)などの合併症が生じることがあり、腹水(お腹に水がたまる状態)の貯留や食道静脈瘤といった新たな症状が現れる可能性があります。
胆管癌の症状は個人差が大きく、また他の胆道系疾患と似た点が多いため、気になる症状がある場合は迷わず医療機関を受診するようにしてください。
胆管癌の原因
胆管癌の原因は、胆管への慢性的な炎症や刺激が続いたり、遺伝的な要因や生活習慣などが関係していると考えられており、まだ完全に解明されていません。
慢性炎症による胆管細胞の異常
慢性的な胆管の炎症があると、胆管細胞のDNAに損傷が蓄積され、正常な細胞の制御機構が崩れて異常増殖を引き起こすことがあります。
この過程で正常な細胞が徐々に変化し、最終的に胆管癌へと進展していきます。
遺伝的要因・家族歴
特定の遺伝子に変異がある方は、胆管癌を発症するリスクが通常より高くなることが分かっています。
また、家族歴も無視できない要素です。近親者、特に一親等(親や兄弟姉妹)に胆管癌の方がいる場合、発症リスクが上昇することも分かっています。
環境因子
東南アジアなどの特定地域では、肝吸虫感染が胆管癌の主要な原因となっています。また、過度の飲酒や喫煙、不適切な食生活なども胆管癌のリスクを高める要因となります。
- 肝吸虫感染(寄生虫による胆管への感染)
- 過度の飲酒(1日あたりの純アルコール摂取量が60g以上)
- 喫煙(特に長期間の習慣的喫煙)
- 高脂肪食(動物性脂肪の過剰摂取)
年齢と性別の影響
胆管癌は高齢者に多く見られ、50歳以上の方々で発症リスクが高まり始め、特に60歳以上になると顕著にリスクが上昇します。
また、性別による違いも存在し、男性の方が女性よりもやや発症率が高い傾向にあります。
年齢層 | 相対的リスク | 特徴 |
50歳未満 | 低 | 稀だが、家族歴がある場合は注意が必要 |
50-60歳 | 中 | リスクが徐々に上昇し始める年齢層 |
60歳以上 | 高 | 最も発症率が高く、定期検診が重要 |
胆管癌の検査・チェック方法
胆管癌の診断では、血液検査、画像診断、内視鏡検査、組織生検などを行います。
初期評価と血液検査
まずは症状や病歴、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)、腹痛などの特徴的な症状を確認し、全身状態を評価します。
血液検査では、肝臓の機能を調べる検査や腫瘍マーカー(がんの存在を示唆する物質)の測定を行います。
検査項目 | 主な評価対象 |
AST/ALT | 肝細胞の障害状態 |
ALP/γ-GTP | 胆汁の流れの滞り |
ビリルビン | 黄疸の程度 |
CA19-9 | 腫瘍マーカー |
画像診断
- CT
- MRI
- MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)
画像診断は、胆管癌の場所や広がりを把握するために実施します。
まずは超音波検査を初期のスクリーニングとして用い、胆管の拡張や腫瘤の有無を確認します。
CT検査やMRI検査は、より詳しく腫瘍の位置や大きさ、周囲の組織への広がりの程度を評価するために実施していきます。
内視鏡検査・組織生検
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、胆管を観察すると同時に、組織を採取することができる検査です。
また、経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)は、胆管の圧力を下げると同時に、胆汁中の細胞を調べたり、組織の一部を採取することができます。
検査法 | 主な目的 | 利点 |
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP) | 胆管の造影検査、組織採取 | 直接胆管を観察できる |
経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD) | 胆道の圧力を下げる、細胞診 | 詰まりを解消しながら診断できる |
確定診断
生検や細胞診で悪性の細胞が見つかれば、胆管癌と確定診断されます。組織の診断が難しい場合もありますので、そのような時は臨床所見と画像診断の結果を総合的に判断します。
胆管癌の治療方法と治療薬について
胆管癌の治療は、手術、化学療法、放射線療法を組み合わせて行います。また、症状を和らげるために薬物療法を実施していきます。
手術療法
早期に胆管癌が発見できた場合は、完治を目指して腫瘍の完全な切除を行います。
手術の種類は、腫瘍の場所や大きさ、がんの進行度によって異なり、肝臓の一部切除や胆管切除、場合によっては膵頭十二指腸切除などを実施します。
化学療法(進行したがんや再発症例)
手術が難しい進行したがんや、再発した症例に対しては、化学療法が主な治療選択肢となります。
腫瘍を小さくしたり、進行を抑えたりすることが目的ですが、手術の前に行う補助療法や、手術後の再発を防ぐ目的でも使用されることがあります。
現在、ゲムシタビンとシスプラチンの併用療法が標準的な治療法となっており、多くのケースで効果を示しています。
また、最近では分子標的薬(がん細胞に特異的に作用する薬)の開発も進んでおり、特定の患者さんに効果を発揮します。
薬剤名 | 主な作用の仕組み |
ゲムシタビン | がん細胞のDNA合成を阻害 |
シスプラチン | がん細胞のDNAに結合して増殖を抑制 |
FOLFOX療法 | 複数の薬剤を組み合わせてがん細胞の増殖を抑制 |
放射線療法
放射線療法は、化学療法と組み合わせて行われることが多い治療法です。
外部から放射線を当てる方法や、体内に放射線源を入れる方法(腔内照射)などがあり、腫瘍の位置や大きさに応じて方法を選択します。
特に、手術ができない局所的に進行したがんに対して適応となります。
放射線療法の種類 | 特徴 |
外部照射 | 体の外から放射線を当てる |
内部照射 | 体内に放射線源を入れる |
IMRT(強度変調放射線治療) | 放射線の強さを細かく調整する |
SBRT(定位放射線治療) | 高精度で局所的に照射する |
症状を和らげるための薬物療法
- 痛みの管理:オピオイド系鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- 黄疸:胆汁の流れをよくする薬、胆管にステントを入れる処置
- かゆみ:抗ヒスタミン薬、胆汁酸を吸着する薬
- 吐き気・嘔吐:吐き気を抑える薬
主に使用される薬剤
症状 | 主に使用される薬 |
痛み | モルヒネ、フェンタニル |
黄疸 | ウルソデオキシコール酸 |
かゆみ | クエン酸マレイン酸クロルフェニラミン |
吐き気・嘔吐 | オンダンセトロン、グラニセトロン |
胆管癌の治療期間
胆管癌の治療期間は、早期発見された場合でも、手術後の経過観察や補助療法を含めると少なくとも半年以上の期間が必要です。
一方、進行した状態で発見された場合は、治療期間が1年以上に及ぶことも珍しくありません。
治療方法による期間の違い
胆管癌の治療方法は、主に手術療法、化学療法、放射線療法に分けられます。それぞれの治療法によって、必要となる期間が異なります。
手術療法 | 術前の準備期間や術後の回復期間を含めると、3〜6か月程度 |
---|---|
化学療法 | 通常、数か月から半年以上続けることが多く、効果や副作用の様子を見ながら継続的に行います。 |
放射線療法 | 治療計画の立案から実際の照射、その後の経過観察まで含めると、数か月の期間が必要です。 |
※高齢の方や持病をお持ちの方の場合、治療の強度や期間を調整する必要があります。
治療の段階に応じた期間の目安
胆管癌の治療は、診断から始まり、初期治療、経過観察、そして必要に応じて追加治療という流れで進みます。
- 診断から治療開始まで 1〜4週間
- 初期治療(手術や化学療法など) 3〜6か月
- 初期治療後の経過観察 6か月〜1年
- 追加治療(再発時など)状況に応じて数か月〜1年以上
治療段階 | 主な目標 | 期間の目安 |
初期治療 | 腫瘍の制御 | 3〜6か月 |
維持療法 | 再発予防 | 6か月〜1年 |
長期管理 | QOL維持 | 数年〜 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
胆管癌の治療における薬の副作用としては、吐き気、嘔吐、脱毛、食欲不振などがあり、治療法によっては肝機能障害や神経障害などの重篤な副作用が現れる場合もあります。
手術療法では出血や感染症のリスクがあり、放射線療法では、皮膚炎や疲労感などの副作用が報告されています。
治療法による副作用の違い
治療法 | 主な副作用 |
手術療法 | 術後の痛み、感染 |
化学療法 | 吐き気、脱毛、免疫力低下 |
放射線療法 | 皮膚炎、全身の疲労感 |
長期的なリスクと注意点
胆管癌の治療後は、定期的な検査や経過観察が必要です。治療の影響で胆汁の流れが変化し、胆汁うっ滞や肝機能障害が起こる場合があります。
長期的リスク | 注意点 |
再発 | 定期検査の継続、身体の変化の観察 |
胆汁うっ滞 | 肝機能の定期的な検査と観察 |
栄養障害 | 栄養バランスを考慮した食事管理の徹底 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
胆管癌の治療には公的医療保険が適用されるため、患者さんの自己負担は原則として3割です。ただし、70歳以上の方や一定の障害のある方は負担割合が軽減されます。
また、高額療養費制度を利用することで月々の自己負担額に上限が設けられ、経済的な負担を軽減できます。
治療法別の費用概算
治療法 | 概算費用 |
手術療法 | 100万円~300万円 |
化学療法(1クール) | 20万円~50万円 |
放射線治療 | 50万円~150万円 |
高額療養費制度について
高額療養費制度は、医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に、その超過分が払い戻される仕組みです。
所得に応じて自己負担限度額が定められており、例えば70歳未満の標準的な所得の方の場合、月額の上限は80,100円+(医療費-267,000円)×1%となっています。
年齢 | 所得区分 | 自己負担限度額(月額) |
70歳未満 | 標準所得 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
70歳以上 | 一般所得 | 18,000円~57,600円 |
以上
参考文献
RAZUMILAVA, Nataliya; GORES, Gregory J. Cholangiocarcinoma. The Lancet, 2014, 383.9935: 2168-2179.
KHAN, Shahid A., et al. Cholangiocarcinoma. The Lancet, 2005, 366.9493: 1303-1314.
BRINDLEY, Paul J., et al. Cholangiocarcinoma. Nature reviews Disease primers, 2021, 7.1: 65.
PATEL, Tushar. Cholangiocarcinoma. Nature clinical practice Gastroenterology & hepatology, 2006, 3.1: 33-42.
LAZARIDIS, Konstantinos N.; GORES, Gregory J. Cholangiocarcinoma. Gastroenterology, 2005, 128.6: 1655-1667.
BLECHACZ, Boris RA; GORES, Gregory J. Cholangiocarcinoma. Clinics in liver disease, 2008, 12.1: 131-150.
MOSCONI, Stefania, et al. Cholangiocarcinoma. Critical reviews in oncology/hematology, 2009, 69.3: 259-270.
AHN, Daniel H.; BEKAII-SAAB, Tanios. Cholangiocarcinoma. Textbook of Gastrointestinal Oncology, 2019, 185-196.
KRASINSKAS, Alyssa M. Cholangiocarcinoma. Surgical pathology clinics, 2018, 11.2: 403-429.
SQUADRONI, Michela, et al. Cholangiocarcinoma. Critical reviews in oncology/hematology, 2017, 116: 11-31.